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2009.02.26

PKO(株価維持政策)より大切なことがあるよとフィナンシャルタイムズは言う

 私のようなものが考えても詮無いことなのだが、どうなるんだろうかね、日本経済。
 と、先日のフィナンシャルタイムズ”Japan still needs a government”(参照)を読んで思った。標題は、「この期に及んでも日本には政府が必要だ」ということで、要するに目下の日本の経済的な無政府状態を嘆くわけだが、が、というのは、経済政策を打ち出すことができる政府が日本にあれば、どうにかなるものなのか、私にはわからない。
 目下の日本経済の問題は株価の暴落で、ようするにまた銀行危機になりそうだ。24日ロイター”大手銀に自己資本危機リスク、日経平均7000円割れ目前で”(参照)より。


日経平均が7000円割れ目前まで下落する中、大手銀行グループの自己資本危機が再燃しかねない情勢となってきた。株安で保有株式の評価損が膨らみ、自己資本をき損して国際的に健全とされる自己資本比率10%を割り込む危険性が浮上している。


 08年12月末時点の連結自己資本比率は、三菱UFJが10.72%(Tier1比率は7.51%)、みずほFGが11.28%(同7.29%)、三井住友フィナンシャルグループ(8316.T: 株価, ニュース, レポート)が10.32%(同7.68%)。各グループとも国際的に健全とされる自己資本比率10%を上回った。

 当然これでは貸出抑制ということになり、あっちっち。
 なので、「暴論」が出てくる。

このまま株価の下落が進めば、大手銀行に対する公的資金注入も暴論ではなくなってくる」との指摘も出ている。

 「暴論」なのか? まあ、暴論か。よくわからない。
 その手前で株価下落を防げということにはなる。同日毎日新聞”株安:政府・与党が株価下支え策検討 直接買い上げが焦点”(参照)では、標題どおり株価維持政策(PKO)が取りざたされる。

 24日の東京株式市場で日経平均株価が一時、約26年ぶりの安値を付けたことを受け、政府・与党は株価下支え策の検討に入った。政府・日銀はすでに金融安定化策の一環で、銀行保有株の買い取り策を打ち出しているが、新たな対策の検討では公的資金などで市場から直接株式を買い上げる措置の是非が焦点だ。ただ、過去の事例を見ると株安に歯止めが掛からず、市場をゆがめただけに終わったケースも多い。


 そこで与党を中心に浮上しているのが、日銀や取得機構を活用したり、官民が共同でファンドを作るなどして市場から直接、数十兆円規模で株を買い上げる案だ。これなら「外国人投資家などの売り圧力を吸収し、株価維持が図れる」(自民党幹部)との算段だ。
 しかし、株価維持策(PKO)はバブル崩壊以降の株価急落時に、政府・与党が郵便貯金・簡易保険、年金資金なども活用しながら何度も試みたものの、いずれも失敗に終わり、「愚策」のレッテルをはられた。

 PKOは愚作なんだろうか。確かに過去の経緯をみるとそうとも思えるが。
 ちなみに23日の時点で、日本経団連の御手洗冨士夫会長は25兆円の予算を求めている。ブルームバーグ”経団連会長:株価維持に買い取り機構新設を-公的資金の活用で”(参照)より。

日本経団連の御手洗冨士夫会長は 23日の定例記者会見で、最近の株価低迷が金融システムなどに与える 影響に懸念を示し、公的資金によって株価を買い支える新たな機構設立 を政府に訴えた。また景気対策として2009年度に25兆円規模の補正 予算を組むよう求めた。


 御手洗氏は、買い取り機構が必要な理由について、年度末を控え資 金繰りに苦労している会社が多く、株価低迷で自己資本規制に抵触する 可能性がある金融機関が「どうしても貸し渋る状況」にあることを挙げ た。日銀による社債やCP(コマーシャルペーパー)買い取りだけでな く、株式買い取りを通じた資金繰り支援策が必要だと強調した。

 その効果は実際にはどのくらいで、そしてそれは可能なのだろうか。できもしないことを考えても無意味だしなとなんとなく私は思っていた。
 が、冒頭のフィナンシャルタイムズ社説ではこれを否定してみせていた。

Falls in the stock market are now causing problems in the banking sector, but a proposal by an industrial umbrella association to prop up share prices is misguided.

株価低迷は銀行に大きな問題を起こしたとはいえ、日本経団連による株価維持提言は方向性が間違っている。


 フィナンシャルタイムズはPKOを否定している。銀行の増資という提案に加えてこう書いている。

One proposed response is to start “price-keeping operations” – spending 25,000bn yen of public money to prop up the stock market. This is an old staple for Japanese policymakers, and a smaller plan has already been put forward by the government but – predictably – is being held up in the Diet. Either version would be expensive and the breathing space it would buy for banks would only be temporary.

