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2008.06.14

米国大統領選に一番関心もっているのは日本人

 アイルランドによるリスボン条約否決とか隣国蝋燭集会とか、それなりに重要なニュースなのかもしれないが今一つ書く気がしない。そんなものじゃないかなくらいだろうか。どうにもならないよ、といった感じか。
 韓国の中央日報が日本の現状を評して”<取材日記>争いながらもやることはやる日本の国会”(参照)とあったが、日本人にしてみると、さっさと政界再編しないかな、うんざり、といったところだ。
 こんなときは浮世離れした本の感想でも書くかなと思うし、別段ブログなんて書くまでもないじゃないか、どうせ……いや、そのあたりで、なんかちょっと頑張るかなという気分がする。するからブログやってんだろうけど。じゃ、ネタでも。
 その前に、東北の地震で被害に遭われたかたに、謹んでお見舞い申しげます。
 現代日本人が自虐的に笑えるネタといったら、3月から4月にかけて各国約2万4700人対象に行われたピュー・リサーチ・センターの調査だろう。共同記事”日本人の関心“世界一” 米大統領選、本国も超える”(参照)より。


米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が世界24カ国で行った調査で、米大統領選に最も高い関心を持っているのは日本との結果が出たことが13日までに明らかになった。本国の米国よりも高かったのは日本だけで、米国人の調査担当者も「なぜだろう」と驚いている。

 いや、ほんと、「なぜだろう」。その文字を分裂君ブログみたいにフォントに色つけて拡大したい誘惑にも駆られるけど、そこまでして理解させるっていう話でもないか。
 産経記事”日本人、米国人よりも米大統領選に関心あり 国際世論調査”(参照)はもう少し詳しい。

それによると、83%の日本人が「大統領選にかなり関心を持っている」と答え、米国人の80%よりも多かった。日米に続くのがドイツ56%、豪州52%で、日本の関心の高さが突出している。

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 米国人の調査担当者に言われるまでもなく、この「なぜだろう」は日本のジャーナリズムについても言えると思う。なぜ日本のジャーナリズムは米国大統領選挙をこんなに報道するんだろうか。
 私は15年くらい前だったか、同僚に米国大統領選挙が大好きな人がいて、いろいろ聞かされてうんざりした記憶がある。というのはそのころ日本ではこんなに米国大統領選挙なんて話題にもなっていなかった。
 端的に言えばバブル崩壊以降、日本はマジ米国の一部になったんじゃないだろうか。とかいうと、親米思想とか言われるかもしれないけど。

 大統領候補のなかでは、民主党のバラク・オバマ上院議員への信頼度が欧州で高く、フランスで84%、ドイツで82%だった。日本でも77%と高かった。米国では59%。共和党の大統領候補に内定したジョン・マケイン上院議員への信頼度は米国の60%が最も高く、日本では40%だった。

 日本が寄せる米国への関心が親米的なら、もう少しマケインへの信頼度が高いのではないかな。なんとなく反米=反ブッシュ=オバマ支持みたいな浮かれ気分に日本も載せられているだけじゃんじゃないか、印象過ぎないのだけどね。ごりっと考えるなら、民主党のように保護貿易主義をガナリ立てることのない、共和党のマケインのほうが日本の国益にかなうのではないかな。
 調査のネタを孫引きで続ける。

 一方、8月の北京五輪を控えた中国に関する質問では、好感度が欧州を中心に下がり、特にフランスでは前年の47%から28%に下がった。チベット騒乱への中国の強権的な対応やパリでの聖火リレーの混乱と、調査時期が重なったことが要因とみられる。
 中国に対する好感度が最も低かったのが日本で14%だった。02年には55%だったが、日本国民の中国への好感度は大幅に下がっていることになる。

 これはへえと思った。へえというのは、親中度が4年のうちに55%から14%に落ちるって、それはないんじゃないの。いや、フランスでも一年で20%落ちるから不思議ではないか。中国工作員もいろいろ日本でご活躍だと思われるけど、もう少しがんばれよというか、本当に親中になる日本人の選抜を変えてみたほうがいんじゃないのか。国内報道されていないオリジナルデータを見ると日本人の嫌中度の突出は、これは、ちょっとどうかと思うぞ。

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 この話題、韓国から見るとどうか。東亜日報”韓国民70%「米国に好感」 調査24ヵ国で最も友好的 ”(参照)より。


