« 簡単リエット | トップページ | [書評]「食糧危機」をあおってはいけない (川島博之) »

2009.03.28

簡単ガイトナー案

 たまには経済の話でも。何かな。と、ガイトナー案を考えながら思った。あ、ガイトナー案。
 ガイトナー案のガイトナーさんは、米国財務長官。80年代後半、駐日米大使館勤務していた。「ああ、あれか」と思う人がいたら、そうあれです。いや、私はたぶん会ったことない。
 それはさておき。ガイトナー案のことを書きそびれていたので、メモ。というか、これよくわからないので、つまりなんだかわからんなという話。なので、読んでも大したことじゃないです。だからぁ、ネットの言論はなぜ質が低いかって、こういう頭の悪ぃブロガーがいっぱいいるからですよ。
 さて、ガイトナー案って何? ということだが。現下の金融危機をどうすんの、と。巨大金融機関の財務表から住宅ローン関係の不良資産をどうしようか、と。そこで、これを解決、毒物一掃というのが今回のガイトナー案なのだが、どうも質の高い日本のマスコミ言論を読んでいてよくわからない。
 というか、この話、「バッドバンク」の話とされているようだ。それで間違いではないのかもしれないし、私がどうも基本的な誤解をしているのかもしれないが、気になる。
 読売新聞社説を読むとこんな感じ。26日付け「米バッドバンク 不良資産の買い取りを急げ」(参照)より。


 米国の金融機関が巨額の不良資産を抱えたままでは、金融危機はいつまでも終息しない。「負の連鎖」を早急に断ち切ることが重要だ。
 米国政府は、官民で不良資産を買い取る「バッドバンク」構想の詳細を発表した。

 「バッドバンク」構想として論じられている。

 対策のポイントは、政府が金融安定化法の公的資金枠から、最大1000億ドル(約9・6兆円)を拠出し、民間資金も取り込んで、最大1兆ドル(約96兆円)の買い取りを目指すことだ。

 公的資金と民間資金で「買い取りを目指す」というのだが、それが「バッドバンク」ということか。こう続く。

 官民で複数のファンドを設立し、住宅ローンなどの不良債権と証券化商品を買い取る。その価格は、民間の出資者間の競争入札などで決まる。
 民間投資家の損失が膨らまないように、政府は手厚く債務保証するなど、好条件の支援策も決めた。公的資金を呼び水に、幅広い民間の参加を促し、買い取りを加速する狙いといえよう。

 「バッドバンク」というより、ファンドとオークションに見えるのだが。というか、同社の別の解説記事「米、バッドバンク設立へ」(参照)だと、基金がバッドバンクだよと書いてある。ほれ。

 米メディアによると、米政府は23日にも、銀行から不良資産を買い取る官民共同の買い取り基金、いわゆる「バッドバンク」を複数設立することを発表するという。

 そうなのか。
 毎日新聞記事「エコナビ2009:米、バッドバンク詳細 金融安定化策が始動 公的資金増、見送り」(参照)も同じ。

米財務省は23日、米金融機関から不良資産を買い取る官民合同基金(バッドバンク)の詳細を発表、包括的な金融安定化策が実現に向けて動き出した。


 民間金融機関の不良債権や不良資産を政府が関与して処理する「バッドバンク」は過去に金融危機に陥った各国で設立された。破綻(はたん)金融機関から不良債権を買い取った90年前後の米整理信託公社(RTC)や問題銀行を国有化した90年代前半のスウェーデンはバッドバンクが機能した例といえるが、今回の米国は政府の判断だけでは不良債権や不良資産を買い進めることができないだけに、機能を十分発揮できるか疑問視する声もある。

 官民合同基金をバッドバンクと呼べるのだろうか。引用しないけど、産経新聞記事「米財務長官が不良資産買い取りの「バッドバンク」構想詳細を発表」(参照)もそう。
 読売社説に戻って。
 「公的資金を呼び水」のところが、ぶっちゃけ、レバレッジなんでしょうけど、これは後で触れる。読売社説はこう続く。

