中国製毒入り餃子、雑感その2
中国製毒入り餃子事件だが、なんとなくこれは迷宮入りでしょと思っていた。が、昨日、流れが変わる報道があった。意外といえば意外なので少し雑感を書いておきたい。というのも、この問題の本質は毒入り餃子自体ではないだろうから。
餃子に毒を入れたのは中国か日本かということで言えば、「極東ブログ: 中国人のわかりづらさという雑談」(参照)で李小牧が指摘している通りなので、ようするに後は外交的な問題だった。
そこが曖昧になるだろうなと私が思っていたのは、中国がけっこうな強気で小日本をパスしてやっていけるとまでそっくり返ったのだろうなと見えたからだ。が今回、逆に、毒を入れたのは中国かもシグナルを出してきたということは、中国様だいぶ日本にご配慮しているなという感じがする。このご配慮の意味はなんだろうか。
西欧の先進国が人権問題で騒いでいるのにぐっと堪えて偉いぞ、東洋鬼。ちがった、小日本。ちがった、蛮族。ちがった、二文字姓の少数民族。ちがった、まあ、日本人。ということか。かく言う私も、別になんのポジションもないけど、チベット問題やダルフール・ジェノサイドで現時点で中国を叩くようなこと言っても、遅いよ、遅すぎ、詮無き、夏ばてだよ、かつ屋でかつ丼食えよ的になっている。みんな未来に耐えていこうじゃないかみたいな。
余談ついでに言えば竹島問題で、米国があっさり韓国領とか言いだしのは、あれはブッシュ訪韓前の韓国への配慮なんだろう。なかなか南部の人のハートウォーミングなところ、かもしれない。余談がさらにそれると先日映画「ボラット」(参照)を見たが、表向きのえげつない政治性や米国批判よりも、米国の根の部分の温かさや良心みたいのを随分感じた。木で鼻をくくったようなリベラルな人の前でバロン・コーエンのギャグがすべってもそれはそのまま気まずい沈黙で終わる部分はむしろああいうリベラルな感性が優れていることなんだろう。
話を戻す。ステイルメイトかに思える毒入り餃子事件の状況をとりあえず中国側から崩したのは中国の意図なのか、日本の努力なのか。後者はあるだろうが、ざっくり見れば、中国側に変化があった。現状では大きな変化とはまだ言い難いが、ボールは打ち返されたわけで、外交がまた始まることになる。そうするしかないじゃないかね。
ただ今回の打ち返しは三十六計のお国柄としても奇妙な感じはする。また陰謀論ですかみたいに三十六計も知らない人からネガコメ食らうものうんざりするのだけど、私が最初に思ったのは、オリンピックのどさくさに紛れてというより、戒厳令の効果があったかなだった。戒厳令下である程度まで北京にグリップが来たかな、と。
この先は陰謀論的なスジが濃いと自覚があるのだけど、昨今のウイグルがとされる事件も本当にウイグルが主体なのか、私は疑問に思っている。すでに述べてネガコメ食らったけどチベット暴動もチベットが主体の暴動なのか依然疑問だ。大局的に見れば、中国はチベットとウイグルの地域を資源的に地政学的に確保しなければならないという至上命題があるので、すべてはその派生の最適化にしかならない。だとすれば叩く口実を付けて叩くのはごく当たり前の歴史常識の部類でしかない。
どうも話がそれるが、北京オリンピックを出汁にした戒厳令のうま味がだいぶ効いているような感じがするし、そうでないとだいぶやばいのかなとも思う。ただ、本当に北京側のグリップなのか、また私兵集団人民解放軍とかのグリップというか揺さぶりがないのか。いやそれはまたあるでしょとは思う。しばらくすると軍関連で、げげげみたいなニュースが出てくるのがまいどのパターンだし。
さて、今回の毒入り餃子事件進展だが、日本国内報道がなんとも奇っ怪。いったいこれはどこから出てきた話のなのか。私が最初にこの話を聞いたのは読売新聞記事”「天洋食品」回収ギョーザ、中国で中毒…現地混入が濃厚に”(参照)だ。各紙の報道はそれに次いだような記憶がある。読売の情報経路は「関係筋だ」。
中国製冷凍ギョーザ(餃子)中毒事件で、製造元の中国河北省石家荘の「天洋食品」が事件後に中国国内で回収したギョーザが流通し、このギョーザを食べた中国人が有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中毒症状を起こして、重大な健康被害が出ていたことがわかった。
関係筋が5日明らかにした。これまで日中双方の警察当局がそれぞれ自国内でのメタミドホスの混入を否定してきたが、中国国内で同様の事件が発生したことにより、中国での混入の可能性が強まった。
