« [書評]やせれば美人(高橋秀実) | トップページ | 日本の備蓄米放出の話、その2 »

2008.09.16

リーマン破綻、雑感

 世界経済のむずかしい話なんか私のような阿呆なブロガーにわかるはずもないのだが、ここは世界の傍観者として一言くらい。とはいえリーマンがサラになったらサラリーマンとか暢気な洒落言っている場合じゃなくて、これで人生が狂ってしまう人もいるのだろうなと思う。株とか投資は一種の博打なんで勝ちもあれば負けもある、というのをそれなりに人生のどっかの局面で覚えておくといいのだけど、初手からずんどこする人もいるだろう云々。
 私が微細に株をやってたころは安田二郎の本とかよく読んでいた。この人今どうしているのだろう。すがやみつるさんが安田の奥さんはきれいなかただったと言っていたがそれはさておき、安田は株は博打じゃない三分の一にまで落ちることはないと言っていたのを思い出す。ついでに、人の行く裏に道あり花の山というのも思い出すが、さてそんなことは今でもあるのか、いやあるんだろうけど、そこを行くのは「人」じゃあないんだなとしみじみ思う。
 さて。
 蓋を開けて見て後出しじゃんけんで言うなら、リーマンの破綻は「極東ブログ: ファニーメイとフレディマックと中国の物語」(参照)で触れた、FF兄妹の救済の必然なわけでポールソンはそこまで決めていたのだろう。では、市場関係者はその必然を読んでいたかというとそのあたりをどう読むかが傍観者の視点。私は読めてなかったし、読めてない人も多かったのではないか。15日付けエコノミストのコラム”Nightmare on Wall Street”(参照)も率直にこう書いていた。


The weekend began with hopes that a deal could be struck, with or without government backing, to save Lehman Brothers, America’s fourth-largest investment bank. Early Monday morning Lehman filed for Chapter 11 bankruptcy protection. It has more than $613 billion of debt.

 リーマンはどっかが救うんだろうという曖昧な空気だったのだろう。ベア・スターンズみたいに米政府かな違うかな("with or without government backing")、という逡巡に、FF兄妹の救済からさらに微妙な空気が加わり、だからこそそれが醸し出される前に、結果的にだけど、一気に潰したということなんだろう、毎度ながら薄目傍観だと。
 というわけで、その線引きは何?ということになる。フィナンシャルタイムズ社説”Kill or cure for the Wall Street malaise”(参照)はそこにきちんと焦点を当てていた。

Lehman is entering bankruptcy because the US Treasury refused to subsidise a rescue. That is a change of policy after Bear Stearns and a stark contrast to the nationalisation of Fannie Mae and Freddie Mac. It is emphatically a courageous call. The Bear Stearns bail-out was motivated, and probably justified, by the fear that a collapse of Bear would wreck the entire financial system, so interconnected was the bank with its peers.

 フィナンシャルタイムズは、ベア・スターンズとFF兄妹を救済してからの政策転換(a change of policy)があると指摘している。そしてそれは勇断(It is emphatically a courageous call)だとも評価している。
 FF兄妹は特例というのはわかるが、ベア・スターンズとリーマンの違いは何かは問われる。ベア・スターンズの場合は突然で連鎖を恐れたということだ、そうだ。

An important distinction between Lehman and Bear is that, while Bear failed suddenly, Lehman Brothers has been struggling for months. Those exposed to its failure have had time to hedge their risks and tidy up their transactions, so the financial system, rocky as it is, may be able to handle the unwinding of Lehman’s financial contracts in an orderly fashion. If so, the decision by Hank Paulson, the Treasury secretary, will be seen as the moment when investors and bankers had at last to take responsibility for their own risky decisions.

 違いはリーマンの場合はもう市場的には敗戦処理に入っていて、その処理というのはまさに普通に(in an orderly fashion)市場の問題でしょ、なので、潰れたのは普通に市場の原理でしょ、ということなのだろう。
 それで納得するかというのは別問題であれ、とりあえずそこで線引きしたわけで、そこから結果論的に見るとFF兄妹を救済した時点で、ポールソンの腹は決まっていたわけなのだろう。
 その視点から他はどうなるとフィナンシャルタイムズは見ているか。

The future of Goldman Sachs and Morgan Stanley, the last two independent investment banks, is now an open question. Goldman has survived not because of a fundamental difference between it and Bear, Lehman and Merrill, but because it took more successful bets. Investors may be happy to bet that the run of success will continue, but regulators may not: expect capital requirements to be tightened.