英国、フランス、中国、日本、エジプト、メキシコなど世界24ヵ国の中で韓国国民が米国に対し最も友好的な態度を持っているという世論調査結果が出た。

 もっと昨今の韓国状況、例えば”「反政府闘争に変質したろうそく集会が残念」…ネチズンの声”(参照)読むと、親米なのかな韓国はというか、考えさせられる。
 親米ということでは。

今回の調査で、米国に対する好感度は、韓国に続いてポーランド(68%)、インド(66%)、タンザニア(65%)、ナイジェリア(64%)の順で高かったし、一番低い国家はトルコ(12%)だった。

 そりゃそうでしょという顔ぶれのようでいながら、トルコの低さはちょっと驚く。
 さて、ネタ元記事は、”Global Economic Gloom -- China and India Notable Exceptions”(参照)。さらに詳細は”Pew Global Attitudes Project: Overview: Global Economic Gloom - China and India Notable Exceptions”(参照)からPDF形式でダウンロードできる。さすがにオリジナルは味わい深い。
 先に韓国民70%は「米国に好感」とあるけど、この比率はこの一年で12%アップしている。日本のほうがどうかというと、昨年は61%で今年は50%。落ちている。でもこの水準は英国と同じくらいなので、ある意味、日本は対米的には成熟しているともいえるのかもしれない。
 してみると、大統領選挙への日本の関心も成熟度の一環なのかもしれない。また、日本からのマケイン評価は低そうにも思えたが、これは各国なみ。
 米国の世界経済への影響をどう見るかだが、日本は欧州とあまり変わらない。そんなものかと見ていくと、トルコも日本と似ている。トルコって何考えているんだろうか?

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2008.06.12

秋葉原無差別殺傷事件、雑感

 秋葉原で8日に起きた7人の殺害事件は、報道などを見ていると、「無差別殺傷事件」と呼ばれているようだ。地名をつけて「秋葉原の無差別殺傷事件」と呼ばれることも多い。いずれにせよ、この事件を特徴付けるのは「無差別殺傷」なのだろう。
 7人の死者に哀悼の意を捧げたい。
 私はこの事件についてはよくわからない。あまり考えたくないというのが心情に近いかもしれない。多少意外に思えたのは、ネットなどで多少犯人への共感のようにも思える意見をなんとなく散見したことだ。この点についても、つまり現在の若い世代と現代日本の社会状況についても、率直なところ私はよくわからないと思った。また、今回の犯罪をインターネットや匿名掲示板に関連つけた議論も新聞などで見かけた。これもそういうものだろうかとぼんやりと思ったがそれ以上の感想はない。
 このエントリを書き出すとき、たまたま、哲学者の東浩紀が朝日新聞の寄稿”絶望映す身勝手な「テロ」 秋葉原事件で東浩紀氏寄稿”(参照)を見たのだが、そこではこう書かれていた。


 筆者は一報を自宅でネットで知った。第一印象は「ついに起きたか」だった。

 私には、「また起きたか」が第一印象だった。それは後で触れる。東はこう続ける。

 むろん、事件発生を予想していたわけではない。しかし最近の秋葉原については物騒な報道が相次いでいた。パフォーマンスが過激になり、規制強化が囁(ささや)かれていた。
 他方で若い世代のあいだでは、日本社会への絶望や不満が急速に高まっていた。昨年の論壇の話題は「希望は戦争」と語る若手論客の登場だった。そして、アキバ系と言われる若者文化の担い手と、絶望した労働者やニートの層は、意外と重なっていた。

 つまり、秋葉原という劇場的な場所という要因と、絶望する若者という2つの要因でこの事件を見ているということなのだろうと思う、という理解に自信はないのだが。
 さて私はといえば、9年前の事件のことを思い出していた。1999年9月8日、池袋で起きた殺傷事件だ。私のように記憶に鮮明にある人も少なくはないだろう。それでも、10年近い年月が経つので、リアリティをもって想起できるのは30歳以上の人になるのかもしれない。同日読売新聞”東京・池袋で通り魔、8人刺し1人死亡 包丁と金づちで 23歳男を逮捕”によると、事件の概要はこう報道された。

