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2008.10.17

「サブプライム問題に端を発する」のか?

 あらかたシステミックな金融危機は峠を越したようだ。英金融サービス機構(FSA)ターナー長官のアナウンスメント(参照)やフィナンシャルタイムズの”Panic passes but the causes remain”(参照)などからはそんな印象を受ける。そして、以前なんとなく予想していたように原油も下がってみると、株価の乱高下もありがちなマネーゲームのようにも見えるし、普通に不況になっていくということではないか。とりあえず。と、いうのはまだまだ闇があるからみたいに曖昧なことを言いたいのではなく、チャイナリスクは消えたわけでもないだろうなという思いが残る部分があるからだ。もっともことさらに騒ぎ立てるような話でもない。では今日のお題はというと。
 世界経済の沈没や米国金融問題を騒ぎ立てる話の枕詞に、「サブプライム問題に端を発する」というのがある。変な表現だなと思うのだが、サブプライム問題が要因ではなくて引き金だったとか、たまたまそこから問題が吹き出た、とかいう曖昧な思いを込めているのだろうが、曖昧なわりに、どうしてかくもこの枕詞が定着しているのか、というのにこの間変な感じがしていたいので、ちょっとこれもメモ程度の話。
 「サブプライム問題」というのもいろいろ解説されるのだが、ようするにプライムじゃない人へのクレジットの問題というふうになる。あからさまに言えば、貧乏人にカネを貸すときの信用問題で、最初から貧乏人に貸しているんだから貸し倒れすんだろ、われ、みたいな含みがある。
 が、そうなんだろうか? と気になっていたのだが、今週の日本版ニューズウィーク10・22、ダニエル・グロスのコラム”「諸悪の根源」は大誤解”が興味深かった。オリジナルは”Subprime Suspects”(参照)で無料で読める。
 話は、FF兄妹の経営もだが、CRA(Community Reinvestment Act:地域再投資法)が諸悪の根源ではないという主張だ。同法は、地域の金融機関に対して、その地域への融資を積極的に行うことを義務づけるものだ。日本でも共産党が望んでいるようだ(参照)。


アメリカの「地域再投資法(CRA)」(一九七七年)は、低所得者層などが多く住む地域への金融機関の融資差別をなくすためにつくられた法律で、地域の活性化に効果を発揮しています。

 全文六条からなり、銀行など預金を扱う金融機関に対し、低所得者や中小企業を含め、営業地域の資金需要に適切にこたえる責任があることを明らかにし、監督官庁は、CRAの評価基準にそって銀行の合併や支店の開設などの可否を判断します。


 米国で作成されたのはカーター民主党政権でクリントン時代も推進された。今後のオバマ政権でどういう扱いになるのかわからないが、ネットをざっと見ると、グロスのコラム以外にニューヨークタイムズも似たようなことを書いている(参照)ので、ありがちな政局ネタだったのかもしれない。話としては、CRAがサブプライムを産んだのだろうという右派からのバッシングに、左派が抗弁するという図のようでもある。
 グロスのコラムに戻ると、CRAが問題ではない理由が三つあげられている。三番目からがわかりやすい。いわく「貧困層やマイノリティへの融資は本質的にリスクが低い」。日本のサブプライム問題解説の多くの前提とは逆のように思える。が、実態はリスクは低いのではないか、悪い言い方だが、所詮は貧乏人である。大損こけるほど貸してもらえるわけがない。
 二番目は不動産大手の破綻の多くはサブプライムローンと関係がない。これもそのようだ。
 そして私にとってはわかりづらいのが一番目の理由だ。CRAの規制は預託銀行を対象としていたが、住宅ローン会社や投資銀行には適用されず、こいつらがローンを証券化して損を出した、ということだ。
 そのあたりは、なんとなく日本で語られるサブプライムローン問題の説明にもあるのだが、あまりすっきりしない。というのは例えば。

 6日の公聴会で、ファニーメイとフレディマックの経営危機が、リーマン破綻にどの程度影響したか聞かれて、フルドは答えた。「微々たるものだ」

 フルドはリーマンのCEOである。
 「サブプライム問題に端を発する」といってもサブプライムローンそれ自体は、証券化のネタというくらいの意味合いであって、今回の金融危機は一般的な証券化とそのレバレッジの仕組みのドジということなのではないか。
 だとすると、こういうときに「サブプライム問題に端を発する」という枕詞にどれほどの意味があるのか、って、枕詞なんだから意味はないのだよといえばそうかもだが。

追記
 この分野でご活躍中の切込隊長さんによるコメントをいただいた(ありがとう)。

 「切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog: 池田信夫氏はいったい何を言っているのだろう」(参照


 これに関連して、最終爺老師が疑問に思っている部分は「ほんとにサブプライムが引き金なんすか」という話であるが、クライシスという点では、まあ実際そのサブプライムが引き金なので間違いではない。