 つまり投資というのは賭けなんだから賭けに勝つか負けるかということ。政府がすべきことは金融の緩和くらいなものか。
 いやはや、日本人からするとひんやりしたものだのうという感じもするが、日本の場合は投資がどことなく日本に閉じているという印象から日本人の資産を防衛しなくてはアンヌ隊員、みたいな情感が働くからで、米国の場合はそういうものでもないだろう。
 フィナンシャルタイムズ社説の結論はその意味でだめ押しになる。

For now, the Treasury’s calculated risk looks better judged than those of a banking system intoxicated by bail-outs. Yet even well-judged gambles often fail.

 とはいえ、社説冒頭では新しい時代になるだろうとも言っていてそっちのほうが結語にふさわしい。

The world has not ended. The international economy has not yet collapsed. But one thing is now quite clear: the banking system as we know it has failed.
(世界は終わっていない。国際経済はまだ破滅していない。しかし、現時点で明確なことは、我々が銀行システムと呼ぶところのものは、もう失敗している。)

 これで問題が終わったわけではなく、なんとか今週を乗り切っても、この先のエコノミストが言うように信用問題は厳しくなりそうだ。

Even if markets can be stabilised this week, the pain is far from over?and could yet spread. Worldwide credit-related losses by financial institutions now top $500 billion, of which only $350 billion of equity has been replenished. This $150 billion gap, leveraged 14.5 times (the average gearing for the industry), translates to a $2 trillion reduction in liquidity. Hence the severe shortage of credit and predictions of worse to come.

 ひどくはなるのだろう、というか中期的にはそうかな。
 日本については、その問題、国際的な信用の喪失(Worldwide credit-related losses)もだけど、政策的には朝日新聞記事”日銀も1.5兆円の資金供給 金利は据え置きの見通し”(参照)ということ。

また、日本銀行は16日午前、金融機関の間で手元資金を融通し合う短期金融市場に対し、臨時に1兆5千億円を即日供給する公開市場操作(オペ)を実施すると発表した。短期金融市場に予防的に資金を供給するとみられる。日銀の白川方明総裁は「適切な金融市場調節の実施などを通じて、円滑な資金決済と金融市場の安定確保に努めていく」との談話を発表した。

 これで金利引き上げもないし、消費税アップの話は雲散霧消。結果的に便乗リフレってことになりそう。庶民的には、バブル期が若い人が思っているほどバブルの恩恵がなかったように、逆に今回も金融問題の波及は限定的で、当然インフレになるので経済苦しいなというのはあるけど、そこにかこつけて、しばらくすると意外に正解はリフレでしたねみたいなことになるんじゃないだろうか。楽観過ぎるかな。

|

« [書評]やせれば美人(高橋秀実) | トップページ | 日本の備蓄米放出の話、その2 »

「経済」カテゴリの記事

コメント

リーマンの破綻の負債がほぼ64兆円だということですが、日本の不動産バブルがはじけた後始末で、日本の金融機関の隠れた不良債権総額が全部で大体100兆円くらいで、その後のアジア通貨危機での損失を考えるとその100兆円にその通貨危機関連分の巨額の負債がさらに付加されるということだそうですが、金融機関1社の負債が64兆円というのは馬鹿にならない数字だと思っています。

ヨーロッパの危ない金融機関がどのくらい負債を抱えているやら。

また、リーマン以外のアメリカの金融機関もどのくらい負債を抱えているやら。

ただ、不勉強だったので知らなかったのですけれど、ITバブルとかニュー・エコノミーっていうのは実は不動産バブルだったのかと今になって知ることができています。でも、ITバブルやニュー・エコノミーの本質が不動産の証券化に起因する、おそらく年金基金主導の不動産バブルであると20世紀末の時点で知っていたところで私にはどうにもならないことなのもわかっています。

ルンペンしている今のうちに、いろいろ勉強しておきたいと思っています。次に読むのは古生物学の本です。

投稿: 64兆円?! | 2008.09.16 13:50

うーむ、民間企業や証券会社に国がどう関わるかという問題では既にないのですよね。banking systemがもう既に終わっちんぐで、結語に相応しいのなら、この先の未来も真っ暗じゃないですか?先の不安を解消するものは何もないですよね。安心できる隙もなく、言葉もなく・・・厳しいんですね。
なんだか、絶望の淵へ向かう道筋が全くぶれずにこのままここのコメントの通りに行ってしまうのでしょうか。
経済の建て直しは一体どうしたらよいものか、その不可解さがすごく厳しいこととして、ずしんときて、気持ちが沈んでしまいました。