 八日午前十一時四十分ごろ、東京都豊島区東池袋一の路上で、包丁と金づちを持った若い男が買い物客らに次々と襲いかかり、少年や老人ら男女計八人が腹や胸を刺された。八人は近くの病院に運ばれたが、六十六歳の女性が左胸を刺されて間もなく死亡。二人が重傷、五人が軽傷。男は通行人に取り押さえられ、通報で駆け付けた警視庁池袋署員に殺人未遂で現行犯逮捕された。

 現場は池袋の東急ハンズ前。繁華街といっていいだろう。死者は二人だったが、二人で済んだのは、どちらかといえば偶然であり、被害低減は取り押さえた通行人の功によるところも大きい。
 状況はこう報じられている。

 警視庁によると、男は自称住所不定、無職造田博(ぞうた・ひろし)容疑者(23)。
 造田容疑者は、凶器を手に東急ハンズから池袋駅方面に向かって走りながら、通りがかった買い物客らに襲いかかった。途中、包丁を投げ捨てたが、片手に金づちをふりかざして、さらに通行人に襲いかかった。

 取り押さえられた犯人はこう語ったとされている、同日紙面”東京・池袋の通り魔「だれでも殺してやる」 昼の繁華街、血まみれ 震えるOL”より。

 「相手はだれでもよかった。だれでも殺してやろうと思った」「仕事がなくてむしゃくしゃしていた」
 殺人未遂の現行犯で逮捕された造田(ぞうだ)博容疑者(23)は、取り調べにそう供述したという。

 翌日の読売新聞社説”余りにも理不尽な通り魔殺人”ではこの事件をこう論じている。

 「相手はだれでもよかった」「だれでも殺してやろうと思った」
 東京・池袋の繁華街で白昼、通りがかりの八人に、刃物や金づちで次々と襲いかかり、女性二人を死なせ、六人に重軽傷を負わせた造田博容疑者(23)は逮捕後の調べに、そう供述した。
 動機は「仕事がなくなり、むしゃくしゃしていた」ためだったという。
 余りにも身勝手な犯行だ。


 まさにいわれのない被害である。
 警察庁によると、こうした通り魔殺人や殺人未遂事件は、過去十年間に全国で五十件発生し十六人の尊い命が奪われている。痛ましいかぎりだ。
 その被害者の多くは、子供やお年寄り、さらには女性といった「弱者」だ。
 容疑者らは一様に「だれでもよかった」と言うが、その実、もっぱら「弱者」をねらった陰湿で卑劣な犯行だ。

 1999年時点でその過去の10年間に通り魔殺人や殺人未遂事件が50件あり、16人が殺害されたとのことだが、では、この事件以降の10年近い日々ではどうだったのだろうかと思った。機会があったら調べてみたい。
 新聞社の社説というものは、それなりに事件の社会的意味を語らなくてはならない。この9年前の事件はどのように語られたか。

 確かに、近年の犯罪は、以前に比べ凶悪化、粗暴化、陰湿化してきている。
 豊かさの反面で、長引く景気低迷と失業率の増大を背景として指摘する声がある。事実はどうあれ、造田容疑者も職を失ったことを犯行の動機に挙げている。
 また、地域社会のつながりの薄さが、防犯意識や犯罪抑止機能の低下を招いているとの分析もある。その結果、青少年を中心に、社会全体に「規範意識」が希薄になっているというのだ。
 さらには、家庭や学校の教育機能の低下も見逃せない。
 他人への思いやりや他人の痛みに対する想像力の欠如が広がってはいないか。
 昨年の毒物混入事件の連鎖や今回の事件に見られるように、不特定多数の人を対象にした犯罪の多発はそうした表れだ。

 1999年に「不特定多数の人を対象にした犯罪の多発」と語られている。そして、それを社会の問題と結びつけていた。

 造田容疑者は、高校を中退した後、職業を転々としており、会社に勤めてもせいぜい一年余りしか続かない。直前まで働いていた新聞販売店でも、四か月余り勤務したところで、突然、無断欠勤してそのまま行方がわからなくなったという。
 今回の犯行はあくまで個人の問題だが、「辛抱」や「我慢」といった訓練ができていない今日的な若者像を感じる。
 「むしゃくしゃした」こととこれだけの重大犯罪との間には飛躍があり過ぎるが、これもまた今日的犯罪の特徴だ。
 身勝手で理不尽な犯行――。
 憤りと同時に、社会の有り様も問われているような気がしてならない。