関係筋によると、中国側は7月初め、北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の直前に、外交ルートを通じて、日本側にこの新事実を通告、中国での混入の可能性を示唆したという。
今回の問題な局所的な重要性はこの「関係筋」にかかっている。
読売の記事を読んだ印象では、読売の関係筋は日本政府側の内情を知っているように見えるので、政府側から読売へのリークと見ていいのだが、政府側が現政権そのものなのかはよくわからない。一応話の可能性としては、北京または福田政権を困らすためにリークしたというのもあるが、まあ、それはないでしょ。事後の流れスムーズ過ぎるし。
外交と内政の構図としては、産経”五輪成功目標の中国に配慮 ギョーザ問題解決、先送りに同意の日本 ”(参照)がわかりやすい。
中国製ギョーザが同国内でも中毒事件を起こしていたことを受け、町村信孝官房長官は6日、8日の日中首脳会談で早期の事実解明に向けた捜査協力を確認するとの見通しを表明した。ただ、北京五輪の無事成功を至上命題とする中国側は、これまでに日中間の諸懸案の協議は五輪終了後に先送りしたいとの希望を伝えてきており、日本側も了承していた。食の安全という国民の関心事についても中国側の事情への配慮を続ける日本政府の「待ち」の姿勢が問われそうだ。
五輪開会式出席のため、8日に中国を訪問する福田康夫首相は、温家宝首相、胡錦濤国家主席と相次いで会談するが、当初はギョーザ事件を取り上げるとは決まっていなかった。
少し大きめな構図で言うと、毒入り餃子は一つのシンボルであって、「日中間の諸懸案の協議は五輪終了後に先送り」が基本構図だとわかる。
ところが、8日訪中福田総理に合わせ、先送りでなくさせたのは、この流れで読めば中国側なので、だとするとリークの構造は、中国側からの口裏合わせに福田政権が流したものだろう。その意味で、政府側はリークがなければこの問題は日本国民に隠蔽していたのだ、というバッシングのストーリーは、ありえない、というか当初からそのくらいの泥かぶりを落とし所として意図されたものだろう。
毒入り餃子問題はカモフラージュかもしれないという線も考えておきたい。
実際、7月中に公表予定だった日中両国の歴史学者らによる「日中歴史共同研究」の報告書も、歴史認識をめぐる対立を起こしかねないため、五輪後に先送りとなっている。
日中の歴史認識問題はそれ自体は問題であるには違いないのだが、実際には日中ともに内政政局のための弾にしか扱われてこないことが多い。しかも江沢民一派が多少整理されてからは、中国にとってナショナリズムの高揚は諸刃の剣より自国への剣の面が強い。中国側のほうが目下のところは歴史認識問題を持ち出したくないというか、北京側の思惑はそうだろう。
ここで少し陰謀論的な読みに踏み込むとすれば、この構図で北京側が憂慮するのは、上海閥かあるいは軍か、いずれもまた歴史認識問題のカードを対北京向けの抗争手段に切り出す構図の危機を北京側が察知して日本に協力を求めている、というのもありそうだ。が、この構図はそれほど強いだろうか。評価がむずかしい。中国は自国の崩壊の危機をほったらかしても内政の権力闘争するか。意外とやるんですけどね、歴史を見ていると。
事態を考察するに当たって、中国は日本のジャーナリズムにチャネルを持っているので、そのあたりから、微妙な本音というか声を聞き取ることもしてみたい。その最大チャネルは中国友好を掲げる朝日新聞の社説だったりするから、日本は国際情報に恵まれている。今朝の朝日新聞社説”中国ギョーザ―事実を国民に公表せよ”(参照)は微妙な面白さがあった。
真相解明が立ち往生していた中国製冷凍ギョーザの中毒事件について、驚くような事実が報道で明らかになった。日本で事件を引き起こしたメーカーのギョーザを食べた中国の人たちも、中毒症状を起こしていた。
原因をめぐっては、日中双方が自国で混入された可能性は低いと主張し、平行線をたどっていた。それが中国でも中毒事件が発生し、日本で検出された有機リン系農薬成分メタミドホスが原因と特定されたとなれば、中国国内で混入された疑いが濃厚になる。
中国政府も国内での中毒の発生を認め、「全力で捜査している」との談話を発表した。
ちょっと待ってくれ。
新聞の基本の5W1Hが抜けている。「日本で事件を引き起こしたメーカーのギョーザを食べた中国の人たちも、中毒症状を起こしていた」はどういう事態なのか?