 しかし、この対策にも、課題が山積している。
 まず、不良資産買い取り実施へのスピードだ。来月中にも、実施する必要がある。
 資産の売り手となる金融機関が損失を嫌い、売却に二の足を踏むことも懸念される。民間投資家から、どれだけの出資を集められるかも不明だ。
 買い取りをうまく機能させるためには、制度設計をさらに詰めなければならない。
 景気悪化で不良資産が増えている。最大1兆ドルの買い取り規模でも不十分、との見方がある。追加的な公的資金が必要となるかもしれない。
 さらに不安要因として、公的支援で救済された米保険大手AIGの巨額賞与問題が、波紋を広げていることもある。米国では、AIGだけでなく、見過ごした政府に対して批判が高まっている。

 つまり、実施を急げ、が、まずある。次に、民間出資が集まるのか疑問、というのがある。それはそうか。
 制度設計にも問題があるらしい、が、説明はない。わかれよ、ということだろう。一兆ドルじゃ足りないというのもあるけど。AIG云々の話はわかりやすすぎるのでどうでもよし。
 この社説でわかるもんなんですかね。他、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞の各紙社説ではスルーしていたけど、大した問題ではないのか。
 日経では同日の社説「米不良資産買い取りへの期待と不安」(参照)で取り上げていた。「バッドバンク」というキーワードはない。

 米政府は今週、民間投資家と共同で基金をつくり、最大1兆ドル規模の不良資産を買い取ると発表した。金融機関は住宅関連のローンや証券化商品が不良化し、資本を棄損している。貸し渋りを通じて景気の悪化を加速しているため両者を取り除く。

 日経の社説のほうは普通に読んだら、バッドバンクというより、官民共同ファンド(PPIF)に読める。こっちが質の高い日本のマスコミ言論かもしれない。
 いずれにせよ、バランスシートを棄損している不良資産を除き、貸し渋りを減らそうということ。バブル以降にしょっぱい人生を歩んだ日本人ならよくわかる話ではあるが。
 仕組みはこう説明されている。

 第1に、買い取り価格に客観性を持たせようとした点だ。価格は枠組みに参加する投資家が入札などで決める。不良資産には公の価格がない。納税者の負担を抑えるために安く買いたい政府と、高く売りたい金融機関側とが折り合わない恐れがあるため、透明性を高めて双方が納税者や株主に説明しやすくした。
 第2に、投資家の参加を促すために、当局が融資や融資保証を基金に提供する点だ。投資家は少ない資金で大規模な投資ができ、資産が高く売れたときの利益率は大きくなる。凍り付いた民間マネーが動き出すきっかけとするねらいもある。

 今一つピンとこない。第一では、価格の客観性や透明性というより、オークションを通して価格を決める、市場に任せる、という仕組みではないかと思う。第二では、レバレッジを掛けるための資金をFRBが出しますよということだと理解しているのだが、ようするに手元の持ち金のない人でも、公的機関というか日本でいったら日銀がカネ貸すから、ちょっくらヘッジファンドやってみないかね、そこのお兄さん、みたいなことでは。っていうか、国家がヘッジファンドに加わるのかよ的なことなんじゃないか。
 当のガイトナー案だが、預金保険機構のサイトにある「米国の官民共同出資によるLegacy資産の買取りについて」(参照)が米財務省公表文に拠っているので正確といえば正確のようだ。

月23日に米財務省は、官民共同出資によるLegacy資産買取りプログラムを公表した。当該プログラムは、Legacy Loans ProgramとLegacy Securities Programの二つからなる。この二つのプログラムに対して、昨年10月施行の緊急経済安定化法TARPより750億ドル~1,000億ドルの拠出が見込まれており、5,000億ドルのlegacy assets の購入が可能と見込まれている。また、Legacy Loans Programにおけるファンドの資金調達に対しては、FDIC(連邦預金保険公社)の保証が付されることになった。

 「Legacy資産」って何?とか思うけど、ようするに不良資産のことのようだ。Newsweek”Man Up, Capitalists! - Will Geithner's Bank Rescue Plan Work?”(参照)だとこんな感じ。

The Treasury acknowledges that private investors will be subsidized to take on the ownership of what it's calling "legacy loans" and "legacy securities." (If these horrific securities are legacy loans, then the funeral industry should reclassify corpses as "legacy bodies.")

