« 1976年のギラン・バレー症候群 | トップページ | 愛のお師匠様 »

2009.05.02

弱毒性かも

 識者から指摘が出てきたので後出しじゃんけん的になるが、やはり今回の豚インフルエンザに「弱毒性」の可能性が出てきた。もっともそのことはパンデミックに至る判断とは別だが。
 日経新聞記事「新型インフルの専門家「感染力あるが弱毒性」の見方多い」(参照)より。


 世界保健機関(WHO)が豚インフルエンザから変異した新型インフルエンザの警戒水準(フェーズ)を引き上げたことについて、専門家の間には「パンデミック(世界的大流行)になる恐れが強まっているが、ウイルスは健康影響のリスクが小さい弱毒性の可能性が高く、すぐに重症患者が多発する事態になるとは考えにくい」と、冷静な対応を求める声が多い。

 また。

 ただ、ウイルスの病原性については、今のところ「感染しても健康被害のリスクが小さい弱毒性」との見方が大勢だ。「今回のウイルスが(重症者が多発する)強毒性とは考えにくい」(鳥取大学の伊藤寿啓教授)、「病原性はそれほど強くはなく、通常の季節性インフルエンザの延長上のようだ」(川名教授)との声が多い。

 現状の推移からすると、通常の季節性インフルエンザの延長のように見てよさそうだし、元WHOインフルエンザ呼吸器ウイルス協力センター長、現「生物資源研究所」の根路銘国昭所長が沖縄タイムス記事「「豚」にも効力か インフル消毒剤で特許 根路銘氏」(参照)で言及していた予想に近くなりそうだ。

豚インフルエンザの流行について、根路銘氏は「国内では梅雨を迎える5月末までに終息するが、冬にかけて日本国民の30%から40%が感染する可能性がある」と、警鐘を鳴らしている。

 現状の騒ぎは、日本では湿潤な梅雨前に一段落して、この冬にまた大きな騒動が起きる可能性がある。弱毒性であれ感染者の規模が大きれば死者数は多くなるだろう。
 今回の豚インフルエンザだが、当時2400万人もの死者を出したスペイン風邪と同様にA型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)、Aソ連型の一種であること、メキシコからのニュースからスペイン風邪を連想させる部分もあったことが、警戒心を高めさせることになった。が、前回「極東ブログ: 1976年のギラン・バレー症候群」(参照)でも触れたが、この時の豚インフルエンザも総合してみると「弱毒性」だったようだ。
 今回の豚インフルエンザ(N1H1)は、現在人類が強毒性ゆえにその出現に脅威を覚える鳥インフルエンザ(H5N1)とは異なる。BBC「What scientists know about swine flu」(参照)の解説図がわかりやすい。

H1N1/H5N1

 ただだから弱毒性なのだとはスペイン風邪の経緯からは言い切れず、そこは難しい。この関連のエントリは「極東ブログ: 鳥インフルエンザとサイトカイン・ストームのメモ」(参照)で触れたことがある。もっともこのエントリでは、H1N1とH5N1の関係に触れず「スペイン風邪に類似であるということがわかっている」として曖昧だった(この指摘はニューズウィークの記事によるものだったかと記憶している)。
 別の切り口でいうと、そもそもスペイン風邪も弱毒性だったということはないのだろうか? 根路銘著「ウイルスが嗤っている―薬より効き眠くならないカゼの話」(参照)では「なぜ、スペイン風邪は猛威をふるったか」でこう述べている。


 スペイン風邪のウイルスそのものが病気を起こす力が非常に強かったという説もある。通常、インフルエンザウイルスの攻撃は、呼吸器止まりである。それもほとんどの場合、鼻や喉で人間の防衛軍に撃退される。インフルエンザが通常、軽症に終わるのはこのためである。ところが、なかには肝臓や脳にまで侵入してくるやつがいる。

 BBCの解説図のH5N1は肺に及び、肺炎も起こしうる。H1N1は喉までの侵入だが、この系統ならいつも弱毒性ということも言い切れないのではないか。
 根路銘は同項目で次のような指摘もしている。

