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2009.01.25

英国大衆紙サンから報道された黒死病とテロの噂

 英国の大衆紙サンに掲載されていた話なので、日本で言ったら日刊ゲンダイとかのネタと同じかなとも思うが、その後の流れを見ているとそのまま消えていくわけでもなく、どうも奇妙な引っかかりがあるので、ざっと触れておこう。
 話は”Al-Qaeda terrorists killed by Black Death after the killer bug also known as the plague sweeps through a training camp”(参照)、つまり、黒死病によってアルカイダのメンバーがその訓練基地で死去していた、ということ。含みとしては、アルカイダが、黒死病の菌を使ったテロを狙っているうちに自らがその被害にあったらしいということだ。死者は40人ほど。
 基地についてはディテールがある。


The al-Qaeda epidemic began in the cave hideouts of AQLIM in Tizi Ouzou province, 150km east of the capital Algiers.

アルカイダ感染は、ティジウズー県(首都アルジェの150km東)で、AQLIMの洞穴隠れ家から始まった。


 アルジェでそしてペストというと、カミュの「ペスト」(参照)をつい連想してしまう。なので、逆にどういうことなんだろうと心にひかっかる。
 このネタだが、一応高級紙であるテレグラフのほうでも引用されていた。たとえば”Black Death 'kills al-Qaeda operatives in Algeria' ”(参照)がある。また、”Al-Qaeda cell killed by Black Death 'was developing biological weapons'”(参照)では、生物兵器の線を出していた。

It was initially believed that they could have caught the disease through fleas on rats attracted by poor living conditions in their forest hideout.
(当初は隠れ家の森の劣悪な環境で鼠の蚤から感染したかもしれないとも見られていた。)

But there are now claims the cell was developing the disease as a weapon to use against western cities.
(しかし、西洋都市で兵器として菌が培養されていたと言われている。)


 大衆紙サンから始まるこの話はそれ以外にはたいしたことはなく、黒死病をむしろ強調していた。英国では黒死病というタームは、それだけで恐怖をもたらすインパクトがあるのだろう。しかし、その他のソースを見ると、米政府では生物兵器ともペストとも見ていないという話もある。ただ、そのあたり米国側での意向もあるかもしれない。
 サンやテレグラフなど英国ソースでの黒死病への恐怖だが、これらの記事ではペストとしており、通説ではそうなのだが異説がある。ウィキペディアを見たら記載されていた(参照)。

2004年に英国で出版された「黒死病の再来」という本によると、当時の黒死病は腺ペストではなく出血熱ウイルス(エボラのような)だったという。北里柴三郎の命をかけた努力により抗血清でペスト等を治す方法はできたがエボラは有効な治し方は無くいまだに脅威があるといえる。

 同書の邦訳はあるのだろうか。ネットを見ると、滋賀医科大学動物生命科学研究センターのサイトに関連記事”中世の黒死病はペストではなくウイルス出血熱”(参照)がある。

 14世紀にイタリアで発生した黒死病はボッカチオのデカメロン、カミユのペストをはじめとして、多く語りつがれています。これは現在では腺ペストであって、ネズミが媒介するペスト菌により起きたものと考えられています。
 英国リバプール大学動物学名誉教授のクリストファー・ダンカン(Christopher Duncan)と社会歴史学の専門家スーザン・スコット(Susan Scott)は教会の古い記録、遺言、日記などを詳細に調べて「黒死病の再来」(Return of the Black Death , Wiley, 2004)を出版しました。彼らの結論では、黒死病はペスト菌ではなく出血熱ウイルスによるものであり、今でもアフリカの野生動物の間に眠っていて、もしもこれが現代社会に再び出現した場合には破局的な事態になりかねないと警告しています。その内容をかいつまんでご紹介します。


 ところで、著者らは英国の古い記録を詳細に調べて、この発生について興味ある考察を行っています。この際の症状は嘔吐、鼻からの出血、皮膚の突然の内出血、昏睡などです。解剖の結果では胃、脾臓、肝臓、腎臓の出血など、さまざまな病変が見いだされています。また、1656年から57年にローマとナポリでの解剖例では全身が黒ずんだ内出血に覆われ、腹腔をはじめ内臓が黒くなっています。これらの症状や解剖の結果は、これまでに信じられている腺ペストとはまったく異なっています。死亡は急速で、その前に内臓全体に壊死が起きている点が特徴的で、著者らはこれらがエボラ出血熱、マールブルグ病などウイルス性出血熱にきわめて似ているという意見です。

 BMJのサマリーは”What caused the Black Death? ”(参照)にある。
 日本では日本人が立てた業績に対する異説はついトンデモ説扱いされがちになるようにも思えるが、黒死病についてはその後、定説はどういう経緯を辿っているのか、わからない。再現すれば研究は進むだろうが、恐ろしい事態でもある。
cover
Return Of The Black Death:
The World's Greatest Serial Killer:
Susan Scott, Christopher Duncan
 ペストについては生物兵器への応用は日本も含めて検討されていた歴史があり、英語版のウィキペディア”Plague as a biological weapon : Plague (disease)”(参照)には簡素にまとまっている。が、不明なことも多く陰謀論のような印象もある。

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コメント

 『バイオハザード』がマジもんで洒落にならんご時世なんですかね?