 私はこの事件をリアリティをもって想起できるとしたが、犯人が新聞販売店で働いていたことは失念していた。
 読売新聞は9年前には、辛抱や我慢といった訓練ができていない今日的な若者像としてこの若い犯罪者を描いていた。
 この事件では、別側面で失念してはいけないことがある。最初の記事の断片だが、殺傷のあとこういう展開があった。

 その直後、「だれか捕まえてくれ」と叫びながら追いかけてきたスーツ姿の男性が造田容疑者に追い付き、電気器具を投げつけるなどして同容疑者ともみ合いになったが、造田容疑者は男性を振り払って、池袋駅方面へいったん逃走した。

 そして通行人に取り押さえられた。1999年9月11日読売新聞記事”東京・池袋通り魔事件 「夢中で取り押さえた」 大阪の会社社長ら会見”より。

 不動産会社社長木村昌二さん(51)、同副社長松山英樹さん(36)、不動産管理会社社長大崎哲也さん(31)、同専務小西満さん(39)。
 当時、木村さんら四人は現場前にある視察先のパチンコ店内入り口付近にいた。
 四人によると、腰から血を流した若い女性が、苦しそうな様子でパチンコ店内に入って来て、抱きかかえていた夫らしい男性が「刺された」と言った。四人は店外に飛び出した。犯人らしい男がだれかともみあっているのが見え、近くにいた男性らと一緒に、地面に押さえつけた。

 事件はその後、裁判で被告の責任能力が争点となり、弁護側は「統合失調症による妄想に支配されていた」と主張した。が、一、二審はいずれも責任能力を認め死刑判決となり、昨年4月19日最高裁で上告棄却され死刑が確定した。
cover
池袋通り魔との
往復書簡 (小学館文庫)
青沼陽一郎
 この事件における責任能力の扱いはすでに最高裁の判断が出ているのだが、被告が統合失調症でなかったかというとそれはまた別の議論にはなるように私には思える。いや、私のこの事件の印象にすぎないが、精神的な病理の影を見たいという心情は多少ある。
 もし、それがない通り魔殺人というのものがあるとしたら、どこかに相応の精神的な病理のツケは社会に回るのかもしれないともなんとなく思うのだが、その印象はやや妄想に近いのかもしれない。

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2008.06.10

「嘘つきブッシュ」という物語

 タッチーな話題だし、みすみす誤解されるような話題に首をつっこむのもなんだが、これもいろいろ思うことがあったので少し書いてみたい。話は、米上院情報特別委員会(the Senate Intelligence Committee)が5日に採択した上院報告書だ(参照PDF)。
 日本国内で話題になったかどうかざっと見たところは確認できなかったが、英米圏の報道からは、よりディテールが報告されているものの、大筋では2006年に出された最初の報告書とはそれほど変わっていないような印象を受けた。そちらは読売新聞”米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定”(参照)で邦文で読むことができる。


米上院情報特別委員会は8日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。
 報告書は「フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない」と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも1996年以降、存在しなかったと結論付けた。

 今回の報告について、6日付けロサンゼルスタイムズ記事”Senate Intelligence Committee rebukes Bush, Cheney on prewar claims”(参照)では、委員長のロックフェラー上院議員(John D. Rockefeller IV)がタイトルに合わせたかのように、あたかも批判しているかのような顔面クローズアップ写真も掲載されている。実は、それが私の心にひっかかった部分なのだが後で触れる。
 ロサンゼルスタイムズ記事の話の大筋にはそれほど目立ったことはない。イラクとアルカイダの関連はなく、ブッシュ大統領とチェイニー副大統領は批判されるみたいなことが書かれている。

WASHINGTON -- In a long-delayed report, the Senate Intelligence Committee on Thursday rebuked President Bush and Vice President Dick Cheney for making prewar claims -- particularly that Iraq had close ties to Al Qaeda -- that were not supported by available intelligence.

 リードは多少興味深い。叱責にも関わらず処罰的な展開はないらしい。

The panel's reproach, the most pointed on pre-invasion intelligence, doesn't call for penalties or a follow-up inquiry.

 今回の報告書のディテールについて、「ほぉ」と思うことがあるにはあった。備忘を兼ねて引用しておくが、全体像の理解は後日すべてが歴史になってから考えなおしたい。

The second report focuses on secret meetings Defense Department officials held with an Iranian exile, Manucher Ghorbanifar, who had been a middleman in the Iran-Contra arms-for-hostages scandal of the 1980s and was shunned by the CIA as unreliable and untrustworthy.

