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2008.07.18

イラクの対外債務のこととかのメモ

 個人的にちょっと気になるというか、わかるようでいまひとつわからないので気になっているというか、イラクの対外債務のことだ。私だけがとんと無知ということかもしれいが、無知を晒すのにブログはよかろうってなノリというか備忘を兼ねてちょっと書いてみたい。
 話は先日のアラブ首長国連邦(UAE)による対イラクの債権全額放棄がきっかけだ。7日のCNN”アラブ首長国連邦、イラクの債務7500億円を帳消しへ”(参照)より。


ドバイ  アラブ首長国連邦(UAE)は、イラクがUAEに負っている70億ドル(約7500億円)の債務を帳消しにする意向を表明した。イラクのマリキ首相が6日明らかにした。

 なぜこうなったかだが、同記事では。

米国は、イラクの重要問題である対外債務の減免を各国に要請してきた。キミット米財務副長官が5月に明らかにしたところによると、債権国の大半はアラブ諸国。

 というわけで、米国の主導のようだ。そしてイラクへの債権国の大半はアラブ諸国。まあ、ここでなぜアラブ諸国なんだというのはありげにちょっと心にフックしておく。
 同日U.S. FrontLine”対イラク債務帳消しを歓迎 米政府 ”(参照)では、債務を40億ドルとしている。

 アラブ首長国連邦(UAE)が6日、イラクに対する約40億ドル(約4300億円)の債務を全額帳消しにし、駐イラク大使を指名したと伝えられたことについて、米国家安全保障会議(NSC)のジョンドロー報道官は7日「米政府として歓迎する」との声明を発表した。

 額のブレが2倍近くあるが利子らしい。同日のIBTimes”UAE、イラクの債務帳消し、駐イラク大使を指名”(参照)ではこう説明されている。

UAEがイラクに貸し付けていた債務は利息を除いて40億ドルにも達する。UAE政府関係者の話によると、利子も含めれば総額70億ドルとなるという。

 利子の仕組みや慣例がどうなっているのかいま一つぴんと来ない。
 共同もよくわかってない雰囲気が6日付け”イラクの債務全額帳消し UAE、約4300億円”(参照)から漂う。

 【カイロ6日共同】アラブ首長国連邦(UAE)のハリファ大統領は6日、イラクが負っている約40億ドル(約4300億円)の対UAE債務を全額帳消しにすると発表した。首長国通信が伝えた。ロイター通信は延滞利息などを含めると総額約70億ドルとしている。

 続けてIBTでは。

 また国連によると、イラクのクウェート侵攻時に生じた債務が280億ドル残っているという。イラクは同国原油売上高の5%を債務返済のために充てている。イラクは前年に比べ暴力事件発生件数が70%も減少している。近隣国ヨルダンも先週駐イラク大使を指名しており、クウェート、バーレーンも近く駐イラク大使を指名する予定であるという。
 米ホワイトハウス広報官ゴードン・ジョンドロー氏は、米政府もUAEのイラク債務帳消し、国交正常化を歓迎していると述べた。

 ようやく米国主導の戦後の始まりかとも取れるのだが、気になるのは、この280億ドルの債務とは何か? いやとりあえずまたフックしておく。
 同日のロイター”UAE、イラクが負う約70億ドルの債務を全額帳消し”(参照)がまた興味深い。

 イラクが負う対外債務の総額は、最大で800億ドルに上るとみられる。米政府はかねてから、アラブ諸国の政府に対して、欧米諸国と同様に債務免除に応じ、イラクの復興を支援するよう要請していた。

 ここでひょこっと800億ドルが出てくる。これはさっきの280億ドルとどういう関係にあるのか? 今度は3倍以上の差がある。
 ところで今回のUAEには前段がある。5月30日付け読売新聞記事”イラク復興プロセス検証で会議、首相が対外債務削減求める”(参照)より。

