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2009.06.29

[書評]「無駄な抵抗はよせ」はよせ(日垣隆)

 書名は少し挑戦的だ。「「無駄な抵抗はよせ」はよせ(日垣隆)」(参照)というのだから、「無駄とわかっていても抵抗はしてみよう」ということになる。抵抗する対象は何か? 帯に「体と心のピンチに! やっぱり痩せたい、老いたくない、安らかでいたい、ボケたくない」と続くから、老化や精神的につらい状況が対象だとわかる。では本書に抵抗できるだけのツールがあるか。帯はこう続く。「著者が自身のために集めた科学と智恵の簡単極意をお裾分け」。そうだなと読んでみて思った。率直なところ無駄な抵抗もしてみるものだとまでは思えなかったが、きちんとお裾分けはあった。

cover
「無駄な抵抗はよせ」はよせ
日垣隆
 内容は、第一線で活躍されている科学者を中心にジャーナリスト日垣隆によるインタビューを今回のコンセプトで8点まとめたものだ。
 私が一番面白かったのは、1946年生まれ、というから今年63歳になる日本航空の現役パイロット小林宏之氏の話だった。1968年にパイロット訓練生として入社。2006年に退職はしているがその後も嘱託として勤務され、パイロットとしては最高齢になるという。インタビューのポイントはパイロットという厳しい仕事を40年以上も一線で行っている秘訣になるが、他に首相特別便の経験など飛行機から見る戦後史といった趣向の話も興味深い。インタビュアーはそのあたりもうまく引き出している。書籍の構成上、一人分の話量といったバランスもあるだろうが、もう少し話を聞きたいと思った。回想録などあれば是非読みたいものだ。
 電車のホームからの転落事故がきかっけで、35歳で高次機能障害となった若狭毅氏の話は、自分にも起こるのではないかと身につまされるものがあった。事故後、彼は 1+1 もわからなくなり、娘さんが誰かすら認識できなかったという。毎日新聞社会部記者という頭脳を酷使する仕事に就きながら、以前に自分が書いた記事も理解できなくなった。リハビリの過程はその後編集に携わる「サンデー毎日」に連載されたらしいが、私は該当連載を読んだことはない。本書の話では、家族が支えになったそうだ。幼い娘さんとトランプの「神経衰弱」をすることもリハビリの一環にしたというのは、しみじみとするエピソードだ。
 このブログでも以前扱った、レコーディング・ダイエット法「いつまでもデブと思うなよ」(参照)の著者岡田斗司夫氏の話も、同書とは違った切り口で興味深かった。知らなかったのだが、私より一歳年下で、日垣氏と同年の岡田氏には高校三年生の娘さんがいて、彼が太っていたころは挨拶の愛想もなかったそうだ。ところが、痩せたら「お父さん、一緒に歩こうよ」と氏になつくようになったという。なんかうらやましいような怖いような話だ。そういえば日垣氏も20歳を超えた娘さんとデートをする話をどこかで読んだことがある。メルマガであっただろうか。
 本書のインタビューはどれもTBSラジオ日曜日夜9時放送の科学トーク番組「サイエンス・サイトーク」(参照)を元にしている。同番組はもう10年以上も継続し、著者日垣氏も「あとがき」で企画当初は30代でしたと懐かしく思っているようだ。また「あとがき」では結果ライフワークになったとも述懐している。彼のインタビューは、事前に徹底的に対象者の資料やその分野基礎知識を読み込むところに特徴がある。それだけの知的訓練を10年以上継続したというのも、すごいものだなと思う。
 「サイエンス・サイトーク」を元にした書籍は本書で九冊目になるという。年一冊のペースになるかなと、自分の備忘のためにもリストにしてみた。初期は新潮OH!文庫から、その後はWAC BUNKOの「知の旅」シリーズになり、書籍としての企画性は強くなる。個人的には、「愛は科学で解けるのか」が初回ということもあり印象深く記憶に残っている。

  1. 「サイエンス・サイトーク 愛は科学で解けるのか (新潮OH!文庫)」
  2. 「サイエンス・サイトーク ウソの科学騙しの技術(新潮OH!文庫)」
  3. 「サイエンス・サイトーク いのちを守る安全学 (新潮OH!文庫)」
  4. 「天才のヒラメキを見つけた! (WAC BUNKO)」
  5. 「頭は必ず良くなる (WAC BUNKO)」
  6. 「方向音痴の研究 (WAC BUNKO)」
  7. 「常識はウソだらけ (WAC BUNKO)」
  8. 「定説だってウソだらけ (WAC BUNKO)」
  9. 「「無駄な抵抗はよせ」はよせ (WAC BUNKO)」

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コメント

 無駄な抵抗だったらしなくていいですよ。無駄じゃない抵抗なら別に構わんと思いますけど。

 抵抗することに意味がある的な開き直り方したら手段の目的化に堕するし、そうなってしまったら、人の道具に成り果てる以外、無いでしょ。そうなってしまうと、トップよりも部下の方がやたら過激な駄目集団になってしまう。

 戦前の日本は、一度それで潰れたんじゃなかったでしたっけ? 今も民間公務どことは言わず危ないところは危ないんじゃなかったでしたっけ?

 他人の道具になる→仕事成立で金になる、を良しとするようになったら、そういう生き様はヤクザかチンピラと変わりありません。そういう生き様の行く末は、良くて鬱か悪くて廃人ですよ。そこから先ず抜けねば。

 道具な生き様を変えられない余りに挙げ足とりや冷や水掛けやチャチな厭味ばかり言うようになったら、それは(組織的なら)2ちゃんねる、(個人でやるなら)切込隊長さんと変わりありません。折角の実力も才覚も、そういう使い方では宝の持ち腐れですわ。

 抵抗をするかしないか以前に、そういう連中から(物理的、心理的に)距離を置くことの方が重要な気がします。朱に染まれば赤くなる、とも言いますしね。
 染まった状態で批判や抵抗をしても、それは自民党vs民主党と言う名の元自民党、と変わらんです。そこから先ず却下、が。民意じゃないですかね? 違いますかね?

 私は昨年まで「どっちもクソだからどうでもいいけど比較的マシな意味で自民党」ってことで一貫してましたけど、2009年からはいろいろ行動規範を変えてますんで、うんこ味のカレーとカレー味のうんこを比べるような真似はしませんよ。それで「どちらからも嫌われる」なら、それはそれで結構。

投稿: 野ぐそ | 2009.06.29 23:13

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