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2008.01.06

ケニア暴動メモ

 ケニア暴動は沈静化の方向に向かっているようだ。すでに300人からの死者を出し、避難民は25万人とも推定されているが日本国内報道は薄く、大手紙も社説では扱ってはいない。ブログなどでもあまり話題にはなっていないように見受けられる。ミャンマー暴動とは種類が違うもののその関心には落差があるものだという印象が強い。
 日本語で読める報道として詳しいのは4日付AFP”ケニア暴動、このまま国家崩壊か?”(参照)だったように思われる。表題はやや先走った印象があるが、本文は国際的な関心の焦点でもある、ルワンダ虐殺(ジェノサイド)のような事態が進展する可能性についてポイントを絞って言及している。


 観光業で繁栄し安定した国家というケニアのイメージは、大統領選の結果をめぐる混乱で壊れ始めている。ただ、専門家の中には、大量虐殺の悲劇が起こったルワンダのような事態には発展しないとの見方もある。
 なたを振り回し、民族間で殺害が繰り返され、対立する政党からは「大量虐殺」や「民族浄化」だとの声が挙がる中、ケニアが「血の海」と化すシナリオも現実味を帯びてきた。
 強硬政治にいら立ちを覚えた住民が暴徒化、国全体が「炎上」している。同国のメディアは、政治的解決がなされなければ、多くの隣国を破滅に追いやった民族紛争に発展する可能性があると警告した。
 これに反して専門家は、同国内の治安部隊が、東アフリカの大国ケニアを混乱から救うことができると分析する。

 AFP報道では、ルワンダ虐殺のような事態になる可能性について双方の意見を載せてバランスさせているが、反対意見の識者コメントにやや重心を置いているようだ。

 ケニアの弁護士で政治評論家のJohn Otieno氏は、「皆が民族間の争いとみているが、そうではない。絶対権力を有する政府は存在しないという事実を含めた、国民の権利を実現している社会の問題なのだ」と強調する。
 Bellamy氏は「キバキ氏も選挙で敗れたルオ(Luo)出身のライラ・オディンガ(Raila Odinga)氏も、民族紛争をかき立てようとはしていない」と語る。

 他報道から見ても幸いにしてそうした見解が外れてもいないだろうが、民族的な対立の構図はある。ただし多元的であるとして記事は展開される。

 2003-06年、駐ケニア米大使を務めたMark Bellamy氏は、「ケニアの民族構成の特徴は多様性。ルワンダやブルンジとは異なる」と指摘する。
 1990年代に民族紛争から数十万人が犠牲となったルワンダとブルンジは主にフツ(Hutus)とツチ(Tutsis)から成るが、ケニアでは少なくとも42の民族が存在している。
 不正操作の疑惑を持たれながらも前週再選を果たしたムワイ・キバキ(Mwai Kibaki)大統領は、キクユ(Kikuyu)出身。ケニアでは最近、キクユが政財界を支配してきた。
 キクユは、人口3700万人のケニアにおける最大民族であるが、全人口の22%を占めるにとどまっている。これは、ほかの民族を差し置いて完全に支配できる民族はないことを意味する。

 ケニアはルワンダとは異なり二つの民族が対立しているのではなく多民族構成だということで、その構成をもってジェノサイドの抑止になるだろうという推測もあるのだろう。この観点については後で再度触れる。
 AFP記事の焦点は以上で終わり、背理法的に政治的な状況がクローズアップされるのだ、その前にもう少し現状に近い状況を別ソースで見ておきたい。5日付け毎日新聞白戸圭一記者による”ケニア:襲撃恐れ避難民25万人 野党は再選挙求める”(参照)が詳しい。

昨年末の大統領選挙を巡るケニアの暴動は4日、沈静化の様相を示したが、襲撃を恐れて国内避難民となった住民に対する人道支援が急務となっている。国連人道問題調整事務所(OCHA)は4日、国内避難民が約25万人にのぼるとの推計を発表。赤十字国際委員会も同日、ケニア西部リフトバレー州を中心に困窮生活を強いられている避難民約10万人に対する緊急食糧援助を国際社会に要請した。

 OCHAの推定である25万人の避難民情報が正しいなら、潜在的にジェノサイドの危険性は暗示される。
 政治的な状況、および今回の暴動の経緯について話を戻そう。
 暴動のきっかけは、昨年12月30日発表された大統領選挙だ。与党国家統一党(PNU)現職ムワイ・キバキ候補が、最大野党オレンジ民主運動(ODM)のライラ・オディンガ候補を小差で破り再選したとされる。が、この選挙には不正があったとして、ODM側が反発して各地で暴動が発生した。
 重要なポイントの一つは不正が本当にあったかなのだが、あったと見てよい。5日付けCNN”ツツ元大司教、ケニアのエリート層を批判”(参照)より。

挙管理委員会は与党・国家統一党(PNU)の現職、ムワイ・キバキ候補(76)が得票率51.3%で再選されたと発表。しかし同48.7%と小差で敗れたODMのオディンガ候補(62)は、選挙で不正があったと主張し、国際監視団体も不正を指摘した。3日には司法当局者が、第三者によって票集計を調査するべきだとの認識を明らかにした。

 政治的な状況からは、民主化に対する弾圧という構図も取り出せる。その意味で、先日のミャンマー暴動と類似点もあるが、そのような国内外の関心は現実は低い印象を受ける。
 こうした政治的な構図からすれば、選挙の見直しや連立の政権など、政治的な落とし所が見えないわけでもなく、各国がそうした暫定的な解決に向けて動き出している。その意味で、現状暴動は小康にあり、まったく展望が見えないわけでもない。当面の話としては一段落ついたとも言える。
 が、民族対立という構図は潜在的に大きい。そのあたりに踏み込んだ報道はあまり見かけなかったのだが、3日付けニューヨークタイムズ”Ambition and Horror in Kenya ”(参照)は、わかりやすかった。

Tribal resentments have long played a role in Kenyan politics. They flared anew after Mr. Kibaki and Mr. Odinga fell out over the spoils of the 2002 election. Mr. Kibaki comes from the long-dominant Kikuyu group, Kenya’s largest. Mr. Odinga comes from the Luo, a smaller but politically important tribe. Much of the violence of recent days has involved these two groups. In rural Eldoret, some 50 Kikuyu were burned to death inside a church where they had sought refuge. In the vast and tribally mixed urban slums of Nairobi, rival militias have been waging open warfare.

 問題の根にはキクユ族とルオ族の対立があり、これは2002年の大統領選時点の不和に根を持っている。AFP記事では単にケニアの民族人口比を挙げたが、現実の政治状況では単純な民族構成比が問題となるのではなく、民族間の優位が問題になる。その意味で、ルオ族を"a smaller but politically important tribe"として捉えている点はニューヨークタイムズの視点の深さがある。また、民族間対立で引き起こされた悲劇的な事件についても触れている。
 こうした点から今回の暴動を見直すと、政治的な構図の背景に民族的な対立の構図が大きく横たわっており、問題の根はそれゆえに深い。
 なお、今回の暴動があったとき、私が気になったもう一つの視点は印僑の存在だった。結果からすれば印僑への暴力はなかったようだが、インド関係の報道がすぐにこの視点を取り上げていたのは印象的だった。

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