グアンタナモ収容所のウイグル人
オバマ政権になったのでそれがチェインジ(取っ替え)ということだが、実際に何かを変えないといけないわけで、公約でもあったグアンタナモ収容所が閉鎖される。今朝の毎日新聞社説”オバマ外交 「公平さ」が不信解消のカギだ”(参照)が取り上げていた。
米国の新政権が活発に動き始めた。オバマ大統領は就任から2日後に、ブッシュ前政権の「負の遺産」ともいえるグアンタナモ収容所の1年以内の閉鎖を命じた。クリントン国務長官のもとで中東とアフガニスタンを担当する2人の特使(代表)も決まった。
まずは素早い対応を評価したい。閉鎖される収容所はキューバ・グアンタナモ米海軍基地にあり、拷問や長期拘束などが問題になっていた。オバマ大統領の決断は、中央情報局(CIA)の秘密収容所の閉鎖や「水責め」の拷問禁止と並んで米国の暗いイメージの一掃に役立つだろう。
ということで毎日新聞としては、グアンタナモ収容所が閉鎖の意味は、「米国の暗いイメージの一掃」ということでイメージ戦略の一環らしい。所詮他国のことだし、そうかもしれないなと思った。米国民としては、イメージ戦略以外に安全保障の問題もありそうで、CNN”イエメンのアルカイダ系組織幹部にと、グアンタナモの釈放者”(参照)などからはそんな印象も受ける。
米国防総省は最近、同収容所を出た60人以上が戦闘の現場に戻ったとの見方も示していた。 イエメンで活動しているサウジアラビア人はアリ・シリと呼ばれる人物で、米大使館近くで昨年発生した車爆弾テロなどへの関与が指摘される。アルカイダ系組織の作戦担当の幹部級になっているという。同組織がイエメンで出版する雑誌で、指導者の会見への同席も確認されている。
アリ・シリは釈放でサウジアラビアへ送還されたが、同国の政府筋によると、再教育プログラムから脱走、イエメンへ向かったとみられている。
すっかり過去の人、あるいはヒール・チェイニーの過去のコメントも掲載されている。
チェイニー前副大統領は先に「収容者を釈放すれば、彼らは戦場に戻る。米本土に移送すれば、憲法上の権利請求の問題が生じる」と対テロ戦争が終結するまで基地にある拘束施設の閉鎖は避けるべきだとの考えを示していた。ブッシュ前政権も過去に施設閉鎖を検討したことがあるが、移送先の問題などが障害となり断念していた。オバマ政権が閉鎖に踏み切っても同様の課題を抱えることに変わりはない。
ヒール・チェイニーの予言その1、「彼らは戦場に戻る」は多少は当たったのかもしれない。
ただ、問題は、予言その2、「米本土に移送すれば、憲法上の権利請求の問題が生じる」かなと私は思う。というあたりの報道があまり見られないので気になるし、ブログだしということでことで書いてみたい。
グアンタナモ収容所の問題は、米国のイメージ戦略というより、私は単に人権の問題だと思う。そしてそこに米国は大きな問題を抱えていたのは事実だとも思うが、閉鎖がその解決策になるかはよくわからないが米国民の決断だろうし、その決断の余波を受けるのは他国の問題だろう。
気になるのは、この非人道的な対処は治外法権的な部分があったのだろうということで、そのあたりは、ヒール・チェイニーの予言その2の含みにあり、米国に移送すると権利が主張できるようになるという点だ。彼はそれを嫌がったのだろうが、そういう発想も可能性としてはないわけではない。ただ、それをどこまで肯定的に見るかということだ。
難しいのは、昨年10月のAFP報道”テロ容疑者収容施設のウイグル人17人、米連邦地裁が釈放命じる”(参照)のあたりだろう。
【10月8日 AFP】(9日一部修正)米連邦地裁は7日、キューバのグアンタナモ(Guantanamo)米軍基地内のテロ容疑者収容施設で拘束されているウイグル人17人を米国で釈放するよう命じた。政府関係者が明らかにした。
中国は米国に対し、この「テロ容疑者たち」を送還するよう求めていたが、米政府は送還された場合、ウイグル人たちが拷問される可能性があるとして拒否していた。
さらに、昨年12月、共同”中国、米に独立派の引き渡し要求”(参照)より。
中国外務省の秦剛副報道局長は23日の定例会見で、オバマ次期米大統領がキューバにあるグアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容所閉鎖を公約していることに関連し「中国政府は(収容されている新疆ウイグル自治区の独立派組織)東トルキスタン・イスラム運動のメンバー17人の速やかな引き渡しを求めている」とあらためて述べた。
ドイツなどが収容中のテロ容疑者受け入れの意向を米側に伝えているとされるが、副局長は「われわれはどの国が受け入れることにも断固反対する」と強調した。
