[書評]マーケティングとPRの実践ネット戦略(デビッド・マーマン・スコット)
「マーケティングとPRの実践ネット戦略(デビッド・マーマン・スコット)」(参照)は、2007年6月に出版された「The New Rules of Marketing and PR: How to Use News Releases, Blogs, Podcasting, Viral Marketing and Online Media to Reach Buyers Directly(David Meerman Scott)」(参照)の翻訳で、米国アマゾンでの読者評(参照)を見ても伺えるように、マーケティング部門で高い評価を得ているようだ。
![]() マーケティングと PRの実践ネット戦略 デビッド・マーマン・スコット |
反面、私のように結果としてブログの世界に浸かっている人間からしてみると、本書で描かれている内容はある意味でごく普通な見解であって特段新規なノウハウはないようにも思える。が、そうではない。「こんな内容は当たり前だ」と評するいう人がいたら、「ではなぜオリジナル及び邦訳書において著者名にミドルネームが入っているのですか」と質問してみるとよいだろう。答えは本書にまさに新ルールの視点で書かれているが、こうしたディテールを読み落として、こんな内容を知っているというのではなさけないことだ。
また、社員ブログについて提唱される、次のような視点はいまだ日本では新ルールとしては認識されていないだろう。
ただ、私の考えでは、企業はブログなど新しい媒体についてだけでなく、あらゆるコミュニケーション(口頭、メール、チャットなどを含む)について方針を定めておくべきだ。どんな手段についても、セクハラや中傷、機密情報の漏洩などについて方針を決めておくことは可能だし、そうすべきだと強く思う。
その上で以下は重要な新ルールだろう。
方針が決まれば、それ以上は社員のブログに余計な制約をかけるべきではない。ブログのルールをどう定めるかは企業次第だが、社内ブロガーにしてみれば広報部門や弁護士が自分の記事を検閲するのはうれしくないはずだ。検閲が行われるようなことがあれば、せっかく書いた記事が世に出る前に、記事に込められた情熱が失われ、もったいぶったマーケティング文句に書き換えられてしまう可能性もある。
この新ルールの背景には、従来のメディアで使い回されたマーケティング文句よりも、個人が発する情熱の力を正確に評価するというスコットのいわば哲学がある。つまり、ブログなど新しいメディアの読者は、この情熱を正確に読み取るという前提の認識があるわけだ。この認識こそ本書を類書を区別する、現場の新しい動向の感覚を伝えている。その上で、各種の新ルールが提唱される。
本書自体の欠点ではないのだが、オリジナル出版時点から邦訳書が出版された現時点の状況変化と、日米間の差異については留保する部分がある。もちろんこの点は翻訳者にも意識されていて「訳者あとがき」でその要点は指摘されているものの、さらに踏み込んだ解説を附帯してもよかっただろう。
そう期待してしまうのは、この邦訳書が出版されるに至る経緯に、日本のWebマーケティングの先端にいる人の大きな関わりが見えるからだ。加えて、ややプライバシーに関わる話になるがすでにご本人が公開されているので言及してもよいかと思うが、スコット氏の奥さんは、直木賞候補作ともなった「ノーティアーズ」(参照)の著者渡辺由佳里氏であり、ご夫婦のプロフェッションの分野は異なるとはいえ、スコット氏は日本により深く関われる有利なポジションにいる。その点をより強く活かされてもよいだろうと期待するが……それは少し踏み込んだ期待になるかもしれないが。
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コメント
私も自宅に光回線導入して5年目になりますけど、いろいろ見てるかぎり、いつまで経っても「ドブ板の下は相当汚い」のが現実だと感じましたね。
10数年前出版社でバイトしてた頃に「インターネットって凄いね?」みたいなことを言ってたら、当時の契約社員さんに「あそこは使い物にならない半端者が行くところだから相手にすんな」って言われたこともあり、その点に関しては、今も変わってないなぁって感じです。
あと、2ちゃんねるやそういう界隈出身者のやり口が、まだ生きているというか。最近絶賛拝見中の「たけくまメモ」にて遭遇しましたけど、自作自演や名無しさんや偽名で悪口を書いたり人の使用名を盗んで使ったり、それに対して意見をしたら「自意識過剰・病気・薬でもやってるの?・そういう連中は2ちゃんねるによく居る・スルー(無視)しましょう」みたいな意見を出して、まるでそういう世界と繋がりが有るかのように印象付ける。IPを調べればどこの誰がどこから書いたかくらい分かりそうなものですけど、余りに大掛かりな事件にでも発展しない限り誰が書いたかなんか一々調べるのも野暮ですから、結局「何もしていないのと一緒」になる。強姦と同じく親告罪だから、被害に遭っても言わなきゃ「罪は存在しないのと一緒」で、抜け道や対処法を知っていれば何でもやり放題な半面、知らなければ印象工作されてどうとでも悪く書かれる。
