TIME誌の小沢記事を読んでみたけど
この時期にTIME誌が小沢に焦点を当てて記事を書いているというので、ネットから読めるものを読んでみた。最初に結論を言うと、たいしたことは書いてなかった。追記: 民主党のサイトに全訳「米「タイム」誌に掲載された小沢一郎代表の特集記事の全訳」(参照)が出た。
読売新聞記事「献金で秘書逮捕「大変驚いた」小沢氏、タイム表紙に登場」(参照)でも取り上げていたが、こんな感じ。
民主党の小沢代表が米誌「タイム」アジア版(3月23日号)の表紙に登場した。
公設秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕されて4日後の今月7日に同誌の取材に応じたもので、事件について「大変驚いた」と語り「政治資金収支報告書の処理上のミスのたぐい」と強調した。
海外メディアの取材に応じることで国内だけでなく海外に向けても自らの正当性をアピールしようという狙いがあるようだ。
正当性をアピールしようと狙っているとのことだが、そりゃこの時期だったら当然でしょくらいなものだし、おそらくTIME側は前もってスケジュールしていたらこいう時期になったくらいのものではないかなという印象をもった。というのは、識者の指摘が現下の問題におざなりにくらいしか触れていないようだったからだ。
表紙の小沢氏の写真に重なる見出しは「The Maverick」。異端者、一匹オオカミといった意味で、記事本文は4ページにわたり小沢氏の主張や現在の日本の政治状況の分析を報告している。
私はネットで読んだので、The Marverickの見出しは見なかったが、本文中ではたしかにそれがキーワードになっていた。が、これも結論からいうと、Marverickには小泉元総理も関連づけられているので、小沢をそのキーワードでうまく描いたということではない。
読売記事によるとTIME掲載の記事は4ページのみらしいので、ネットの記事と同じものではないかと思う。2本あった。一つはいわゆる記事で「Ozawa: The Man Who Wants to Save Japan」(参照)、標題を直訳すると「日本を救おうとする男、小沢」ということになる。なんだよその標題と普通の日本人なら思うが、本文はブログにありがちな釣りっぽい感じより、もうだめだめぴょーんの日本をどうするんだろう日本人は的なまたーり感はあったので、そういう視点をもっての記事とは言えるだろう。
もう一つは読売記事にもあるように小沢へのインタビュー「A Conversation with Ichiro Ozawa」(参照)で、べたに「小沢一郎との会話」ということ。
どうだったか。まずインタビューのほうだが、これがつまらない。もともと小沢という人はどういう境遇になっても同じことしか言わない人なんで、相手が外人だからってどう変わるということはまるでない。むしろ、小沢は相手が外人というあたりをわかってないんじゃないかなという印象をもった。小泉改革で格差が広がってしまっていけないみたいなことをすらっと対外的に言うあたり、ナイーブというかほかに秘書がいなかったのか、国際的な反応のわかるブレーンがいなかったのか、お粗末感があった。
小沢の応答はどうということはないので、インタビューのポイントは外人が何を彼にききたがっているかというほうにある。開口一番は、首相になる気あんの?だが、これに小沢はいつもどおり曖昧に答えている。インタビュアーの"I think that's a yes. "というのが笑いのツボを抑えてしまっている。
次なる外人の関心はというと、どういう日本のヴィジョンをもっているかということで、そこは普通きくだろうというくらいなもの。しかたないがつまらん。インタビュアーもわかっているというか苛立ち感が多少あるようで、次に、昔の主張である「普通の国」論は今の日本にも当てはまるかときいている。小沢の答えは当然といったもので、このあたりのやりとりは微妙に幻滅感をあえて滲ませているようだ。
たたみかけるように内需喚起はどうかときくのだが、小沢の答えはあまりの正論で面白みもない。内需というけど日本ではすでにGDP60%なのだから、社会の安心感があればよいといったものだ。対外的には、コイツ、ダメじゃんとしか響かないだろう。
米国、アフガニスタン、中国といった国際問題も同様に退屈な応答に終始している。もうちょっと意外な本音みたいのを出してもよさそうなものだが。
今回の秘書逮捕関連はインタビューの終盤で、これも特にどうという話はない。が、英語で読むと、小沢って潔白なんじゃないの的な雰囲気は滲む。"To my knowledge I am the only Diet member who disclosed all the information relating to political donations to that extent. " つまり、献金の会計を公開しているのは国会議員でオレだけじゃね、というのだ。すでに何度も聞かされた話、というかお話だが、英語の語感やや強い印象はある。というか、日本の他の代議士はそうもいかんのだろうという無意識的な伝達性はあるだろう。
インタビュアーの最後の決めの質問は、明治維新のように日本の改革期なのかというのだが、あほかいな、インタビュアーの力量なさすぎ。というか、記事に本腰が入ってない。