オバマ大統領はどのように考えているか。この問題の日本での報道がよくわからない。ブログ真silkroad?のエントリ”オバマ政権「グアンタナモのウイグル人の中国送還は想像できない」”(参照)では、英文のAFP”White House 'can't imagine' returning Uighurs to China”(参照)の一部を訳して伝えていた。余談だが、日本版のAFPではこの記事が見当たらない。なぜなのだろうか。
オバマ政権は木曜、グアンタナモ湾に留めおかれているイスラム教徒ウイグル人を中国に送り返すことは想像できず、迫害に直面している国家にはどんな収監者も送られることはないと言った。「私はオバマ政権がウイグル人を中国に送還することを支持するとは想像できない。」匿名を条件である高官は言った。
「私たちは被拘束者を虐待するであろう国家には移送しない。」高官はオバマ氏がその「対テロ戦争」収容所を一年に以内に閉鎖することを求める大統領令に署名した数時間後に言った。President Barack Obama's administration said Thursday it could not imagine returning Muslim Uighurs held in Guantanamo Bay to China and said no inmate would be sent to a nation where they may face persecution.
"I cannot imagine that we would support transferring the Uighurs back to China," said a senior administration official on condition of anonymity.
"We are not going to transfer detainees to countries that will mistreat them," the official said, hours after Obama signed an executive order requiring the closure of the "war on terror" camp within one year.
オバマ大統領自身の言明ではないが、現時点ではそう期待してよいだろう。
亡命したウイグル人の指導者ラビア・カーディルさん61歳は、「ホワイトハウスがグアンタナモのウイグル人を中国に送らず、また合衆国のグアンタナモのウイグル人に対する政策が変化していないと聞き、とても喜んでいます。」と言った。
「私はホワイトハウスがさらに中国に東トルキスタンにおけるその人権状況を改善するように勧告する希望を表明します、東トルキスタンでウイグル人は極端に抑圧的な体制のもとに苦しんでいます。」
ラビアさんはグアンタナモのウイグル人が合衆国に入国が許されることを求めつつ、付け加えた。Exiled Uighur leader Rebiya Kadeer, 61, said she was "very happy to hear that the White House will not send the Guantanamo Uighurs to China and that the United States' policy on the Guantanamo Uighurs has not changed.
"I express the hope that the White House will further urge China to improve the human rights situation that exists in East Turkestan, where Uighurs suffer under an extremely oppressive regime," she added, appealing for those at Guantanamo to be allowed into the United States.
なお、AFPはこう続く。
The Uighurs were living in a self-contained camp in Afghanistan when the US-led coalition bombing campaign began in October 2001. They fled to the mountains, but were turned over to Pakistani authorities, who then handed them over to the United States.
