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2009.07.09

その後のグアンタナモ収容所

 その後のグアンタナモ収容所について、自分のわかる範囲だが、気になるところだけまとめておきたい。
 まずウイグル暴動に多少関連しているのだが、1月のエントリ「極東ブログ: グアンタナモ収容所のウイグル人」(参照)の後日譚。6月11日、グアンタナモ収容所に収容されていたウイグル人17人は、太平洋戦争で日本とも関わりの深い西太平洋の島国、パラオに身柄移送されることになった。
 先のエントリでも触れたが、彼らは新疆ウイグル自治区を逃れアフガニスタンに潜行中、米軍の対テロ作戦で拘束され、米国防総省は敵対的戦闘人員ではないと認定したものの、2002年にグアンタナモ収容所に送られた。アフガニスタンのテロリストと呼ばれる人々には、地理上の理由もあってかウイグル人も含まれているという意味合いもある。同種のウイグル人はパキスタンにもおり、パキスタン政府に捕獲された彼らは、友好国でもある中国に送還された。
 米国連邦地裁は2008年10月に、この17人は米国内に釈放するように当時のブッシュ政権に命じ、また中国側も自国民だとして送還を求めていたが、ブッシュ政権としては米国内に釈放もできずまた、拷問が予想される中国送還もできないでいた。
 オバマ政権下で、彼らは、台湾とは国交があるものの中国とは断交しているパラオに送られ、この際、事実上の押し付け代償金として米国は2億ドルの援助供与を行った(参照)。こうした措置にはカネがかかるというのが、この問題を理解する上で重要になるので留意されたい。
 さてグアンタナモ収容所の話題だが、オバマ大統領はブッシュ政権の汚点として閉鎖を決定し、アムネスティも「オバマ大統領の就任100日間をチェックしよう!」(参照)で「アムネスティをはじめとする人権団体、被収容者の弁護士、ジャーナリスト、そして世界中の市民による圧力の勝利です」と高らかに勝利宣言をしていた。
 が、実際の閉鎖、さらに軍事委員会での裁判の停止、CIA拘禁施設の全面閉鎖、尋問中の拷問の禁止は、署名をした2009年1月22日から1年以内ということで、まだその「勝利」の日が来ているわけではない。ブッシュ政権を「チェンジ」すると公約したオバマ大統領は、どう具体的にチェンジしたかというと、現状ではよくわからない。展望も見えない状態のようだ。同収容所には現在250人ほどが収容され、米国防総省はパラオ移送されたウイグル人17人のように、うち60人ほどは同種の対応が可能と見ているが、いずれ200人近い収容者はどうなるのだろうか?
 米国内か同盟国に移送するというのが論理的な帰結のようであるし、オバマ大統領もそう想定したのではないかと思われるが、受け入れ側にもご都合というものがあり、他国からの無償の申し出はなく、米国の各州も受け入れに反対をしはじめ、まずは実施に伴う予算が上院で封じられた。5日のワシントンポスト「Hypocrisy on the Hill」(参照)では、ビートルズの歌を連想させる暢気な標題のなかで厳しい現実を示している。


As a result of the vote, the president is prohibited from using taxpayer funds to order the release of any detainee into the United States, including those cleared by the Bush administration and the federal courts; he is likewise forbidden to bring any Guantanamo prisoners to the United States for preventive detention.

上院投票の結果、オバマ大統領は、納税者からのカネを使って、グアンタナモ収容所拘留者を自国に釈放することが禁じられた。これには、前ブッシュ政権と連邦裁判所が釈放してよいとした人も含まれる。また、予防拘禁のためにグアンタナモ収容所拘留者を自国に連れてくることも禁じられた。

The president must give lawmakers a 45-day heads up before ordering any detainee prosecuted in a U.S. court proceeding and he must give Congress 15 days' notice of his decision to send a detainee to another country.

また大統領は、国会議員に対して、グアンタナモ収容所拘留者が米国法廷で起訴される45日前の事前通知と、他国移送の場合は15煮前の事前通知が必要になる。


 上院の投票ですべて決したことになるというものでないだろうが、ここまでの達成を見ると、事実上、グアンタナモ収容所の実態にはなんら「チェンジ」はできそうにもない。実際、ワシントンポストもそう見なしている。

Now lawmakers are making it nearly impossible for President Obama to close the notorious prison by year's end, as he promised to do.

かくして国会議員は、オバマ大統領が悪名高いグアンタナモ収容所を公約どおり年内中に閉鎖させることをほぼ不可能にした。


 オバマ大統領はグアンタナモ収容所閉鎖を公約にしたが、議会がダメにしたんだ、オバマ大統領は悪くないんだと、言えるかどうか、私にはよくわからない。ちなみに、議会はオバマ大統領の民主党が多数を占めており、ゆえにワシントンポストは「偽善者」と呼んだようだ。
 クセのあることで定評のある同紙のコラムニスト、チャールズ・クロートハマーは「Obama Adopts the Bush Approach to the War on Terrorism」(参照)で今回の顛末をメソッド化した。

Of course, Obama will never admit in word what he's doing in deed. As in his rhetorically brilliant national-security speech yesterday claiming to have undone Bush's moral travesties, the military commissions flip-flop is accompanied by the usual Obama three-step: (a) excoriate the Bush policy, (b) ostentatiously unveil cosmetic changes, (c) adopt the Bush policy.

