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2008.10.14

デレバレッジを急ぐのはよくないぞというご意見とか

 エジプトからの旅団が遠くバビロンを眺めるとあたかも風にたなびくこともなく天から一本の細い糸が垂れているようにその塔を思うように、物事は遠目で、薄目で見ていると、簡単な図だけが浮かび上がることがあるし、人が死んでみてその人生という短い期間に想起できることといえばごく僅かな単純なできごとでしかない。2008年米国で突然投資銀行が消えた。
 つまりはそういうことなのだが、それは目に見える一つの結果であってその時代に生きていた人がその塔の頂上に望んだこととは違うように、別の結果に翻弄されるものだ。株が、落ちたとか。いや随分落ちたね。こんなに落ちたのは、八〇年くらい前のことだなと言えるのは日野原重明先生くらいか。
 なぜ投信銀行が消えたのか。なんとなくわかっている気がするが、そのわかった気分の中心にある感覚は、バカじゃねーの下手な博打を打ちやがって、くらいなものではないか。そしてそこから貪欲なカネの亡者は消えて当然とか、あるいはそれでも消えたら銀行が不安になるとか通常の銀行と投資銀行の差なくふかすポジション発言などが出てくる。ただ、それは構図が違うのではないか。
 例によってロバート・サミュエルソンのコラム”The Engine of Mayhem”(参照)を読みながら、経済学に無知でよくわからないなと思う部分もあるが、そうだよねと思うことも多い。


It's easy to explain the continuing financial chaos -- and the failure of governments to control it -- as the triumph of psychology. Fear reigns, and panic follows.
(継続している経済混乱と政府による制御の失敗を説明するのはたやすい。心理学の勝利ということだ。恐怖が君臨し、パニックが続いた。)
Everyone dumps stocks because everyone believes that everyone else will sell. Only rapidly falling prices attract sufficient buyers. All this is true. But it ignores the real engine of mayhem: "deleveraging." That's economic shorthand for purging the financial system of too much debt.
(みんなが売りに走ると信じたことでみんなが株を手放した。急速降下する価格だけが十分な買い手を魅了する。こんなことが起きているのだ。しかし、本当の騒乱の動力をもたらしたのは「デレバレッジ」だ。つまり、負債を過剰に手放そうとする拙速な経済行為である。)

 試訳がちょっと恣意的だけど、そういう語感か。つまり、現在の株価の乱高下は心理的な問題だし、それを引き起こしたのは、「デレバレッジ」だというのだ。
 「デレバレッジ」というのが私にはよくわからない。掴んだババを早急に手放そうとするというふうにサミュエルソンの説明は読めるが、他のソースInvestopedia(参照)とか見ると。

A company's attempt to decrease its financial leverage. The best way for a company to delever is to immediately pay off any existing debt on its balance sheet. If it is unable to do this, the company will be in significant risk of defaulting.
(経営上レバレッジを会社が減らそうとすること。会社がデレバレッジする最善の方法は、既存の負債をバランスシートから早急に償却することだ。それができないと、会社は債務不履行の深刻な危機になる。)

 どうということが書かれているわけでもないように思うが、要点は、"immediately"(急速に)ということかもしれないと、サミュエルソンのエッセイを読んで思ったのだが。
 同ソースではこうコメントが続く。

Companies will often take on excessive amounts of debt to initiate growth. However, using leverage substantially increases the riskiness of the firm. If leverage does not further growth as planned, the risk can become too much for the company to bear. In these situations, all the firm can do is delever by paying off debt.
(会社は初期成長に過大な負債を追うことがある。しかし、レバレッジを使うことで会社のリスクを実質的に増大させる。予定通りにレバレッジが成長しないなら、会社は負担に耐えられなくなるだろう。こうした状況で、会社というものは負債解消にデレバレッジを行いうる。)
Any sign of deleverage shown by a company is a red flag to investors who require growth in their companies.
(デレバレッジをする会社というのは、会社の成長を求める投資家にとって危険信号が点ったことになる。)

