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2009.07.02

与謝野・鳩山資金源問題、雑感

 衆院選挙時期の問題が誤差の範囲に収束し、いずれ選挙が差し迫る状況になった。世論調査を見る限りぎりぎりで政権交代も予想されることから、その賛否を巡って前哨戦のように政局や政治報道が混迷している。各所に様々な利権が絡み合って、どう乱戦しているのかわかりづらい。一番大きな対立は民主党政権成立でメリットを得る派と損になる派だろう。
 民主党とその尻に鼻突っ込んだ社民党・国民新党が一方にあり、他方に自民党・公明党の腐れ縁がある。民主党側の実態はといえば、昭和時代の自民党一派と社会党残党の野合が核になっており、実動としては加藤紘一が喝破したように「民主党というのは、新しい候補者とか、若い力とか、強い倫理観とか、正義感というものを中心にすえてますが、現実にビラをはったりする集まりは自治労なんですよ」(参照)ということだ。
 さらに続けて加藤は「ガバメントオフィシャル(政府職員)的な政治になる」とも言っているが、そのあたり実際には、高橋洋一が言うところの、現在の官僚内閣制と親和的に接合していくだろう。ということで、官僚側としても労組的民主党政権成立へのリスクヘッジが必要になっている。もっとも民主党には反面、民主党内から嫌われて撃たれた小沢のように官僚内閣制打倒の有志もいるにはいる。もともと現民主党は小選挙区制で生き残りを賭けた野合なのでしかたがないとも言えるが、民主党主導型政権ができ、官僚内閣制打倒的な機運が十分に強ければ、自身から瓦解せざるを得なくなるだろうし、そうなれば、そして対外的な安全保障の余裕があれば、少しは日本の未来も見えてくるかもしれない。
 野合という点では自公政権も似たようなもので、内部でどんぱちと政争が行われている。どういう配置で乱闘しているのか私のように政治に疎いものにはわからないが、これも基本は官僚内閣制にあり、それを「ぶっ壊そう」とする勢力の対立だろう。象徴として小泉元総理やそのチルドレンが挙げられるが、実際にはその勢力だけではなく安倍元政権を辛うじて支えた有志も含まれており、その部分は今でも一部では麻生政権を支えているようだ。
 しかし麻生政権自体は特定派の権力基盤に載っているのではなく、その力の均衡を見ながら、多少は打たれつつ巧妙に存続しているのが現状だろう。そのなかで、官僚内閣制的な最大の力は、与謝野財務金融経済財政経済産業大臣兼総理大臣予定が担っていたかに見えたものだったが、その辺りにも奇妙な着弾があった。昨日の閣僚人事の事実上の失敗は、着弾の効果か、あるいはやむを得ぬ防戦だったのか、いずれにせよ事実上の内閣変化はなかった。
 端的に考えれば、与謝野降ろしの勢力があるのだろう。あるいは単純に麻生政権への打撃を狙っての与謝野攻撃なのかよくわからない。この話が奇っ怪なのは、弾の出所が、財務省御用達的に見える毎日新聞から出てきたこともある。初発は先月24日の「迂回献金:先物会社が与謝野氏、渡辺喜氏に ダミー通じ」(参照)のようだ。


 与謝野馨財務・金融・経済財政担当相と渡辺喜美元行政改革担当相が総務省に後援団体として届け出ていた政治団体が、商品先物取引会社「オリエント貿易」(東京都新宿区)などグループ5社が企業献金をするためのダミー団体だったことが分かった。5社は団体を通じ92~05年、与謝野氏側に計5530万円、95~05年、渡辺氏側に計3540万円を迂回(うかい)献金していた。後援団体への寄付者には所得税の一部が控除される優遇制度があり、5社は毎年幹部社員ら約250人の給与から計約4000万円を天引きして団体に寄付させ、控除を受けさせていた。