 まず、考えられるは、肺炎を起こす細菌のいたずらだ。インフルエンザに冒されるとウイルスは喉に下って、その粘膜を破壊する。(中略)さらに細胞の破壊が進めば、毛細血管も傷つき、出血が起きる。こうなると、さまざまな細菌が増える土壌ができる。(中略)
 スペイン風邪を例にとれば、おそらく肺炎を起こす細菌が増殖して、肺に侵入した結果、合併症が起きて宿主の命まで奪ってしまったと考えられる。

 いろいろな説があるのだが、ここで今回の豚インフルエンザのメキシコでの状況を見ると、肺炎の可能性も疑えそうだ。毎日新聞記事「新型インフルエンザ:メキシコ、死者7人に修正」(参照)より。

メキシコで新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)による死亡が確認された人数について同国のコルドバ保健相は28日、これまで発表していた20人から7人へと下方修正した。新型ウイルス感染が確認されたのは死亡者7人を含め26人。他に152人が死亡した疑いがもたれているが、新型インフルエンザウイルスではない細菌などを原因とする「異型肺炎」の可能性も含めて調査を進めているという。

 細菌による合併症が解明されれば、現状の豚インフルエンザ自体は季節性インフルエンザの延長として見てよいだろうし、その可能性は高いように思われる。
 とはいえ、細菌性の肺炎なら安全かというとまったくそうではない。肺炎球菌は通常は症状を引き起こさないが、免疫の低下などで肺炎を起こす。日本の場合、老人の死因として最も多いのが肺炎で、直接的な死因としては3割に及ぶ。癌にもならず、脳血管障害や心疾患がないとすると、肺炎で死ぬというのが実際には天寿に近いと割り切るわけにもいかない。

|

« 1976年のギラン・バレー症候群 | トップページ | 愛のお師匠様 »

「時事」カテゴリの記事

コメント

 どういう死に方でも死ねば天寿でしょ。

投稿: 野ぐそ | 2009.05.02 19:39

エントリーにもあるけれど、インフルエンザそのものよりも、危険なのは、それが原因で併発する肺炎である、というのが通例だろうと思います。そうなると、これも、流行病、疫病というより、健康管理や公衆衛生の問題に還元されるということなのだろうと思います。

エイズも、カリニ肺炎で死んでいる人が多いはずだと思います。

投稿: enneagram | 2009.05.03 06:35

弱毒性であるからこそ、パンデミックを引き起こし易いということではないでしょうか。
症状が軽いために、結果として病院に行くのが遅れ発見が遅れるのではないでしょうか。

ブログ中に紹介されているBBCの記事はわかりやすいですね。

投稿: 新三 | 2009.05.03 11:04

 最近健康診断を受けたところ、尿に糖が混ざってて、細かいことはよく分らないけれど「4+」って言われました。免疫力が落ちてるから早急確実にダイエットしてください、とのこと。昨年春くらいから咳が止まらないなど自覚症状もあったので、そういう状態の時にインフルエンザ感染したら、まぁ死んじゃうんでしょうね。

 あらやだ死んだら残念すぎますね←人ごと。

 ひと言で言うなら「自己管理」ってことなんでしょうけど、何かとストレスフルなご時世、案外皆さん「そこだけは出来てない」ケースが多いんじゃないかと。逆に、管理が徹底しすぎて排他的になっちゃうとか。その場合は体が健康でも人間的に病んでますよね。人間的に病んでるヤツ下手に増えるとが貧困層を生むんですよね。どうでもいいことですね。そうですね。

 日本は健康的で文化的だから感染しても死なないな、とか思ってたら案外微妙なところで人死に出るやもしれません。野ぐそさんは死んだ方が却って喜ばしいくらいですからどうでもいいですけど、責務ある方々や一家の大黒柱等頼られる生き様な方なんかは、ご自愛宜しく頑張ってね?って感じです。何かあっても誰も知ったこっちゃ無いですし、どうしょうも無いですから。