イラク復興への具体策を定めた「イラク国際協定」の合意内容を検証する初の国際会議が29日、当地で開かれた。

 会議には、ライス米国務長官やモッタキ・イラン外相ら約600人が出席。約100の国・機関の多くは過去1年間の再建に一定の評価を示したが、焦点のフセイン政権時代からの債務削減では具体的な議論は出なかった。


 そのあたりが今回の前段ではあるのだが、債務の額はというと。

 イラクのマリキ首相は演説で、治安回復など復興に向けた努力の成果を強調した上で、「独裁者から引き継いだ債務によって、再建のプロセスが停滞している」と主張、債権国に債務減免を求めた。イラクの対外債務は現在、500億ドル(約5兆2000億円)を上回ると見られ、経済再建の足かせになっている。ライス長官も演説で、「(イラクの)債務を削減した国もある」と述べ、首相の訴えに理解を求めたが、主要債権国サウジアラビアなどはこの問題には明確に触れなかった。

 今度は500億ドル以上。どうなってんの? ようするに最終的にチャラにするから、そのあたりはレトリックということだろうか。
 で、気になるのは、主要債権国がサウジアラビアだということ。
 というあたりで少し整理というか、7・23日本版ニューズウィークではこうまとめている。

665億ドル:対外債務1270億ドルのうち、債権放棄や減額、支払いによって2004年からこれまで減った分。
280億ドル:1990年のクウェート侵攻に対する賠償金として今後も支払うべき金額。イラクは原油取引の利益を支払いにあてている。
250億ドル:サウジアラビアが主張する債権額(400億ドル)と、イラクが主張する債権額(150億ドル)の差額。
80%:パリクラブ(主要債権国会議)に参加する先進19か国が同意した債権放棄の割合。

 さて、これをどう読むか? ニューズウィークはへぇみたいに突き放していて、特に解説はない。基本的に先進国では債務放棄になるのだろうというのはガチ。
 クウェートへの債務がでかいのは賠償金の問題が依然大きい。
 問題はやはりサウジアラビアで、言い分だと400億ドルだから、それは何? 賠償金だろうか? はて?
 ここで歴史を振り返る。イラク戦争開戦は2003年3月19日。ウィキペディアなんかだと今も継続中とのことでまあウィキペディアだからね。いちおう、一つの目安として米国の戦闘終結宣言は2003年5月1日。
 で、イラク債務が問題になるのは、というか、過去を振り返ると、浮上してくるのは、200年4月ごろ。それまでは問題はあるにはあったというか、湾岸戦争と関連しているのでないわけはないのだが、なんとなく冬眠したような状態になっていたと言ってもそう間違いでもない。
 気になるのは、2003年4月11日読売新聞記事”イラク債務削減、G7で話し合う/スノー米財務長官”。べた記事であることと孫引きでもあり事実なのであえて全文引用する。

 【ワシントン=天野真志】ジョン・スノー米財務長官は十日、米FOXテレビに出演し、先進七か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)などで、イラクの債務削減問題を議題にしたい意向を示した。長官は「イラク国民にフセイン政権が残した深刻な債務を負わせるべきではない。各国が削減に応じる必要がある」と語った。イラクの対外債務は一千億ドルを超える規模とされる。日本政府や企業も一兆円以上の債権を持ち、削減協議の対象になると見られる。

 まだ米国の戦闘終結宣言前にこれが決まっていた。そしてその額は「一千億ドルを超える」ということで、流れ的に見ると、いやその、爺が引くような予防線気味の「陰謀論じゃないが」という枕を置くわけだけど、このあたりはパイプマン的な勢いが当初あったのだろう。で、詰まっているのは、サウジアラビアを筆頭としたアラブ諸国という図か。ふむ。
 翌日の記事”イラク復興 対外債務処理、難題に 米、各国に削減要求か 仏露の反発確実”はかなり突っ込んでいる。

