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2009.07.03

オバマの戦争

 疑問符は付くものの「オバマの戦争」(参照)とワシントンポストが呼ぶ戦争が始まった。

 米国オバマ大統領は、アフガニスタン南部ヘルマンド州に現地時間で2日、海兵隊4千人を投入し、アフガン治安部隊と数百人の英国軍とともに、旧支配勢力タリバン大規模掃討作戦「剣の一撃(Strike Of The Sword)」の火蓋を切った。米軍増派規模は2万1000人。米国海兵隊投入の作戦としては、日本人にも記憶に残る2004年のイラク、ファルージャ掃討作戦以来の戦闘規模となる。
 今回のオバマの戦争がブッシュの戦争に似ているのは、経緯から見るとわかりやすい。ブッシュ政権下ではアフガン投入米軍を9万人から13万人余に増派する計画があったが、オバマ政権は増派の点でブッシュの戦争をオバマの戦争として引き継いだ。拡大規模としてオバマ政権は今後、ブッシュの戦争におけるイラク投入軍と同規模の26万にまで増派したい意向だ。ただし、米国防総省はアフガン統治軍の創設に十分な期間と予算を求めているため、具体的な計画見通しは立っていない(参照)。戦費については「ブッシュの戦争」(参照)を著したボブ・ウッドワードも懸念を表明している(参照)。
 先行きの見通しなく戦争に突入したと言えるなら、この点でもオバマの戦争はブッシュの戦争によく似ていることになる。特に懸念されるのは、ブッシュの戦争と同様、撤退戦が考慮されていないことだ。ドナ・F・エドワーズ下院議員がオバマ大統領と同じく民主党に所属しながらも、戦費予算案に反対票を投じたのは象徴的だった(参照)。
 しかし反面、先の「オバマの戦争」と疑問符をつけたワシントンポストの論調は現実を踏まえてのものだろう。

President Obama's clashes with the liberal base of his party are the kind of sporting event that Washington loves. But what Mr. Obama is confronting is less his party and more a stubborn reality that many in his party are unwilling to accept: There are forces in the world that continue to wage war against the United States and its allies, whether or not the United States wants to acknowledge that war.

オバマ米国大統領が彼の政党である民主党のリベラルな基調とぶつかり会うことは、政府が好むスポーツ大会のようなものだ。しかし、オバマ氏は民主党と対立しているというより、より強固な現実と対立しているのであり、その現実は民主党が受け入れたいものではないかもしれない。つまり、世界には米国とその同盟国に戦争をけしかける続ける勢力があり、それは米国が戦争と認めるか認めないかということには関わりない。


 作戦開始がこの時期が選ばれたのは、8月に想定される大統領選を前にタリバン攻勢を弱体化したいこともあるが、今朝の朝日新聞社説「イラク米軍撤退―独り立ちへの試金石だ」(参照)がアフガニスタン戦を避けて言及したように、イラク都市部の駐留米軍が全面撤退に向けて郊外に移動し、イラク戦への米兵負担の軽減が予想されたからだ。
 「剣の一撃」作戦がヘルマンド州に狙いを定めたのは、同地がタリバン支配下のケシ栽培地でもあることもだが、膠着状態にあった英国軍の支援もある。作戦開始から間もないが、すでにヘルマンド川下流地域はほぼ制圧されたらしい(参照)。
 空爆や砲弾など間接攻撃でないにもかかわらず、タリバン側の攻撃が小規模であるせいか、米海兵隊員の戦死者1名、負傷者数名というニュースがある(参照)。また、すでに米兵が1名だがタリバン側に拘束されたというニュースもある(参照)。
 イラク戦争のように順調に開始された戦闘ともいえるが、タリバンはいったん後退した後、ゲリラ戦に出てくるだろう。しかし、ワシントンポスト社説「On the Offensive」(参照)のように、現状では対ゲリラ戦には米軍戦力が不足しているのではないとの指摘もすでに出ている。
 さらにフィナンシャルタイムズ社説「The fightback in Afghanistan begins」(参照)が懸念するように、掃討戦が進めば米軍の死者は急増するだろうし、その時点でオバマの戦争の意味が再び欧米メディアで問われるようになるだろう。
 タリバンを同地から掃討しても、路肩爆弾や自爆テロから地域社会を保護することは困難が予想される。同紙はオバマが今回の掃討戦を1年と見ていることの甘さに憂慮も表明している。

Mr Obama says he wants to see visible progress in Afghanistan one year from now. But in all truth, it will take more than a year to turn Afghanistan round.