25兆円の公的資金を株価維持に費やす株価維持策(PKO)の開始も提案されている。日本の政策立案者による古くからの対応だし、すでに小規模案はすでに政府が実施しているものの、予想通り、国会でちゅうぶらりんの状態である。どちらの施策でもカネがかかり、銀行が一息付けるのは一時的なものに終わるだろう。


 ではどうしたらよいか。結論からいうと抽象論になっている。というか、毎度の議論だ。

The Japanese should, instead, focus on rebalancing their economy.
日本はそうではなく経済のバランス正常化に取り組むべきだ。

In addition to a real fiscal stimulus to jolt its citizens to spend, the government needs to stop Japanese companies retaining unproductive cash.
日本の庶民がカネをもっと使えるように財政的に刺激することに加え、日本政府は企業が再投資されない内部留保を押し止めなくてはならない。


 まいどの、老人はカネを使え、なのだが、これに企業の内部留保ヤメレが加わるのだから、考えようによっては、ここで一気に賃上げしろ、と取れないこともない。

If Japan needs to recapitalise its banks, it should do so directly – not by supporting the stock market.
日本政府が国内銀行に資本投入をする必要があるなら、株価維持政策ではなく、直接投入すべきだ。

The virtues of these policies, however, remain academic when the Aso administration is so weak. It is time for an election. There is little point to paralysed governments.
銀行への直接資本投入の効果は、麻生政権がかくも弱体では机上の空論にすぎない。かくなるうえは、選挙の時期なのである。麻痺した政府の存在には意味はない。


 いや、ちょっと試訳しながら考えこんだな。当初、フィナンシャルタイムズの社説を読んだおりは、あははまたこれかと思っていたのだが。
 私としては、麻生政権を潰しても自民党に代わりがあるわけではないし(小池が出てきたら応援するとは思うが)、民主党の経済政策って皆目わからない。未知なものに賭けるといっても、まっさらに賭けるのは無謀過ぎると思っていた。
 ただ、あれかな、意外とここで春闘とかで労働団体が頑張って正規雇用のみなさんとかだけでも賃上げしたほうがよいのかもしれないなとも思う。

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「経済」カテゴリの記事

コメント

どうしても聞いていただきたいことがありコメントさせていただきました。

私は高速道路をよく使うのですが、とにかく料金が高いということです。
高速道路が無料になったらどんなに楽かと考えました。
私は大阪在住で環状線という東京で言うところの首都高速を使用しますが、
毎回700円というのは非常に不便です。
私は自動車を使用した営業活動を行っているのですが、毎回環状線を使用しないと
いけません。すると相当量の負担になってしまいます。
そのことに疑問を覚え、なぜ高速道路の料金が高いのか調べました。
すると、怒りが湧き起こりました。何でやねん・・・おかしいやんって思いました。
僕たちは、毎日汗水たらして、時には深夜まで働き、そしてきちんと国のため納税をしています。高速道路は国民の血税で設備・運営されています。僕たちはきちんと払っているんです。義務は果たしています。なぜその上に、さらに通行料を払わないといけないのかと思います。それって2重取りちゃうん?と思います。
それがさらなる高速道路の設備充実に使われるなら多少は浮かばれる気がしますが、結局は、そのお金を民間会社に管理させて、株式上場させたりしています。各種官僚の天下り先です。実に悔しくて仕方ない。
 そのことについて私はとても疑問に思い勉強してきました。すると、偶然見たYOUTUBEの動画に感動しました。ぜひこの動画を見て欲しいと思いました。命がけのこの姿に感動しました。

 http://www.youtube.com/watch?v=SVDAJeRACkY


投稿: 浪花の感情線ドライバー | 2009.02.27 10:21

とにかくバブルがモンダイ。
このたびの、株価は、アメリカでも日本でも、ヨーロッパでも下がっているし、いわゆる恐慌というより、集団的な調整のような気がする。

日本のバブルはひどくて、農民がバブル資本に吸収されて、食料自給率が最低の水準になっている。
海外との価格差も、目が潤んでくるほどにひどい。

非常に不安定。

投稿: k | 2009.02.28 03:38

銀行ではなくて、年金基金の現状ってどうなんですかね。

株価に影響を受けるのは、銀行よりもむしろ年金基金だと思うんです。

finalvent先生は、「どうなるんだろうかね、日本経済」とおっしゃいますが、わたしは、円高な間はなんとか大丈夫だろうと思っています。これが、円が大暴落して、1ドル=200円台なんかになると、韓国みたいにどういう手を打ったらよいのかわからなくなってしまうだろうと思います。

旧勢力に破局的なことがおきないと、資金も人材も新しい分野に動かないので、現状は、新秩序誕生の前の無秩序状態の出現くらいに考えてよいのではないでしょうか。

正直、わたしは、世の中の人々を不必要なほど不安がらせる話をするのは好きではありません。もちろん、「日本絶対、日本安心、日本万歳」の一部のノーテンキ保守言論人エコノミストたちにも同調しませんが。

