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2008.09.08

バグダッドでも話題のメロドラマ「ヌーア(Noor)」

 「そういえば今、イラクはどうなっているのか?」に答えるのは簡単ではない。平和な状態は回復されたのかといえば、概ねそうだとも言えるが、テロは継続もしている。ので、どこに平和があるのか、とも言える。こんな戦争を引き起こした米軍が悪いのだという声もいろいろ聞かれるが、現実問題としてはその米軍で小康を持っているのも現実の一面だろう。まあ、そういったむずかしい話をこのエントリでしたいわけではない。

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 今イラクで一番の話題は何か、といえば、ソープオペラ(メロドラマ)の「ヌーア(Noor)」だろう。イラク全土でというわけにはいかないかもしれない。バグダッドなどが中心だろうか。もっとも私自身がそのようすを見ているわけではなく、ラジオやネットで聞いた話を総合して、そう認識しているだけだ。ということで、ソープオペラの「ヌーア(Noor)」について、ある意味でこれはとても興味深い文化的かつ社会的現象でもあるので、エントリにメモしておこう。
 ざっと見たところあまり日本語での情報はあまりないようだが、「J-WAVE GOOD MORNING TOKYO」の7月28日エントリ”ロサンゼルス・オリンピックが開幕した日”(参照)が言及していた。

【World Tips from Saudi Arabia】
日本で大旋風を巻き起こした、韓国のドラマ「冬のソナタ」。
多くの日本人女性がヨン様ゆかりの地を一目みようと韓国へ駆けつけましたがどうも似たような現象がアラブ諸国で起きているようなんです。

アラブ諸国の女性たちの間で人気急上昇中なのはトルコのテレビシリーズ「Noor(ヌーア)」。
このドラマの中で、妻ヌーアのファッションデザイナーとしてのキャリアを支える理解ある夫、ムハンナド役を演じる金髪に青い目のトルコ人スター、キバンク・タリトゥの甘いマスクにアラブ人女性たちの目は釘付けの様子。自国トルコで放映された時にはさほどのヒットは飛ばさなかったようですが、お近くのサウジアラビアで放映が始まると、女性たちのハートをわしづかみ。なんと、サウジアラビアからトルコへの観光客が2倍以上に増えたそう

また、伝統的価値観にしばられた結婚生活を送ることが多いサウジアラビア人女性たちの間ではこのドラマがきっかけで夫に離婚を切り出すケースが増えているんだとか。


 ドラマの概要としてはそんな感じ。「アラブ諸国の」とあるが、これがイラクにも及んでいる。
 アラビア語版と英語版のウィキペディアにはNoorで簡単な解説項目がある(参照)。

Noor is the Arabic title of the Turkish soap opera Gümüş, launched in 2008, dubbed in Syrian Arabic. The title of the show means 'light' in English. The original Turkish-language version is called Gümüş and was broadcasted in Turkey from 2005 to 2007.

 出だしからちょっと記述の混乱があるようだが、タイトルはトルコ語"Gümüş"ということで、これで別途ウィキペディアの項目もある(参照)。「Noor(ヌーア)」はシリア・アラビア語の訳で主人公の名前。日本語なら「ヒカル」だろうか。キティちゃん好きのヒカルは……といった感じか。元もとはトルコの番組だがシリア・アラビア語で吹き替えになり、衛星放送でアラブ圏一帯に広まっている。特にイラクの場合、フセイン政権下では衛星放送が禁止されていたが、戦後解禁となりその広がりを得たようだ。
 旦那の名前ムハンナド(Mohannad)というが語感がよくわからない。Mohammadだと姓になるのだろうか。ウィキペディアによれば、このソープオペラのおかげで、ヌーアとムハンナドという名前の赤ちゃんが増えたとのこと。
 当然と言うべきか、アラブ諸国に問題も引き起こしている。

The television show about Noor and her romantic, idealized husband Mohannad is both controversial and wildly popular, especially with teenage girls and young women. The most conservative of Muslim religionists argue the show is un-Islamic, even though some scenes are toned down for consumption in Arab countries.