12日のエントリーでは、経済についてよく分かりませんでしたが、「株」→「経済」をどのように読むのかが、今回は少し分かりました。勉強になります。

投稿: ゴッドマー | 2008.09.16 15:12

リーマンと言えば、住宅ローンと共に中国投資に大部突っ込んだ金融機関ですよね。中国経済が好調だった頃は、ドル暴落、これからは中国元の時代!みたいなリーマンの調査結果とかいう報道をよく見たような気がします。ググると新華社あたりと提携もしてるようですし、一時は中国政府系銀行がリーマンの救済に乗り出す、なんて記事も。中国投資は不良債権に入ってるんですかね?これから投資の回収見込みを精査する時、それらはどう評価されるんでしょうね。

投稿: 2000割れ | 2008.09.16 18:28

>人の行く裏に道あり花の山というのも思い出すが、さてそんなことは今でもあるのか、いやあるんだろうけど、そこを行くのは「人」じゃあないんだなとしみじみ思う。

 その道逝って無事に帰って来れる人とか居るんですかね? 普通は居ないから、株は極道のやるものって言い習わすんだと思いますが。最近は言わないんですかね?
 そういや小倉優子も株やってるらしいですな。フーン、あっそう。誰のパシタですか?

>市場関係者はその必然を読んでいたかというとそのあたりをどう読むかが傍観者の視点。私は読めてなかったし、読めてない人も多かったのではないか。

 フツーに読んでおるから、別にどってことない。いやアメ公カッケーなぁって感じ。

 あと、以前のいつだったかアメリカンのメンタルは日本の江戸時代と余り変わらんとも言いましたけど、であるなら、江戸時代と余り変わらんメンタルを幾分継承するところの私が思うままに、彼らは動くでしょうとしか。そんな感じ。
 読もうよそのくらい的な。大体、弁当爺ちゃんは俺のコメントを何だと思うておるんだと。毎回馬鹿言うとるやないけ。それをマジんなってやるからアメ公怖いんだろうが。じゃなかったら原爆だって落とさねっちゅの。
 あとねー。ポールソンとかフィナンシャルタイムズとか、その辺の連中のメンタルは俺(の一部)とそんなに違わん。てゆーか、記事読む限りだと殆ど同じ事を考えておる。で、それをやる。カッケーwww

 駄目なものはさっさと潰すに限るんだよ。同胞が~とか甘いこと言っちゃ駄目。日本が正にその路線だけど、その結果国体そのものがガタガタになっちゃっただろ。補助金乞食が御輿担いで群れなして、我にも寄越せで襲い掛かって総裁の座まで取っちゃったじゃない? そんで今さらのよーに小銭バラ撒いて借金こさえて(←どーせやるに決まってる)、それどーやって返すのさ?

 それこそカネの貸し借りやってるヤツらが死に絶えて権利放棄するまでひたすら待つ以外に打つ手無くなっちゃったわけでさ。それが日本社会の活力を削ぎまくってる源泉なんじゃネーノ? って思うんだけどさ。

 俺にもカネ寄越せって皆が言い出したらキリ無いから、迂闊にバラ撒きかねないような馬鹿に権力持たせちゃマズいんだよ。目先のひとりに撒いたら後は鬼に成らなきゃ駄目なんだ。2人目3人目が絶対寄越せって言うだろが。そこで迂闊に2人目に撒いたら、最後の一人まで撒かないと収拾付かなくなるんだっつーの。
 そのへんの機微が分からんわけでもなかろーに、なんでまた中途半端に優しく出来るんだか。それこそ意味が分かりません。
 ホント、補助金乞食は碌なもんじゃねーよ。障害者とか被災者とか重篤患者とか、受け取って然るべきマトモな筋の人間にカネ回すような世の中になってくれよまったくもー、って感じ。

 自力更生できねー馬鹿はどんだけ生きても迷惑以外の何者でも無いんだから、渡せる引導ならさっさと渡した方が世のためなんだよ。残念ながら。

投稿: 野ぐそ | 2008.09.16 21:11

案の定、中国銀行がリーマンの債券を大量に保有していたみたいですね。おかげで東京NYが戻す中、上海は続落、銀行株はストップ安。

上海株17日・大幅続落――連日で年初来安値を更新、銀行株安い
http://markets.nikkei.co.jp/kaigai/summary.aspx?site=MARKET&genre=d4&id=AS3L1705D%2017092008

つい先日、インフレの中、まさかの6年ぶりの利下げをやったにもかかわらずの結果です。さすがにここまで下がってくると実体経済にも影響が出てくるのでは。

投稿: 終値も2000割れ | 2008.09.17 18:05

野村證券さんがリーマンの枝切れ(端柴というには大きすぎる)をずいぶん買い物するそうですが、人間、環境が変化したからといって、すぐにはなかなか人間性まで変容できないもの。

