民主党ネクスト防衛大臣浅尾慶一郎氏、民主党除籍
民主党ネクスト防衛大臣浅尾慶一郎氏が7月24日民主党を離党し、これで民主党のネクスト防衛大臣は不在になった。衆院後政権を取った際の防衛関連の政策を現時点で語る適任者はいない。組織上は、ネクスト防衛大臣の副大臣に山口壯氏と一川保夫氏がいるので早晩繰り上げになり空席は埋まるのではないかと思われるが、問題は、これまで民主党の防衛政策を語ってきた浅尾氏の見解と整合が取れるのかどうか、また、そもそも浅尾氏の今回の衆院選挙直前の離党がその防衛政策とどの程度関連してくるのかの2点だ。
浅尾氏の離党理由は、表面的には民主党の防衛政策が関係していないように見える。記者会見では「地元を代表する衆院議員になってほしいという地元の声に応えたい」と支持者の声に応えたものとされている。浅尾氏は1996年の衆院選で旧新進党から出馬して次点になり、国会議員としての体面を保つのを優先したか98年に参議院に鞍替えした経緯があり、当初から衆議院議員を志向していたのだろう。
渡辺喜美元行政改革担当相が自民党を離党したケースとは異なり、浅尾氏側としては所属政党との関係や基本政策での行き違いがあったということでもないとしているようで、衆議院議員に当選すれば「首相指名選挙で鳩山由紀夫と書く」と述べている。復党に含みを持たせているとの読みもあるようにも見えるが、社民党や国民新党と同党の少数政党への志向があるのかもしれない。離党組として立場が似ているせいか、新党への参加をすでに呼びかけた渡辺氏に「公務員制度改革は意見が一致している。政策を吟味したうえで何が日本のためにいいのか判断したい」と答えている(参照)。
民主党側での反応だが、浅尾氏を民主党除籍処分とした。関連報道を見る限り内情は複雑なようだが、まず明瞭なのは、浅尾氏の参議院議員から衆議院議員への転身というだけなら、段取りを踏んでいたのならば、そのまま民主党の離党を意味するわけでもないことで、問題は段取りにあった。民主党は浅尾氏が立候補を表明している神奈川4区ですでに前逗子市長の長島一由氏を公認しているので、この区の選挙戦略に影響し、地域の民主党としては事実上の分裂選挙になる。
背景はありがちに香ばしい。長島氏の公認は民主党神奈川県第4総支部の総意に反したものらしく、公認決定時に神奈川県連衆議院選挙選対本部長代行を務めていた浅尾氏はその反発から本部長代行を辞任した。つまり民主党離党は衆院選直前という時期的には唐突な感はあるにせよ、地元の人ならご納得の予定行動であり、つまりは、ネクスト防衛大臣といった国政には関係ないとも言えるはずだ。が、当事者の長島氏は「ネクスト防衛相の立場なのに反党行為を犯し、大義名分さえない」と批判していることから、全く関係もないわけでもないだろう。民主党が防衛政策を放り出した感は否めない。
民主党岡田克也幹事長は浅尾氏の行動を「許し難い反党行為だ」とし、復党の可能性についても「除名された人が民主党に入ることはあり得ない」と否定している(参照)。岡田氏はすっかり選挙に頭がいっぱいで、政権確立時点の防衛政策については頭が回っていないことがわかる。国民優先の政治というのは、国家の存亡は第二という含みがあるかもしれない。
民主党のお家の事情は国民にとってはどうでもいいことだとは言えないのは、まさに民主党政権確立時点の防衛政策が不明になるからだ。これには前段がある。「新テロ対策特別措置法案」を民主党がどう見ていたかが、結果的に現状は不明に帰したことになる。
昨日のエントリ「極東ブログ:民主党は給油活動についてマニフェストに明記していただきたい」(参照)で、フィナンシャルタイムズ記事の論調にもあったが、民主党による自衛隊給油活動は、当時代表だった小沢氏による「憲法違反」として見られてもしかたがない面はあった。しかし、これに対して民主党岡田克也幹事長は、当時の党首による民主党を背負った主張でありながら、「党としての正式な議論ではない」と述べていた。それはそれで正しいとも言える背景があるにはあった。
この点について、2007年11月1日の「テロ対策特別措置法」期限切れを控えた、10月17日日本記者クラブで、与党自民党石破防衛相と民主党「次の内閣」の浅尾防衛担当相による討論が実施されていて興味深い(参照・参照PDF)。
なぜ民主党が給油法に反対するかという点について、当時の「次の内閣」の浅尾防衛担当相は、(1)国会の事前承認がない、(2)油の使い方が不明だ、の2点を挙げていた。しかし、これは奇妙な議論で、(1)2001年に同法が成立したとき事後承認には賛成していた、(2)油の使い方については原理的に明確化しようもない、という欠陥を持つ。端的に言えば、タメの反論の馬脚というくらいなものだろう。