 イラク復興に関連し、約千三百億ドル(約十五兆六千億円)規模とされるイラクの対外債務の処理問題が、主要国間の重要課題に浮上してきた。新規の借款供与など「本格支援」に進むには、過去の債務処理が不可欠なうえ、膨大な戦費負担を抱え込むアメリカが、主要国に対し、戦費分担の代わりにイラク向け債権カットという形での復興への貢献を求めると見られるためだ。しかし、多額の債権を抱えるロシア、フランスなどの反発は確実で、ワシントンで十一日夜に開幕する先進七か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)などでも、同問題を巡る意見調整は難航しそうだ。
 国際開発センターの推計によると、油田開発や発電所、港湾整備などのための資金借り入れにより、イラクの対外債務額は現在、官民合計で金利分を含め約千二百七十億ドルに膨らんでいる。

 まず、1300億ドルだったわけね。そして、ロシアとフランスはこの時点で反発していた。
 内訳はこう。

 主な債権国と額は、湾岸諸国(クウェートを除く)三百億ドル、クウェート百七十億ドル、ロシア百二十億ドルなど。先進七か国では、日本が約五十億ドル(約六千億円)、フランスが四十―五十億ドルと多いが、アメリカやドイツなどは数億ドルにとどまっていると見られる。

 ここでほぉと思った。

 千百二十五億バレルと世界第二位の埋蔵量を持つイラクの油田が原油生産を回復すれば、イラクは年百五十―百八十億ドル規模の輸出収入を確保でき、債務返済の有力な原資となる。しかし、イラクの対外債務規模は国内総生産(二〇〇〇年で約三百億ドル)の四倍強に達している。さらに、これとは別に湾岸戦争に伴って支払う必要がある賠償金が約二千億ドルもあるとされ、原油の輸出収入だけでは、新たな復興資金も含めた財政需要をとてもまかなえそうにない。

 この時点でイラクの対外債務規模は約千三百億ドルということだが、「これとは別に湾岸戦争に伴って支払う必要がある賠償金が約二千億ドルもある」ということなわけだ。
 で、「原油の輸出収入だけでは、新たな復興資金も含めた財政需要をとてもまかなえそうにない」のだが、これ、原油価格が上がれば話は別か。
 このあたりで湾岸戦争ころに遡るのだが、1991年2月20日読売新聞記事”再建険しいイラク経済 たとえ停戦実現しても 賠償・制裁…お手上げ(解説)”が興味深い。

 まず、イラクの対外債務は、昨年八月のクウェート侵攻時点で、七百五十億ドルに達していたと推定される。これは、途上国の中では、ブラジル、メキシコに次ぐ金額である。このうち、ソ連が武器輸出代金などで二百億ドル、クウェートが百四十億ドルの債権を持つとみられる。
 この負債を返済するだけでさえ容易ではないが、戦後はこれに、侵略で破壊されたクウェートや、ミサイル攻撃を受けたサウジアラビアなどから、賠償金の支払いの請求が待っている。
 クウェート亡命政権の試算によると、クウェートが受けた被害の総額は、六百四十億ドルに達するという。その上、イラクが仕掛けたイラン・イラク戦争でのイラン側の賠償請求問題もくすぶっている。イランとクウェートを合わせた賠償請求額は、二千億ドル(二十六兆円)に及ぶという試算もあり、これを支払うことは、事実上、不可能に近い。
 一方で、イラクは外貨収入の九八%を原油・石油製品の輸出に頼っていた。しかし、現在は経済制裁で輸出はできず、石油生産・石油化学工業の施設もほとんど破壊されてしまった。唯一の収入の道が閉ざされたことになるわけだ。


 また、イラクは、昨年八月以前、輸出の四七%、輸入の七〇%を多国籍軍側の国と行ってきた。しかも、石油輸出の八五%をサウジとトルコを通過するパイプラインを経由して実施していた。つまり、停戦になっても、多国籍軍側の経済制裁が続けば、イラク経済の再建など、絵にかいたモチであることがよくわかる。

