« 民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう | トップページ | 崖の上のポニョ(宮崎駿) »

2009.07.30

日米FTAについて民主党の七転八倒

 民主党を批判したいがために批判しているように思われても困るが、民主党マニフェストに記載された日米FTAについての七転八倒劇には困惑した。さらに、この問題を日米FTA推進派がどう見ているのかも気になるが、まだ議論を見かけない。今後出てくるのかもしれないが、出て来ないような重たい空気も感じる。「小泉改革」とやらの是非についてもそうだが、なんとなく、日米FTA推進も「小泉改革」も、バズワードのような「新自由主義」とかの弊害ということで自民党支持層も同意しているような曖昧な空気のうっとうしさを覚える。
 今回のどたばた劇は民主党のマニフェストから始まる。「民主党政策INDEX2009」の「外務・防衛」(参照)の「新時代の日米同盟の確立」には次のように、日米FTAを推進すると明記されている。


 日米両国の対等な相互信頼関係を築き、新時代の日米同盟を確立します。そのために、主体的な外交戦略を構築し、日本の主張を明確にします。率直に対話を行い、対等なパートナーシップを築いていきます。同時に国際社会において、米国と役割を分担しながら、その責任を積極的に果たしていきます。
 米国との間で自由貿易協定(FTA)を推進し、貿易・投資の自由化を進めます。
 日米地位協定の改訂を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方等についても引き続き見直しを進めます。

 私はそれほどラディカルではないがWTOの基礎理念を理解するくらいには自由貿易主義であり、WTOが瀕死の状態にある現状、FTAは重要だと考えている。また、かつてABCD包囲網で発狂した国家の国民として、公海の自由と自由貿易に依存しないかぎり日本の存立は危ういとも考えている。なので、民主党のこのマニフェストはよい方向なのではないかと考えていた。
 しかし、FTAに大きな問題があることを知らないわけではないし、隣国では国を挙げての大騒ぎをしてまでその国内的利害の状況を示してくれた経緯もある。また、現在宙ぶらりんの日豪FTAの経緯もある。結論を先にいうと、民主党マニフェストはアジアや世界のFTAの議論はあるのだが、日豪FTAや環太平洋諸国との連携の発想はないので、そのあたりからもよく練られた政策集ではないというのは、最初からわかっていたことと言えないこともない。
 補助線となる日豪FTA交渉が開始されたのは2007年で、すでに懐かしい歴史になってしまったかのようだが当時の安倍総理大臣とハワード首相の蜜月的な関係でようやく口火を切ることができたものだったが、その時点から反対は激しかった。理由は大別して2点あり、(1)輸入農産物である、牛肉、小麦、乳製品、砂糖の四品目で国内農業が壊滅的な打撃を受ける、(2)このFTAが割れ窓のようになって他国、特に日米FTAに及ぶ、というものだ。
 なのになぜそこまでして日豪FTAが推進されたかというと、これも大別にして2点ある。(1)対中政策で米国寄りの同盟関係を強化する、(2)WTOの弱化と、他国のFTA活性への遅れ取り戻し、である。日豪FTAが宙ぶらりんになっているのは、一点目の要請が両国ともに弱くなっていることもあるだろう。
 日豪FTAの経緯が陰画で日米FTAの必要性も示していたとも言えるし、さらに隣国韓国の背に腹は代えられない式FTA展開に追い立てられてきた面もあるが、逆にこれらの経緯から日米FTAの困難さは十分想定されたので、民主党マニフェストがこの明記を敢行するのは、あっぱれという印象があった。なにより党内での反対意見たとえば山田正彦衆議院議員の見解(参照)などもまとめたとすれば、政権与党たる結束力を示した。
 そんなわけねーよな。民主党マニフェストが公開されたあとで民主党議員から問題提起が出てきた。日本農業新聞「「日米FTA締結」~民主農林議員「寝耳に水」と困惑」(参照)より。

