民主党のマニフェストに示された沖縄問題の取り組みを読みながら、これは自民党同様の失敗に終わるだろうと思った。失敗してくれと願っているわけではなく、むしろ自民党の沖縄政策よりよいとも思えるのだが、以前の民主党の主張からの後退や、幹部発言の混乱からして、現時点での実効性はほぼないと思えたということだ。まとめておきたい。
だらだらと曖昧な美辞麗句が続くが民主党のマニフェストでは沖縄問題にこのように触れられている。
沖縄政策
沖縄は先の大戦で、国内で唯一、地上戦が行われ、数多くの犠牲者を出す悲劇に見舞われました。敗戦後も米軍による占領を経験したうえ、復帰後の経済振興も期待どおりに進んでいません。この状況を重く受け止め、1999年7月に「民主党沖縄政策」、2002年8月に「民主党沖縄ビジョン」を策定し、2005年および2008年には「民主党沖縄ビジョン」を改訂しました。
「民主党沖縄ビジョン」では、従来型の補助金や優遇措置に依存する活性化ではなく、沖縄本来の魅力や特性を最大限活用することを基本的な方向として、経済振興、雇用創出、自然環境政策、教育政策等、沖縄の真の自立と発展への道程を示しています。また地域主権のパイロットケースとして、各種制度を積極的に取り入れることを検討するとともに、ひもつき補助金の廃止・一括交付金化についても、まず沖縄県をモデルとして取り組むことを検討します。沖縄には依然として在日駐留米軍専用施設の多くが集中するなど、県民は過重な負担を強いられています。これらの負担軽減を目指すとともに、基地縮小に際して生ずる雇用問題にはセーフティネットの確保も含め十分な対策を講じます。また、当事者としての立場を明確にするため、在沖米軍の課題を話し合うテーブルに沖縄県など関係自治体も加わることができるように働きかけます。
日米間の問題としてもっとも重要な沖縄問題である、
普天間飛行場移設と、実際には沖縄には限定されないものの少女暴行事件で問題が鮮明になった
地位協定改定の二点が、キーワードとしては言及されていない。
沖縄の地域振興などは、基本的に、本土独立時に沖縄は内地側から見捨てられ米軍軍政下に置かれ本土復帰に遅れたことと、それに端を発するが、占領地だった内地からの米軍移設による在沖縄米軍基地が、沖縄本土復帰にかかわらず沖縄から本土に戻されていない状況に放置されていること、この2点に従属する問題なので、まずこの根幹を是正していくことが基本となる。
こうした問題に、自民党では復帰直後の沖縄開発庁長官である山中貞則氏、10代の小渕恵三氏、最後の橋本龍太郎氏、さらに「沖縄は自分の死に場所だ」としていた梶山静六氏などが尽力をされ、市街地の海兵隊基地である普天間飛行場の移設が日米間で約束されたものの、すでに当初の予定時期から大幅に遅れ、現状でも移設のめどは立っていない。理由は移設先が、明確に決まらないためである。
自民党政権では移転先を沖縄本島内北部としていたが、民主党は県外移設を提示していた。
また地位協定についても自民党は運用の見直しで押し通していたが、民主党は6月時点のマニフェスト原案では「日米地位協定の抜本的改訂に着手、思いやり予算など米軍関連予算の執行を検証」として、既存の改訂プランに着手することを公約に盛り込む方向だった。が、実際の公約では、「日米協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方も引き続き見直す」と変更され、地位協定改定の着手が実質破棄された(
参照)。
現在の沖縄問題の重要点である、
普天間飛行場移設と
地位協定改定が民主党のマニフェストから消えた時点で、沖縄問題について自民党と大差のない政党であるとも言えるが、再度マニフェストを読むと、これらの問題は詳細として、2008年改訂「民主党沖縄ビジョン」に従うと理解できないこともない。
そこで2008年改訂「民主党沖縄ビジョン」なのだが、2005年8月と放置されたように見える「民主党沖縄ビジョン【改訂】」(
参照)がそれに該当するものか、私が勘違いしているのかもしれないが、ここでは
普天間飛行場移設についてこう言及されている。
4) 普天間米軍基地返還アクション・プログラムの策定
普天間基地の辺野古沖移転は、事実上頓挫している。トランスフォーメーションを契機として、普天間基地の移転についても、海兵隊の機能分散などにより、ひとまず県外移転の道を模索すべきである。言うまでもなく、戦略環境の変化を踏まえて、国外移転を目指す。民主党は、既に2004年9月の「普天間米軍基地の返還問題と在日米軍基地問題に対する考え」において普天間基地の即時使用停止等を掲げた「普天間米軍基地返還アクション・プログラム」の策定を提唱している。なお、いわゆる「北部振興策」については基地移設問題とは切り離して取り扱われるものであり引き続き実施する。
