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2008.08.28

ドン・ガバチョフ元大統領、グルジア問題を論ず

 今回のグルジア衝突の報道をブラウズしながら、しみじみ自分は西側という地域にいるのだなという思いと、報道を少し超えた部分の解説では日本は未だに喧嘩両成敗か念力平和主義くらいしか思いつかないのかなと思った。
 とは言いつつ、欧米のジャーナリズムというのはすごいもんだなと思ったのは、いやあるいはロシアがそれだけ自由化し知識人をもっているということかもしれないが、聞き耳を立てれば、ロシアの声もきちんと聞こえることだ。そういう例として、ゴルバチョフ元大統領のコラムを紹介したい。オリジナルはロシア語でロシアの新聞に掲載されたが、英訳されワシントンポストにも掲載された。”A Path to Peace in the Caucasus”(参照)である。最初に当然ながら、戦闘は誰にとっても痛ましいものであり平和が希求されるとある。最初にあるのは、日本の新聞社説じゃないんだから、それをオチしてはコラムにならないからだが。
 前口上が終わると、簡単にこの問題の背景について触れている。くどいけど、このコラムはロシア人向けに書かれたというのを念頭において読んでいただきたい。


The roots of this tragedy lie in the decision of Georgia's separatist leaders in 1991 to abolish South Ossetian autonomy. This turned out to be a time bomb for Georgia's territorial integrity. Each time successive Georgian leaders tried to impose their will by force -- both in South Ossetia and in Abkhazia, where the issues of autonomy are similar -- it only made the situation worse. New wounds aggravated old injuries.

 ゴルバチョフは、今回の衝突の背景を1991年に誕生したグルジア分離主義指導者の存在に見ている。彼らは南オセチアの自治を否定しようとしているのだ、と。そしてそれがグルジアの領土統合にとって爆弾となり、91年以降、グルジアは軍事力をもって南オセチアとアブハジアにごり押しをし、これが事態を悪化させてしまった、と。
 衝突はどのように発生したと彼は見ているか。

What happened on the night of Aug. 7 is beyond comprehension. The Georgian military attacked the South Ossetian capital of Tskhinvali with multiple rocket launchers designed to devastate large areas. Russia had to respond. To accuse it of aggression against "small, defenseless Georgia" is not just hypocritical but shows a lack of humanity.

 彼は、グルジアが非人道的にも首都ツヒンワリにロケット弾を打ち込み軍事侵攻したと見ている。そこでロシアはしかたなく応答することになった、と。
 ここで私のコメント。今回の衝突、いったいどちらが口火を切ったのか? 日本のメディアだとそこはわからないが衝突はいけないといった落とし所になってしまったが、私はグルジアが口火を切ったのではないかと思う。昨日引用したフィナンシャルタイムズの、グルジアへた打ったなコラムも、その観点から読み直せば、前提にグルジアの暴発説を含んでいるようだ。ただし、サアカシビリの直接的な関与ではないし、その後の経緯から見ればロシアの術中に落ちたことは確かだろう。
 衝突の背景についてゴルバチョフはこう見ている。

Mounting a military assault against innocents was a reckless decision whose tragic consequences, for thousands of people of different nationalities, are now clear. The Georgian leadership could do this only with the perceived support and encouragement of a much more powerful force. Georgian armed forces were trained by hundreds of U.S. instructors, and its sophisticated military equipment was bought in a number of countries. This, coupled with the promise of NATO membership, emboldened Georgian leaders into thinking that they could get away with a "blitzkrieg" in South Ossetia.

In other words, Georgian President Mikheil Saakashvili was expecting unconditional support from the West, and the West had given him reason to think he would have it. Now that the Georgian military assault has been routed, both the Georgian government and its supporters should rethink their position.