The meetings, which took place in Rome and Paris in 2001 and 2003, have been a source of intrigue since they were first disclosed, with speculation that they were part of a broader effort by the Pentagon to usurp the role of the CIA.


 ロサンゼルスタイムズの記事はどこかしら歯切れが悪いというか、率直なところなぜもっとばっさりとブッシュ政権批判にならないのだろうかという印象はある。
 上院報告書を扱った、6日付けニューヨークタイムズ社説”The Truth About the War”(参照)は舌鋒鋭いようにも見える。

It has taken five years to finally come to a reckoning over how much the Bush administration knowingly twisted and hyped intelligence to justify that invasion. On Thursday --- after years of Republican stonewalling -- a report by the Senate Intelligence Committee gave us as good a set of answers as we’re likely to get.

 ブッシュ政権は、情報をねじ曲げごまかして侵略を正当化したというのだ。

The report shows clearly that President Bush should have known that important claims he made about Iraq did not conform with intelligence reports. In other cases, he could have learned the truth if he had asked better questions or encouraged more honest answers.

 ブッシュ大統領は真実を知るべきだったし知ることが可能だったというのだが、英文の言い回しにややキレがない。
 ニューヨークタイムズは共和党も批判する。

The report was supported by only two of the seven Republicans on the 15-member Senate panel. The five dissenting Republicans first tried to kill it, and then to delete most of its conclusions. They finally settled for appending objections. The bulk of their criticisms were sophistry transparently intended to protect Mr. Bush and deny the public a full accounting of how he took America into a disastrous war.

 報告書を支持した共和党委員は7名中2名。5名は当初廃棄しようとし、次に結論を削除しようとした。が、結局反対意見の追加に終わった。
 私はこのあたりで、ニューヨークタイムズの意見は共和党委員の意見を単純化しすぎているのではないかという疑念を持った。
 結語はこう。

We cannot say with certainty whether Mr. Bush lied about Iraq. But when the president withholds vital information from the public --- or leads them to believe things that he knows are not true -- to justify the invasion of another country, that is bad enough.

 ニューヨークタイムズ社説は、ブッシュ大統領はイラクについて嘘をついたのだと断言はできないとする。糾弾点は、そして、情報を隠蔽したこと、誤りを国民に信じ込ませようとしたことだとする。
 総じて通常より長めの、このニューヨークタイムズ社説のキレは悪い。単純なところ、ブッシュは嘘つきだとなぜ断言できないのだろうか。それはそれなりの理由があるのだろう。
 こうしたもやもやしたものを解いたのが、ワシントンポストに寄稿されたレッド・ハイアットのエッセイ”'Bush Lied'? If Only It Were That Simple.”(参照)だった。表題が振るっている、「ブッシュは嘘つきか? だったら話は単純だよな」。
 ハイアットはヒューモラスに切り出す。ネットを検索すれば、ブッシュは嘘つきだグッズが溢れている。だが、実際に報告書を読んでみな、というのだ。

But dive into Rockefeller's report, in search of where exactly President Bush lied about what his intelligence agencies were telling him about the threat posed by Saddam Hussein, and you may be surprised by what you find.

 読んだら驚くよ、と。

On Iraq's nuclear weapons program? The president's statements "were generally substantiated by intelligence community estimates."

On biological weapons, production capability and those infamous mobile laboratories? The president's statements "were substantiated by intelligence information."

On chemical weapons, then? "Substantiated by intelligence information."

On weapons of mass destruction overall (a separate section of the intelligence committee report)? "Generally substantiated by intelligence information." Delivery vehicles such as ballistic missiles? "Generally substantiated by available intelligence." Unmanned aerial vehicles that could be used to deliver WMDs? "Generally substantiated by intelligence information."


 今日ブッシュ政権が糾弾されている部分、つまりニューヨークタイムズ社説が誤りだったと批判することの大半は、報告書の判断では、当時の情報によれば十分に裏付けがある(substantiated)とされている。
 確かにブッシュ政権が未来を見通せるほど賢かったら、こんな歴史にはならなかったのかもしれないが、当時の状況下では、そう異常のことではないと評価するのも、それほど不思議なことではないのではないか。いや、私の意見を押しつけるのではなく、単に保守派のコラムを真にうけているじゃないかということでもなく、少なくともそれが今回の報告書の結果だったわけだ。
 ハイアットはさらに、委員長ロックフェラー上院議員が2002年に述べた言葉を引用している。

After all, it was not Bush, but Rockefeller, who said in October 2002: "There has been some debate over how 'imminent' a threat Iraq poses. I do believe Iraq poses an imminent threat. I also believe after September 11, that question is increasingly outdated. . . . To insist on further evidence could put some of our fellow Americans at risk. Can we afford to take that chance? I do not think we can."