これは私が理解している民主党の沖縄政策と合致し、非常に明瞭なものになっている。つまり、普天間飛行場はまず県外に移設し、その後、条件が合えば国外移転する、という二段階になっており、なにより県外移設、つまり内地への返却が明記されている。
当然ながら県外移設となればその候補地が明記されなければ実現に乏しい。この点についてなぜか産経新聞「民主、普天間移転で九州2基地を検討」(
参照)に出所のわからない情報が公開された。
在日米軍再編に伴う米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、民主党が、県外移転先の候補地として宮崎県内の航空自衛隊新田原(にゅうたばる)基地と、福岡県の航空自衛隊築城(ついき)基地を検討していることが明らかになった。
関係筋によると、鳩山由紀夫代表は周囲に移転先として新田原、築城両空自基地を挙げたという。鳩山氏は19日、沖縄県内の集会でも「最低でも県外移転の方向で積極的に行動したい」と発言している。
出所が「関係筋によると」なのでどう評価してよいかわからないが、根も葉もない噂ではないのは以下の経緯があるからだ。
両基地は平成18年の在日米軍基地の再編に関する日米合意で、「武力攻撃事態」や「周辺事態」の際、新設する普天間代替基地で収容し切れない部隊が展開することを認め、滑走路や隊舎の整備も進んでいる。
ただ、普天間飛行場の主力である米海兵隊のヘリ部隊を移すには敷地が手狭だとされ、民主党内にも実現性を疑問視する声がある。
鳩山氏自身による公言はないが、民主党の岡田克也幹事長はこの情報を否定する側にまわっている。琉球新報「民主岡田氏、普天間県外移設「変わらず」」(
参照)より。
具合的な移設先については「政権を取って米側と信頼関係を築いた上でいろいろな可能性を検討していくことになる」と述べるにとどめた。24日付の一部報道で「民主党が(普天間の)県外移設先の候補地として航空自衛隊の新田原基地(宮崎)と築城基地(福岡)を検討している」と報じられていることについて「(その事実は)ございません」と否定した。
しかし、県外移設の方向性については岡田氏も否定していない。
民主党の岡田克也幹事長は24日の定例記者会見で、23日に公表した民主党政策集「インデックス2009」で米軍普天間飛行場の移設問題について同党が主張する「県外移設」の表現がないことについて「基本的に普天間に関する民主党の考えは変わっていない。(政策集に)書いた書かないということは関係ない」と述べ、県外移設を目指す考えに変わりがないことを強調した。
こうした大問題を「(政策集に)書いた書かないということは関係ない」とする見識に驚くものがある。民主党マニフェストは他の部分においても同質の曖昧な仕組みを持っているように見える点に懸念があり、懸念は深まるものになった。
移転先が検討されていない移転について。
具体的な移設先を挙げずに県外移設を主張する民主党について中曽根弘文外相が「どこに(移転する)と言わないのはずるい。選挙を意識した発言だ」などと批判していることについて岡田氏は「中曽根外相の言っていることは理解に苦しむ。橋本・モンデール合意から一体何年たっているのか。その間の責任を棚上げして民主党を批判するのは私には無責任に映る。中曽根外相はどれだけ普天間(基地)のために努力をしたのか」と批判した。
北朝鮮と米国政府が「お前がバカだお前こそバカだ」と言い合うような芳しさがあるが、穏当に見ても、マニフェストの曖昧さや改変の経緯からして、民主党の
普天間飛行場移設問題の見通しはなく、よって自民党同様の失敗に終わるだろうと予想される。
地位協定についてはどうか。先の改訂沖縄ビジョンではこう明言されている。
1) 日米地位協定の見直し
民主党は2000年5月に「日米地位協定の見直しについて」を提示した。2004年12月には沖縄国際大学への米海兵隊ヘリコプター墜落事故を踏まえ、事故等の捜査を原則日米両当局の合同捜査とする「日米合同委員会」の議事録を原則公開とする等の内容を加筆した「日米地位協定改定案」作成に着手した。沖縄では先般の少女への事件に見られるように米兵による卑劣な犯罪等も依然発生している。沖縄県等とも連携を深めながら、航空管制権及び、基地管理権の日本への全面的返還を視野に入れつつ、大幅な地位協定の改訂を早急に実現する。
結語は「大幅な地位協定の改訂を早急に実現する」としている。
ここで重要になるのは2000年5月付け「日米地位協定の見直しについて」(