![]() 中国を追われたウイグル人 亡命者が語る政治弾圧 水谷尚子 |
日本としては、この問題をどう考えるかなのだが、毎日新聞社説のようにそこは触れないでおくのが無難なところなのだろう。
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コメント
スポーツういぐる、とか言って江川さんが何かコメントするといいよ。俺様の剛速球を受けてみよ!! みたいな。
投稿: 野ぐそ | 2009.01.26 11:31
賢明な唐の太宗は、非征服異民族に対しては、大幅な自治権を認めるキビ政策を採用していて、かえって日本人とか、チベット人とか、タイ人とか、征服されているわけではない周辺異民族が唐の文化を必死に習得する努力をしてたわけだけれど、中国共産党の少数民族政策というのは、はっきり言って実態はわかりません。
チベット人とウイグル人だけでなく、東北部の朝鮮系も、内モンゴルのモンゴル系も、広西の壮(チュワン)族も、それぞれ中国共産党とは、日本人に想像不可能な次元のいろいろな問題を抱えていると思います。
オバマ大統領は、アフリカ人の2世で、アメリカでは単に黒人であるというだけでなくマイノリティーなので、彼は、他国のマイノリティーを、粗末に扱うわけには行かないと思います。彼の存在理由の根本にかかわる問題ですから。
この問題を深く考えると、在日コリアンや華僑というより、労働力としてやってきた日本在住日系ブラジル人の扱いみたいなものとリンクするのかとも思います。他人事だと思ってあまりきれいごとを重ねると、自分が困ることになる。でも、毎日新聞社説がこの問題に触れないのは、それほど深く考えているからではなく、単に中国の当局とトラブルを起こしたくないから隠しているだけだろうと思います。
投稿: 異民族政策 | 2009.01.26 11:59
本日発売の、月刊ウィルの最新号で、日下公人先生が面白いことをおっしゃっていました。このエントリーでも問題になっているアメリカと中国には、中世がないのだそうです。
たしかにアメリカは近代に出発した国だから、ラテン語とカトリックの文化圏だった時代を自身では持たない、「中世を持たない国」なのだろうと思います。もちろん、アメリカのアングロサクソンプロテスタントの文化に中世のイングランドの面影は多分に残っているのだろうけれど。
中国は、別に中国に限らないけれど、西ヨーロッパや日本のような意味での中世は持っていない国だろうと思います。中世的な封建社会が発達できなかったから。きっと、モンゴル帝国の中国征服が原因だろうと思います。
日下先生ご自身は、中世の重要な特徴とは何か、と言う点にについて説明してくださっていないけれど、ここは、極東ブログ的に面白おかしく中世の特徴を洗い出したいと思います。
大きく言えば、特徴は2つだと思います。1つは西ヨーロッパの騎士道、日本の武士道。この二つは、中世の封建社会で発達しました。もう1つは、西ヨーロッパのバチカンと、日本の皇室だろうと思います。
騎士道と武士道というのは、「野ぐそ」さん的な表現を使えば、ヤクザでも、規律と秩序と美徳と文化は大切だという考え方。それも、組長や代貸だけでなく、一般組員最下層にいたるまでそれが求められるということです。騎士とか武士というのは、早く言えばヤクザです。中国なんか、「水滸伝」見ても、国家の常備軍の兵士たちの方が山賊よりたちが悪いのが当たり前ですから、ヤクザに末端まで規律と秩序と美徳と文化が求められた日本と西ヨーロッパは世界の大例外。
それから、バチカンと皇室ですが、バチカンと皇室が権威と権力を持っていたということは、「野ぐそ」さん的に言えば、名目上、建前上だけでも、宗教(バチカンと皇室)とヤクザ(騎士や武士)は合体しておらず、別々であるということです。それが、権力者たちだけの了解事項なだけではなくて、一般民衆も、宗教とヤクザは別なんだということに、本音はどうあれ一応納得して生活していたということです。これも世界の大例外。
まあ、その世界の大例外の西ヨーロッパと日本だけれど、カトリック世界と日本にこれから明るい未来があるかどうかは未決定だと思います。西ヨーロッパ諸国はもっと足並みそろえて統合しないといけないのだろうし、日本は、「自分たちは特殊だ」と言っていないで、東アジアに対してもっと自分を開かないといけないのだろうと思います。ただ、日本は島国の海洋国家だから、韓国とか台湾とかフィリピンとかマレーシアとかインドネシアとかシンガポールとかオーストラリアとかニュージーランドとか、明らかに海洋国家の半島国や島国とかの方が利害を一致させるのは楽なのではないか?という気はします。それらは基本的にみんな(インドネシアはちょっと該当しないけれど)英語圏みたいなものだし。