 たしかにこの言葉を読めば、ブッシュとたいして変わらないではないかと思う。民主党の代表であるかのように見える彼でもそうだったのだ。
 ハイアットの結語はこう。

For the next president, it may be Iran's nuclear program, or al-Qaeda sanctuaries in Pakistan, or, more likely, some potential horror that today no one even imagines. When that time comes, there will be plenty of warnings to heed from the Iraq experience, without the need to fictionalize more.

 次期大統領は、今日から想像できない危機に及んだとき、イラク戦争から学ぶことは多いだろうが、その際には、これ以上の虚構化をしないでくれ、とハイアットは言う。虚構化とはブッシュ大統領を単に嘘つきにして終わりにせるなという含みがあるのだろう。
 私としては、イランの危機なんてないだろうし、アルカイダが諸国家を揺るがすような深刻事態も引き起こさないだろうと思うので、この手の話はそれはそれで煽りのような印象も受ける。

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2008.06.09

米国の時代が終わるという話の奇妙な含み

 話は昨日のエントリ「極東ブログ: アラブ諸国の若者人口構成が抱える爆弾」(参照)に関係して、今週の日本版ニューズウィーク6・11には国際版編集長フォード・ザカリアによる「アメリカ後の世界を読む(The Rise of the Rest)」という長めのエッセイについて。

cover
The Post-American World
Fareed Zakaria
Audiobook Version
 このエッセイはは近著”The Post-American World”(参照・オーディオブック)のサマリーともいえる。例によって英文は無料で読める(参照)。現代の世界をかなりざっくりと描いているので、大学生とかビジネスマンの人は読んでおくよいのではないかと思う。
 話はどうか。端的にいえば、米国の時代は終わるということ。そしてどうなるのか? 田中宇のいうような多元的な世界になるのか。
 ザカリアの考察には大統領選挙による米国の変化の可能性は含まれていない。この時期に出すのだから、なんらかの意味が合いがあると考えてよいのだろうが、そこは読み取りづらい。強いて言えば保護主義への牽制だろう。
 議論の起点は米国人の内省にある。イラク戦争の泥沼化や金融危機といったことから、意気消沈しているが、もっと深い問題があるとザカリアは説く。

 アメリカ人の不安はより深いところに根ざしている。不安を生んでいるのは、秩序を乱す大規模な嵐が世界で吹き荒れているという感覚。ほぼすべての産業や、生活のあらゆる面で、アメリカ人の今までの常識が通用しなくなっているようだ……。
 しかも、今の世界では、アメリカは脇役に回っているらしい。


 アメリカ人は、いまだに反米主義の実態や度合いについて論じている。一部の人々は、反米感情の高まりは深刻かつ憂慮すべき問題であり、信頼回復が必要だと訴える。その一方で、影響力が大きければ反感を買って当然、反米感情の多くは嫉妬の裏返しだから無視してかまわないという声もある。

 日本から見ていても、たしかにそのように見える。でも、ザカリアは、「反米」が終わったと言う。もちろん、それがまた米国が世界の中心に来るという意味ではない。逆で相対的には米国は弱くなる。
 だが、イメージと実態は違う。

 米メリーランド大学の研究チームは組織的な暴力による死者数を記録してきた。そのデータによれば、80年代半ば以降、世界的にみて戦争は減少しており、組織的な暴力については現在、50年代以降で最低のレベルにある。

 見方にもよるし異論もあるのだろうが、この先に引かれる、現在は「人類史上最も平和な時代」という評価は妥当だろう。
 だが、そう思えないという感覚はある。なぜか。

 にもかかわらず、なぜ今は怖い時代だと感じるのか。情報量が爆発的に増えているのが一因だろう。


 情報革命が起きたのは最近のことだから、報道する側も、ニュースを受け取る側も、あふれる情報との付き合い方をまだ模索している段階にある。

 つまり、情報と実態がずれている。私見を挟むが、現在は、生活の実感のようなものがメディアに吸い取られるような状況である。

 無差別で残酷なテロは、そのニュースに接した多くの人々に心理的なダメージを与える。「自分が犠牲者になっていたかもしれない」と思いがちなのだ。実際には、テロで死ぬ確率は極めて低い。

