Whoa, bloggers; this won't last.
またR.サミュエルソンのコラムの感想みたいな話。20日付け”In Good Times and Bad”(参照)が面白かった。今日出るはずの日本版のニューズウィークに翻訳が載るだろうか。世界経済の現状認識として、自分に一番しっくりくる。まあ、そりゃそうか。
話の切り出しは、四半世紀も前のウォールストリート・ジャーナルのコラムニスト、ジェームズ・グラントを引いて、経済というのは良いときもあれば悪いときもあるみたいなこと。読みようによっては「極東ブログ: ウォーレン・バフェットのありがたいご託宣」(参照)と似たような陳腐な話なのでそこはどうでもよいのだが、以下の部分はまず勇気をもって言い切って見せているあたりがすごい。
We Americans want instant solutions to problems. We crave a world of crisp moral certitudes, but the real world is awash with murky ambiguities. So it is now. Start with the immediate question: Has enough been done? Well, enough for what?
(私たちアメリカ人は問題に即効性のある解決策を求める。私たちは確固たるモラルの確実性をもった世界を渇望するが、現実の世界はくぐもった曖昧性に満ちている。それが現状だ。先ほどの疑問から始めよう。もう十分な対応はなされたのか? そもそも何に対して十分なのか?)
ポールソン禅師・バーナンキ僧正の栄光の禿コンビの対応でよいのか、と。後光はもう十分なのかと。
If the goal is to prevent a calamitous collapse of bank lending, the answer is probably yes.
(もしゴールが銀行取引の悲惨な崩壊を防ぐということなら、解答はたぶん、イエスだ。)
つまり、システミック・クライシスは過ぎ去った。
じゃ、喜ぶべきか。
Last week, the government guaranteed most interbank loans (loans among banks) and pressured nine major banks to accept $125 billion of added capital from the Treasury. Together, these steps make it easier for banks to borrow and lend. There's less need to hoard cash.
(先週、政府は、大半の銀行間ローンを保証して、9つの主要な銀行は、財務省から追加された1250億ドル資本注入の圧力を受けた。併せて、これらの処置で銀行間の貸し借りが容易になる。持ち金の必要性も減る。)。
で? 別のゴールは何処?
But if the goal is to inoculate us against recession and more financial turmoil, the answer is no.
(しかし、ゴールが不況と経済混乱の予防だというなら、その解答は、ノーだ。)
つまり、不況にはなるし、経済の混乱はまだ続く。
それはそうんじゃないか。そして、経済とはそんなものだ。先は見えない。しかし、見えるものがある。何か?
In this fluid situation, one thing is predictable: The crisis will produce a cottage industry of academics, journalists, pundits, politicians and bloggers to assess blame.
(流動化した状況にあって一つだけ予測可能なことがある。それは、この危機が、経済学者や、ジャーナリストや、専門家とか、政治家とか、そしてブロガーといった家内工業によって、誰を罰すべきかの議論を生産することだ。)
いやはやまったく。そしてその手のバッシングにいささかウンザリしてきたところだ。
Is former Fed chairman Alan Greenspan responsible for holding interest rates too low and for not imposing tougher regulations on mortgage lending?
(グリーンスパン前FRB議長には、過剰低金利を維持し、抵当権付き住宅ローンの規制強化をしなかったことに責任を負っているのだろうか。)
Would Clinton Treasury Secretary Robert Rubin have spotted the crisis sooner?
(クリントン大統領時代のロバート・ルービン財務長官は危機を早期に指摘しえたか?)
Did Republican free-market ideologues leave greedy Wall Street types too unregulated?
(共和党の「新自由主義者」は、ウォールストリート経済を過剰に無規制にし、貪欲なままにしておいたというのだろうか?)
まあ、あれだな。オバマが大統領に決まったようなものだから、これ以上の共和党バッシングはなりをひそめているというか、それ以前に実質共和党自身が沈没しちゃったしな。まあ、これでもバッシング大会はお通夜みたいなものだろうし、少し目先が利く人ならこれからオバマ大統領がうんこまみれになるのもわかるし。ここは、じゃ、前列からお焼香を。
Some stories are make-believe. After leaving government, Rubin landed at Citigroup as a top executive. He failed to identify toxic mortgage securities as a big problem in the bank's own portfolio. It's implausible to think he'd have done so in Washington. As recent investigative stories in the New York Times and The Post show, the Clinton administration broadly supported the financial deregulation that Democrats are now so loudly denouncing.