野村さんは日本の最大手で、優良顧客が多いから、危険極まりない博打は、きっと、あまり好きではないと思うのだけれど、リーマンなんていうのは、乾坤一擲の大博打が好きな連中の集まりだからきっとこんな羽目になったわけで、そういう連中をたくさん引き取ってしまって再教育しようとしても、果たして彼らが野村の流儀をどこまで飲み込めるかどうか。

野村の財布にはお宝がしこたまだ、と知ってしまえば、連中はまたばかばかしいくだらない博打で大損しそうな気がしてます。

グローバル経済環境で、事業を世界大に大きくする喫緊の必要のある今、こういう買い物は得な買い物だと思うのでしょうが、リーマンでいい思いをした人たちは、野村のスタッフになってもきっと似たような行動様式から抜け出せないで、いずれ、野村さんに大きな迷惑をかけるような気がしています。

人間、看板をどう変えても、本質的なところはなかなか変えられないものです。自分を省みればわかりそうなものなのですけれどね。

投稿: 環境の変化と人間性の変容 | 2008.09.25 09:10

ニューヨーク発の株価の大暴落があって、ふと思い出しました。

「明日を支配するもの」:著者 P.F.ドラッカー、訳者 上田惇生、発行所 ダイヤモンド社

「はじめに - 明日のための行動」より

「本書で取り上げた新しい現実は、今日の問題ではない。まったく異質である。今日当然とされ、成功の基盤となっているものとは相入れない。
 今日、われわれは転換期にある。これから起こる変化は、19世紀半ばの第2次産業革命や、大恐慌や、第2次世界大戦後の構造変化よりも急激である。」

原典は以下のとおり。

PETER F. DRUCKER

Management Challenges for the 21st Century


Introduction:
Tomorrow's "Hot" Issues

"These challenges are not arising out of today.THEY ARE DIFFERENT.In most cases they are at odds and incompatible with what is accepted and successful today.We live in a period of PROFOUND TRANSITION - and the changes are more radical perhaps than even those that ushered in the "Second Industrial Revolution" of the middle of the 19th century, or the structural changes triggered by the Great Depression and the Second World War."

なお、「明日を支配するもの」は、1999年3月18日初版発行。

投稿: ある予言 | 2008.10.01 10:11

先日、リーマンのオフィスが六本木ヒルズにあったことに気づいて大笑い。そういえば、ライブドアと村上ファンドのニッポン放送株買収に出資したのがリーマンでした。

かつて、福田和也先生が、ホリエモンのことを、「堀江、あの大ビンボ」、村上世彰氏のことを、「ヤク中みたいな目をしてる」、六本木ヒルズのことを「田舎者どもの巣窟」と言い当ててらっしゃいました。

上海の超高層ビルも思惑が外れたようだし、六本木ヒルズも行く末はどうなるか。

金融技術者の「魔境」ではなく、地味で堅実なな情報産業の起業家たちのための第2の秋葉原に変貌できれば当初の本来の目的達成?

むかしから、「金融は利口であってはならない。良心的でなければならない。」という格言があるそうです。きっとそんな格言には誰も従えないのだろうけれど。

投稿: 六本木ヒルズ | 2008.11.01 08:43

金融についての古くからある忠告は、正しくは、「金融では利口であってはならない。単純で、良心的でなければならない」ということだそうです。

また、経済政策を成功させるためには、2つの経済的ニーズをどこまで調和させようとするかを目的とすべきであって、2つの経済のニーズに見られる不調和をどこまで利用しようとするかを考えてはならない、ということだそうです。

金融不安を悪用して、選挙資金を市況で稼ぐような真似は、こういう時代の政治家であればするべきではない、と、こういうことのようです。

投稿: 古くからある忠告 | 2008.11.01 15:47

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: リーマン破綻、雑感:

» リーマンの破綻がなぜ危険なのか [F.Nakajimaのblog]
今回のリーマンの破綻に関するブログを読んでいて思うのだが、1997年に起こった三洋証券・北海道拓殖銀行・山一證券の一連の破綻から始まる日本の金融危機からまだ10年ちょっとしか経っていないのに、あの時に日本がどのくらい崖っぷちだったか知らない人が多いことに気づ...... [続きを読む]

受信: 2008.09.16 23:47

» リーマン・ブラザーズ、破産法適用申請へ [歌は世につれ世は歌につれ・・・みたいな。]
経営難に陥っていた米4位の大手証券リーマン・ブラザーズは15日未明、連邦破産法11条の適用を裁判所に申請すると発表しました。 ***♪Lehman♪ Lehman I can hardly express This mixed conditions at your helplessness After all it's because of your loss And Lehman I will try to express Your inner reasons and bankru... [続きを読む]

受信: 2008.09.17 00:28

« [書評]やせれば美人(高橋秀実) | トップページ | 日本の備蓄米放出の話、その2 »