もう一本の「Ozawa: The Man Who Wants to Save Japan」だが、読者が、小沢って誰? 日本はどうなるの? といったゲロ基本的な説明の必要性があるせいか、背景や歴史の説明にかなり本文が割かれている。ので、つまらないのだが、が、と今思ったのだが、昨今のネットの様子をみていると、小沢がどういう来歴の人か分からず民主党だから批判している人とか、半可通今北産業的に角栄の息子みたいな人だから金権政治だろうで批判している人を見かけるので、意外と小沢という人の基礎知識は日本人でもなくなっているのかもしれない。ふとウィキペディアを覗くと(参照)、うわこれはないわというほどひどくはないけど雑多なメモみたいな印象はある。
平成デフレの終焉 沸騰する日本株 イェスパー・コール 2003年刊 |
1986年の来日後、京都大学経済研究所研究員、東京大学教養学部社会科学研究室研究員を経て、1989年S.G.ウォーバーグ証券会社日本経済担当チーフ・エコノミストに就任。1994年J.P.モルガン(東京)調査部長、1998年タイガー・マネージメントL.L.C.日本駐在事務所マネージングディレクターを歴任し、1999年8月にメリルリンチ入社。
一貫して日本経済の調査に携わり、日本版ビッグバンに向けた様々な問題を審議する通産省の産業金融小委員会をはじめ、各種政府諮問委員会のメンバー、財務省の「関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会」の専門委員等を歴任。1980年、レスター・B・ピアソン・カレッジ・オブ・ザ・パシフィック卒業。1986年ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)にて国際経済学修士(M.A.)を取得。
わかるようなわからんようなだけど、メリルリンチを辞めたときの”Merrill Lynch Japan economist Jesper Koll resigns”(参照)のほうが英語だけどわかりやすい。
A resident of Japan since 1986, Koll has worked as a member of a private sector analysis team under former Prime Minister Junichiro Koizumi and often appeared on local news programmes as a commentator on the world's second-biggest economy.Prior to joining Merrill in August 1999, where he also served as managing director, Koll worked for hedge fund Tiger Management LLC. Before that, he was chief economist at JPMorgan in Tokyo.
ヘッジファンド上がりで小泉のブレーンだった、と。まあ、そういうわけです。
Koll, a German national who speaks fluent Japanese, wrote of his resignation in a brief automated e-mail response, but he did not elaborate on his reasons for quitting.
メリルリンチを辞めた理由はなんだというのが2007年のニュースだけど、理由は……いやまあ……で、 fluent Japaneseのほうはこんな感じ(参照)。
というわけで、イェスパー・コールに小沢を評させてなんなんでしょ的なのだけど、その一言がこう。
"Typically recessions were good for the LDP," says Jesper Koll, president and CEO of Tantallon Research Japan, "but this time around it is sort of pathetic. The government has no credibility. Any policy that comes out now gets greeted not with just a yawn but with utter indifference."
過去の景気後退は自民党を利するものだったが、現下の日本の状況は痛ましく、政府は見放されているし、政策はまったく無視されているというのだが、それはそうか。
記事は後半でようやく小沢の現状況における政策評価となるのだが、明瞭なのはセイフティネット論くらいなもので他はよくわからん。いや言葉の上では明確なんだが、れいの第七艦隊だけでいいよんみたいな話は、英語にするとほとんどナンセンスに聞こえるものだ。Michael Greenにこう語らせている。
Green of the Center for Strategic and International Studies says Ozawa's "Captain Ahab – like quest" to destroy the LDP has at times led him to adopt an anti-U.S. tone, causing some collateral damage to the U.S.-Japan alliance. But every Japanese leader understands the reality of life. Should he become Prime Minister, Ozawa's determination to hold on to power, says Green, "will lead him to pursue a strong alliance with Washington."
