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2009.04.02

やっぱり、ガイトナー案はアンクルサムのヘッジファンドだね

 先日の読みづらくわかりづらいエントリ「簡単ガイトナー案」(参照)を書いたおり、ぶっちゃけ日本のジャーナリズムのガイトナー案理解って違ってんじゃないのという疑念があった。他、経済関係のブログでもそれほど話題にしている風もないように思えた、もっとも「寡言にして」ということかもしれない。もうちょっと言うと、ガイトナー案を受けた米国のエコミストたちの緒論を観賞している風の趣に過ぎなかったように思える。まあ、どっちでもたいしたことはないけど。
 で、私は、これってようするに、民間のヘッジファンドがへたれたから、今度は米国国家がヘッジファンドをやりますよ、ということだと思った。


ようするに手元の持ち金のない人でも、公的機関というか日本でいったら日銀がカネ貸すから、ちょっくらヘッジファンドやってみないかね、そこのお兄さん、みたいなことでは。っていうか、国家がヘッジファンドに加わるのかよ的なことなんじゃないか。

 そこがポイントじゃないかな、と。そうしたらサミュエルソンがやはりずばりそこを突いてきたので、思わず膝ポンだった。”Geithner's Hedge Fund”(参照)より。

Call it Uncle Sam's hedge fund. The rescue of the American financial system proposed by Treasury Secretary Timothy Geithner is, in all but name, a gigantic hedge fund.

これは「アンクルサムのヘッジファンド」と呼ぶべきものだ。ガイトナー米財務長官が提案した米金融システム救済案は、事実上、巨大ヘッジファンドである。


 やっぱり。
 となれば、なぜ国家がヘッジファンドをやりますよということなのか、が、その成否の予想以前に問われることになる。が、どうも、その議論もまた「寡言にして」知らない。というか、話が少しずれるが今週のニューズウィーク日本版でもそうだけど、どうも、端的に言うと、偉大なる批判者というかクルーグマンに関心が向きすぎているように思える。
 クルーグマンはガイトナー案を否定している。ご本人のブログをフォローすればわかることだし、そのフォロワーは日本にも少なからずで、そのご託宣をそのまま鵜呑みにしているふうでもあるが、ここではニューズウィーク記事「オバマを揺さぶるノーベル賞の声」から孫引きすると。

 クルーグマンのコラムやブログ「リベラルの良心」によれば、ティモシー・ガイトナー財務長官らは「ウォール街の手先」だ。


2月10日、ガイトナーがオバマ政権の金融安定化策を初めて発表した日のコラムで、クルーグマンは「絶望した」と記している。

 本来なら、問題は、ガイトナー案とクルーグマンの批判の、金融についてのテクニカルな部分になるはずなのだが、同記事が指摘しているように、話題としてはオバマ政権をどう見るかになっている。
 このあたり簡単にばさばさと言ってしまうと、ブッシュ政権のときは、朝日新聞を筆頭に日本のジャーナリズムは大義なき戦争を進めた論外の武力行使の政権であり、しかも世界金融を崩壊させた張本人というくらいの安易な理解で論を張っていられたが、実際、希望の星、オバマ政権になって、ふと現状を見渡すと論はない。せめて過去を責めるくらいなことしかできない。米国でも似たようなことになっている。

 自分達の選んだ政府を基本的に信頼している国民は、クルーグマンの言葉に動揺せずにいられない。


 クルーグマンは、金融システムの腐敗度やオバマ政権の過ちを誇張しているかもしれない。だが彼の意見が、たとえその一部でも正しいとしたら? 銀行を国有化しなければならず金融システム再建のチャンスは失われ、アメリカ経済が総崩れになるのだとしたら?