 民主党が衆院選マニフェストに「米国との自由貿易協定(FTA)締結」を盛り込んだことに、同党農林議員からは「寝耳に水」と困惑の声が広がっている。
 最大の疑問は、政権公約発表の4日前の23日に民主党がまとめた「2009年版政策集」との違いだ。政策集は政権公約の土台となるものだが、米国とのFTAを「推進」との表現にとどめていた。これが政権公約では、なぜか「締結」という踏み込んだ文言に置き換わった。4年前の衆院選の政権公約では、FTAについて米国の国名を挙げずに「締結を推進」とだけしていた。

 民主党内部からこうした後出し異論の声が出てくるのは、民主党マニフェストがどのように形成されたか、聖書学的な考察が必要になりそうだが、それにしても「同党農林議員」というのが、自民党と代わりばえしない政権与党の貫禄で香ばしい。
 同記事では、「世界貿易機関(WTO)農業交渉が正念場を迎えている極めて重要な時期に、なぜ日米FTA締結という言葉が政権公約に盛り込まれたのか」との民主党小平忠正WTO検討小委員会座長の声や、「次の内閣」元農相は「日米FTAなどありえない話だ。米国側も簡単に飲める話ではない。現場を大混乱させるもので、党としての正式な説明が必要だ」との篠原孝衆議院議員の声も合わせている。党の内外の差という感覚がちと麻痺しているような印象も受ける。
 先にも指摘したが、今回の民主党による日米FTA確言は、貿易や農政の範疇ではなく、「外務・防衛」の「新時代の日米同盟の確立」のくくりにあり、そのあたりから、外交関係の議員と内政の議員との摺り合わせがなかったかもしれないという雰囲気はあったが、そのとおりだったようだ。日本農業新聞「民主・細野政調副会長が釈明、「自由化前提ではない」」(参照)より。

 民主党の細野豪志・政調筆頭副会長は28日、日本農業新聞の取材に対し、政権公約(マニフェスト)に日米FTAの締結を盛り込んだことについて「日米関係を安全保障だけでなく、経済などを含めた重層的な外交をしなければいけないという観点からも盛り込んだものであり、農産物貿易自由化が前提ではない」と釈明した。

 率直にいうとこのあたりの腰砕け感が、内部でごたごたしている自民党と代わらないなあ、和もって謀となすという日本の伝統が守られているという安堵感にもつながる。
 話をFTAのありかたに戻すと、既に述べたように私は普通に自由貿易を評価するもだし、「極東ブログ:[書評]出社が楽しい経済学(吉本佳生, NHK「出社が楽しい経済学」制作班)」(参照)でもふれたが、リカルドーの比較優位説をそれなりに理解しているつもりだ。しかしでは内政についてリバタリアニズム的でよいかというとそうは考えていない。率直にいって、バラマキ大いに賛成だという立場を取る。特にWTOが頓挫しつつある現状、関税がかけられなければ、バラマキするしかないだろう。荘子曰く、「昨日、道をまかりしに、あとに呼ばふ声あり。返り見れば、人なし。ただ車の輪跡のくぼみたる所にたまりたる少水に、鮒一つふためく」の教えである。民主党が日米FTAの保証で1兆円規模の戸別所得補償をするのは大いに賛成だと考えていた。
 1兆円規模の戸別所得補償については、そうした文脈で民主党マニフェストに織り込まれているとばかり思っていた。日本農業新聞「米国とのFTA締結を明記、農業所得補償に1兆円/民主が政権公約」(参照)より。

 民主党の鳩山由紀夫代表は27日、衆院選のマニフェスト(政権公約)を発表した。官僚から政治主導への転換と、年金や子育てなど社会のセイフティーネット(安全網)の構築が柱。主要政策には、2007年の参院選に続き、年間1兆円規模の農業の戸別所得補償制度導入を盛り込み、2年後の11年度からの実施を明記した。一方で、外交方針として米国の自由貿易協定(FTA)締結を盛り込んだ。農業界で波紋を呼びそうだ。