財務省は、民間投資家が「レガシーローン」と「レガシー証券」を呼ばれるものの購入助成を認めている。ところでもし、この恐るべき証券がレガシーローンだというなら、葬儀業界は遺体のことをレガシーボディーと分類しなおすべきだろう。


 ガイトナー案だが、これはPublic-Private Investment Programということで、PPIPと呼ばれているもので、Legacy Loans Program(LLP)とLegacy Securities Program(LSP)に分かれる。どちらも、PPIF(Public-Private Investment Fund)が使われることになるようだ。
 仕組みとしては、先のNewsweek記事でも次の事例が引用されている。

The Treasury cites as an example a loan valued by a bank at $100 that is sold for $84. In that instance, the private investor and the government would each put in $6, and the investor would borrow the other $72 from the government. If you're keeping score at home, it means the private investor would put in 7 percent of the cash but would receive a much higher percentage of the profits.

財務省では、銀行が100ドル貸し付けたローンが84ドルで売り出されている例を挙げている。これを買う場合、民間投資家と(TARP:緊急経済安定化法によって)政府が6ドルずつ出す。(これで12ドルだから、72ドル足りない)そして民間投資家のほうは、(返済責任なしの)72ドルを政府(FDIC:連邦預金保険公社)から借りる。民間投資家がこれを帳簿に載せて保有すると、(元手6ドルだから全体の)7%の現金投資となるけど、資産としては帳簿上はそれ以上の利益になる。


 自分なりの理解を補足をしたのだけど、いま一つわかりづらい。1兆ドルがTARPを指しているなら、このプログラムではFDICからよりカネが出せるということはないのか? 
 それと、買い取った資産だけど、実際には毒物だった場合、つまり、84ドルなんて価格は全然ねーよという場合、最終的には民間投資家が売却するわけだけど、FDICのカネは踏み倒せるからリスクがねーよという話なんだろう。
 そんなうまい話はねーよな、というか、元来は本来の意味でバッドバンク的に買い取るからそれでもいいのだろうけど。ちなみに、ファンド12ドルに対してFDICの72ドルは6倍のレバレッジだが、そこが限界らしい。
 ところでなんでこんなプログラムにするかというと、日経社説にあったように、価格に市場機能を働かせるためだろう。あと折半は所有権の問題で、見かけ上、国家にしないためだろう。
 うまくいくのか? 諸議論がありそうだ。別エントリを起こして触れるかもしれない。
 ところで話が込み入るが、これって「バッドバンク」なんだろうかの蒸し返し。
 3月14日のNewsweek”A Plan that Obama Can Bank On”(参照)で気になっていたのだった。こちらは日本版ニューズウィークに邦訳があるので、それを引用する。

2月に発表された金融安定化策は漠然としすぎていた。ティモシー・ガイトナー財務長官は近く新たな案を発表するという。その前に、考えられる選択肢を検討してみよう。
 今の銀行危機に取り組むうえで選択肢は四つある。うち二つはうまくいきそうにない。

 うまくいかない二つは、「市場に任せる」と「国有化する」。残りの二つだが。

 第三の選択肢は官民共同ファンド(PPIF)。公的資金を使って不良債権を買い取る「受け皿」になるため、米連邦預金保険公社(FDIC)のシーラ・ベアー総裁は「受け皿銀行」計画と呼ぶ。ガイトナーの話によると、最大1兆ドルの不良債権を買い取る。
 第四の選択肢は「グッドバンク・バッドバンク」構想だ。政府が不良資産買い取り専門銀行を設立して、銀行の不良資産を完全に切り離す。この案はベン・バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長が大筋で支持している。
 バッドバンクという名前は縁起が悪いので、「暫定銀行」プランあるいはホームズ案と呼びたい。

 ということで、その後蓋をあけたガイトナー案だが、第三案PPIFを含むものなので、第四案のバッドバンクとは違うのではないか、と。それとも、第四案のホームズ案もPPIPに含まれているのか。
 第三案でも広義にバッドバンクと言えるのかもしれないが、フィナンシャルタイムズ”Double or quits in Washington”(参照)も、ワシントンポスト”Mr. Geithner's Plan”(参照)も、ニューヨークタイムズ”The Bank Rescue”(参照)も、「バッドバンク」はキーワードにはなってないようだが。むしろ、 エコノミスト”Second time lucky - Fixing America's banks”(参照)ではむしろこう述べている。

He rejected both the standard “bad bank” model, in which the government takes on rotten assets, and takes over the banks most riddled with them; and the asset-insurance approach favoured by Britain, in which the state takes on the risk of a credit portfolio for a fee.