先の産経のニュースでも指摘されているが、その事実確認はできていない。
今回、中国側が国内での中毒事件発生を認めた経緯には「回収されたギョーザを食べているなど不自然な点がある。早期の問題決着を急いだ中国政府が無理やり解決のためのストーリーを書いたのではないか」(日中外交筋)という疑問も出ている。
つまりこの話自体が中国様のよくできたお話という可能性があるのだが、朝日新聞社説はそこをスルーしている。そもそも、朝日新聞社説では「日本で事件を引き起こしたメーカーのギョーザを食べた」としているが、「回収」については触れていない。回収ってなんだよと疑問に思わないわけもないのだから、朝日新聞社説にはそこをスルーする意図があるだろう。
加えて、朝日新聞社説では「中国政府も国内での中毒の発生を認め、「全力で捜査している」との談話を発表した」としてこの話が中国から公式に切り出されたふうに描かれている。リークの経路もスルーしているわけだ。
さらにこの後。
それにしても、である。
この事実が7月の洞爺湖サミットの直前に外交ルートを通じて日本政府に伝えられていたのに、国民には一切知らされなかったことが理解できない。
福田首相は「わが国の捜査当局と情報交換している状況だ。どういう状況か今申し上げるわけにはいかない」と述べたが、この弁解も納得できない。ことは人々の命にかかわる問題である。政府はただちに事実を公表すべきだったし、いまわかっていることをきちんと説明すべきではないか。
としているが、それは話が逆であることは先に触れたとおりだ。「黙ってろ」といったのは中国様で、今回の切り出しも中国様イニシアティブと見ていい。
というわけで、この朝日新聞社説のメッセージはいったい何だろう?
朝日新聞を批判したいのではない。まったく逆だ。この社説自体が中国様の、今回の報道の、正しい読み方を示唆してくださっているわけだ。つまり、「回収」話の奇っ怪点はスルーしろよ、リーク経路は問うな、日本政府が隠蔽したことが問題だぜ(福田は泥を被ってくれるから)、問題は食の安全であって歴史認識とかは関係ないよ、というわけだ。わかりやすい。
火もと近い読売新聞社説”ギョーザ事件 「混入元」はやっぱり中国だった”(参照)は一見すると中国非難のようだが、伝達部分を抜き出していくと朝日新聞社説と同じ主張に帰着している。「回収」話は問うなよ、リークじゃないよ関係筋だ、日本政府が食の安全をしっかりせよ、歴史認識問題は言及せず、と。
日本人としてはまあ中国様の内情を察しつつ、日本文化お得意の勧進帳をするしかないだろう。っていうか、勧進帳だよ、盆踊りシーズんだからって踊るなよ。
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コメント
>「回収されたギョーザを食べているなど不自然な点がある」
これこそが、日本の衛生概念に基づく、日本人的な発想ということは無いでしょうか?
と申しますのも、最近、中国は青島沿岸で(海洋汚染のため?)大量発生した青海苔を回収し、全量廃棄したかと思ったら、食用として韓国に輸出することになさいましたよね?(飼料名目ですが、どこで人間向けに混合・転用され日本に来るか判ったものでは…以下略)。
また昨年、中国南部でネズミが超大量発生したことがございましたが、「ただ殺すより食べよう」と、回収後、食用に転用してらっしゃいました。(ペスト菌とかいない限り、別に悪くないと思いますデス、はい)。
以上、別件の前例から申しまして、回収した物でも食べられそうなら、「格安で横流し」または「有効活用」なさるのは、まさに中国的な対処法の一つかとも思えますが、如何でございましょうか?
