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2009.07.07

カレーの難民

 英仏間ドーバー海峡に面した、「カレーの市民」像でも知られるフランスの港町カレーに、7月から国連難民高等弁務官(UNHCR)が、亡命希望の難民向けに英仏出入国管理交渉を援助するための常設施設を設置し(参照参照)、イギリスを中心として欧州で話題になっていた。難民問題に関心の薄い日本では報道を見かけないので、自分なりの視点から情報をまとめておきたい。


Aがカレー市の位置

 カレーの難民と言えば、2002年の同地のサンガット難民収容センターが思い出される。1999年以降、まずコソボ紛争によるコソボ難民が集まり、イラク、フセイン政権下の弾圧によるクルド人難民、さらにアフガニスタン、タリバン政権崩壊後のアフガニスタン人の難民が押し寄せた。アフリカや中国からの難民も集まり、当時は累計6万8千人に及んだとされる。サンガット難民収容センターは900人収容が限界と言われたが、カレー市民の二倍に相当する収容者2千人に及び、難民間の衝突やカレー市民との軋轢もあり、当時内相だった現サルコジ大統領が強行に及び、閉鎖された。が、以降、カレーの難民問題が解決したわけではなかった。
 現状カレーの野外に約1,600人の難民と移住者希望者がいる。問題を深刻化するのはその五分の一が子どもだということだ。難民の多くは通称ジャングルと呼ばれる海峡トンネルで劣悪な環境で暮らしていて、衛生状態が極度に悪化している。洗濯でカレー運河で溺死したエリトリア人の若者も現地で話題となった。食糧も十分ではなく、慈善に依存する他、カレー市へのゴミ漁りもある。
 懸念されるカレー市民の軋轢だが、暴動などの傾向はないものの、観光業への悪影響を懸念し、嫌悪感は広がっている。UNHCRの今回の措置はその事前の対応とも見られている。
 先月フランスは100人の難民をブルトーザーで追い払った。フランス当局が今回も強攻策に出る可能性を懸念する向きもある。しかし現状、組織的な強攻策には出ず、その場その場の警戒を強化すると見られている。2002年のサンガッテ難民収容所閉鎖が実質効果を上げていなかった教訓が生きているとも言える(参照)。
 カレーの難民の現状構成だが、「国境無き医師団」によれば、戦争、暴力、飢餓を逃れたアフガニスタン人、ソマリア人、パレスチナ人が多く、パキスタンとイランの政情不安も影響しているらしい。彼らがドーバー海峡を越えイギリス亡命を希望するのは、イギリスなら他国より容易に保護権が得やすいからだ。別の言い方をすれば、現在のフランスは難民からもその定住を嫌がられるほどの排他性を発揮していることがあるだろう。ムスリムからはライシテを名目に文化的な弾圧していると思われてる。
 その他の理由として、イギリスに先行移住した親戚を当てにしている人々も多いことがある。カレー難民の多くは元大英帝国下の文化の影響から英語に堪能な人が多く、そのこともイギリス希望に拍車をかけている。また、イラク人やアフガニスタン人難民には、英語が堪能な上に教養もある人がいて、そのことから自国ではイギリス軍に協力したと見なされ、イギリス協力者として受ける拷問や強姦を逃れている。
 難民の多くはイギリス渡航のために違法密航斡旋業者に多額のカネを払っていて、業者から脅迫され、不確かな情報も撒かれている。UNHCRの今回の措置の重要な側面として、公正な情報提供が掲げられているのは、その対応のためである。
 今後の見通しだが、問題の根本的な解決策はなく、恐らく現状が維持され、かつてのサンガット難民収容センターのような収容所が建設されそうだ。
 イギリスとフランス間での国家的な思惑や世論の動向も気になる。笑話のイギリス病・フランス病のように双方で問題をなすりつけている側面と、EUと国連で問題をなすり合っている側面がある。イギリス国内でも世論は割れている。
 そもそもなぜ難民がこの地に押し寄せるかというと、東欧や中近東が欧州と地続きだということがある。これにEU内での国境撤廃が支援し、列車やバスを乗り継げば、比較的安価にイギリスに面する海にまで到達する。であれば、欧州の境界を強固なものにしたり、難民はEU条約では最初の地で対応するのがスジだから、境界付近で難民対策せよという議論もある(参照)。
 こうした議論の混迷は、結局のところEUにおける難民問題の対策に根幹的な問題があるか、あるいは時代が難民排斥に変化したかためだ。後者の要因は大きいだろう。

