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2009.01.09

ガザのトンネル

 ガザ地域にはエジプトに通じるトンネルがある。かなりあるようだ。フランスPlaypodによる2006年作成「Rafah:One Year in the Gaza Strip」を放映したNHKの番組案内の話ではこう(参照)。


パレスチナ・ガザ地区とエジプトの国境の町ラファには、パレスチナ人が、イスラエル軍との戦闘に備え武器を密輸していた秘密トンネルがあった。そのトンネルが、2005年9月にイスラエル軍がガザ地区から撤退した後も存在し、頻繁に使われている事を、国境地帯に潜入したフランスの取材班が突きとめた。

 これは「フランスの取材班が突きとめた」というほどでもなく、他でも報道されている。1日付けBloomberg記事「ガザ住民 命の地下トンネル ガソリン・家畜・iPodも密輸」(参照)ではこう。

 140万人のパレスチナ人が暮らすガザ地区では、イスラエルによる封鎖が続いている。無数に掘られたトンネルは、ガザ地区住民の生活を支える生命線だ。トンネルを経由してガソリンや食肉、洗濯機からiPodまでさまざまな品物が密輸される。
 ◆流入物資の90%担う
 「トンネルなしでガザ地区の経済は成り立たない」とガザ市のエコノミスト、オマル・シャバン氏は話す。「経済が闇市場に完全依存していると非難されるが、国境が封鎖されればこうならざるを得ない」

 ライフラインでもある。が、先の引用にもあるように対イスラエルの武器の流入口でもある。

地下ネットワークは、同地区を実効支配下に置くイスラム原理主義組織ハマスの武器調達にとって欠かせない役割を担っている。

 武器の利用について、先のPlaypodではこうも指摘している。

ラファではイスラエル軍の撤退後、パレスチナ人住民の地縁血縁ごとの派閥間の抗争が激化。トンネルを介して運ばれる拳銃や弾丸などは、皮肉なことに、今度は身内同士の戦いに使われていた。部族間で起きた殺人の和解交渉の現場では、息子を失った父親の脇で、部族の自警団十数人がカラシニコフを手に待機。住民は「パレスチナ警察には何の力もない」と、治安が良くなる兆しのないことを嘆く。

 「パレスチナ警察」が、ファタハを指しているのかハマスを指しているのか。前者だろうとは思う。
 これがイスラエル空爆の目的にも関係しているという推測をBloomberg記事が書いている。

 「空爆の標的の一つにトンネルが入っていることは間違いない。イスラエルは、エジプトとガザ地区の行き来を遮断したいと考えているだろう」とテルアビブ大学の軍事アナリスト、イフタク・シャピール氏は指摘する。

 そうなのだろうか。というか、国際政治ではそれがどのくらい、ガザ侵攻において重要性があると見なされているのか。
 また、ガザのトンネルについてPlaypodとBloomberg記事からは、ハマスや武器そのもの提供者についてはよくわからない。が、トンネルなんだからガザ側の向こうから武器が来るわけで、その地がエジプトであることは間違いない。
 では、エジプト政府がハマスに武器を提供しているのかというと、ガザ和平の仲介を買おうとしているエジプト政府がこれに関与していると見るのは、少なくとも表面的には難しい。
 では、誰が武器を提供しているのか。
 ニューヨークタイムズ”Incursion Into Gaza”(参照)が参考になるだろう。和平条件についての文脈だが。

Israel, aided by the United States, Europe and moderate Arab states, must try to end this conflict as soon as possible and in a way that increases the chances for negotiating a broad regional peace.

That means ensuring at a minimum that Hamas — a proxy of Iran — is not seen as gaining from the war, that the rocket fire is halted permanently and that the terrorist group can no longer restock its arsenal with more deadly weapons via hundreds of tunnels dug under the Egypt-Gaza border.


 ニューヨークタイムズでは、ハマスをイランの代理と明言し、和平条件について、ハマスに利益がないこと、ハマスからのロケット弾攻撃がないこと、そして、ガザのトンネルを経由した武器の流入がないことを挙げている。
 やや曖昧だが、これはようするに、イランが供与したロケット弾などの武器がガザのトンネルを経由して持ち込まれているのをやめるのが和平条件だと、読んでもそう違和感はないだろう。
 そういうことなのだろうか。
 クリスチャン・サイエンスモニター”The long tunnel to a Gaza peace”(参照)は、ガザのトンネルをイランの文脈で重視している。

After nearly two weeks of war in Gaza, indirect talks between Israel and Hamas have begun. That should bring some hope to civilians who face needless killings on both sides. The talks, however, hinge on the future of tunnels from Egypt used to smuggle arms to Hamas – courtesy of Iran, the stealthy Middle East meddler.