 この雰囲気は、私は、一種のクルーグマン教とでもいうような、宗教的な雰囲気に高まってしまったように思える。あえてわかりやすく言えば、ブッシュがいたときはクルーグマンはリベラルだっただろうけど、現況ではオバマが妥当なリベラルであってクルーグマンの主張はなにか別のもの---たぶん社会主義---になっているような印象を持つ。同記事にもあるが、クルーグマンが例にあげるスウェーデンの例は米国のような大国には基本的に当てはまらないだろう。
 あえてこの「クルーグマン教」の文脈でいうなら、ガイトナー案は失敗する運命にあり、そして米国銀行はすべて国有化するしかないのだろうか。
 それ以前に、ガイトナー案はどう評価されるのかに戻らざるを得ない。
 話をサミュエルソンに戻すが、私が信奉する(まあ、若干それも宗教的な印象はあるだろうが)彼はこの事態をどう評価するか。結論から言えば、不可能ではないが、困難だろう、というくらいだ。"Maybe, though obstacles around"というのは、いろいろ困難もあって可能性は半分くらい、ということだろう。
 なぜそう言えるのか。サミュエルソンのコラムでは、ジャーナリズムならでのコラムニストとしてガイトナー案を簡単に説明したあと、それがうまく行く可能性を、イエール大ジョン・ジーナコプロス(John Geanakoplos)教授の"leverage cycles"に求めている。私の無理解かもしれないが、レバレッジにはサイクル変動があって、今が最悪ではないのに、ヘッジファンドのカネが枯渇したなら国家が肩代わりすることでうまく行く可能性はあるだろう、ということのようだ。つまり、ガイトナー案は、健全な経済に戻すべく、さあみんなでヘッジファンドをやろう、ということだ。
 問題はいろいろとある。やはり購入価格は決まらないというのが元になるようだが、サミュエルソンはさらに、これがうまくいったときの懸念を先取りしている。
 ガイトナー案が成功するということは、ある意味で国家のカネで一部の人が濡れ手で粟ということになる。そうなれば、国民感情が許さないだろうというのだ。まあ、AIG退職金の大騒ぎを見ているとそうかなとも思う。
 私としてはサミュエルソンは触れていないけど、アンクルサムのヘッジファンドって、一見、米国民の血税のように見えるけど、投資するのは実際には、日本、中国、オイルマネーということなのではないか。だから、中国がブーたれているのではないかと思う。まあ、日本には選択権はないけど、こうなってしまうと国富を移動しづらく頑張る勢力がいても不思議ではないなという感じはする。それに日本人は不況に慣れているし……。

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「経済」カテゴリの記事

コメント

サミュエルソンの「ヘッジファンド」という言葉の使い方は、サウンドバイトとしては良いですが、ミスリーディングという気もします。サミュエルソンは、レバレッジを使うのでヘッジファンドという言葉を使っているようですが、定義としては違うような気がします(レバレッジを一切使わないヘッジファンドも多数あります)。ヘッジファンドは当局の一定の規制の対象外にあるということが本質的にあるため、政治がヘッジファンドというのはやや違和感があります。外の方から見ると、皆同じに見えるのかもしれませんが、ヘッジファンド業界にいる者にとっては言葉使いに違和感がありますね。
因みに日本でも長銀破綻のときにある意味似たスキームでリップルウッド(こちらはプライベートエクイティ)が入り大もうけした経緯があります(日本政府の保証付きで)。確かに、後々は一般大衆に批判されましたが、今はほとんど誰も覚えていないですね。

投稿: | 2009.04.02 12:13

スリムな感じがします。何がって、文章が。
で、日本の経済も結局もっと窮境にならざるを得ないつことが分かってきました。
前記事に引用されている読売社説は、他人事のようになっていてますけど、こんなところで笑っちゃいけないけど、お粗末な理解力だと思いました。私も、ここに足を止めていなかったら、我事にはしなかったと思うので、目糞が鼻糞を笑ってもなって思いますが、でも可笑しい。
アメリカでアンクルサムのヘッジファンドがスタートしたら、日本の経済は、「慣れてる」程度で終わるのかと、さらに不安になります。それも一時期のこととしてじっとまた我慢していて、私達の寿命のあるうちに回復しますかしらね。
なんだか、浮かばれない感じがしてきます。

投稿: godmother | 2009.04.02 12:26

みんなあ、胴元の国が好きなだけ金貸してくれるから、みんなでFXやるべえ、って、こういう話ですか?

クルーグマンが正義の声なんですかね?