そういう手口を、営業活動や自己防衛のためにトコトン使ってくるような連中が、まだたくさん居るわけで。今あるマーケティングとか実践型PRとか、そういう業態の中にフツーに居るわけで。それは(ネット以外の)一般社会の実情とは甚だしく乖離してるわけでね。頼まれもしないのに勝手に営業活動してる興信所か探偵屋みたいなもんですよ。
薬局で買える通り一遍の薬売っても直ぐ効かないからシャブ売っちゃおうっていう、そういう発想ですよ。だからバブル的にバーっと売上や市場規模が増すんです。
そういう連中の中でたまたま目立つか偉いかするようなのが、切込隊長だったり他IT長者だったりするんでしょ。そりゃまあ、世間一般の常識から言えば、そういう連中はヤクザかチンピラかオレオレ詐欺か、そういう筋目の人間と大差ないですよ。で、そういう人間が威を張るのがネットだとするなら、将来に対する期待や可能性はあるかもしれんけど、破綻や破滅の確率も同じくらいに高くない? ってのは、ありますね。
最近だと、極東ブログさんにも、別名を使って書き込みに来てるでしょ。2月に入って2回ほど「余丁町散人ブログ」に寄稿しましたけど、そしたら昨日か今日あたりになって、名無しの荒らしが乱入していた。言葉遣いとか使用単語とかそのへん見たら誰が書いたか直ぐ分かるし、敢えてそういう匂いを残そうとしているとしか思えないような書き方にも思えてくる。
妙なところで善人ぶったり弱者に優しそうなこと言ってますけど、あんなの全然信用できません。普段の行いからして卑劣極まりないですしね。今まで言わずに黙ってましたけど、今年からは遠慮なく手法を否定させて頂きますんで。是非宜しく、って感じです。
その上で、弁当翁さんにて「そんなんうちには関係無いからよそでやれ」と仰るようでしたら、書きません。そのように致します。対処のほど、宜しくお願い致します。
投稿: 野ぐそ | 2009.02.17 17:25
経営学の論文というと、故ピーター・ドラッカークレアモント大学大学院教授の1986年出版の論文集、「マネジメント・フロンティア」所収、第34章「IBMのワトソン-明日のビジョンを描く-」がきわめて優れています。どこの公立図書館の書庫にも「マネジメント・フロンティア」はあると思いますので、関心のある人は図書館で検索してさがしてぜひ読んでほしいと思います。
社会人人生で、挫折や蹉跌のない人は珍しいと思いますが、不屈で、自尊心が強く、高潔な魂の持ち主のトーマス・ワトソン・シニアの生涯に魂を揺さぶられない人は皆無だと思われます。
すべての情報産業の父であるトーマス・ワトソン・シニアが先達であってくれたからこそ、Windows95もiモードもグーグルも極東ブログも可能であったのです。21世紀に生を受けた世界中のすべての子供たちの中に、トーマス・ワトソン・シニアの恩恵を受けていないものは一人もいません。
IBMのコンピュータがメモリとプログラミング能力を兼備していたからこそ、コンピュータは電卓のお化けではなく情報ツールとなって情報産業を生み出し、インターネット・マーケティングの戦略を考えることも可能となったわけです。
原点を創出してくれた、IBMのトーマス・ワトソン・シニアの人物を知ることもそれほど無意味ではないと思われます。
投稿: enneagram | 2009.02.19 14:03
「野ぐそ」さんのこのコメントを読ませていただくと、私も、極東ブログと秋山昌広先生のブログ以外では、コメントを入れないほうがよいのかもしれませんね。ハンドルネームを固定してしまったから。
まあ、"enneagram"とか「洛書」とか、どちらもアカデミックには非常にいかがわしいものだから、どこかの誰かにイメージダウンになるような情報操作されても、自分自身では自業自得だと思っていますけれど。
それでも、中島みゆき評論らしきことをずいぶんしてしまったし、私にはまったく無縁だけれど、はっぴいえんどの鈴木茂さんも大麻で逮捕されてしまったしで、これ以上、中島さんやヤマハさんや関係者の方々にひどく迷惑をかけないためには、まともなブログである極東ブログと秋山先生のブログ以外での活動は、よほどでない限り控えたほうが無難なように思いました。
「野ぐそ」さんには日本のインターネット業界の近況を教示していただき、まことにありがとうございました。
投稿: enneagram | 2009.02.19 14:17
前のコメントで、秋山先生のお名前を、「昌広」と記載しましたが、ただしくは、秋山昌廣先生です。訂正いたします。
投稿: enneagram | 2009.02.22 11:00
記事拝見させて頂きました
我が社も今後に生かしていきたいと考えております
お互い頑張っていきましょう。
投稿: インターネットマーケティング戦略 | 2009.11.07 12:46