 当初は与謝野と渡辺喜美がセットになっており、後者に視点を置けば、「バカヤロー経済学」(参照)の先生の予言のようにも見えるが、この話、その後与謝野に焦点が当てられていく。
 単純に事件の型だけ見れば小沢スローター・メソッドが適用できそうなものだが、二階炎上もなく春も終わって野焼きの季節とも思えず、なんでこんな話が今頃出てくるのか、いや繰り出してくるのか奇怪至極だ。さらに同日毎日新聞記事「迂回献金:与謝野氏、社史に祝辞 オリエント貿易が要請」(参照)ではその裏の歴史を物語るかに見えるのだが、うそ寒い。

 「貴社は業界におけるリーディングカンパニーの一つとして業界の結束の要」。与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は多額献金の中心となった商品先物取引会社「オリエント貿易」(東京都新宿区)が00年に発刊した40年史に祝辞を寄せていた。与謝野氏は商品先物業界を指導・監督する旧通産相を務め、後に金融担当相として金融商品取引法案の国会審議でも答弁した。与謝野氏の秘書は毎日新聞の取材に応じ、オ社社主は若いころから応援してくれる「あしながおじさんだった」と述べ、答弁などと献金との関係を否定した。

 そんな経緯があったのかと興味深い話のようにも見えるが、政界筋では特段新味のある話ではなかった(参照)。毎日新聞の報道のあと、世間の受けがよいので、産経新聞がそれじゃということでパク付いて見せ、日経新聞もべた記事的に報道したようだが、朝日新聞と読売新聞の食いつきが悪い。ネタはおそらく業界衆知であり、朝日・読売から漂う雰囲気としては「そのネタは出すんじゃなねーよKY」だったのではないか。
 読売新聞の思惑はわからないではない。すでに鳩山前総務相更迭(参照)の背後で燃料投下をしており、その背後には鳩山兄弟を糊代に、自民福田・民主小沢大連立構想(参照)の二幕目を狙っており、そこに与謝野ピースを嵌める場所も想定されているだろう。朝日新聞のだんまりはというと、よくわからない。単に日和っているだけなのか、何かと与謝野支持があるのだろうか。
 与謝野降ろし、といっても、ネタの鮮度の悪さからして本気で降ろすのではなくただの腐しでしかないだろうが、この着弾の相方に鳩山民主党代表の故人資金問題がある。初発は先月16日の朝日新聞記事「鳩山代表に「故人」献金? 少なくとも5人、120万円」(参照)のようだ。

 民主党の鳩山由紀夫代表の政治資金管理団体「友愛政経懇話会」の政治資金収支報告書に、すでに亡くなった人が個人献金者として記載されていることが分かった。朝日新聞が03~07年分の報告書を調べたところ、少なくとも5人の故人が延べ10回、120万円分を献金したことになっていた。遺族のうち、1人は「よく分からない」と答えたが、4人は「死亡後に献金した事実はない」としている。

 暢気に記事だけ読むと、6月ごろに朝日新聞がなんとなく、民主党の頭が小沢から据え替えわったからこの機に鳩山代表の政治資金収支報告書を調べていたら、おやまあ5人もお化けがいましたよ、夏は近いなといった怪談に見える。この時点では、宇宙人と幽霊はジャンル的にも近いかぐらいのネタだったが、読売新聞が先月末に深掘りをかけた。6月30日読売新聞記事「鳩山代表の団体へ「寄付否定」新たに13人」(参照)では朝日の初掘りを受けて問題を騒動化した。

 民主党の鳩山由紀夫代表の資金管理団体「友愛政経懇話会」が故人5人から寄付を受けたことが明らかになった問題で、実際に寄付をしていないのに「寄付者」として政治資金収支報告書に記載された疑いがあるケースが、新たに13人いることが読売新聞の調査でわかった。
 2003~07年分の収支報告書の記載内容を検証したもので、問題ある寄付の総額はすでに判明した分も含め、18人で計659万円に上った。