 グルジアとしてはいったん衝突の口火を切ってしまえば、西側の援助はガチに決まっているじゃないかという読みがあったのだろう、と。そしてその奢りを増長させたのは米国の軍事的なサポートだった、と。
 私のコメント。グルジアから口火を切ったとすれば、最初から西側をのっぴきならない状況に巻き込む意気込みだったというのは、論理的な帰結のようなもので、そうなのだろう。むしろ重要なのはプーチンはそれを読んでいたし、さらに薄目で見ると、米国もそれを読んでいたのではないだろうか。昨日エントリ「極東ブログ: グルジア問題を少し振り返る」(参照)でなんとなく密約説を含めておいたのはそのためだ。ただ、この読みは現段階では微妙で、むしろ事件以降のロシアと米国の動きにシナリオ感があるかどうかが重要になる。
 さてゴルバチョフはどう落とし所を見ているか。私はコラムを読みながら、彼はなかなかの平和主義者なんだなと思ったが、日本語でそういうと違和感があるにはある。
 南オセチアとアブハジアに関わる紛争は今回が初めてではない。そのあたりはウィキペディアあたりに書いてあるのではないか。ロシアとしては平和維持軍の建前でこの地にプレザンスを持っている。それを前提として、ゴルバチョフはこういう。

When the problems of South Ossetia and Abkhazia first flared up, I proposed that they be settled through a federation that would grant broad autonomy to the two republics. This idea was dismissed, particularly by the Georgians. Attitudes gradually shifted, but after last week, it will be much more difficult to strike a deal even on such a basis.

 私の読みが違っているかもしれないが、彼は、南オセチアとアブハジアに暫定的な連邦を形成しろ、としている。追記: 「グルジアに2自治区を含めた連邦とすべき」と解釈すべきとのコメントをいただいた。

Old grievances are a heavy burden. Healing is a long process that requires patience and dialogue, with non-use of force an indispensable precondition. It took decades to bring to an end similar conflicts in Europe and elsewhere, and other long-standing issues are still smoldering. In addition to patience, this situation requires wisdom.

 そして実際の紛争解決は、時間をかけ、あくまで非軍事的に対話で推進せよ、と彼はいう。それだけ読むと日本の知識人が喜びそうな感じだが。
 そんなことが可能なのか?
 ここがこの問題の急所になるのではないかと私は思う。私は、日本的知識人からずり落ちてしまうが、この問題は対話によるべきで、平和維持軍の投入は違うと考えている。ロシアは対話に応じるだろうし、プーチンとゴルバチョフには基本的な前提が存在しているだろう。もっとも、この対話はかなりタフなもので、その能力の半分もあれば日本は……以下略。
 さて、ゴルバチョフの前提は、そのまま露骨に言えば西側としては受け入れがたいが。

Over the past few days, some Western nations have taken positions, particularly in the U.N. Security Council, that have been far from balanced. As a result, the Security Council was not able to act effectively from the very start of this conflict. By declaring the Caucasus, a region that is thousands of miles from the American continent, a sphere of its "national interest," the United States made a serious blunder. Of course, peace in the Caucasus is in everyone's interest. But it is simply common sense to recognize that Russia is rooted there by common geography and centuries of history. Russia is not seeking territorial expansion, but it has legitimate interests in this region.

 米国の言い分もそれなりに理解した上で、彼は、"But it is simply common sense to recognize"と言い出す。これはロシア人にとっては常識なんだ、と。何か? ロシアという民族国家は歴史的にこの地域に根を持っていているから、どうしようもないのだ、と。ロシアには領土拡大の野望はなく、適正な歴史民族意識の領土を保全したいだけなの、と。
 私のコメント。ここがむずかしい。単純な話、グルジアはそれを認めるはずがないからだ。そして、日本の知識人などは民族国家というのは近代が形成したもので云々とか言いだしかねない暢気さがあって、ゴルバチョフが「常識なんだ」という部分の思いが伝わらないかもしれない。
 それでも、ロシアには意図的には帝国主義的に領土拡大したいという意図はないのだというのは認めてよいのではないかと私は思う、これは他のロシア知識人も主張している。
 そして今回の問題について、グルジアにある西側向けの原油パイプラインを維持したい勢力としては、この地域に集約的に視点をあてるが、ゴルバチョフはこれを広くコーカサスの民族問題として捉えている。

The international community's long-term aim could be to create a sub-regional system of security and cooperation that would make any provocation, and the very possibility of crises such as this one, impossible. Building this type of system would be challenging and could only be accomplished with the cooperation of the region's countries themselves. Nations outside the region could perhaps help, too -- but only if they take a fair and objective stance. A lesson from recent events is that geopolitical games are dangerous anywhere, not just in the Caucasus.