 昨今不況で休暇が増えてる方ってのが私の周辺にも多いようですけど、今まで農耕(あんまり)やんなかった若い人が手伝いしてたり連休活かして仲間内で草野球をやってたりするなど(疫病対策的観点から敢えて)空気を読んでるわけでもないのに天然自然に空気読んでる行為を皆さん頑張ってらして、草の根な生き様って偉いもんだと感心しきりです。いざとなったら草の根強いってのは、こういうところに因があるのかもしれません。

 気持ちが腐って直ぐに体動かす訳でもない仁もおられるでしょうから、整体・エステ・垢擦りみたいなリフレクト系サービスでも受けてみて、疲れた体を休めるのも良さげな感じ。私なんぞは父ちゃん仕事から帰ったら肩たたき・背中踏み・耳掻きなんぞをやってましたし、母ちゃんは体動かさないと不健康になると言い張って74歳の今でも畑仕事を日課にしてますけど、金遣いたくないなら、そういうのもアリかと。

 疾病や病気ってのは、普段力で大概撃退できるもんです。普段力さえも犠牲にしてまで何ぞや的な生き様をやってると、こういう時に損しますよ。多分。

投稿: 野ぐそ | 2009.05.03 21:54

 先日から数年後の海の男(←笑)目指して海浜でボチボチ働いてるんですけど、フェリー乗り場に訪れてた93歳のお婆ちゃんがほぼ俺(&母ちゃん)と同じセンスで人生について熱く語ってて、60数歳のお婆ちゃん@海浜労働者を圧倒してました。

 さっきまで世間話に花を咲かせてたお婆ちゃん達の露骨な仏頂面と、そんなん関係ネーやでひたすら持論を展開する93歳。あまりの神々しさに小便チビりそうになりました。人間力が違いすぎます。
 「オレ、オレ、俺もだよ」ってよっぽど言ってやろうかと思いましたが、そんなん言うたら60数歳のお婆ちゃんたちとの折り合いが異常に悪化するであろうことは明白だったので、93歳の言動の端々に「それは俺の悪口でもあるよね?」的な私見が混ざってても、超スルーしてました。頑張れクソババーって感じ。

 「派遣社員なんてロクなもんじゃない。社員より高い小遣い貰って楽できるのにバクチや贅沢で銭スッて、不景気になったら国に助けろなんて以ての外だ。今なんか折角の不景気なんだから、あんなヤツらは死ねばいいんだ」とか平然とのたまわれた日にゃあ、どうしたもんかと。珍妙な面持ちで聞いておりました。

 あのね(少なくともここ数年の)派遣の現場はね? とか、あのね俺はそんな中でも1千万貯めたよ? とか、言っちゃ悪いが、堕落してない会社や社員が今でも偉いのは当然としても、逝っちゃった社員さんのアレさ加減は派遣の比じゃないぞ? とか、バクチ資本主義に堕してる会社なんかはどんなに社員が頑張っても絶対的に駄目なんだけど、そういう会社は結構あるぞ? とか。

 言おうかなー? 言うまいかなー? って思ったんだけど、言いませんでした。93歳の揺るがぬ信念を明けましてオメデトウする程の気骨なんか無いんで。人生超頑張れって思いました。100まで粘って大往生希望。

 そんでもって「喜捨しろお布施しろ」とか言ってて、まぁ理屈の根本はそれでいいけど、お布施先は特定宗教団体じゃなくて市井にしろよ? それって端的に浪費に繋がるけど、それあってこその助け合いなんじゃネーの? って思いました。

 自民と宗教がくっつく理由って、なんとなく分かるような気がしました。「公」と「民間」が何で対立? するのか、何となく分かるような気がしました。今さらながら(そういう類の)女の人の世間の見えなさって筋金入りなのね、みたいな。
 生きるって大変なのね。死ねばいいのにね。←ここんとこの意味分かる? 字面で読んだら馬鹿見るぞ? って感じ。

 白い空と青い海、緑豊かでのどかな山村、そして婆あ。ニッポンの原風景だと思いました。

投稿: 野ぐそ | 2009.05.05 23:08

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 弱毒性かも:

« 1976年のギラン・バレー症候群 | トップページ | 愛のお師匠様 »