 その後、今朝の読売新聞記事「鳩山代表の収支報告書訂正、寄付者の8割・70人分削除」(参照)のように話は広がり愉快な展開になり、他紙もフォローせざるを得ないが、初掘りの朝日を含めてそれほどの熱の入れようはない。
 問題が深刻化して鳩山も応答に出たが、対応は後手に回っているとはいえ、小沢騒ぎほどの大騒ぎには発展しないし、経緯からは鳩山民主党代表側も自身が言うほどにはそれほど未知かつ暗部といった問題ではなかったのではないか。もともと民主党自体鳩山のポケットマネー的な成立であったはずだ。
 朝日の初掘りがまったく暢気な発見だとは思えないにせよ、その時点で読売の深掘りが想定されていた印象はない。逆に読売が狙っていたなら初掘りを朝日に譲っただろうか。朝日の初掘りから読売の深掘りへは連係プレーというか、新聞淘汰時代に仲良く「あにさきす」の雰囲気があるが、読売の深掘りの背景がよくわからない。
 陰謀論にしたいわけではないが、どうもどっかからいいお話が振ってきた印象があるのは、今朝の読売新聞社説「鳩山氏架空献金 調査も説明も極めて不十分だ」(参照)のノリのよさだ。

 資金管理団体には最近3年間だけで、小口の匿名の個人献金が総額1億円以上ある。この中にも架空献金が含まれているのではないか。04年以前はどうなのか。
 鳩山代表は、西松建設の違法献金事件で小沢前代表に説明責任を果たすよう促していた。自らの問題に関する一連の疑問について明確に答えねばなるまい。

 小沢騒ぎが実際には04年以前の古い話ばかりだったのに呼応させてみると、鳩山幽霊騒ぎも、その時代の資金管理を調べていたスジからちょろちょろと出てきた話のような印象がある。
 いずれにしても、与謝野がこれで打撃を受けるわけでもなく、鳩山が打撃を受けるわけもない。渡辺喜美も大した話にもならない。気にくわない相手に泥を投げつけてみて、その日その日のネタにするという因果な商売がジャーナリズムといったところだ。が、考えてみれば、泥の投げ合いくらいの話で大したことはないなという安定した状況を作ってくれたのは、すべての泥を背負って磔刑となった小沢大明神の功績と言えるかもしれない。

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コメント

 トップたるもの泥被るのも商売のうちですから。

 でも別に「泥の投げ合いくらいの話で大したことはないなという安定した状況を作ってくれた」とは限らないよ。

 まだやってんのかクソバカタレが、で投票率異常降下で死屍累々の可能性も、ある。

 最近、尾道市市街部にて幸福実現党by大川隆法さんの街宣車がやたら頑張ってるみたいだけど。嘗ての公明党がそうだったように、投票率異常降下現象が起きると、そーゆー類の連中がやたら湧いてきて以後鬱陶しいって現実に直面しますから。

 下手に泥投げやってると行く末そうなっちゃうよ? って部分にいい加減気付いて、真面目に仕事してほしいものです。>マスコミ各社

投稿: 野ぐそ | 2009.07.03 00:01

>「民主党というのは、新しい候補者とか、若い力とか、強い倫理観とか、正義感というものを中心にすえてますが、現実にビラをはったりする集まりは自治労なんですよ」

民主党というのは、上層部が陰湿ですな。

私の選挙区で、さとう由美さんという方も都議候補になりましたが、現職の伊藤まさきさんにたいする陰湿なイジメのようにも思われます。もちろん候補を2人出すことそのこと自体は大変よいことですけれど。

伊藤さんはかつて、現改革クラブの渡辺秀央元郵政大臣の秘書をしていた人だから、こういう意趣返しを受けるのだろうな、と、ゲスな私は勘ぐっています。

こういう候補の立て方をするのは、きっと、菅直人先生なんでしょう。この推論は無根拠だけれど。

若い人たちを働かせて、若い人たちの動機付けを上の人たちが率先して損なっているうちは、たぶん民主党はいつまでもだめだろうね。やることなすこと後ろ向きで。

でも、そんな民主党が、おそらく今年の総選挙の後は、最短数ヶ月間でも政権与党か。

わたしは、麻生首相が党役員人事を踏みとどまられたことはよいことであったと思っています。細田幹事長は、通すべき法案を通すために熱心に職責を果たされていますよ。私の支持する鳩山前総務大臣とは、日本郵政の社長人事では別意見だったけれど、政権与党の幹事長の立場なら、たしかに、明確な法令違反をしていない、名目上は民間会社の社長を政治が介入して辞任させるというのは無理がある、という意見を持つのもどうしても致し方ないと思いますし。むしろ、あの場合に与党の幹事長が総務大臣と同じ意見を持つほうがバランスに欠けるともいえなくない。