ばくちの参加者を増やすことよりも、利幅が大きくて、働けば働いただけになる生産性の高い新規需要産業を生み出す努力をすべきですよ。そういう新産業があってこそ従来産業も支援産業として健全に成長できるし、さまざまなサービス業もさらに高付加価値で労働給付の大きな産業に変化させられるんです。

今のところまだ無駄でもまたこの呪文を唱えよう。「超伝導、核融合、核化学」。

投稿: 洛書 | 2009.04.02 13:00

普通ならジタバタした所でこの決着は結局ドル基軸の終焉・米軍分解で終わるんじゃね?
軽業師が何度目かの大奇術成功で今回の危機を乗り越えてもさ、舞台に出ずっぱりでもうネタ切れなんじゃね?
クルーグマンのはいわば覇権喪失のソフトランディング狙いと思うし、ガイドナーのは、まぁサーカスだわな。
花形スターの綱渡り。堅実な人は選ばない。
クルーグマンも小国スウェーデンモデルがアメリカに適応できるとは実は思っていないと思うよ。

投稿: ト | 2009.04.02 21:35

>ガイトナー案が成功するということは、(中略)それに日本人は不況に慣れているし……。

 買い物したいが金が無い…だったら金持ってるヤツに寄越して貰えばいいじゃない? ってのは誰しも思うことでしょうけど、↑上記文脈を素で読むに、「モノを作るのは日本、手筈を整えて売るのも日本、買う金用意するのも日本、アフターサービスするのも日本、技術が劣化したら捨て値で償却するのも日本で、拾い集めたゴミをアーカイブ化して知の拠点化するのはアメリカ、次回ループ時にはアメリカ所有の知を用いるべし」ってことで宜しんでしょうね。美しいですね。

 都会が田舎から搾取するときの論法とあまり変わりませんし、田舎が都会を値切りに掛かる手法と、あまり変わりません。どっちもどっち。やられたらやり返す。それだけのことかと思いました。

 そういうの10年しないうちに直ぐ過当競争化して面倒くさいから、こっちの判断で勝手に峻別していい? って言ったら、「保護貿易は世界を滅ぼす」んだそうで。滅びるのは俺じゃなくてお前なんだけどな? って、誰か正直に言ってやればいいんじゃないですかね? 身の程弁えろよ? って。アメリカに。アメリカ以外の誰かに言っても、別にいいっちゃいいですけど。

 誰が言われるんですかね?

投稿: 野ぐそ | 2009.04.02 21:38

「保護貿易は世界を滅ぼす」って言っても、造船業はものすごく生産額が大きくなっていて、自由貿易だろうが保護貿易だろうが世界の通商量は激増しているわけです。

金融の話は即効性があるから、どうしても金融の話をしたくなるわけだけれど、たとえば、日本なら、早く東京新大阪間のリニア新幹線を開通させて、できれば、従来の新幹線を、旅客専用鉄道ではなく、東京新大阪間のダイヤに新たに生まれる余裕を利用して、高速貨物鉄道も併用する路線にする工夫をするとか、アメリカなら、大陸横断鉄道を、これを機会に複々線化する工事をして、旅客も貨物も輸送量を激増させるとか、そういうインフラの話をしてほしいものだと思っています。

案外、世界不況の大きな元凶は、あまりに強力なアメリカの自動車業界と日本の道路族で、鉄道輸送や、海運のためのインフラにもっと予算と人材を割けば、信じがたいほど見事に脱出の糸口を見出せるかもしれないのです。

投稿: enneagram | 2009.04.03 10:46

そもそもお金が足りないことが問題なのか?

今までよりお金がかからないことのほうが大問題なのでは?

これは、資本だけでなく労働も土地も同じ。

人を安くこき使えないのが問題なのではなくて、どんなに人を安くこき使っても儲からないのが本質的な問題だろうと思います。

土地にしても、大市場に近いことにどれだけ利点があるのか?固定資産税の高い(地価の高い)土地で商売して、どういう業種なら採算が取れるのか?日本を例にとれば、都心の一等地に店舗や事務所を構えるメリットは、経営者の虚栄心と同業横並び主義と惰性以外に何か意味があるのか?

さらに、原材料価格が商品に占める比率はどうなのか?モノそのものにどれだけ価値があるのか?