 とはいえ、FOXニュース"'Bad Bank' Buying Binge: Dow Soars 497"(参照)などでは「バッドバンク」と言っているからそれはそれでいいのかもしれないが。

|

« 簡単リエット | トップページ | [書評]「食糧危機」をあおってはいけない (川島博之) »

「経済」カテゴリの記事

コメント

 駄目。弁当翁さんのエントリーをつらつら読んだ時点で、素人考えで「それじゃ駄目でしょ?」って思っちゃうレベルなんだから、実際に運用したら常識を超越したアホ事例が山積して日テレの世界びっくりナントカみたいな番組がネタ拾って笑い物にするだけですよ。

 アメリカ人の馬鹿指数を舐めちゃいけない。そして民放スタッフの驚異の情報収集力を舐めちゃいけない。ホント、馬鹿は果てしないよなぁ。

 んで、日本が予算組む組まないで文句言ってみたり、天下の愚策であるところの給付金にしても「足りない、ケチ臭い、もっと撒け」なんて言ってる貧乏人が居るけど、そんなん言うてる時点で金に困って無いし貧乏でも無いだろう? っていう。世間並みに普通か、それより上だろう? みたいな。そんでそのくせ根性だけは一丁前に貧乏人気取りなんだよね。タカリみたいなこと言い出す「別の意味の馬鹿」が幅を利かせるだけですよ。

 昨今、派遣切りに遭って困ってる、みたいなこと言ってる絵がテレビで出てたりしますけど、部屋ん中見たら平気な顔してコンビニ食材やペットボトルが転がってるんですよね。せめてご飯くらい炊け、とか。飲み物は麦茶(スーパー行ったら52パック198円で売ってるっつーの)沸かして凌ぐとか。節約のしようなんざナンボでもあるでしょに? ってのが節約しないで無駄な贅沢して、資金が回らなくなったらハイ万歳とか、「じゃあ死ねば?」って話です。ホームレスやってまで生きてるの見てると腹が立ってしょうがないんですけど。
 金払ってまで助けなきゃならない人は、そういう連中とは「ハッキリ別」でさ。↑のような手合いに回す金じゃない、ってことを言わなきゃ駄目ですよ。自殺なんつうのは、そういう連中がさっさとやれって話です。

 私なんて、いっそのこと向こう3年くらいマジで経済対策しないで完全に放っといて、体力ない側からガンガン飛ぶか死ぬかして貰って綺麗?に浄化した方がナンボかマシだと思ってますよ。ボーナスや小遣いが減った減らないで四の五の言うてる連中が「生活が苦しいんです」なんか、ちゃんちゃら可笑しいですわ。

投稿: 野ぐそ | 2009.03.28 23:46

こういう話が出てくるっていうのは、案外、アメリカの裁判所っていうのは、健全に機能していないってことなのか?

供託金さえ用意されていれば、どんどん、裁判所が保全命令や執行命令を出せば済むのでは?と思うのだけれど、そうするにはそうするでまた新たな立法が必要で、議会が紛糾するとか?

カタギに泣いてもらうロジックとレトリックを用意する人材は、アメリカにも用を足すには事欠かないということなのか?

金持ちにももっと課税しろ!という声は、共和党が野党になってもアメリカでは圧殺されるのか?

とはいっても、あんまりアメリカが野蛮人の集まりの国みたいな誤解を受ける言説を吐く連中がアメリカ以外にたくさんいるのもまずいのだろうな。

投稿: enneagram | 2009.03.29 08:05

>カタギに泣いてもらうロジックとレトリックを用意する人材は、アメリカにも用を足すには事欠かないということなのか?

いや、執行機関は真面目に職務に取り組んでいますよ。

問題なのは、米国の住宅ローンはノンリコースローンといって、債権が借金している人の全財産にかかるにかかるのではなく、住宅にしか抵当権が及ばないのです。

つまり、支払いが滞ったときに、差し押さえできるのは対象になっている家屋だけ。債務者の他の財産を差し押さえることはできません。これは、住宅価格は上昇するものというのが前提のシステムですから、下がればこうなるのは必然。

投稿: F.Nakajima | 2009.03.29 20:58

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 簡単ガイトナー案:

« 簡単リエット | トップページ | [書評]「食糧危機」をあおってはいけない (川島博之) »