ほんと、細田幹事長ではないけれど、自民党の国会議員の方々は、本会議と自分の所属している委員会に参加する以外は、選挙区に戻って活動してください。ほんとうに、永田町をどんなにうろうろしてても、永田町には1票も落ちてはいませんよ。

投稿: enneagram | 2009.07.03 13:07

小林ひとし区議のホームページみたら、鳩山代表が7月4日(土)に金町駅北口でさとう由美候補の応援演説するって書いてあったけれど、鳩山代表バカじゃねえの。

金町って伊藤さんの地盤ですよ。

さとうさんの事務所は新小岩じゃない。

水元が中心地盤の小林さんがわざわざ新小岩駅まで行ってさとうさんの援軍しているのに、なんで鳩山代表が金町の組織票を割るようなことをするの?

民主党の体質って本当にわからない。合理的な動きをしているとはとても思えない。まあ、松原仁さんが鳩山さんの子分で、小林さんが松原さんの子分で、小林さんもおおっぴらに記事を書くときは、いろいろ上の人や序列を忖度しないといけないんだろうけれど。

でも、なんか、民主党の若い人たちはかわいそうですね。本当に、彼ら彼女らがいつも熱心で、いつもひたむきなのを知っているから、本当にかわいそうに思います。

投稿: enneagram | 2009.07.03 13:26

麻生総理総裁は、河村官房長官、細田幹事長、鴻池官房副長官→辞任の体制でないと、福田総理総裁以後の自民党を本日までまとめられませんでした。

鳩山代表総理は、誰を官房長官にして、誰を幹事長にして、誰を政務と事務の官房副長官にするのか?イメージがわかないんです。

自民党時代の事務の官房副長官を続投させるわけにも行かないし、誰を官房長官にしたら閣内一致が可能で、誰が幹事長なら与党になった民主党を統率できるのか?

もし民主党の鳩山グループの人材で、官房長官と与党の幹事長を固めてしまったら、きっと、民主党は、1年持ちこたえられないのではないか?こう考えるのは私だけではないと思います。

投稿: enneagram | 2009.07.04 10:09

本日の静岡県知事選は、非常に投票率が高いようです。

来週の東京都議選も投票率は予想外に高いかもしれません。そうなると、結果は、本当にふたを開けてみないとわからないということになります。

わたしは、本日、不在者投票を済ませてきました。

投稿: enneagram | 2009.07.05 17:01


横レスですが、さとう由美さんの金町のことには
鳩山代表ではなく、小林ひとしさんの戦略ですよ。
さとう由美陣営の選対本部長は小林ひとしさんです。
そういった場所を決めたりしたのも彼でしょう。
そして、小林さんは伊藤まさきさんと仲が悪いですから。
(本当は小林さんが都議選に出たかったそうです)

投稿: ななし | 2009.07.13 22:20

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» そもそも「献金」が存在してしないなら、鳩山秘書に「虚偽記載の罪」が成立する余地はないはず [個人発明家blog]
鳩山由紀夫メールマガジン第406号の一部を以下引用。 「実際に、平成17年頃あるいはその暫く前から、亡くなった方々を含め、事実ではない寄付者が毎年数十件記載されていました。その総額は年間400万円から700万円になることが判明しました。この行為は経理担当の秘書が独断で行い、会計責任者にも報告していなかったのです。そして、事実でない寄付に相当する資金は、私が当該秘書を信頼して預けていましたお金の中から拠出されていました。その事実は弁護士とともに、私も確認したところです。貰ってはいけないお金とか、隠さな... [続きを読む]

受信: 2009.07.04 11:46

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