(こうしたお話のいくつは嘘っこだ。ルービン財務長官も政府を辞した後、シティグループのお偉いさんになり、同社のポートフォリオにとって過剰な住宅ローン保全が大問題になると認識し損ねのだ。彼なら政府内でうまくやりおおせたとは考えがたい。ニューヨークタイムズとワシントンポストが最近明らかにした話だが、目下民主党が声高に非難している経済規制緩和を、クリントン政権は支持していたのだ。)
んだね。民主党だったらうまく行ったというのは幻想だろう。で、彦左衛門の罪は?
Greenspan is a harder case. His resistance to tougher regulation of mortgage lending is legitimately criticized, but the story of his low-interest-rate policies is more complicated.
(グリーンスパンについては難しい。彼が住宅ローン規制に抵抗したことは法的に非難されているが、その低金利政策は複雑な話なのだ。)
True, the overnight Fed funds rate dropped to 1 percent in 2003 to offset the effects of the burst tech bubble and the Sept. 11 attacks. Still, the Fed started raising rates in mid-2004. Unfortunately and surprisingly, long-term interest rates on mortgages (which are set by the market) didn't follow. That undercut the Fed and is often attributed to a surge of cheap capital from China and other Asian countries.
(実際は、1日フェデラルファンド金利を2003年に1パーセントにまで落としたのは、ハイテクバブル崩壊と9・11の影響を緩和させるためだった。しかも、FRBは2004年半ばから金利を上げ始めた。しかし不運かつ驚くべきことに、市場の住宅ローンの長期金利は、利上げに追従しなかった。FRBの施策を削いだのは、しばしば中国やその他のアジア諸国からの安価な資本の大波に帰せられる。)
ここが難しいところだ。この問題の渦中、私は背伸びして「極東ブログ: グリーンスパンの難問(Greenspan's conundrum)」(参照)というエントリを書いた。この問題の解決についてはその後、経済学者さんらがいろいろ説明している……が、私はよくわからない。サミュエルソンは、アジアから資金だろうとしている。
ここでもう一つ困惑する。たぶんサミュエルソンは配慮しているのだろうが、このカネはけっこう日本から注入されたものだし、以前のコラムではいわゆる円キャリーを示唆していた。私がいま一つリフレ政策に納得しづらいのは、このあたりだ。日本で金利を下げるなりしてもそれはただ海外に流出しこうした予想外の問題を起こすのではないか。少なくとも、この歴史はそれを意味していたのではないか。まあ、経済学オンチの私なので、よくわからないし、目下の日本はそんな状況でもないが。
サミュエルソンのコラムはそのあと、共和党政権の経済政策について仕方がないのさ的な援護したように筆を進める。私はその部分はそうだろうなと思う反面、多少違う要素も思う。真相がわかる日が来るのか、多様な真相が語れるだけなのか。
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コメント
ふたを開ける前に「オバマに決まり」で、「オバマがうんこまみれ」になるのがわかってしまった。
わたしもそう思います。きっとみんなそう思っているはずです。
また、アーミテージさんの名前を出しますが、オバマとマケインとどっちが大統領になっても、東アジアの外交担当は、実質的にアーミテージ財団という話をどこかから聞きました。
そうだとすると、オバマでも、アメリカは、日本に、"Show the Flag"、"Boots on the Ground"?
まあ、横須賀に原子力空母がすでに寄港しているのだから、それも仕方ないか。
投稿: オバマに「決まり」 | 2008.10.22 15:15
権力の掴み取りの筈がババの引き合いに成り下がりましたか。何度も何度も言うけどさ。
パワーゲームに勝者は居ない、最後に残った者が尤も大きく負けるだけ。諸業務上の諸行無常、ですな。
パワーゲームを基準に据える戦略は、どこで何やっても同じ結果しかもたらさないのに、なんで世間はそれで生きようとするんですか? ワッショイワッショイで神輿担いで大通り練り歩いて、重たくなったら叩き落して潰れた誰かにハイエナごっこですか? 死肉が主食のケモノ根性ですか? 揺すり集りが世の常ですか? 陰でこっそりやられたら泣く子が黙って可哀想だから、いっそ大通りで大破して衆目に晒されて「あーあこいつら何やってんだよ?」って思われた方が、よっぽど世間はマシになるってことですか?