 曖昧に書かれているが、1兆4000億円にも及ぶ戸別所得補償制度がバーターになって日米FTAに臨んだだろうと思った。正確にいうと、日豪FTAをかっ飛ばしたのはそれだけ米国側から安全保障面でせっつかれたのだろうかとも思ったが。
 ところが、民主党さん、ここからがすっかり本気な展開になってきた。先の記事だが、こう続くのだった。細野豪志・政調筆頭副会長の見解として。

 同氏は、民主党が日米FTAと表裏一体で1兆円の戸別所得補償を実施するのではとの見方が出ていることについて「戸別所得補償は農業再生のための国内政策であり、自由化をするための手段ではない」と否定し、日米FTA交渉は「日本農業への影響を回避することが条件になる」と述べた。

 バーターじゃないよというのだ。バラマキは純然たるバラマキだというのだ。昭和の香りをアゲイン!
 兵法で重要なのは機を見ることだ。相手がびっくりしてひるんだところで更に突く。いや、驚いてないで、話を聞け。日本農業新聞「農産物自由化を否定/民主党が声明、日米FTA公約を事実上修正」(参照)より。

 民主党は29日、衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ米国との自由貿易協定(FTA)締結についての声明を発表した。米国とのFTA交渉で「日本の農林漁業・農山漁村を犠牲にする協定締結はありえないと断言する」とし、農産物貿易の自由化を前提にしたFTA締結を強く否定した。
 声明は、日米FTA交渉で「米など重要な品目の関税を引き下げ・撤廃するとの考えをとるつもりはない」とも強調。23日にまとめた2009年版政策集では、日米FTAは「推進」の表現にとどめており、政策集の内容に事実上修正した形だ

 きちんと民主党マニフェストは訂正された。ソフトウエアの改変履歴のようなものがあるとよいのだが、ないかもしれない。うだうだ書いたが、このエントリで代用にされてもいいかもしれない。「新時代の日米同盟の確立」エラータ。

 日米両国の対等な相互信頼関係を築き、新時代の日米同盟を確立します。そのために、主体的な外交戦略を構築し、日本の主張を明確にします。率直に対話を行い、対等なパートナーシップを築いていきます。同時に国際社会において、米国と役割を分担しながら、その責任を積極的に果たしていきます。
 米国との間で自由貿易協定(FTA)を推進し、貿易・投資の自由化を進めます、なーんてしないケロ。
 日米地位協定の改訂を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方等についても引き続き見直しを進めます。

 さらに菅直人代表代行は29日の会見で、「わが党として米などの主要品目の関税をこれ以上、下げる考えはない」と言明したそうだ。ありがとう。
 これからどんだけ民主党マニフェストにエラータが出てくるのか、国民は民主党理解が難儀だなと思ったら、こういうことらしい。時事「国・地方協議、公約に追加=「27日発表分は正式ではない」-民主代表」(参照)より。

鳩山氏は「この間(27日)出したのは政権政策集で、正式なマニフェストは公示日からしか配れない」と述べ、追加は可能と強調した。

 あれ、正式なマニフェストではなかったそうですよ。
 ラジャー。正式なマニフェスト、待ってます。

|

« 民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう | トップページ | 崖の上のポニョ(宮崎駿) »

「時事」カテゴリの記事

コメント

マニフェストのことだけに反応するのも何なのですけど、意気消沈しました。

とは言え、日米FTA問題の発端となったリンク先の民主党の記事にも問題があるわけで、ここで正式なマニフェストでどのように触れてくるのかですね。待つというのは。

投稿: godmother | 2009.07.30 19:20

拝啓 別スレッドご容赦下さい。
麻生さんが叩かれるのかさっぱり理解出来ません?

翻って、自称
確かな野党
民主党の唱える多文化共生
東アジア共同体バンザイは言語道断にて日本チベット化
日本滅亡へ直結致します!

民主党政権が誕生しますと日本の未来は著しく不利になります。

このこと一つとっても民主党に政権を担う資格はありません!

