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2008.12.01

ムンバイ襲撃事件、雑感

 気が付くと12月になっていたという感じもしないでもないが、アドベントでクリスマスツリーの飾り付けをして、以前に書いたエントリ「極東ブログ: アドベント(待降節)になった」(参照)や「極東ブログ: 私のお気に入りのクリスマスソングCD」(参照)を思い出した。そういえば、ブログを書いてなかったな。
 時代を記録するなら書き落とすわけにはいかないという事件は、ムンバイ襲撃事件(Mumbai attacks)だろう。国内の報道を見ていると、ムンバイ同時テロと呼ばれているようだが、十数カ所で展開されたからという理由はあるのだろうが、その日本語の語感は私にはいまひとつなじめない。セプテンバー・イレブン(September 11 attacks)が同時多発テロと呼ばれることと連想付けたいのだろうか。
 事件を最初に聞いたときは、私は、多発しているインド国内のテロ事件の一つくらいにしか思っていなかった。日本ではあまり報道されていないがインドではテロは多発している。今回は規模も大きいが、問題は規模ということだろうかというくらいに思った。規模でいうなら一昨年の鉄道テロのほうが大きかった。なぜ今回日本で連日話題になっているのかとニュースを聞くと邦人も巻き込まれていたらしい。亡くなったかたに哀悼したい。
 最近のニュースを見ると、テロリスト残党はなお逃走中とのことだが、概ね事件は終わったかのような印象を受ける。背景についてはまだわかっていないようだが、インドで拘留されているイスラム活動家の釈放を要求している、武装グループのメンバーはパキスタン出身ともされている、といった情報が確かなら、パキスタン側の勢力の関与は強く疑われるし、印パ問題が関連しているという見方もあるだろう。しかし、現状は両政府とも冷静に対応しているし、率直にいって、こうした政府が関与しているとは想定しがたいテロで印パ関係が直接不安定になることはないように思える。
 と、書いてから、次のニュースを見た。日経「インド同時テロ、パキスタン過激派の犯行 地元警察が断定」(参照)より。


インド西部の商都ムンバイを襲った同時テロで地元警察の首脳は30日夜、事件はパキスタンが地盤のイスラム過激派組織「ラシュカレトイバ」の犯行であることを断定したと発表した。拘束された唯一の実行犯が同組織のメンバーであることを供述したという。これを受け、インド政府は同組織の取り締まりを求めてパキスタン政府に圧力をかけるとみられ、印パ関係が悪化する可能性もある。


 ムンバイ警察の発表に対し、パキスタンのザルダリ大統領の報道官は「パキスタンの組織が関与したことを裏付ける証拠は示されていない」と反発した。

 印パ関係への影響は弱いと見るのはむずかしいか。
 私がやや意外に思ったのは、このテロは最初からムンバイ在留の外国人を狙うことが目的だったのではないかという点だ。つまり、インドのドメスティックな文脈や印パ問題の文脈というより、当初から世界に向けてテロ、それ自体をアピールする意図があったのかもしれないという点だ。とりあえず特徴的な部分はそのくらいしか思いつかない。
 しかし、セプテンバー・イレブンと同様、犯行側の明示的な声明は出ていない。アルカイダとの関連を疑うというのも、もちろん疑いとしては否定はできないが、現状ではそうした線が濃いと強く想定できるものでもない。
 あるいは、ムンバイに象徴されるインドのグローバル化への反発という線も考えられる。このスジで読むなら、イスラムだからパキスタンというより、インド内に存在する一億五千万人以上のイスラム教徒のありかたとの関連を見ないといけないことになる。これはやや無理スジか、そこまでイスラム教徒というくくりで見るよりも、特定のイスラム勢力と考えたほうがよいだろうし、であれば、この読みスジは基本的にインドのドメスティックな文脈に返ることになる。
 時期的には、米国にオバマ政権が誕生する前夜ともいえるため、その線での読みというのも可能は可能だろうが、これも読みのスジとしては弱いように思える。
 あまり報道を見ていないのだが、私が今回の事件で重視したいのは、そうした事件そのものの背景より、これがインドの内政に与える影響力のほうだ。現在インドでは、6つの州で地方選挙が行われ、来年5月までには総選挙が行われることになる。来年はインドの政治が大きく転換する年になる。
 選挙の構図で問題になるのは、まいどながら、国民会議派とBJP(インド人民党)の対立だ。現状、国民会議派が主導の与党に対して、インド人民党が最大野党となっている。が、総選挙後、この構図が崩れ、98年から04年のようにBJPが与党になる可能性が出てきている。問題は、以前のBJP政権がどちらかといえば穏健であったのに対して、目下の状況では、ヒンドゥー教団体で最大規模のRSS(民族義勇団)を取り込む形で、かなりヒンズー教的なナショナリズムの傾向を見せていることだ。
 こうした構図のなかで、今回のテロがどのような影響を持つかが、結果的にインドを見るうえでもっとも重要な視点になるように思える。が、すでに述べたように、今回の事件は、直接的にはこの構図には関与していないかにも見える。
 こうした動向は、襲撃事件がもたらす直接的な脅威の感情がほぐれたあたりで再考してもよいかと思う。

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コメント

このテロが行われたのがムンバイであることが引っかかります。

ムンバイは、インドで最も人口と経済の集積度の大きい都市のはずです。さらに、商港でもあるし。

インド国内で、もっともアメリカ化の進んだ場所がムンバイであるとされてムンバイが襲われたのだとしたら不気味に思います。もちろん、IT拠点のベンガルールのほうが、ムンバイよりさらにアメリカナイズされている都市であると思われるので、インド国内のアメリカの象徴としてムンバイが狙われたと考えることは無理がありますが。

パキスタンでテロがあったときは、狙われたのはイスラマバードのアメリカ資本の高級ホテルだったので、テロの対象というのはなんらかアメリカが連想されているのであろうとは思います。

日本でテロが起きないのが不思議ですが、イスラム諸国とは友好関係を保ちたいものです。イランがアメリカの敵国なのに、日本がイランの友邦であることが見逃されているのは不思議なのですが、こういう盲点も有意義な外交関係にしてほしいものです。

投稿: グローバル化の問題? | 2008.12.03 08:02

今回のムンバイ事件の動機がグローバルなのかローカルなのかは、まだ未解明なのでしょうけれど、ローカルなテロリストがアルカイダ的グローバルなテロ思想に影響された可能性もあるのでしょうか。

なお、bk1でテロリズムをキーワードにして本の検索をしてみたら、『グローバル・ジハード』という本が講談社から最近出たようです。amazonでも扱っていました。

投稿: | 2008.12.07 10:52

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