 イケメン男性に夢中になる若い女性はどこの国でも同じようなものだろうが、イスラム教国では問題にもなるだろうというか、イラクでも問題になっているようだ。という以前に、チャドもベールもなくすっぴんの女性が出てくるわけだから、問題にならないわけもない。
 以上を見ている限りでは文化現象といってもサブカルチャー的にも見えないこともないし、アラブ圏の問題にクローズしているようでもあるのだが、が、というのは、この話題、8月29日のフィナンシャルタイムズにも注目すべきコラム”Viewers fall for soap’s Turkish delight”(参照)として掲載されていた。出だしの紹介はごく普通。

Millions of viewers will be glued to their television screens on Saturday night for the double episode finale of a soap opera that promises to be the highest rated drama on Arab television.

Its actors speak Syrian Arabic, and look like Arabs from the Levant, but Noor is a Turkish import, part of a genre of dubbed series that has become all the rage in many parts of the Middle East this year.


 そしてこれがアラブ圏に問題を起こしているという指摘もある。

More significantly, the craze has been seen as a socio-cultural phenomenon, exposing the frustrations of Arabs living in conservative societies, especially women, many of whom are desperate for more openness, and romance.

 問題については、ウィキペディアより記載が深い。

A passionate romance that depicts the hero as a doting husband to his professional wife, albeit through an arranged marriage, Noor mixes family values that are familiar to the Arab world with taboos, including sex before marriage and abortion.

 つまり、ヌーアは職業婦人であり、親たちが決めた結婚を排して自由に恋愛をする。しかも、ドラマでは婚前交渉や中絶も出てくる、と、書いて用語が昭和の香りだな。
 もっともアラブ圏にこれまでソープオペラがなかったわけではない。が、それまではメキシコのドラマといった別の文化圏のドラマという枠組みがあった。

Mazen Hayek, director of marketing at MBC group, says Turkish series are the first to be dubbed into colloquial Syrian, contributing to their success and making them more accessible than soaps from other origins, such as the Mexican dramas popular a few years ago but dubbed into classical Arabic.

 ヌーアが話題になったのは、ソープオペラがアラブの文化と言語によって文脈化されたためだ。
 元もとトルコはアラブ諸国では世俗化が先んじているし、イラクもバグダッド地域は世俗化が進む地域でもあった。トルコは大衆に根付いた形のイスラム原理主義的な傾向を見せつつ、こうしたソープオペラを産出する。そしてそれらをアラブ圏の女性たちが消費していく。こういう動向は結局のところ留めることはできないのだろう。


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コメント

動画の方も見さしてもらいました。動画でさえ際立つソープドラマの(スタジオ?)セット臭が、アラブ圏でも広まっていくのか、と思うと、なんとも言い表し様のない感が…

しかしその一環として、アラブ諸国の若い女性の消費において(キティちゃんの)サンリオさんが地位を占め始めるのだとしたら、
これは幾らか親近感のようなものに変わるのだろうから…
「ああ、我ながら勝手なものだな」と自嘲する次第です。

こういうのって、何と言うのだったか?
……オリエンタリズム?

投稿: 夢応の鯉魚 | 2008.09.09 17:04

いつも拝見しておりますが、こうしてコメントを書き込むのは初めてです。
当方アラビア語を使用する職に就いています。
MohannadでもMohammadでも、どちらの場合でも姓ではなく名に使用します。前者のほうは後者に比べ著しく例が乏しいのですが。
それから、Noorは英語読みの「ヌーア」より「ヌール」のほうが良いかと思います。Youtubeの映像でもヌールと呼ばれています。
中東(アラビア語圏)のソープオペラは、ご引用の通り正則アラビア語―文語体でニュースや新聞などでしか使用されず、日常会話で使っている地域はまず無い―での吹き替えであるため、より日常的なアラビア語シリア方言で吹き替えられたこのドラマが、視聴者にとってより実感が沸くものとなったのでしょう。非常に興味深く思います。

投稿: ATak | 2008.09.10 01:00

緯度も違えば、生活も違うんでないの?
ザックリ一纏めって時点で、零点じゃないかしら。
ブログならOKかも。

投稿: おひさ | 2008.09.14 23:24

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