むしろ興味深いのは、討論のなかで小沢ビジョンに関連したやりとりだ。石破氏は、小沢氏が自由党時代だった時点の小沢ビジョンから、給油問題をこう取り上げている。
小沢さんは当時反対された自由党党首でした。いまは民主党の党首です。これはアメリカの戦争に加担するもので、補給だろうと何だろうとそれは武力の行使なのだ、だから集団的自衛権でだめなのだと、当時主張した。だから、自分たちの法案を出すことによって、憲法の改正によらずして、集団的自衛権の行使を認めるのだ、というロジックだったんですね、当時は。このロジックでいくならばわかるんです。
浅尾氏はこう答えている。
民主党と自由党が合併したとき、合併の覚書において、政策の一貫性が必要であるという観点から、民主党の合併した当時の政策を引き継ぎますということになっています。したがって、自由党当時に出された法案について、私がコメントをするということは、その点の限りにおいては適当ではない。
当然石破氏はこう答えざるをえない。
わかりました。浅尾さんのおっしゃることは、民主党の政策を引き継ぐということだから、小沢さんが出されたこの法案は民主党においては全く存在をしていないということなのだ、ということがよくわかりました。
しかし、実際にはこの小沢ビジョンは、先のエントリでも引用したように、民主党党首の名でその後も語り続けられ、そのビジョンは民主党には関係ないのだとは、その後も公式には語られていない。フィナンシャルタイムズ記事が誤解だとは言いづらいし、なにより対外的にそう見られていた。
「次の内閣」の浅尾防衛担当相(当時)は討論のなかで、他党に所属していた政治家のビジョンについてコメントすることはできないとしているが、その浅尾氏が今民主党を離れ、しかも除籍された。浅尾氏は今、この問題を民主党から離れてどう考えているのかも当然気になる。
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コメント
えと、何から書いてよいのやら。少し頭が混乱していますが、石破さんと浅尾さんの対談が興味深いです。
浅尾さんの今後についてで気になるのは、小沢氏の自由党当時の法案にコメントできないとする理由を以って、誠実に律儀にそれを通すのなら、自分のこれまでの政策や政治家としての自分をどうアピールしてゆくのでしょう。何も語れなくなるでしょうに・・・。自分の首を絞めるような失言だったのでしょうか。
大いに気になりますが、こういうことを追いかけて行くと、政治家としての資質が表面化してくるのでいろいろ見えてきますね。
今後も追いかけてくださいね。(政党にはあまり関心がなくてもだんだん分かってくると見えるものも違ってくるものですね。大変面白いです。)
あと、昨日の岡田さんの発言の件での私の疑問点ですが、あり得る発言なのだということが良く分かりました。でも、ここで最後に書かれているように「民主党には関係がない」とその後も公式には語られていないということですからそれも納得です。ありがとう。
投稿: godmother | 2009.07.26 17:08
>国民優先の政治というのは、国家の存亡は第二という含みがあるかもしれない。
僕たち私たちは目先の利益のために国を売ります滅ぼします、だからそんな私たちに清き一票を…って正直に言ったら票なんか貰えるわけないじゃないですか。
だから言わないんですよ。分かり切ったことを。
民主党がこれからやろうとしているのは、21世紀版「ええじゃないか」運動(で、ノリが悪いヤツが居たらみんなでハブっちゃおうね運動)ですよ。踊って暮らして後は知らんと。そういうこと。
民主党の民度は、所詮そんなもんですわ。
投稿: 野ぐそ | 2009.07.26 21:22
民主党の目的は政権交代ですから、そのためにはまずい事や一貫性を欠く主張は伏せておいても構わないという姿勢はよく分りました。
問題は、その姿が多くの方に伝わるか否かです。
投稿: 名無しさん | 2009.07.26 22:07
逗子という米軍がらみの特殊な地域性はあるでしょうが。(長島氏は元逗子市長)
単純に地方議員の反長島感情がつよくて制御できなかったのでしょう。
政界再編に一縷の望みをつなぐのは、田中甲や熊谷や改革クラブの顛末を見るにつけ厳しい。
それは、政党の主張以前に、支持層レベルでの自民、民主の分化が割合はっきりしていて、それに縛られる状態になっているからと思います。
投稿: lc | 2009.07.26 22:52