 そしてこうした民族問題を抱える国家というのはロシアだけではないだろうから理解してほしいとゴルバチョフは言う。
 このあたりは、中国にもツボであり、今回の衝突で冷戦構造を煽る勢力は、中国を困惑させロシア側に付かせることにもなりかねない。
 イデオロギー的に見れば、いろいろ意見があり、そしてそれはまさにイデオロギーというものだろう。でも、平和というのものを戦闘のない状態の維持として考えるなら、私は、ゴルバチョフは平和主義の人であると思うし、こういう知識人がロシアに存在することを重視しなくては、対話は成り立たないと思う。

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コメント

>報道を少し超えた部分の解説では日本は未だに喧嘩両成敗か念力平和主義くらいしか思いつかないのかなと思った。

 念力とか念仏が一番気楽ですから。やった気になるしね。

>私はグルジアが口火を切ったのではないかと思う。

 んだんだ。

>グルジアとしてはいったん衝突の口火を切ってしまえば、西側の援助はガチに決まっているじゃないかという読みがあったのだろう、と。そしてその奢りを増長させたのは米国の軍事的なサポートだった、と。

 自助努力の精神に反してますな。成敗必然ですわ。そんなもんアメリカじゃなくても100パー見捨てます。てか、見捨てないとアホが増長するだけでしょ。

>むしろ重要なのはプーチンはそれを読んでいたし、さらに薄目で見ると、米国もそれを読んでいたのではないだろうか。

 野ぐそ的には、読む読まん以前に、そんなん当然って「腹の据わり(←日本的www)」が有るか無いかの問題かな? って思います。

>さてゴルバチョフは(中略)なかなかの平和主義者なんだなと思ったが、日本語でそういうと違和感があるにはある。

 念仏ばっかり唱えてるから現実が見えへんのやろ。南無南無。

>この問題は対話によるべきで、平和維持軍の投入は違うと考えている。ロシアは対話に応じるだろうし、プーチンとゴルバチョフには基本的な前提が存在しているだろう。もっとも、この対話はかなりタフなもので、その能力の半分もあれば日本は……以下略。

 「基本的な前提」について熱く語っていただけること希望します。あと私は「その能力の半分」の半分の半分の半分の半分も無いヘタレなんで即死にます。嗚呼面白い虫の息。残念。
 
>ロシアという民族国家は歴史的にこの地域に根を持っていているから、どうしようもないのだ、と。ロシアには領土拡大の野望はなく、適正な歴史民族意識の領土を保全したいだけなの、と。

 大国ですなあ。でも常識ですなあ。領土の無い常識なんてソイツが死んだら無いも同然って感じですか。立脚点が違いますなあ。日本の知識人はリーマン知識人が多いから、自分の領土を持ってる(だから保全するし拡張する)って意識が希薄すぎますよね。大国さんは口には出さんかもしれんけど、なんでわしらが貧乏乞食の屁理屈聞かなアカンねん? くらい思ってたりしてな。ん? ん? ん?

>単純な話、グルジアはそれを認めるはずがないからだ。ゴルバチョフが「常識なんだ」という部分の思いが伝わらないかもしれない。

 グルジアが認めないのを「当然だ」って思っちゃった時点で、ソイツはゴルバチョフの言う意味分からないでしょ。グルジアの肩持ったら貧乏人。ロシアに理解を示したら小金持ち。そんな感じ。なので、日本のマスコミはグルジアの肩持つんだと思います。所詮提灯乞食ですからな。貧乏人と仲良くしてナンボですからな。貧乏人を舐めんじゃねぇぞー、みたいな。ぺろぺろ。ちゅっちゅー。

>それでも、ロシアには意図的には帝国主義的に領土拡大したいという意図はないのだというのは認めてよいのではないかと私は思う、これは他のロシア知識人も主張している。

 そらまー、そじゃなかったらソ連解体してませんわな。んだから今後は「意図的じゃなく」拡張するんです。いや、拡張はしません。常識によって、ただ拡がるんです。そんな感じ。ぺろぺろ。ちゅっちゅー。

>今回の衝突で冷戦構造を煽る勢力は、中国を困惑させロシア側に付かせることにもなりかねない。

 とりあえず、なったほうがいいよ。今みたいな不景気に中国が余りに日米に近寄りすぎたら貧困連鎖で共倒れしますわ。適切な距離感を保てる程度にロシアと仲良くしてもらった方がいいよ。