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コメント

>難民問題に関心の薄い日本

本当にそう思いますが、難民ではなく、不法入国でさえなくても、介護の仕事につくためにやってきたインドネシア人、フィリピン人の処遇は今後問題になると思います。それに、日本にやってくるルーマニア人やロシア人の女性たちも大目に見続けられない人が多くなると思われます。中国、韓国、タイからの不法入国者は現在でも問題です。加えてタイからは、人身売買で連れてこられた人たちも頻繁に報告されています。さらに、外国人の日本の入国条件、滞在要件が緩和されれば、まだまだ外国人はたくさんやってくると思います。現在だって、よくこんな程度で済んでいるな、というところなのでしょう。


ヨーロッパの先進国は、世界中の困った人たちが掻き集まってくる場所なのでしょう。でも、日本も、難民でこそないけれど、そういう場所になってきています。私が一ヶ月に1、2度お世話になるハローワークも、専門援助の部署(私もそこ担当)には、日本語に不自由な有色人種の若い男女が職を求めていつもたくさん集まっています。


本当に、いやな言い方だけれど、先進国は、いまや世界のフラット化のために、機会さえあれば、新興国や発展途上国の困った人たちが群がり集まってくる馳場になっているようなのです。


こんな言い方をするだけでは、事態に対して、まったく解決策を提示していないので、内心忸怩たるものがあるのですが。

投稿: enneagram | 2009.07.07 16:05

UNHCRや「国境無き医師団」の行動を全面的に信用なさっておられるのでしょうか。(おそらくそういう積りではなかろうかと思っておりますが。)かつて両者とも、アフガニスタンに嵐のようにやってきて、注目されなくなるとさっさといなくなった点、なんとも釈然としない思いを味わったことがありますので。別に何にもしない当方ですから、それよりはマシでしょうが。でも、何にもしない方がマシということも、こういう問題ではあるとは思います。怪しげな政府関係者に金が渡るだけだとか。いや、釈迦に説法でした。

投稿: 通行人 | 2009.07.08 00:32

世界中が不況の波にのまれて大変だと言っても、暮らす国がないというのは想像もつかないほどです。
何かアクションを起こせば何とかなる問題とは違うので、人が抱える問題としては大きすぎますし、悲し過ぎます。

投稿: godmother | 2009.07.08 08:52

日本が難民に興味がないのは元祖難民がウリナラで後から入ってくるのを許さんから。元祖だけが得をするように、GHQにうまく取り入った結果が今の逆差別。そん時ついた大嘘が強制連行。ついでに日本は朝鮮とは戦争していないのになぜか負けたことにした。
欧州人とは違って日本人には難民を正しく扱う知識がなかったから日本人から見れば「戦勝国」「国民」の当然の権利に見えた。実態は「苦境」にある母国から逃げたからこそ帰れなくなった経済難民。。政治難民などいないから強制送還が当然。カレーと何も違わない。
役所は既得権が絶対だから自分からは決して変えようとしない。たとえ嘘っぱちに乗った結果であっても。役所の無様な間違いを報道するのはタブー。日頃の記事がもらえなくなる。
国境は必要だからある。そんだけのこと。緒方貞子氏のポリシーは元に帰してもダイジョブなようにするということだった。逆に言えば逃げたまんまの現状追認はしないということ。これこそ今日本に必要な政策だ。
国境は自由の制限に必要だから存在する。国境のない自由な労働市場など社会正義に反する。素朴すぎる錯誤に基づく国民貧窮化政策だ。無能か馬鹿で無ければ悪徳な経営者の宣伝妄言、自由の履き違えだ。
ついで言えば、長寿はもはや価値ではない。単なる迷信だ。せめて機械で生かしておくのを禁止すべきだ。迷信を実現させるための社会的費用は正当化され得ない。

投稿: ほいだら | 2013.09.08 04:28

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