投稿: ぽにょ | 2008.08.07 14:05
>>ぽにょ氏
そのネズミの話って、市民の中に「ネズミ食ってやる!」っていう食欲旺盛な人がいたって話で、衛生当局は「ネズミは雑菌だらけだから食うな!」って言ってたと思いますが。
投稿: fox | 2008.08.07 18:55
「回収」というのは、日本向けに輸出する予定だった商品が輸出できなくなったので、そのまま在庫していたということではないでしょうか?
で、中国側では公安の捜査で、農薬は現地で混入されたのではないとなっているので、天洋としては安全な商品として中国国内に流通させたということだと思います。
テレビでもコメンテーターが「回収したものが流通しているのはどういうことか」という発言がありましたが、中国国内では、農薬入りとして回収された訳ではないので、公安の捜査の結果が「国内混入ではない」となれば、日本以外のところで流通するのはなんの不思議もないと思います。
投稿: 匿名にて失礼します | 2008.08.07 20:44
昔、中国からの食品輸入業務に携わっていたことがある連れに聞いたのですが、日本への輸出自体がブランドになるから横流しで売っていたのではと話しておりました。
以前から聞いている現地の話からすると、回収品を横流しすることも有るかもしれないと感じます。
ただ日本向けの味に仕上げてある餃子が、中国現地で受け入れられるかどうかは定かでありませんが。
投稿: hori412 | 2008.08.07 22:05
皮肉として使っている「中国様」も多用すると卑屈に見えますよ。
投稿: | 2008.08.08 04:20
大変興味深かったです。「陰謀」つまり陰の謀(はかりごと)については、いろいろと仮説を立てて考えていくしかないと思われます。これについては、マスコミがなかなかできることではなく、ブログがその役割を果たせたりもするのではないでしょうか。
プーチン「首相」が北京に来ている中、メドベージェフ「大統領」がどうしてこのタイミングでグルジアと戦争を始めたのかの考察も勝手に期待しています。
投稿: SeaMount | 2008.08.09 18:39
ぽにょさん、匿名さん、horiさん、
まことにその通りでしょう。
私は中国と関わりある仕事をしていて、長期居住経験があり
実情を大体感じ取れるのですが、
再度流通というのは中国的には完全に有りですよ。
投稿: なし | 2008.08.21 02:13
こんにちは。初めて当ブログを拝見したものです。
いろいろ、こういっては何ですが、類推して書いているのでいっていることが良く分かりません。
極東のことに関するブログだろうと思っててっきり反中国的ブログかと思って読み始めたのですが、そうでもないですね。
でもこのブログに対するコメントで説得力のあるコメントは
なしさんですね。「再度流通というのは中国的には有り」には笑ってしまいました。
今朝のネット情報では時事通信発として天洋食品の従業員(常用、臨時工)1000人を徹底的に取り調べていること、容疑者不明というあいまいな結論を得るため、徹底的に調べているという真剣さをアッピールしているという日本の関係筋の見方が述べられている。
いずれにしても、私が一番不可解なのは、何故、絶対自国の非を認めない中国政府が自国に非があるということを認めたかである。(その後の隠蔽依頼は別に驚く必要がない。そういう国なのだから。)
中国の当局筋で自殺者がでたという情報がでていることから、隠蔽不可能な事態に陥って日本政府に通報したのだろうが、どういう窮地に陥ったのか。
そして、その事態をうけての対応が容疑者不明の結論にして
懸命に徹底して捜査して日本の印象を良くしようということなのではないか?
何故これほど日本に配慮するのか。?
相当今の中国の経済状況と社会不安が深刻だからなのではないかとにらんでいるがどうだろう。(最近の外電がアメリカのポールソン財務長官の今の中国の経済に対する見解を紹介しているが、かなり手厳しい。親中派なのに)
日本の投資と環境技術の獲得が急務なのだ。
それと今中国に対する内外の見方は厳しいのに、日本だけが穏健で親中であるからだろう。
皆さん、以上の私の見解どう思われますか?
乞う、意見。
投稿: 志士 | 2008.09.04 10:49