 これもどうということではないが、やはり、要は期間ということなのだろう。サミュエルソンのコラムの副題が”There Are Dangers in Deleveraging Too Fast”(デレバレッジが急速過ぎることの危険性)ともあるし。
 サミュエルソンのコラムに戻ると、まず彼はサブプライムローン自体の問題性を再考する、というかまいどのサミュエルソン節だが。

Alone, American subprime mortgages should not have triggered a global crisis.
(アメリカのサブプライムローン自体では全世界的な危機を引き起こすはずはなかった。)

 このあと、それに結びつけられた資産価値が問題だという話になる。ま、それも要するにありきたりのバブルということだけのように私には思える。
 サミュエルソンとしてはこの問題には十分対応できたのではないかと筆を進めるのだが、その先でいったい何が起きたのかと疑問を再提出する。

What we've discovered is that the real problem is bigger. Large parts of the financial system are too thinly capitalized and too dependent on unreliable short-term debt.
(私たちが発見したことは本当の問題は大きいということだ。経済システムの大半において、資本の支えは薄く、信用しがたい短期負債への依存が大きすぎる。)

 現況の認識しやすとしては、これもごく普通のことだし、日本人にはさらにそうだ。

Deleveraging -- a shift from excessive debt toward more capital -- is inevitable and desirable in the long run. The trouble is that, in the short run, it could destabilize the economy if it proceeds too rapidly.
(過剰な負債から資本を求める変化であるデレバレッジは、避けがたく長期経営にも好ましい。問題は、短期で見た場合だ。それがあまりに急速に進行すると経済を不安定にしてしまう。)

 サミュエルソンはその説明を続けるのだが、そのあたりにはなるほどと思う。そう見ると遠目で見たようなわかりやすさはあるし、昨今語られている危機の説明のいかがわしさにも示唆的ではある。反面、それもまたトンデモ経済学かなという疑念もないわけではない。
 マスメディアの騒ぎを見ていると早急な解決が叫ばれているが、むしろ状況はずるずるとした不況に流れ込んだほうが、中期的な経済安定にいたるのかもしれない。というか、公的資金投入が解決だと騒ぐ日本のマスメディアは結果として、これからだらだらと世界不況続くことにコミットしているんじゃないか。結果的にそれでよいのだとしても。

追記
 サミュエルソンの今回のコラムで実は一番重要なのは以下の部分。重要なのであえてそこはリンク先の原文を読んでいただきたいと思ったが、やはり日本にとっても重要なので追記。


Consider stocks. Their plunge has been driven in part by hedge fund selling. Hedge funds often buy stocks by borrowing from their "prime dealers" -- firms such as Goldman Sachs and Morgan Stanley, which in turn borrow from commercial banks. If banks "deleverage" by reducing loans to prime dealers, then prime dealers tighten up on hedge funds, which react by selling stocks. "It's a big piece of why the stock market is down," says Michael Decker, former chief economist for the Securities Industry and Financial Markets Association and now co-head of the Regional Bond Dealers Association.

All around the world, we see variants of this cycle. Countries could face crippling capital outflows. The yen "carry trade" -- borrowing at low interest rates in Japan and lending at higher rates in other countries -- is reportedly contracting. Iceland's main banks have been nationalized because they couldn't renew their short-term borrowings. But if credit is withdrawn too abruptly, the prices of stocks, bonds and other assets that it propped up -- and also the real economy of production and jobs -- will fall. And the effects feed on themselves. Hedge funds, for example, have been hit with high redemptions from investors: about 5 percent in September, 2 1/2 times normal, says Charles Gradante of the Hennessee Group. These compound selling pressures.