中世の話をすると、ヤクザの話になります。古代というのは、単に大ヤクザがかたぎをいじめていた時代で、中世になって、やっと、いろいろなヤクザが激しく「出入り」をして、それぞれシノギが難しくなります。近代になって、国家公認の「ヤクザ」は、サラリーマンになります。きっと、これからは、学者と「ヤクザ」を区別するのが難しくなるのだろうな。
投稿: 中世の所有 | 2009.01.26 13:17
緑運動公園の力作エントリーであるところの
旧グッドウィルGのクリスタルG買収に関する騒動が表面化してる件
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2009/01/gg-90dd.html
に、
ほしのあきと言えば、今朝の朝刊のチラシに出てましたよ。若さを保つための健康食品!! みたいなノリで。
そんなんいいから全員整形しろよ? って言っちゃえば直ぐなのに、なんでまた地方の老人相手にセコく商売しようとするかなあ? みたいな~。
…ってコメントしようとしたら、思いっきりスパム判定されてる件について。なぜですか。
投稿: 野ぐそ | 2009.01.27 20:27
「野ぐそ」さん、山本さんに思いっきり嫌われるようなこと何か言ったのではないですか。
切込隊長だって人間ですよ。いつも寛容ではいられません。
それに「野ぐそ」さんはここのアフィリエート稼がせすぎているのでは?山本さんがもっと得するようなコメントを気を使って入れてあげるべきかもしれません。山本さんのところで今後も自身の社会的な自己主張を続けたいのならば。
世間は案外狭くて、気の使い合いですよ。最後は。
投稿: なぜだろう | 2009.01.28 08:12
>「野ぐそ」さん、山本さんに思いっきり嫌われるようなこと何か言ったのではないですか。
後で別のコメント付けたら通過可能だったんで、よく分かりませんね。故障ですかね?
>切込隊長だって人間ですよ。いつも寛容ではいられません。
そらそうですね。でもそんなん言うたら「視聴者だって人間だからいつまでも寛容ではいられない」の理屈で炎上しても見捨てられても文句言えないことになってしまう。そこ気にして発言頻度や破壊力が落ちたら、そもそもの持ち味が無くなって詰まらんですよ。それこそ勿体無い。
>それに「野ぐそ」さんはここのアフィリエート稼がせすぎているのでは?
そんなん知りません。私が管理してるわけじゃないし。そもそも野ぐそコメントはそんなんどうでもいいですから。アフィリエイト? 何それ? みたいなもんです。弁当翁さんからそういう旨の連絡を貰ったことも無いし、3年くらい前にお米あげた時に1,2回返礼を頂いた以外はノー交流ですんで、何が何やらさっぱり分かりません。
>山本さんがもっと得するようなコメントを気を使って入れてあげるべきかもしれません。山本さんのところで今後も自身の社会的な自己主張を続けたいのならば。
それは馴れ合い臭くて嫌なんで、嫌コメント→事前削除でいいんじゃないですかね? 気に入ったコメントは通過処分で。
昔雑誌投稿してた頃は100通送って1通掲載でも当たり前だと思ってましたから、ブログみたいにほぼ通過する環境の方が甘いんですよ。掲載率ほぼ10割とか、私の感覚だとあり得ないです。
弁当翁さんは昨年「明らかなスパムは排除する」ってキチンと宣言してその通りになさってて、私も幾つか削除されたのを受けて大体の芳香性を感じるところがあったんでそのように処してるし、いざ出入り禁止処分になったとしても「今までありがとさん」で終わりで別にいいんですけど…。緑さんの所はそういった通告も何も無しで気分が全てに最優先する傾向があるから、それに気ぃ遣ってたらコッチがしんどいです。
じゃあ辞める、しか無くなりますわ。それでいいなら別にいいですけど。
>世間は案外狭くて、気の使い合いですよ。最後は。
そうですね。
投稿: 野ぐそ | 2009.01.28 12:28
すみませんがなんでウィグル人がグランタナモにいるんでしょうか。まとめて頂けると嬉しいんですが。
投稿: yokunaiwai | 2009.02.02 01:43