そんな感じ。
投稿: 野ぐそ | 2008.10.22 21:22
私は今日、新聞記事であなたが書いたブラッデイ・マンデイについての「人気番組の寄せ集め?」という記事を読みました
あなたがノンフィクション作家だとは知っていますが、書き方が卑劣ではないですか?
あなたにとっては腹がたって緊迫感のないドラマだったとしても、もう少し違う書き方があったんじゃないですか?あなたはブラッデイ・マンデイの制作者だけでなく、とても楽しいと言って演じている役者さんや、おもしろくてわくわくすると感じたブラッデイ・マンデイのファンのみなさんを侮辱していますよ。しかも、1話か2話しかみていないのにあなたに何がわかるんですか?あなたが東京放送に危機感を覚えたのならあたしはノンフィクション作家に幻滅をしました
上辺だけでしかみてないんですね。もぅ少しちゃんとみましょうよ
投稿: 新聞記事を読んだ人 | 2008.10.22 21:40
アメリカが資産価値の変動に収益を見出すモデルに乗って世界を弄くって来た結果、政治的弱小国は外貨準備を積んだ。その積んだ金をさんざ使い回した上に、世界中に散らした。
一見、米国は悲劇の中心にいるようだが、実は違う。
投稿: PK | 2008.10.22 21:54
新聞記事を読んだ人さん、こんにちは。公式に名前を明らかにしていないのでなんともな面はありますが、人違いだと思います。
投稿: finalvent | 2008.10.23 10:11
横レス。
>パワーゲームを基準に据える戦略は~なんで世間はそれで生きようとするんですか?
代議制の本質。他人の褌で儲けようとする輩は原始共産主義でもならないと消せないねw
投稿: ト | 2008.10.23 18:35
オバマ大統領の民主党政権になって、米中接近で、日本が軽視されると心配している方々が多いようですが、私はあまり心配していません。
中国のさまざまの国内事情のために、アメリカが中国に近づけば、おそらくアメリカの内政にいろいろな不和を生み出すだろうと考えています。それほど長い間、アメリカと中国は仲良くしていられなくなるだろうと思っています。
また、良好な米中関係が続いて、日本がないがしろにされたときには、日本にもちゃんと打つ手はあります。ブラフだけにしておけば、それほど深刻な影響もないと思います。どういう手かは具体的には申し上げません。私も自国と自分の同胞たちは大切ですから、軽率に公言すべきでないことは口をつぐみます。
投稿: 米中接近? | 2008.11.08 15:46
オバマ大統領就任で全米が沸きかえっているようです。
アメリカ国民がどこまで本気で期待しているのかわからないけれど、とにかく期待は大きいみたいです。
でも、共産主義への期待が大きかったほど失望も大きかったわけで、期待が大きいほど失望も大きいのが世の常です。
わが国でも、細川内閣の時に政権交代を経験しましたが、細川内閣にどれほどのことができたでしょうか。いまでは、日本新党もさきがけも新進党も存在しません。公明党は自民党と連立政権を作っています。
そんなわけで、民主党に政権交代しても、たいした期待をしないことです。いままでの政界官界財界のありかたが一変できるわけがないのだから。政権交代したらいきなり憲法改正ができるわけでもありません。
期待が大きいほど失望も大きい、ということを知ってしまったから、私も欧米の流行思想の追っかけをやめて、いまでは、慈恩大師とか賢首大師とか天台大師とか、そういうようになったのだと思います。欧米の経済思想や金融工学はひどいババをつかませることがあるけれど、南都北嶺の仏教は、レバレッジ効果もないけれど、自分に小さなころからなじみがあって、自分たちの爺さんやひい爺さんたちもそれにどっぷりつかっていても無事でいられたわけだから、まあ、安全だろう、という次第。
よそから入ってきためずらしいえらく得しそうな話に安易に飛びつくより、自分たちが今まで培ってきた美点を大切にしようという話です。
オバマ大統領も"change"と"maintain"を上手に使い分けてほしいと思います。どんなにたいした人であれ、一人の人間がそんなにたいしたことができるわけがないのだから。
投稿: 期待が大きいほど失望も・・・ | 2009.01.20 15:12