 ちょっと強引な敷衍になるかもしれないけど、いわゆる「円キャリー」によって世界経済において日本が実質的な投資銀行の旦那の役割をしていたとサミュエルソンは見ているに等しい。この見解はそう簡単に諾とできるものではないが、広義にはそうだし、日本政府がまさにその旦那だったと見ることもできるだろう。で、そうだとすれば、目下の危機において重要なことは、円キャリーが継続できるように、日本は円安を誘導することが重要になるはずだ。ただこれはむやみにやればいいわけはないだけど。

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コメント

あのさ。私もそんなに会計は詳しくないがそれでも「あ、知ったかぶりしてるう。」って判ってしまって、それで最後に与太を跳ばして終わりって手を抜きすぎじゃないですかねえ。

>(私たちが発見したことは本当の問題は大きいということだ。経済システムの大半において、資本の支えは薄く、信用しがたい短期負債への依存が大きすぎる。)
>これもごく普通のことだし、日本人にはさらにそうだ。

はああ?
あの~、その後に
Leverage ratios often reached 30 to 1 for investment banks and hedge funds
って続いているのに気がつきませんでしたかそうですか。
おまけに、日本の金融機関はアメリカ以上に短期借入金に依存しているって。。。じゃあ、今晩あたり麻生さんは、中川さんや白川さんを読んで銀行への公的資金投入について密談しているわけなんですね。へえ、これはすごい事態だ。日本だって金融恐慌一歩手前ってわけだ・

投稿: F.Nakajima | 2008.10.14 22:39

 今さらのよーに商業簿記やってる馬鹿野郎の分際で偉そう言うんだけどさ。負債は財産のうちなんだよね。

 資産=負債+総資産(純資産)ってゆーか。

 ジャイアン流に言うと「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」って感じ。
 簿記上はそういうもん?だと腹を括って居直るのも、場合によっては悪くないのかも。いずれ返せる当てのある人限定ではあるけど。

 でもアレだね。こーやって不安心理煽られて即行売りに走りまくる様を見てると、投資でお金を殖やそうという根性の人は、簿記の基本に一遍立ち返ってみるのもいーんでないの?って感じがするんだけど。

 サブプライムっつったって、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないくらい切羽詰まった人だけが貸し借りしてるわけでもないでしょ。…もしかして…そーなん…?

 …もしかして…もしかせんでも、金を貸す側も借りる側も途轍もないド素人の集団で、仲介して利ざや抜いてる連中だけプロってこと?

 それは遺憾ですなー。そういうの、実質詐欺って言いますなー。駄目ですかー。そうですかー。ハイ、残念。

投稿: 野ぐそ | 2008.10.15 03:49

エントリーの意味がきちっとつかめていないのにコメント入れてすみません。

デフォルト(債務不履行)にならないためにはディレバレッジが必要なら、悪いことをしているわけではないという短絡的な感想を持ったのですが、過剰だから問題があるということなのですか。

公的資金投入すれば、だらだら世界不況が続くけれど、当面の破局をなんとか回避しないと、世界経済が重症の肺炎に罹患してしまうのでは。

経済的には最悪の事態は避けられそうだと予測しております(甘いかなあ)が、政治的には、どこもひどく困難な舵取りを迫られるだろうと思っています。

社会の仕組みや世界観は変わると思っています。たしか1873年のウィーン発の恐慌でしたっけ。自由放任(レッセ・フェール)の時代が終わって、マルクス主義が流行するようになったのは。

そういう種類の思潮の変化は起こると思います。ただし、マルクス主義の復活と再生はないと思いますけれど。

投稿: デフォルトしない程度? | 2008.10.15 08:17

 言っちゃ悪いんだけど、簿記って言わば「お片付け」みたいなもんで、従来的な感覚から言えば、お片付けそのものは財にも富にもならんわけで。いわゆる「お金儲けの上手な人」「現時点で多量の富を保有してる人間」って、簿記なんかどっかの姉ちゃんに小遣い渡してやらせとけばいいからくらいにしか思ってなくて、理由はいいから兎に角稼げばいいんだよ!! 的な世界観のまま突っ走ってるだけだと思うんよね。