投稿: enneagram | 2009.02.28 08:40

宣伝ご苦労さん。
>私は大阪在住で環状線という東京で言うところの首都高速を使用しますが、毎回700円というのは非常に不便です。私は自動車を使用した営業活動を行っているのですが、毎回環状線を使用しないといけません。すると相当量の負担になってしまいます。

大阪在住者はここを読んだだけで「あほかい」で終わりでんがな。
この部分をな、「阪神高速を毎回使用しなければなりません」と書いたなら本当らしく聞こえるんだが、「環状線」って何やねん。大阪の人間はそんなあほらしい金の使い方はせんよ。
人様のコメント覧を使わせてもらうんだっららもうちょっとおもろいネタを書かんかい。

投稿: F.Nakajima | 2009.02.28 11:38

今日の午前、パチンコ屋さんのまえに、いつもどおり、長い行列ができてました。

まだまだ日本余裕ですよ。大丈夫、大丈夫。多くの庶民はいつもどおりの生活をしています。

投稿: enneagram | 2009.02.28 13:18

「どうなるんだろうかね」というと日本の政治もそう思います。

自民党の内部で方々で対立が起きているし、国民新党が民主党と対立しているし。

どんなギクシャクしていても、機構が存在して、なんらか機能しているから、世の中、回るところが回るんで、一番てっぺんが完全に機能不全になってしまったら、何一つ肝心な意思決定をできなくなるのだけれど、そういうことを皆さん考えにいれてわかっている上で行動されているのかと思います。

でも、一番よくないのは無思慮な政治不信で、みんなが選挙で棄権してしまうことです。多くの人が棄権すれば、圧力団体の後押しを受けた人が批判票なしで容易に当選できてしまうわけで、事態はますます悪いほうに転がる。

私はあまり訳がわかっていないのに、安易に誰かの悪口を言うのは好きではないし、できる限り控えているのだけれど、福岡3区選出の太田誠一元農林水産大臣については、次の選挙で、選挙区の人たちには彼を落選させてほしいと思っています。太田氏に考えがあって農水大臣を辞任しないのかと思うとそういうわけではないようだったし、自分が腹を切って大臣をやめることで事務次官の首を取るのではなくて、事務次官が辞任するから大臣も仕方なく辞任するなんていうのは、政治家の責任の取り方ではありません。ほかの政治家のことはひどい罵倒をするのにはひどく注意しなければいけないと思うのだけれど、こと太田元農水大臣のことだけは遠慮する必要はないだろうなと思っています。

投稿: enneagram | 2009.03.01 09:53

経済活動を年々の生産・消費・投資支出(フロー)と過去の蓄積運用(ストック)に分けると、ここ20年ほどの流れはストックの暴走・肥大化が一気に崩壊し、なお収縮が止まらない「ストックひとり芝居」状態。それがもたらす負の資産効果(ビンボになったので消費を減らす、消費が減るから投資支出も減らす)がフローのバランスを一気に需要不足に振りました。

とにかくフローの辻褄(需給ギャップ)を合わせれば、残ったストックの収益性も改善し、ストック価格(株価など)も落ち着くはず。ストック市場の需給に影響を与えるためには、フローの場合よりも多くの金がかかるでしょう。PKOに回すお金があるなら財政支出など確実に消費か投資に回せ、とFTが言うことには一理あります。

アメリカとイギリスは明確に財政支出を公約して一部実行に移していますが、目に見える効果が出ているとは言いがたい状況。日本も手を貸せ、ということ。共倒れの危険はありますが、見殺しにした場合の政治的失点は計り知れません。今の政府がアレなら新しい政府を選べと。参議院のことをわかってなさげですが。

いっぽう株価低迷と融資収縮は、健全な企業の資金繰りまで破壊してしまいます。PKOはまず何よりも日本企業の現経営陣を利します。いっぽう今は1980年代以前とは違い、日本が支出を増やせば完成品輸入が増えて世界中に仕事がばら撒かれます。そういったポジションの差異も考えて読むところでしょうね。

円安と日本株安が並行しているということは、いや急激な円安の原因はよく分かりませんが、海外投資家がいよいよ追い詰められて円資産まで手放し本国の赤字を埋めているとも取れます。円安で向かい風が弱まったところなのだから、日本企業の資金繰りをこそ改善すれば日本に雇用機会が出来る、とも考えられます。実際、自動車産業などの直接救済に米英が乗り出していることについて、日本もトヨタや日産の雇用維持に向けて何かをすべきかどうか、FT紙は触れていません。

おそらくフロー刺激とバッドバンク的ストック緊急救済の両方をやるべきなのです。米英は両方やってるんですから。

投稿: hnami | 2009.03.05 15:44

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