 つまり、イランが供与する武器がガザのトンネルを経由して持ち込まれるなら、和平は難しいだろうというのだ。
 記事はむしろ、この問題をアラブ諸国とイランの関係において展開していくのだが、ここで当然気になることがある。武器の流入口であるエジプトはこの問題をどう考えているのか。昨年11月のAFP”ガザ地区で密輸トンネル13本摘発、高まる人道危機”(参照)が参考になる。

 エジプト治安当局はこのほど、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)のラファ(Rafah)検問所付近で、13本の密輸用トンネルを摘発した。
 イスラム原理主義組織ハマス(Hamas)が2007年にガザ地区を制圧して以来、イスラエルはガザ地区に対し経済封鎖を実施しており、パレスチナ人らは密輸用トンネルが生命線だと話している。国連(UN)の試算によれば、ガザ地区内の住民の半数以上がすでに貧困ライン以下の生活を送っているとみられる。

 同記事では武器の密輸については触れていない。また、視点は生活物資に置かれている。ガザのトンネルがないと「高まる人道危機」というのだ。
 エジプトとしては、単に密輸として取り締まるが、人道的な配慮もあって強力な摘発は難しいということだろうか。
 いずれにせよ、エジプトの及び腰というのは受け止められるし、この記事が武器について言及していないものその関連かもしれない。
 クリスチャン・サイエンスモニター記事に戻ると、ここではエジプトが槍玉に挙がっている。エジプトはガザのトンネルについて取り締まりができていないというのだ。もちろん、その槍玉挙げはイスラエルによるものだが。

Blocking the smugglers and their tunnels appears to be Israel's main goal in this war – and it doesn't trust Egypt, whose border guards are either corrupt or incompetent, to again keep watch over the sandy, 10-mile border. "Preventing a Hamas arms buildup is the necessary foundation of any new calm arrangement," says an Israeli spokesman.

 なぜエジプトは及び腰なのだろうか。また、それはエジプトだけの問題なのか。同記事では、これをアラブ諸国全体の動向として見ている。

But Egypt, under President Hosni Mubarak, balks at allowing foreign troops from, say, Turkey or France, to infringe on its sovereignty in the Sinai. And that hesitancy reflects a wider problem: Arab states from Saudi Arabia to Morocco are reluctant to stand up to Iran, at least openly.

 エジプトしてみると、トルコやフランスがシナイ半島にしゃしゃり出てくるのは不快だし、アラブ世界としては、イランと事を荒立てたくはない。
 そうはいってもアラブ諸国は核化するイランを恐れているとも指摘している。

Yet these Arab leaders need to better confront the region's Islamic extremism that Iran represents, seen starkly in Hamas's rocket attacks; the Iranian-controlled group in Lebanon, Hezbollah; and the global standoff over Iran's race to develop a nuclear-weapons capability.

 以上、クリスチャン・サイエンスモニターの見方はやや陰謀論に近いかなという印象もある。だが、今回のガザ空爆でアラブ側での躊躇のように見えるものの背景の一つの説明になるだろう。
 そして、結局、このガザのトンネルという問題は、どういうところに落とし所があるのだろうか。

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コメント

こういう「世界を監視」するという実存もあるのか。

「自らの生を生きる」とはどういうことだろう。

「天下国家の解釈マシーン」に成りきるという生き方。

原始人は自分たちの家族だけが大切だったのか?

なんて思ったり。

「人生とは何か」と問う人はそもそも
「人生とは何か」と問わずにはいられない「何か」
があって、それから目を逸らすためにムリヤリ
そういった問い立てているのかもしれないと。

「純粋な好奇心」はあるのか、という問題。

投稿: コメント | 2009.01.09 23:22

 落とし所は、無いでしょ。

 日本で言うとオウム経済とかオタク経済とか閉鎖的農村経済なんかが比較近似値を呈すると思いますけど。そういう世界の中に居ると、詐欺とか、強盗とか、乞食とか、ヤクザとか、そういう系統の連中が、絶対的に幅を利かせるようになってくる。そうなってくると、「んじゃ閉鎖すべえ」→「生きるために闇ルート開発」→「潰すべえ」→「やなこった」→「すざけんなよ」→「やんのかコラァ!!」…で、無限ループするわけですよ。