 ご家庭の主婦とかそういう世界観の延長上に居て、なんとなく家事全般やってるだけみたいなのも、結構居る。実際バリバリ家事やってて気の強い人なんかは「主婦が家庭を守ってるからお前は職場に心配事持ち込まなくていいんだ感謝しろ」なんて言ったりするけど。でも言っちゃ悪いがそんな主婦は少数派で、ほとんど多数の主婦は費用対効果の悪すぎるクソ労働力と過剰に馬鹿な消費欲求を持て余してブーム次第で右に左にふらふら動き回る乞食みたいなもんで。都会逝ったら特にそうで。

 んで、そーゆー乞食をわざわざ相手する商売人が跋扈するから、商業のレベルってどんどん下がる。レベルが下がるから、腕とか気概とか心意気で売るみたいな上質な馬鹿が居なくなって詐欺とか賄賂とか囲い込みで売るような下種が幅を利かせるんで。だから、昔っから士農工商で最下層なんだ。自業自得なんだよ。
 元々商売である以上、上質も下種も同じく囲わなければならんもんではあるけど、だから別に下種は死ねとかそういうもんでは無いけど、余りに下種すぎるのは大問題だって、今や全世界がそうと気付いた?わけじゃない。

 そういった連中が何だかんだで幅を利かせる世の中って、まぁ行く末詐欺と暴力と負債と返済が支配するしか無くて。そーじゃなくて。自分のことは自分でキチンとやるとか、遊んで散らかしたら後片付けするとか、先ず自分の人生にゆとりを持って、然る後に人様世間様見渡すとか。そういう次元に逝かんと駄目なんですよ。

 どっかの誰かがそこへ逝って他の誰かを導くとかでは無くて、個人個人が自分の力でその人なりにキチンと逝くべきところへ逝かんと意味が無いわけで。
 その上で、市場社会なり何なりコミットせんことには、絶っっっ対振り回されるだけだから。それじゃあ今までと何ら変わらんから。と、いう感じで。世の中見て欲しい。感じ。

 商業学科だけじゃなくて、普通科の一般科目とか中学生の必須科目に簿記を入れろと。3,4級でいいから。「商売とはそういうもん」だって概念をキチンと教えろと。斯様思うんですがね。

 昔の日本人が識字率高かったのにしても、要は読み書き算盤は商売人必須だから、会得しなきゃ生きていけないから、だからやってたわけでさ。今ほど商売必須な世の中も他にあるもんでもないのに、商売のイロハから知らんような馬鹿が多数居る社会は、どーやったって間尺に合わんわけでさ。
 ご家庭の主婦とかは、ヒマ持て余してブームに乗っかれる程度に馬鹿なんだったら、せめて簿記3級くらいは資格取っとけと。言いたいんですが。

 どうせ言ってもやんねーだろうから未来永劫馬鹿のまんまで結構ですよ、としか言いようが無いんだろうけど、まぁそれにしても、ちったぁ世間の有り様に対して一定の知見を持っていただきたいな、と。思うわけです。

投稿: 野ぐそ | 2008.10.15 13:35

finalventさん、こんにちは、

全文読み切れてませんが、「Mayhem」とかいうと「ファイト・クラブ」の「Project Mayhem」とか、そのラストのビルが崩れ落ちるシーンとか思いだして鬱です。

投稿: ひでき | 2008.10.15 14:05

えーと、この手の話題はいつも簿記、会計、経営学、経済学の用語を、皆さん混同して使用してません?って感じです。

産業資本、商業資本、金融資本、この割合、方向を変えるのに急ぎすぎは(・A・)イクナイってことを言ってるのかなぁと。
(ちなみに思想的なことは全く分かりません(>_<))

投稿: cli | 2008.10.16 03:01

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