もちろんオバマ氏は自分がやっていることを決してクチでは認めない。昨日の弁舌冴え渡る国家安全論でも、ブッシュの道義的な茶番を解消したと主張しつつ、軍事委員会の方針転換は毎度のオバマ式3段階でなされた、(1)ブッシュ政権の政策を罵倒し、(2)仰々しくお化粧をチェンジし、(3)ブッシュ政権の政策を採用する。


 たしかに結果からはそう見えてもしかたがない事態になったと言えるかもしれないし、この3段階メソッドはグアンタナモ収容所問題だけではないという指摘も聞かれるようになった。米国大統領のお仕事が始まるのである。
 具体的にグアンタナモ収容所問題にオバマ大統領はどう対応するのだろうか。ニューズウィーク「Friendly Fire at the White House」(参照)では対策に追われた会議の内幕をこう伝えている。

It was at that point, toward the end of the meeting, that one attendee raised the idea of criminal prosecution of at least one Bush-era official, if only as a symbolic gesture. Obama dismissed the idea, several of those in attendance said, making it clear that he had no interest in such an investigation. Holder - whose department is supposed to make the call on criminal prosecutions - reportedly said nothing.

会議の終わりに出席者が、見せしめのポーズとして、ブッシュ時代の高官の一人を追訴したらどうかと提案した。オバマ大統領は、そんな追求には関心ないことを明示するために、提案を却下したと出席者は伝えている。追訴を行うなら担当することになるホルダー司法長官も沈黙していたそうだ。


 日本なら見せしめでも尻尾切りでもなんでやってしまいそうな行政のトップがいるが、さすがは高潔なオバマ大統領だいうところなのだろう。ただ、先のワシントンポスト社説では、この事態を出し抜くために、大統領令で収容所の看板を差し替えるといった奇手を繰り出してくる懸念も表明していた。
 グアンタナモ収容所問題は日本に関係ないと見なされているのか、あるいはオバマ大統領の公約について日本で報道された後は、その通り閉鎖されてしまったと思われているのか、その後の経緯はなかなか日本では報道されないが、アムネスティの勝利が確実になるように、今後の動向を見続けていたい。

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コメント

オバマさんが米大統領になる土壌に「金」というのが動いている背景が勿論あるので、ブッシュと何が違うのか「チェンジ」の意味が不明瞭なのは最初から分かっていたことでもあると思いますが、それにしてもブッシュさんたちとは世代が違うという点で多少の期待もしていました。(人種差別を乗り越えた代表的ステータスも結局は、お育ちから外れないという)

ここで指摘されていることや胡散臭さは拭えませんが、それは、オバマさんの何に対する執着なのか。大統領に登りつめるだけのエネルギーは一体何からきているのかと勘ぐりたくなります。

どうしてもそこに興味が走りますが、アムネスティの「善」がどこまで真に本物社会を目指すかが鍵になるのでしょうか。私も、その動向を見続けたいです。

どこまで偽善かそうでないのか、今後の北朝鮮に対する政策などに必ず色濃く現れてくるでしょうし。

投稿: godmother | 2009.07.09 18:55

>(1)ブッシュ政権の政策を罵倒し、(2)仰々しくお化粧をチェンジし、(3)ブッシュ政権の政策を採用する。

 こういう話芸やセンスは海外でどう受け取られるか知りませんけど、日本人は「だから何?」で一蹴しますよね。愛嬌があるなど、話者の個性が認められ好感度が高いなら面白発言になるでしょうけど。

 理屈はそうだ、現実もそうだ、タハハ…って感じの笑い?は、日本では流行らない。そうだよね、で理解出来るほどに世間見てないというか、目の前の仕事や生活や娯楽で精一杯でしょう。前進あるのみ(じゃあないと死ぬ)が、日本だと思いますよ。

投稿: 野ぐそ | 2009.07.09 19:52

http://primordial22.blogspot.com/2006/04/2001guantanamoabu-bakker-qassimadel.html
「一寸わからないのは、収容所で拘束されていた人々の数と拘束地の情報が?ですね」上記の報道では、パキスタンとなっていたり、15人とされていたりします。

投稿: スパイシー | 2009.07.10 10:16

ウイグル人たちがパラオに移送されたということで、パラオは中国と断交していて、台湾と国交があるということですが、地図見ると、パラオって、米軍基地のあるグアム島の近くですよね。

さらに、パラオはフィリピンの近く。

結局、アメリカは自分の庭で、中国の力の及ばないところにウイグル人を保護しているわけですね。

そのくらい、17人のウイグル人捕虜には軍事的価値が大きいということなのでしょうか。

そういうこと考えると、北朝鮮にとって、優に100人を超える日本人の拉致被害者たちというのは、きわめて軍事的価値が大きいという話も、道理なのだろうと思います。もちろん、北朝鮮に拉致された被害者の方々とその家族の方々の無念を思えば、こんな、他人事のような言い方をするのは申し訳ないのですが。

ただ、こういう風に類推すると、パラオに移送されたウイグル人たちの身の上がどういうものかについて、少しは身近に感じられるかもしれない、という話を組み立ててみたということです。

投稿: enneagram | 2009.07.10 10:50

間違ったことを申し上げました。訂正し、お詫び申し上げます。

一般市民で、国交のない無法国家に拉致された拉致被害者の方々と、アフガンゲリラの構成員を混同したことは不適でした。申し訳ありません。

ただ、ウイグル人被拘束者たちに同情の余地があるとすれば、彼らには実質上彼らを保護する祖国がなく、また、国家の正規軍ではないため、国際法上承認されている捕虜の処遇を受ける根拠に乏しいということです。この点を考えて彼らの身の上を同情したということです。

このコメントも含めて、表示されないのがよいのですが、1つの見解例として、以前のコメントが表示された場合のために、不適切な発言のお詫びと釈明をさせていただきます。

投稿: enneagram | 2009.07.10 12:39

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