そんなことを考えると、従来の資本主義の前提があまり意味をなさなくなっていることが誰でもわかると思います。もちろんこういう議論をするのは私が初めてではありません。多くの人がこういう話をしてきました。

投稿: enneagram | 2009.04.03 13:04

 むかし、まだバブルが膨らんでいる最中にNTT株売り出しってのがありましたよね。あのときすでに株式市場に過熱感を持っている人もたくさんいましたが、まだまだイケイケな判断の人もいました。NTT株は入札され、高い価格をつけた人から順に割り当てられていきました。その後しばらくまだ上がったので、無事に売り抜けた人もいたでしょうし、すぐ売って悔しがってあとで苦笑した人、ずっと持ってて泣いた人、色々だったと思います。

 PPIFのPrivate Investorどうしが行う入札は、このNTT株の入札同様、その時点での判断に沿って買っても買わなくても同じになる(超過利潤ゼロ)ところまで不良債券価格を吊り上げると期待できます。Krugmanがブログで書いたように、政府がPPIFに出資することによって本来期待値100ドルのリスク資産がPrivate Investorに100ドルを超える期待リターンをあたえるでしょう。例えばそれが120ドルであるなら、他のPrivate Investorも120ドルまで不良債権をせり上げてくるはずです。結局それは100ドルしか生まないのだから、政府が平均20ドル損するわけで、それは不良債権を買ってもらった銀行のものになります。

 理屈ではガイトナー案はうまく行く(政府が20ドル損することによって銀行に120ドルのキャッシュを渡し、銀行がもう不良債権を持っていないと市場参加者が確信する。)はずですが、注意点がいくつかあります。ひとつは、気がついたらオ○ックスしか応札していなかった、などという事態を避けること。当然ですね。

 もうひとつは、「値上がりするのは値がさ株ばかり」みたいな問題をどうするかということ。PPIFのオファーは、「政府が100万ドル出すから誰か100万ドル出さないか」みたいな調子のものになるでしょう。PPIFに参加できるのは最初からお金のある人と、自分でリスクを負って借金した人だけ。ただ投資信託みたいに、PPIFへ投資するファンドを小口化する業者がいればいいようにも思いますし、だいたい株式市場ってそんなものでしょ。

 まだあります。「120ドルだとなぜ分かるのか」。じつはここが崩れると、Krugmanの批判そのものが崩れます。80ドルで落札になると、Private Investorが10ドル強とって、国庫に出資・融資額と10ドル弱が還り、銀行は80ドルのキャッシュでガマン。Private Investorに超過利潤が出るのはこのケースだけです。これを防ぐのはPrivate Investorの前向きな競争なわけですが、さてうまくいきますか。

 最優先事項は「銀行がもう不良債権を持っていないと市場参加者が確信する」こと。これがガイトナー案のポイントでしょうね。これが大事じゃないと判断するなら、案全体の意味がないでしょう。日本は不良債権を根絶する代わりに公的資金を入れて、自分でリスクを取らない国内預金者に低金利を押し付けて銀行に利ざやを食わせたんですよね。「銀行が投げ捨てた債権リスト」なんてのが入札のたびに出回ることになりますが、アメリカはそれに耐えられるのかしら。これが4番目の問題点かな。

投稿: hnami | 2009.04.03 16:19

PPIFとはなにかについては、預金保険機構がhttp://www.dic.go.jp/kenkyu/tyousakenkyuu/090326.html
レポートを出してくれているのでスキーム自体はわかります。
又、PPIFの概要について National Public RadioがQ&Aをまとめていますので、
http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=102250826
読めば大体のことはわかるでしょう。(例えばなぜ民間出資が必要なのか、説明してくれたのはここだけでした。)

投稿: F.Nakajima | 2009.04.03 22:40

理想論を書けば、ストレステストで全ての資産について時価評価し、債務超過の金融機関は破綻処理、それ以外には足りない分に公的資金投入した上で、不良資産を全て0円(もしくはアメリカ風に1ドルで)で国が強制買取の上で、競売にかけるというのが筋というものでしょう。

それやらないってのは、多分できないってことでしょ。大手銀行を破綻させた場合、B/Sを精査してみれば預金保護に必要な総金額が米国債の発行限界を遥かに超えてしまう可能性があるわけで、そんな状況下で処理を誤れば大恐慌でんがな。この件で民間資本が利益を出すのが正しいことだとは思いませんけど、この非常時にそんなことにかまってられるかとも言えるわけで。

お金の出し手については、一応ファンドってことにはなってますけど、そのファンドの勧進元ってのが・・・やっぱり某国の国家ファンドが相当出資することになるんでしょうね。

投稿: F.Nakajima | 2009.04.03 23:29

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やっぱり、ガイトナー案はアンクルサムのヘッジファンドだね http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2009/04/post-2990.html で、私は、これってようするに、民間のヘッジファンドがへたれたから、今度は米国国家がヘッジファンドをやりますよ、ということだと思... [続きを読む]

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