オバマ氏は、現時点から一年以内にアフガニスタンで目に見える成果を上げたいと述べた。しかし嘘偽りなく、アフガニスタンの状況が好転するには一年以上かかるだろう。


 アフガニスタンの治安回復には、従来はNATO(北大西洋条約機構)の負担が大きく、NATOをどのように今後維持するかという欧州諸国の問題もあり、西側諸国の一員としての日本の関与も問われていた。こうした問題の見通しなく、同盟国を巻き込む形で戦闘が進行し、さらに懸念される事態になればブッシュの戦争とは多少異なる帰結になるかもしれない。そうならないことを祈りたい。

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コメント

結局アメリカが対日戦の意味と戦後処理をねじ曲げた結果、一種の呪詛となって今日も支配してるのかなぁ、と思う今日この頃。

投稿: himorogi | 2009.07.03 22:54

小室直樹先生によれば、アフガニスタンというところは、かつてマルクスが、地理、風土、植生、気候、気象、民族分布、宗教構成、産業など、どの側面から捉えても、外部の人間(たとえば異民族)が長期間実効支配することは不可能である土地であると結論した場所なんだそうです。

アメリカも、アフガニスタンの実効支配はあきらめて、タリバンの拮抗勢力が常在できる状況にして、タリバン内部の情報の通報者をつねに準備するという方針に変えるほうが傷は浅いかもしれません。もちろん、カルザイ大統領らの身柄の安全は確保して。

タリバンにしたところで、背後のパキスタンからの支援が滞れば、アフガンの支配者ではいられなくなるのでしょうから、対インド外交、対パキスタン外交のあり方を見直すほうが兵力注入より有効な手の打ちようもあるのではないかなどとも考えます。

これは、もちろん、安全保障と外交の素人の外野の意見。

投稿: enneagram | 2009.07.04 06:38

アフガニスタンにあまり増派すると、アメリカは本格的にイランとの対話の機会を全面喪失する恐れがあります。

アメリカからアフガニスタンへの自衛隊陸上部隊派遣を依頼されたら、そのときの内閣総理大臣が鳩山由紀夫民主党代表なら、ほかのアメリカからの援助要請は受け入れても、ここは、なんとしてもアメリカ側に屈することなく自衛隊陸上部隊のアフガン派遣を峻拒していただきたいと思います。イランは、日本にとって大切な友邦です。対イラン外交を損ねてしまったら、対インドネシア、マレーシア外交も損ねる恐れがあります。これは日本にとって今後の死活問題です。

弟の鳩山邦夫前総務大臣は、更迭される羽目になっても国内問題で意見を変えませんでした。兄の鳩山代表も、自衛隊陸上部隊のアフガン派遣問題がもし政治課題になるときに宰相の立場にあれば、長期的国益にかなう自主外交を貫いていただきたいと思います。それでこそ、ご兄弟ともに鳩山一郎自由民主党初代総裁のお孫さんである政治家にふさわしい国家への貢献であろうと草の根の雑民愚民は拝察するところであります。

投稿: enneagram | 2009.07.06 16:40

日米安保条約を破棄するとアメリカに言われたら、「ああいいですよ。沖縄からもアメリカの兵隊さんたち全員撤収してください。」と強く出ればいいのです。絶対に、アメリカ軍は、沖縄を手放すことなんかできません。

アメリカが沖縄を手放せないのと対なのが北方領土かもしれません。ロシア国内の領土問題、国境問題、民族問題もさることながら、北方領土が日本に帰属してしまったら、オホーツク海の安全保障や覇権の前提や条件が大きく変わってしまいます。

(大国の)日本が沖縄と千島列島に強く関与する姿勢をとり続けることで東アジアのパワーバランスが均衡するのかもしれません。

投稿: enneagram | 2009.07.07 11:42

ポスト記事の1行目、Washingtonは政府ではなく、首都に住む常連の意です。

投稿: モリヒロ | 2009.07.08 16:26

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