 ある社会的なファスが起きるとそこはなかなか通じなくなるものだが。
 軍事的な脅威について、ザカリアはこう指摘する。

 中国とロシアがアメリカに敵対姿勢を取ったところで、その脅威のレベルは知れている。ロシアの軍事費は350億ドル相当にすぎず、アメリカの5%だ。中国はアメリカに到達する核ミサイルを約20基保有するが、アメリカには中国を射程に収めたミサイルが830基(大半が多弾頭)ある。

 ザカリアはただし、台湾近海の軍事バランスなどは論じない。あくまで米国民向けの記述だからだ。
 以上はしかし、ある程度世界を見る人にとっては当たり前のことだが、以下は私でも、少しへえと思った。

 サウジアラビアやペルシャ湾岸の新興の非民主主義国家は、いずれも親米国だ。アメリカの軍事力に守られ、アメリカの兵器を購入し、米企業に投資しており、多くの場合、アメリカの言いなりになる。イランが中東で影響力を拡大しようとすれば、アメリカがわざわざ反発を招くような政策を取らない限り、これらの国々は親米色を強めるだろう。

 これは、見方を変えれば、その国々の民主化を構造的に抑制しているのが米国だし、少しものを考える人なら、日本も同じだなと気が付く。
 さらにへえと思ったのはそこまで言い切ったかというこれだ。

 あるいはイラク戦争。この戦争はイラクに長期にわたる混乱と機能不全を引き起こしている。200万人以上の難民が近隣諸国にながれ込み、当然ながら政治的な危機がこれらの国々に波及すると予想された。だが、ここ数年中東を旅して回った私は、イラク紛争がこの地域の安定にほとんど影を落としていないことに驚いた。

 そんなのはザカリアの個人的に印象に過ぎないと言うこともできるし、反例を挙げることもできそうだが、問題はその反例の規模だろう。総じて見ると、ザカリアの印象のように、中東は安定していると見てよいのではないか。
 ザカリアはこうした議論を進めながら、諸国のナショナリズムの台頭と米国の規範化(率直に言って米国はダブルスタンダードだった)を説いている。
 私としては奇妙な感じだ。日本から見るかぎり、依然米国の時代は終わってないと認識してよさそうな印象があるからだ。

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2008.06.08

アラブ諸国の若者人口構成が抱える爆弾

 気になっていたのだがこれもどう考えていいのか難しく、時を過ごしていた。が、昨日「極東ブログ: イスラエル・シリア平和交渉についての日本版Newsweekの変な記事」(参照)を書いたとき、シリアの内情についてあることが気になっていた。それが、シリアの政治状況に直接繋がるというわけでもないので、そこが言及するにためらう点だ。が、ブログなんで少し気楽に書いてみようかなと思う。
 気になったのは、シリアの若者の状況だ。シリアの人口構成と就労はどうなっているのか。資料としては少し前のものになるが、ジェトロのサイトアジア経済研究所 - 出版物・報告書 - 海外研究員レポート””(参照)にある、”シリア 『ダマスカス現地事情(1)(高橋理枝)』 2006年9月 ”(参照PDF)には次のようにある。


 シリアは20 歳未満が人口の約半数を占めており、増大する若者人口に対して十分な職を提供できない状態にある。失業率は国全体で12.3%(2004 年)だが、特に若年層の失業率が高い。全失業者の26.6%を15-19 歳が、34.3%を20-24 歳が、25-29 歳を18.2%が占め、これらを合わせると失業者の約80%が30 歳未満となる。


 JOBFAIR は主に大学卒業生や職業経験のある若者を対象としているが、シリアの高等教育のGrossenrollment Ratio は10%強に過ぎず、失業者の多くは実は教育レベルが低い層に集中している。例えば2004 年のデータでは、“読み書きができる”が全失業者の31.5%、“小学校卒”が27.5%で、両者が失業者の半数以上を占めることになる。他方大卒は失業者の2.6%を構成するに過ぎない。民間企業の求人では大卒が条件とされることが多いことを考えると、失業問題として深刻なのは実際には教育レベルの低い若者ということができるだろう。シリアの失業問題の解決のためには、JOBFAIR のような試みに加えて、教育レベルの低い若者に対する対策が別途必要であるように思われる。