いや、このあれですね、"But every Japanese leader understands the reality of life."という一言は、痛いところ突くじゃない、ナルトのカンチョーはやめとき、といったところでしょうね。しかし、しいていえば、小沢への恐れも若干はあるからの釘を刺す、と。
かくしてTIME記事もつまらんなと思っていたが、最後のほうで、おお、そう来たかカンチョーみたいなツッコミがコールから来る。
Koll says that "the real question is whether politics can be sexy again for the younger generation — something that you actually want to be involved with, not only because it affects your life but affects your future."
ああ、そうだなと思う。だからぁ、政治がセクシーじゃねーのよ、ってこと。若い人がそそられないようじゃ未来なんかねーの、ということ。
この先の記者の指摘が微妙と言えば微妙。
And that gets to the heart of it. The question is not simply whether someone who is as deeply steeped in Japanese political culture as Ozawa — who at times seems as motivated by replacing the LDP as he is by a clear analysis of where Japan should be headed — can be a sexy agent of change. It is whether Japan really wants to go through the wrenching transformation of its economy and society that the new century seems to demand.
日本経済これから黄金期へ イェスパー・コール 2001年刊 |
まあ、異境の国、日本を小馬鹿にして終わるというありがちなオチではあるけど、実際、日本人は変わろうとは思っていないでしょう。まして、小沢という選択は変化ではないのは、そりゃそうだ
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>実際、日本人は変わろうとは思っていないでしょう。
変わろうと思う思わない以前に、変われないんですよ。多分。一声掛けたら一朝一夕で変われるもんでもない。変革のための努力なんてのは桃栗3年柿8年で、じっくり取り組まなきゃ無理なんですけど、取り敢えず日銭稼がないと死ぬ層や短気で飽きっぽい層なんかはそんな悠長なこと言ってられるわけ無いから、変わる気なんか全く無い。
(昭和)元禄以降の「庶民」って、そんなもんじゃないですかね? 昔も今も変わらんですな。
それはそうと、最近ねこさん相手にプロレスごっこ。
布団敷いて、バックドロップ、チキンウィングフェイスロック、マウントポジションからのグーパンチ連打、腕ひしぎ逆十字固めなど、大技小技大連発。どっちがどっちに対して技を掛けてるのか紹介していきたいところですが、字数制限のお時間がやって参りましたので、また逢う日まで。ほなさいなら。400字。
投稿: 野ぐそ | 2009.03.16 19:54
今が明治維新みたいな時代なのかどうかは知りませんが、日本の戦後の路線の成功の最盛期は、きっと、中曽根内閣時代。それを過ぎたら、もう、路線大変更が必要な時代。路線大変更を、なんであれ、可能にしてくれたことは、国民一同、小泉元首相に感謝すべきだと思います。
中曽根内閣時代のころに、少し遅れたけれど、ソ連も崩壊したし、韓国もソウルオリンピックで、パク・チョンヒ大統領の開発独裁路線の経済的成功の証明ができました。だから、中曽根内閣以降の時代は、世界的な動乱期。
原因は、技術の進歩とか、先進国の少子高齢化の進行とか、経済のグローバル化とかいろいろなのだろうだけれど、資本主義と共産主義をともに成立させてきた産業主義(大規模製造業を株式会社により成立させることを中心とした国民国家の政府の一元統治を基本とするものの考え方)が有効に機能しなくなって、まだ出現しているとは言いがたい「知識社会」への移行が世界全体で起きていることによる、というのが、昔から警告を発していた人たちの意見です。
ゼネコンから多額の献金を受ける、というのは、ひどく産業主義的で、「知識社会」的ではないな、とは素朴な感想です。
投稿: enneagram | 2009.03.18 09:34
日本人が浸っているのは
a nostalgia for the good old days that had never been existed
じゃないかと思います
森巣博さんのパクリですが・・・
投稿: 健冒症 | 2009.03.18 12:06