話題転じ、草の根からの反日教育宣伝に対するカウンター・プロパガンダとして 元警視庁通訳捜査官である坂東忠信氏のサイト『 外国人犯罪の増加から分かること 』と著書「 通訳捜査官 」を紹介しております宜しければ御覧下さい。

勿論、紹介する事は坂東氏から許可は頂いております。
日本が管理人さんと我等と共にあらん事を!(●^o^●)m(__)m
僭越乍乱文にて 敬具

投稿: (^O^)風顛老人爺 | 2009.07.31 00:35

七転八倒、同感です。
どこで決まっちゃったのでしょうか、正式でない、マニフェスト。
農村部を票田に抱える民主党の候補者さんたちは、困っちゃってます、です。
百姓より生活者より、やっぱ財界が大切なのは自民党より民主党さんの方だったのですね!
という告白なのですね!と言われています。

ひとつ分からないのが、FTAって締結しても「関税いっぱいかける!」って言えるんでしたっけ?
「FTAは締結する、でも農産物の関税は下げない」ってダイジョウブなのかなぁ…?

もう一つ気になります。
「和もって謀となす」文化のこの国に、民族問題を注入する「永住外国人参政権」問題。

…票は欲しいでしょうが、…

投稿: 百姓その1だっぺ | 2009.07.31 02:27

『日米間の正式なアレ(仮題)』の(仮題)が一生抜けないという、そのまま恙無く連載終了してしまうという、あのパターンですね。嗚呼懐かしい、虫の息。

 なんていうか、狭い地域内でチョコチョコやってる分にはギャグで済むし十分面白いと思いますけど、アメリカ相手にそれやったら、かなりの勢いで洒落にならないと思いますよ。

「分かりました。それなら私は『真・日米間の正式なアレ(仮題)』で返礼致します」ってアメリカに言われたら…。どうなるんでしょうね。

 なんぼなんでもキチガイすぎると思いました。>民主党

投稿: 野ぐそ | 2009.07.31 05:47

FTAは、表向きは農業保護の話ばかりが出てきますが、実際には、高度の体系的知識を必要とする国内の知識サービス業の保護のためになかなか締結できないのでは?

金融なんか、規制緩和するたびに海外の金融機関に国内の顧客を奪われているし、法律関係とか、会計関係とか、大学とか、出版とか、介護・出産とか、自由化してしまったら、海外の強力な事業者に太刀打ちできない知識サービス業は山ほどあります。

いままでの日本は、高付加価値製造業にばかり力を入れ、それに依存してきました。いままでは、それが正しかったのだけれど、もう、いい加減舵取りを変えないと、いつまでも、現実の日米(日豪)FTA締結は不可能だと思います。

投稿: enneagram | 2009.07.31 08:08

いつも読ませていただいてます。ありがとうございます。

>民主党を批判したいがために批判しているように思われても困るが、

今後のエントリで、これまでの自民党と今回の自民党マニフェストを分析した深みある自民党分析も同様にしていただけるということのようで安心いたしました。期待して待つ事にいたします。

投稿: 情けない | 2009.07.31 14:59

常日頃愛読しております。
あまりにも今さらすぎる質問で恥ずかしいのですが、前から思っていたのでこの場を借りて伺います。

極東ブログのように思索等を徹底的長文で書いていくというスタイルや意義は理解しているつもりなのですが、見出しや目次?等をしないのは何故でしょうか。いいことを言っているのに、「あー今そんな時間(or元気)がないな、『あとで読む』にしとこ」とやっておきながらもそのまま読まない…という非常にもったいないケースが多くなってしまいます。概要だけでも知っておきたいなぁという人のために、そういうことをするつもりはないのでしょうか?

まぁ「読む暇がないなら無理に読まなくてもよい」と言われればそれまでですが…

投稿: 一愛読者 | 2009.08.01 04:36

個人として、日本のTPP参加反対の署名運動を、署名TVにて開始しました。
http://www.shomei.tv/project-1848.html
お読みいただき、賛同していただけましたら、是非署名と拡散をお願いいたします。

ストロング 佳織

投稿: ストロング佳織 | 2011.10.24 12:29

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/657/45784168

この記事へのトラックバック一覧です: 日米FTAについて民主党の七転八倒:

« 民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう | トップページ | 崖の上のポニョ(宮崎駿) »