 確かにそういう状況だった、と言いたいところだが、実態は少し違う。前年8月8日読売新聞記事”イラク制裁の効果は疑問 原油輸出、相当量が市場に”より。

 イラク経済は、八年間に及ぶイラン・イラク戦争遂行に伴う戦債など、現在総額七百億ドル余の対外債務を抱え、不振にあえいでいる。経済再建のため不可欠な輸出収入の九割までを、原油輸出に頼っている。その輸出先の三分の二が西側各国であり、禁輸措置が、同経済の首をジワジワ絞め上げていくことは間違いない。
 だが、相当量のイラク産原油は、制裁に加わっていない国を経由し、仲介業者の手を通じて世界市場に出回ることが予想されると、ロンドンのエネルギー問題専門家は指摘する。これを阻止するには、イラクからの原油の輸出を完全に封じる以外にない。
 イラク原油の搬出ルートは、トルコ、サウジアラビア両国を走る長大なパイプラインとペルシャ湾の二つ。米国はトルコ、サウジ両国に対し、パイプラインの送油停止を強く働きかけているが、両国がイラクを挑発する手段に出るのは困難との見方が強い。唯一の手は、西側各国によるペルシャ湾の海上封鎖ということになるが、各国がそこまで踏み切れるかどうか。

 このあたりに後の国連不正問題の根があるわけだが、というか、根はそのまま放置されてきた。
 このころの記事が今振り返ると面白い。4日読売新聞記事”OPEC支配の野望? クウェート制圧のイラクのサウジ侵攻説消えず”では。

 イラクのサダム・フセイン大統領の強力な権力志向型の個性を考えると、最終的にサウジアラビア侵攻をひそかに狙っている可能性は否定できない。それだけに米国を始め、湾岸に権益をもつ日本や欧米諸国は不安を募らせる。
 もしイラクがクウェートに加えサウジアラビアの石油まで意のままにできるようになれば石油輸出国機構(OPEC)は、フセイン大統領の個人機関に化しかねない。それでなくとも、ロンドンの専門家筋の間では、石油価格が来年まで一バレル=二十五ドル程度を続ければ、世界的に平均二―二・五%のインフレを生み、成長率を二%近く引き下げるとの声が早くもささやかれている。
 今回の紛争の口火を切ったのは、クウェートなどがOPECの協定枠を越えて増産、その結果、原油価格が急落したため、イラクが百四十億ドルの損害をこうむったとするフセイン大統領の非難だった。ついでタリク・アジズ外相は、「クウェートが十年前からイラク領のルメイラ油田を盗掘し、二十四億ドル相当の原油を盗んだ」として、損害賠償を要求。国家同士が「油泥棒」呼ばわりで、けんかするというスキャンダラスな展開となり、ついにイラク軍の侵攻という最悪事態に突入した。

 このとき原油価格の急落があった。というか、湾岸戦争の理由は原油価格の低迷にフセインが怒ったとしている話もあった。

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コメント

債務を返済するとかチャラにするとか以前に、イラクに正統性ある政権を持続的に確立できて、その政権を国際承認できるのでしょうか。
そっちのほうが何とかならないと、経済問題の話などしようがないと思われます。

投稿: イラクの債務 | 2008.07.19 07:59

finalventさんが結局何が気になっているのか今一わかっていないのにコメントするのもどうかと思いますが。

>債権国の大半はアラブ諸国
なのは、やはりイラン・イラク戦争の時の債務が大きいのではないでしょうか。ソースも示さずそう考えるのは

>サウジアラビアが主張する債権額(400億ドル)と、イラクが主張する債権額(150億ドル)の差額
というのがあって、なんで差額が生じるのか、というとイラ・イラ戦争でアラブ諸国からイラクに提供された資金が戦後になってから「貸した金だ返してもらおう」「いや、あれは貰ったもの」という食い違いをまねいて…っていう話だったのでは。だからこの時から引き継いだままの債務が大きいのかなと。

投稿: MuranoSumomo | 2008.07.19 08:21

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