 ポイントは、シリアは20歳未満が人口の約半数を占めていること。それだけなら、若い人々の溢れる国家と言っていいかもしれないが、問題はその就労だ。12・3%の失業者に占める30歳未満が80%というのは問題は問題だろう。ただし、絶対数として若者が多いのだから若者の失業者も多いと言えるのかもしれない。
 シリアの人口動態が気になったのは、3日付けのフィナンシャルタイムズ社説”Demographic time-bomb in Mideast”(参照)のことが心にひっかかていたからでもあった。

The bombs and the bluster in the Middle East are tediously familiar. Less so is what is arguably the most daunting strategic challenge facing the Arab countries: the youth bulge.
(中東における爆弾の破裂はうんざりするほど慣れてきた。だが、アラブ諸国が直面する、最も気落ちさせる挑戦には異論はすくない。つまり、若者の急増である。)

As a special report in the Financial Times this week spelled out, up to two-thirds of Arabs are under 25 and more than one in four have no job, in a deeply troubled region with the world's worst employment rate. A World Bank study on the Middle East and North Africa five years ago reckoned the region would need to create 80m-100m jobs by 2020.
(今週のフィナンシャルタイムズ特報によると、アラブ諸国の3分の2までもが25歳以下であり、無就労は4分の1を超え、世界最悪の雇用率による深刻問題地域となっている。5年前の世界銀行による中東・北アフリカに関する研究では、この地域には2020年までに8000万から1億人の雇用創出が求めらるとしている。)


 このアラブ諸国が主にどこを指すかというのがややぼんやりとしてはいるが(後半にはエジプトの状況が言及されてはいる)、シリアもまた同構造にある。
 フィナンシャルタイムズは、この問題はアラブ諸国だけの問題ではなく世界の問題だ(not only for the region but for the world)と、さらにそれは経済の問題だけではない(That sea change is not just about economics)として毎度ながらの欧米的な民主化や自由化の理想が語られるのだが、単純にいってかなり難しいだろう。

The dominance and vested interests of the military and the intelligence services ultimately kill innovation and entrepreneurship in the same way the education system inhibits critical thinking and initiative. Importing technology is fine but ultimately these countries need the educational rigour that produced it.
(軍部の専制と広範な権益に加え、諜報業務は革新と起業家精神を徹底的に圧殺するし、それはこの教育制度が批判的思考と主導性を抑制するのと同じだ。技術移転はよいとしても、これらの国々はそれを生み出す教育的活力が必要になる。)

 フィナンシャルタイムズとしては、国民国家の教育レベル(たぶん女性解放も含まれているのではないかと思う)が向上しなくては、技術移転も投資も成果をもたらさないとみている。それはそうなのだろうというのと、その理念はかなり机上の空論のようでもある。
 今後はどうなるのかわからないが、産油国と非産油国の差は出てくるだろう。また、アラブ諸国と一括できないような政治的・軍事的な対立がさらに悪化させることにはなるだろう。
 欧米の理念がこのフィナンシャルタイムズ的なものであっても、実態としての欧米諸国はこれまでアラブ諸国をそうした状況に縛り付けておくほうが利益になっていた。さらに皮肉もある。
cover
The Post-American World
Fareed Zakaria
Audiobook Version
 今週の日本版ニューズウィーク6・11には国際版編集長フォード・ザカリアによる「アメリカ後の世界を読む(The Rise of the Rest)」という長めのエッセイがある。近著”The Post-American World”(参照・オーディオブック)のサマリーともいえる。ここではポスト米国時代を楽観的に描くのだが、アラブ諸国をこう見ている。

 サウジアラビアやペルシャ湾岸の新興非民主主義国家は、いずれも親米的だ。アメリカの軍事力に守られ、アメリカの兵器を購入し、米企業に投資しており、多くの場合、アメリカの言いなりになる。イランが中東で影響力を拡大しようとすれば、アメリカがわざわざ反発を招くような政策を取らないかぎり、これらの国々はますます親米色を強めるだろう。

 それは現実認識だし、実際のところ、オイルマネーを介した欧米色の影響力の結果なのだろう。これがどれほどか、フィナンシャルタイムズ記事の理想とそぐわないことかと思う。そしてその矛盾は欧米諸国にあるし、日本もまたその一部になっている。

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