 日本の中で、そういう連中がちっこく悪さして毛嫌いされてるくらいなら別にいいけど。嫌ったり嫌われたりする部分も含めて、嗚呼人生ですなあって感じではあるけど。
 殺し合いまで話飛んじゃったら、どうにもならんでしょ。国連が仲介したところで2,3年の猶予が精一杯で、またぞろ何かやり出すに決まってんだし。一方では仲裁だの何だの言ってるけど一方では武器供与やってんだから、終わるわけが無い。

 チャップリンの映画だったか、乞食のガキに金持たせて窓ガラス割らせて、ガラス割られたおっさんがプリプリ怒ってるところへ素知らぬ顔して商売に来るシーンがあったでしょ。
 それを全世界総出でやってるだけなんだから、そもそも誰もが終わらせる気がああるとは思えない。どーにかしてネタにして飯食おうってだけでしょうよ。アホくさ。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.09 23:43

>「経済が闇市場に完全依存していると非難されるが、国境が封鎖されればこうならざるを得ない」

 嗚呼戦国時代、ですね。江戸期の日本も実質的に闇経済だし。今だって闇経済同然のシステムで回ってるとこいっぱいあるし。

 足利義満~足利義持の時代に開放政策から一転して閉鎖経済になって、その後軍閥割拠の時代を経て…ってなったような。日本の場合は華やかな室町文化やバサラ文化に発展して爛熟しきって行く末戦国化だったんでしょうけど、ガザは、どうですかねぇ? 駄目でしょうねえ。日本の戦国期で例えれば、「中国朝鮮連合軍が何度も何度も攻めてきた」「欧州諸国が中国朝鮮の後押ししまくってた」に近い状態でしょ。日本は、そうじゃなかったから。別に中国も朝鮮も日本に変なちょっかい出さなかったし、外国の文化や技術は導入したけど、主体性の強い勢力がむしろ利用しに掛かって国内統一した余波でアホほど朝鮮に攻め入って傍迷惑なわけで。

 ガザと真逆なわけで。

 そう考えると、先人の労苦は無駄じゃなかったんだなぁ…って感じですかね。知りませんけど。

 ガザの人は日本の歴史に学ぶといいと思うけど、逆言えば「日本のような歴史を持つ小国の出現は(その後将来の動向も踏まえて)ヒジョーに厄介」と世界が看做すようであるなら、ガザは今のまんま未来永劫虐げられるんだろうなぁ…、と思いました。

 ガザに賢主の用あり、ですな。ナムナム。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.10 00:08

関税収入は弱小国家にとって非常に重要ですが、トンネル絡みの上納金が誰にどれだけ流れたのかは非常に興味のあるところです。
何だか、ボスニアのカーツ大佐ことNaser Oricの事を思い出してしまいました。

投稿: | 2009.01.10 01:55

ハマスを「イランの代理」にするのは、ハマスとイランを一緒に悪者にするレトリックでは?

もちろん、イランも感心しないことはいっぱいあるだろうけれど、こと、イランを悪者にすることにかけてはニューヨークタイムズもアメリカの新聞だという気がします。

わが国はいざという時イランを敵対国にできるのでしょうか。

対インドネシア、マレーシア外交などを考えると、アメリカとの軍事同盟関係はごまかしながら、今後もイランは日本の友好国でしょう。そうしないと三井物産がまずいことになるだろうし。

仮に、核融合原子力発電と車載用燃料電池で世界のエネルギー問題が解決できても、イランが友好国であることは、日本の重要な外交カードであり続けると思います。イランにもそういうつもりで日本と付き合ってもらいたいし、そういうつもりで付き合ってくれていると思います。

投稿: イランの代理? | 2009.01.10 09:34

 どうでもいいけど、先日部屋のゴミ捨てと模様替えをやったんですけど、ゴミ捨てたら余分なスペースが出来たんで、俺さん用のクッションとねこさん用のペット布団買って来たんですな。俺って優しいw

 そんで何気に部屋に放置して外で仕事して帰って来たら、ねこさんが俺さん用のクッションに座ってんです。ねこはソッチじゃないだろう、ねこはコッチ、とか言ってペット布団に座らせたんですけど、しばらくしたら結局俺さん用のクッションに座ってのんびりしてる。

 仕方ないので、今は俺さんがペット布団に座ってねこさんが俺さん用のクッションに座ってます。ねこ恐るべし。

 ガザも、似たような按配になるかもしれませんね。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.11 11:50

それって、ユダヤ人たちがガザ地区にとじこめられて空爆されて、ハマスがエルサレムを占拠するってことですか。

破格なご意見ですね。さすが。

でも、笑い事ではありません。

投稿: 「俺さん」と「ねこさん」 | 2009.01.12 12:13

そんなこた言ってないです。

投稿: 野ぐそ | 2009.01.13 08:36

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