 とのこと。

本件記事におけるリスクが低く見えている理由は、家(不動産)を担保に入れて、焦げたら家を剥がして転売する、その転売することでデフォルトリスクの金利の一部を相殺できるほど不動産市況が上がっていた(地域もある)からで、貧乏人に対する与信自体はあまり問題にならず、貧乏人が買う家など担保物件の相場が上がり続けていたから過去のリスク評価は低く見積もれるというだけだ。

 したがって「不動産バブルが崩壊しました」といった瞬間に、不動産に依拠しない貧乏人のナマのリスクをまとめて引き受けていたのがFMだのFMcだのだったし、それらの決済や信用補完で裏書してた金融に波及して、というのは致し方のないお話。


 つまり、不動産バブルが崩壊するまではOKだったけど、不動産バブルが崩壊してしまうとそうでもないよとのこと。
 なるほどねと思う反面、ちょっと腑に落ちない感は残るというのが正直な印象。

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コメント

finalventさん、こんばんは、

CRAだったかどうしても記憶が差だけでないのですが、さかのぼること20年近く前、米国の金融機関はしぶちんで有名でした。金利は高いし、頭金(downpayment)は4割とか5割とかなきゃ話にならなって状態でしたし、商用不動産もメインテナントが契約すんでなきゃ、お金誰もださないよという時代がありました。

当時、なんとか集合住宅をつくろうとすると、たしか貧困層やカラードな方たちのための補助金を頭金代わりにもらってなんとか立てるしか方法がなかったのだと聞きました。その補助金の名前がどうしても思い出せません。米国におけるもともとのハウジング・プロジェクトとは、英国ゆずりかしませんが結構手厚いものがったと記憶しています。

で、なにを言いたいのかというと、ほんらいこの手の住宅の問題が起こった場合、なんらかの救いの手がはやめはやめに打たれるとか、そもそもその発生に近い時点で補助金だすとかが米国本来の政策の性質だと私は思っています。保安官が競売中止を言い出すなんてのは日本じゃ考えられないじゃないですか。

http://jp.reuters.com/article/marketEyeNews/idJPnTK814783920080331

ジェファーソン大統領じゃないんですけど、どうもこの辺に言葉にならない、理論的にまとめるできない今回のサブプライム問題への疑問が私の中であります。

投稿: ひでき | 2008.10.17 22:21

いつも拝見させていただいております。

この間の金融パニックについては必然であったと、私は考えております。
生来、疑問に思っていたことがやっぱり間違っていたんだなぁという具合に。

その曖昧な理解が、ラビ・バトラの著作(分析)を読んで腑に落ちたためか、
この先の長い不況トンネルも抜けて行けるやと変な安心感にとらわれたりしています。

ラビ・バトラについて、finalventさんはどのように思われているでしょうか?
私は、ラビ・バトラの経済における多くの問題は需要と供給によるというシンプルな見立てと、
そこから導き出した予測には、かなり妥当性があると判断しました。

未読でしたら、否定的でも良いので、是非書評をしていただきたいと思っております。

投稿: oboro | 2008.10.18 11:08

貧乏人の借金で世界経済がおかしくなるなんて辺ですよね?
だから、僕は、やらせ恐慌だと思っているんです。リーマンの破綻も、おそらく資産は逃避しちゃった後で計画的に、日本の金融危機の経過を参考にやったんじゃないですかね?
借金をちゃらにするには、負債の踏み倒しとインフレと通貨安です。
アングロサクソンは頭がいい。最後まで疑ったて掛かる方がいいです

投稿: PK | 2008.10.18 11:19

PKさんが「アングロサクソンは頭がいい。最後まで疑って掛かるほうがいいです」とおっしゃってくれたところで、ただいま、米英両国が日本の国連安保理常任理事国入りを明確に支持したという報道を知りました。非常任理事国当選は当然歓迎。

わたしは、リチャード・アーミテージ氏は個人的に好きなのだけれど、彼にあまり引きずられてはいけないと思っています。言うべきときには、いやなものはいやだとはっきり言ったほうがいい。そのほうがかえって後でアメリカ国民に感謝してもらえることもあろうかと思っています。

日米英同盟って言うのは、結局、ロシア、中国、インドといったユーラシア大陸の大国を海洋国家が封じ込める仕組みだと思っています。それが、有益で有効なこともあるのだろうとは思うのだけれど、基本的には大西洋の(トランスアトランティックな)同盟の枠組みに、日本と韓国と台湾とフィリピンが無理やり組み込まれているのは、やはり私らは、アングロサクソンに従属しているだけってこと。

これからは、制約されてはいても、主体性は大切。もう、田中角栄氏がロッキード事件で「爆殺」された時代とはずいぶん事態が異なっているだろうと思います。

とは言え、もちろん、わたしは、反米が自己目的化している者などではありません。

投稿: アングロサクソンは頭がいい | 2008.10.19 14:48

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