 不謹慎ではあるけど、いい加減ある程度人間を間引いた方がいいのかも。何とか基準でどこそこから足切りじゃなくて、本当に無差別にガツンと来ちゃう、みたいな芳香性で。

 多分ねえ。いざとなったら、本当に何にも関係無いんだよ。誰であっても駄目なものは駄目で運が良ければ残ります、みたいな。大自然の物凄い無慈悲さが、一挙に襲ってくるんだと思いますよ。社会が無法者に結局勝てないのと同じく、人間は大自然には勝てない。そんなもんかと。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.25 20:50

 あと不思議なんですけど、ハレー彗星が地球に激突?して地球人は皆死ぬとかノストラダムスの大予言で世界が滅びるとか、なぜそういう話は海外発ですか?

 素直で生真面目なタイプの人は、そういう話を真に受けて凄いやる気なくして勝手に鬱になって社会から脱落すると思うんですね。

 もしかして、それ狙い? なんて穿ったりもします。

 過去の黒死病にしたって、結果的に見れば全欧で死んだのは3分の1で、3分の2は残ってるでしょう。10分の8,9まで死んで社会も何も皆壊滅とまでは逝ってないし、結局復興して却って発展しているし。そんなに気にするほどのことも無いんじゃないかなぁ? という気が。

 あと日本でも新型インフルエンザがどーたらアナウンスされたらマスクが飛ぶように売れたり。消費者が財布の紐締めてガッチガチに守りに入ってるから、巣穴の狐をいぶり出す感じで強烈に火を焚いてるだけなんじゃないの? という気も。

 商売のしすぎな感じですね。世の中はどんだけヤクザなんだろうか。日本のヤクザなんて、怖いっちゃ怖いけど結局村社会・縄張り主義の範疇で収まる悪さしかしない(できない?)から、そういう意味では至って平和勢力だよなぁって感じます。感じるだけですが。

 世界はヤクザの巣窟だと思いましたとさ。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.25 21:02

そういえば、二酸化炭素が原因の地球温暖化説というのも、科学的に無根拠なはずだといっている人がいます。私の畏敬する増田悦佐氏です。

そういう人類滅亡説みたいなものを流布して、騒いでいる自分を知的リーダーにしようとする売り込みに情熱を燃やすたちの悪いやつが欧米の知識人には多いそうです。

「世界はヤクザの巣窟」と言ってしまえば、ローマ・カトリックの聖職者たちもロシア正教の聖職者たちもイスラム教のスンニ派とシーア派の聖職者たちも多くのヒンドゥー教のサドゥーたちも、みんなヤクザみたいなものです。

普通の人の振りをしたって、少女への淫行に該当する援助交際してたり、自分のパソコンに児童ポルノのファイルを所持していれば、チンピラみたいなものです。普通の人たちが、チンピラの本性を隠せば善人らしく生活できるようにするためには、ヤクザは、徹底的に高度な組織力を所有しないとならないのかもしれません。そういってしまえば、米軍は、世界最強の「ヤクザ」屋さんなのでしょう。

投稿: 「世界はヤクザの巣窟」 | 2009.01.26 09:37

 生きるも死ぬるも天命ですから。長生きするヤツはどーやっても長生きするし、早死にするヤツはどんなに惜しまれても死ぬ。ウィルスがどーたらってのは、根本的に関係無いんじゃないかっていう。

 だから、対処の方策としては「自分は罹って死んでも別にいいけど人様には移さないように」も、考慮しとくといいよね。今なんて「そもそも自分が罹らないように」から入ってるから、気の弱い連中がキャーキャー騒いで商売人が小遣い稼ぎに走ってるだけなんだ。

 死んでもいいじゃんって思えば、病気は怖くないよ。
 死にたくなーい死にたくなーいってビクビクしてるから漬け込まれて一丁上がりなだけでしょう。そんな馬鹿は生きてても面倒なだけだから、どうせ死ぬなら今すぐ死ねよとしか言いようが無いんですけどね。

 言いませんけど。ええ、言いませんとも言いませんとも。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.26 09:44

う~む。なんだか真偽がはっきりしない話みたいだなぁ。とりあえず、ふーん。と

ナナメに解釈しておくなら、これはイギリス国内に居るイスラム教徒向けなのかな~。自爆テロを、英雄的死だ!って考えちゃうような年頃向けの。
信教のために身をささげる感覚でテロリストに協力しちゃうと、ペストに感染させられて雑踏を歩く破目になっちゃうぞ!っていう。現代イギリス版ナマハゲ話フロム大衆紙。

投稿: ぽぽん | 2009.01.26 21:02

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