参照)で、読むとかなり踏み込んだ内容になっていることがわかる。が、政権政党ではないとはいえ、この文案が現下の世界状況の変化と無関係であるかのように、10年近く放置されている印象もあり、マニフェストでの曖昧化も合わせると、予定調和的な失敗が滲んでいる。
この点については早々に米側の反応があった。時事「米軍再編、修正応ぜず=民主公約で米司令官」(
参照)より。重要であること記事の事実性からあえて全文引用する。
在日米軍のライス司令官は28日午後、都内の日本記者クラブで会見した。民主党が衆院選のマニフェスト(政権公約)で在日米軍再編合意の見直しに言及したことに関し、「(日米合意は)全体として良いパッケージになっており、日米双方にメリットがある。個別の要素は変えないというのが米政府の一貫した立場だ」と表明。沖縄県の普天間飛行場の移設問題などで修正に応じる考えはないことを強調した。
また、同党が米側に提起するとした日米地位協定の改定についても、「数十年にわたって存在してきており、見直す必要はない」と否定的な見解を示した。
普天間飛行場移設がキーワードになったわけではないようだが、民主党の主張する県外移設を含む修正を否定し、地位協定については明確に否定が出た。
地位協定については、先のマニフェストの曖昧化とも関係するが、思いやり予算の削減とも関連している。沖縄ビジョンではこう触れられている。
5) 思いやり予算の削減
思いやり予算については、2005年度で現在の特別協定の期限(5年)が切れる。経済、財政事情が悪化する一方で公共事業的支出が高まっており、基地の固定化を強めかねない。提供施設整備が過剰になっているとの指摘もあり、改訂を機に特別協定に基づく光熱水料、訓練移転費や地位協定を根拠とした提供施設整備費等について必要な削減を行う。
普天間飛行場の危険性や地位協定改定の問題も早急の問題といえば早急の問題だが、米軍としてみれば、金づるの旦那の心持ちが心配になる。カネの切れ目は縁の切れ目だとガイウス・ユリウス・カエサルも言っているとおりだ(これは冗談です)。この話もライス司令官は出している。日経「在日米軍司令官、思いやり予算削減に反対」(
参照)より。
在日米軍のトップであるライス司令官は28日、日本記者クラブで記者会見し、日本政府が負担している在日米軍駐留経費(思いやり予算)の削減に反対する考えを示した。司令官は「米国は日本を守ると誓約しているが、日本は憲法によって米国を守ることが認められていない。日本が同盟関係に貢献する一つの方法が駐留経費の支援だ」と指摘した。
ライス司令官は民主党政権となっても日米関係が損なわれることはないとの認識を示している(
参照)ものの、政策の実施にはかなりの難航が予想される。
この問題の前段に奇妙な話がある。当初駐日大使の噂のあった元国防次官補でもありハーバード大学ジョセフ・ナイ教授は昨年12月、鳩山幹事長(当時)と非公式の会談を持った際、「インド洋での給油活動に反対すれば、オバマ政権は日米同盟を維持しようとは考えないだろう」と警告したというのだ(
参照)。
毎日新聞「クローズアップ2009:民主党マニフェスト原案「09政策集」 じわり現実路線」(
参照)ではこう伝えている。
対応変化の背景には与党との対決姿勢を最も重視した小沢一郎前代表の辞任に伴い、党内の日米同盟重視派の主張が反映されやすくなったことがある。
民主党の対米方針を懸念する米側はオバマ政権の発足前から民主党幹部と非公式に接触。昨年12月にはジョセフ・ナイ米ハーバード大教授らが鳩山由紀夫幹事長(現代表)に「米国にけんかを売っている」と苦言を呈した。岡田幹事長が6月25日、フロノイ米国防次官と会談した際も、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画をめぐり激論をかわした。こうした機会にたびたび伝えられた米側の懸念に配慮したとみられる。
民主党の沖縄問題の曖昧化は時系列的にはこれを契機としていることは確かなので、その経緯の実態について、特に日米同盟についてどのように、ナイ氏と鳩山氏が意見交換をしたのか詳細を知りたいと思うし、公開された政治を掲げる民主党に期待したい。
余談だが、そしてあまり陰謀論的な発想はしたくないのだが、極東におけるプレゼンスには米国第七艦隊(駐留米軍とは別)だけでよいとした小沢一郎前代表の発言も連想される。この発言は、それ自体では彼の持論に過ぎないが時期的に奇妙なものがあり、ジョセフ・ナイ氏の駐日大使想定が外れたことに何か米政府側での関連があったのだろうか。端的に言えば、駐日大使に指名されたジョン・ルース氏は民主党政権が潰れるまでのつなぎということはないか。