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2008.07.12

[書評]中国人のビジネス・ルール 兵法三十六計(梁増美)

 「中国人のビジネス・ルール 兵法三十六計(梁増美)」(参照)は出先の書店の平積みで見かけ冒頭を立ち読みし、へぇ面白いんじゃいのと思ったので買って読んだ。兵法三十六計について面白いというより、「第一章「兵法」がわかれば中国人がわかる」が儒教と兵法の対応で中国人を論じていて、それはそうかなと思った。つまり、同書によれば、中国人というのは身内には儒教の倫理を適用するけど、身内でない人には兵法で接する、と。

cover
中国人のビジネス・ルール
兵法三十六計
梁増美
 ここでいう兵法というのは簡単に言えば策略、計略、というか、奸計というか陰謀というか、まあ日本人から見るとそう見える。中国人にビジネスで接していると「なんだか騙されたような気がする」から「マジに騙された」とか、第三十一計美人計で嵌められたとか(微細に羨ましい感じもしないではないが)、とかいろいろあり、本書は、そういうケーススタディが計ごとに伝聞的にテンコモリになっている、とひとまず言える。
 ちょっと留保してしまうのは、話は伝聞的なんで、まったくの架空のお話かもしれないし、ものの見方ということかもしれない。そのあたりはそうマジこいて読むことでもないのだろうけど、とはいっても実際に読まれると、こういうのって本当にあるんだろうな、うひゃあ怖いと思う日本人も多いだろうと思う。
 著者は、といって私はこの人についてまったく知らないが、中国通なんだろうなという感じはするし、あとがきでは儒教の話もしたかったのだけどみたいなこともある。それも書いてあったら面白いかもしれない。
 冒頭、立ち読みして、へぇと思ったその理論的な枠組みは”Chinese Business Negotiating Style(Tony Fang)”(参照)によっている感じだ。そっちを読んでみるかとお値段を見ると高い。洋書で直接買うかなと見てもそっちも高い。なんでなんでしょかね。もう一つの枠組みは、岡田英弘先生の考えに拠っているようだ。というわけで、先生の本はおそらくすべて読んでいる私にしてみると、なるほどだから馴染みやすかったのかなとは思った。が、岡田先生の中国人観と本書は微妙に違う。違って別に言い悪いということではない。
 本書は、端的に言えば、日本人が中国人とビジネスをしていかに騙されないないかというニーズで読まれるのだろう。そして実際のところ騙された人は多いし今後も多いだろうからそういうニーズはしかたないのだろう。ただ、ごくお気軽にいうと、本書はそういう面でそれなりに役立つけど(たとえば、献金を求められたら払っておけとか)、騙されまいとしても無理なんじゃないかな。邱永漢先生ですらなんどもやれているし、おそよ計には計を、つまり謀略には謀略をというのはどうしようもない悪循環になる。この点は、中国人も大人というかそれなりにわかっているから、ここは日本人は日本人商人の心意気で通すしかないんじゃないか、というか、現実問題として中国人とビジネスをやってそう騙されるというものでもないし、むしろ律儀だ。でなけりゃ華僑なんてやってられないというか、実は華僑が律儀という話は本書にもあるし、それと本書の良いところは、中国人は篤志家が多いことも書いてある。それもそうだ。
 本書は、序論後、兵法三十六計に沿って書かれてはいるけど、このあたり率直に読めばわかると思うけど、各計とエピソードがうまく噛み合っていない。もともと兵法三十六計というのが、それほどたいした根拠のないものだからというのはある。そのあたりはウィキペディアにもそれなりにまとめられている。

成立時期は不明であるが、大体5世紀までの故事を17世紀明末清初の時代に纏められた物だと言われている。1941年、邠州(現・陝西省邠県)において再発見され、時流に乗って大量に出版された。様々な時代の故事・教訓がちりばめられ、中国では兵法書として世界的に有名な『孫子』よりも民間において流通し、日常生活でも幅広く流用されている。

 兵法三十六計というのはそれほど大したものでもない。
 むしろ、漫画的なストーリー物のオチというか、大衆的な知恵をまとめたもので、逆にいえば、本書でも指摘されているが、この手の謀略の大半は、中国人にとっては子供でも知っている常識のようなものだ。ただ、それを実際にやるかというとそうでもないだろうし、儒教というのは別かもしれないが普通の倫理観というか道徳観のようなものは普通に中国人にもある。当たり前の部分が大きい。
 というか、最終のところで兵法というのは孫子であり、孫子というのは老子であり、タオに極まる。ということでタオの地点で儒教(つまり道教)と根が同じなので(この点は本書でも触れていて好ましい)、だから、そうしたちょっとオカルト的な部分も出てくる。まあ、そういう文化というか文明なんだから、そういうものなんじゃないかくらいなことかな。中国とは長い付き合いなのだから大きく構えたほうがいい。
cover
孫子
(講談社文庫 か 1-1)
海音寺潮五郎
 そういえば本書の計の説明で孫子の孫臏のエピソードが何度か出てくるけど、このあたりは、「孫子(海音寺潮五郎)」(参照)が面白いよ。私はこの本、十回は読んだ。まだまだ繰り返して読むと思う。

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コメント

中国の謀略の話なら、福田晃市先生の 中国人に学ぶ「謀略の技術」(PHP研究所)がお勧めです。この本は、清朝の時代に書かれた「間書」という書物の解説書なのですが、中国人が謀略というものをいかに体系的、組織的に考え抜いてきたかということをよく教えてくれています。そして、謀略というものは、下手な仕掛け方をすると、謀略を見抜かれた側のほうがとんでもない思いをするので、うかつに下手な小細工のような謀略を案出しないほうがよいことも教えてくれます。とはいえ、謀略抜きで権力者が権力を維持できた時代など無かっただろうから、この本は、小市民向けではなく、権力者向けの書物だと思います。
福田先生の著書は、ソフトバンククリエイティブから刊行された「孫子の兵法」と「初めての論語」も非常によい本です。孫子や論語をこれほど現代人に応用しやすく解説してくれた解説書はほかに無いと感心しております。
福田先生には、「間書」だけではなく、「漢書」の方も解説書を執筆していただきたいと思っています。

投稿: 謀略の話 | 2008.07.14 06:31

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