>私は、ゴルバチョフは平和主義の人であると思うし、こういう知識人がロシアに存在することを重視しなくては、対話は成り立たないと思う。

 んだんだ。

投稿: 野ぐそ | 2008.08.28 15:49

誰もオセット人やアブハド人の立場でコメントしないのか?
グルジアにそそのかされてアブハド人を攻撃してしまったチェチェン人の立場は?
大国が小国に侵攻するのが悪いっつうなら、グルジアの拡大主義で圧迫された人々に、ちょっとくらい目を向けようよ。

投稿: ぶ | 2008.08.28 21:21

 日本の偉い人ってのは庶民感情から遠ざかることを賢さや偉さの指標にしがちなんだけど、そんでまた支援する金持ち連中がそーゆー空気煽るけど、大国の指導者っつーのは、どっかしら愛国護民思想があるんだよね。あんだけ悪評高い中国でさえ、上層部には護民思想あるでしょ。中国の場合は下っ端がやたら威を借りすぎるから中々見えて来ないし歪んで見えるってだけでさ。
 あるかないかで言えば、あるよ。単純に有無だけ言うなら北朝鮮にだってあるだろ。じゃなかったら、洗脳でも何でも、あーまで将軍様愛されんよ。

 日本は愛社とか愛村とか愛人とか愛車とか愛犬愛猫とか、そのへんの感情は図抜けて凄いけど、そこでピタッと止まってその先突き抜けないから。そんで抜けたかと思ったら愛地球とか、さ。中間の、本来手間隙掛けてやんなきゃならない部分に対する「愛」なんて全く無くてさ。最初(の志操)と最後(の儲けw)だけしか考えて無いんだよな。傍目に。

 それで世界にモノ申したからって、アホかのひと言で却下でしょ。普通に。そんで、世界に通用しないくせに能力だけは高いから、何で世界は私らの言い分(理屈から言えば、多分良い)に耳を貸さないんだ? だから世界は不穏なんだろう? とか言うんだよ。それが日本の左翼でしょう。だから真っ当な筋から相手にされないんだ。本当に相手されて喜ばれる左の人って、不慮の死で悲しい思いをなさった伊藤さんのような人だよ。理想が高邁なら先ず動けって話だわ。

 今だと週刊モーニングでやってる『エンゼルバンク』の賢いクンなんかが、日本の状態をよーく表してると思うよ。今号(39号)の話なんか、自戒も込めて味わい深いなーと思って読みましたよ。日本から見る目線が賢いクン(笑)にならないことを、切に願って止まないね。

 ハイ、馬鹿の野ぐそは拝むだけ~。祈るだけ~。念仏念仏~。南無~。明日もコツコツ畑逝きまひょっと。

投稿: 野ぐそ | 2008.08.29 01:51

このグルジア問題の原因を作ったのって、地理的条件、民族的条件というよりむしろ、レーニンとスターリンとブレジネフなんじゃないですか。
ロマノフ朝の皇帝たちの政治にまでさかのぼらなくても、スターリン時代に災厄の種のほとんどがまかれていたと思っています。
また、スターリンの時代には、自分の死んだ後どうなるかなんて、のんきなことを考えてもいられなかったのだろうけれど。
ゴルバチョフ元大統領ではなく、バチカンのローマカトリックや、イスタンブール(コンスタンティノープル)のギリシャ正教や、メッカのイスラムの重要な宗教家たちの意見のほうがより公平な視点で意見を表明しているのではないかと考えています。
なまけて、カトリックやギリシャ正教やイスラムの宗教家たちの意見を具体的に紹介する手間をかけないでこんなことを申し上げて申し訳ありません。

投稿: 無意味かもしれない犯人探し | 2008.08.29 07:48

でも、ロシアがグルジアの立場なら、やはり力で南オセチアとアブハジアを制圧したのではないの。

投稿: K | 2008.08.29 16:21

オセット人を殺そうとしたのがグルジア、オセット人を助けてグルジア人を殺したのがロシア。
チェチェン人を殺そうとしたのがロシア、チェチェン人を支援してアブハド人を殺させたのがグルジア。

ロシアかグルジアかじゃないと思うぞ、この紛争は。

投稿: ぶ | 2008.09.01 20:09

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