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2008.07.13

[書評]兵法三十六計 かけひきの極意 中国秘伝!「したたか」な交渉術(ハロー・フォン・センゲル)

 昨日取り上げた「極東ブログ: [書評]中国人のビジネス・ルール 兵法三十六計(梁増美)」(参照)だが、これは日本人作ではあるけど、実際のところ欧米での最近の「兵法三十六計」ブームというか対中国系の本の派生として書かれているっぽいので、そのあたりの空気というかどうなんだろと、本書「兵法三十六計 かけひきの極意 中国秘伝!「したたか」な交渉術(ハロー・フォン・センゲル)」(参照)も読んでみた。

cover
兵法三十六計 かけひきの極意
中国秘伝!「したたか」な交渉術
ハロー・フォン・センゲル
 こっちはドイツ人ですよ。中国とドイツといったら「極東ブログ: 時代小説 黄宝全」(参照)の元ネタを思い出すけど、特にその雰囲気はない。ドイツも歴史を忘れているかも。それはそれとして、この本、微妙に怪著でしたよ。その意味で面白い。ビジネス書として読んで面白いかというと、面白い。対中国関連で読んで面白いかというか、これがまたねじくれて面白い。ちょっとそのあたりを説明したい。
 この本、普通は兵法三十六計の解説書として読まれると思う。ドイツ語で書かれ、釣書的には、「ビジネスマンに向けて解説。英語、ドイツ語、スペイン語など9カ国語に翻訳された世界的隠れたベストセラーが日本に登場」とのこと。そのあたりは、べたに対中国ビジネスものとして読まれちゃったのだろう。たしかにそう読んでもいいのだけど、ドイツ人が中国について書いてそれを日本人が漢字交じりに翻訳して読むというヘンテコ回路にぴったりの変な構図がこの本にある。
 ちょっと言い過ぎかもしれないけど、話を端折るためにぶっちゃけ的にいうと、この本、台湾とか香港とか北京とか出たらしい兵法三十六計の大衆書を買いこんでそのエピソードを、いやその、コピペっている感じがすごいする。いちいちエピソードの出典が記載されているのだけど、それを見ていくと、逆に中華圏でこの手の本がしこたま近年出ていた雰囲気もわかる。ただ、実際に出典を見ているとそれは多数というより、ネタ本は2002年に北京で出た「商戦兵法三十六計全書」というののようだ。だったら、日本人的にはそれ中国語から直接翻訳してくれねか的ではある。
 著者フォン・センゲル(参照)はいちおう中国学の専門家らしいのだが、日本人から見ると、なんかこの人漢籍の教養はないのかも的な雰囲気は漂う(ヘルマン・ヘッセとかカール・ユングとかはなんか逆で嫌味があるけど)。もっともそんなもの出してもターゲット読者層へのじゃまかなと判断されているのかもしれない。幸い訳者のかたに普通に日本的な漢籍の教養があり、それで補っている印象もある。
 逆にこの西洋人漢籍素養なさげというのは、欧米人の書籍にありがちなんだけど(タオとかの本ですらそう)、原理性への知性的追求がきっちりしている裏腹であることもあって、つまり、フォー・ダミーズ的でありながら、きっちり高度な部分まで描くことがある。本書もそういう面はあって、昨日取り上げた「中国人のビジネス・ルール 兵法三十六計(梁増美)」(参照)がべたっと三十六計を並べてしまうのに対して、フォン・センゲルのほうは三十六計の内的な原理を洞察し再組織化している。
 この部分の知的作業がフォン・センゲル自身によるのかよくわからないのだけど、梅田望夫風にいうと情報が構造化されているのでわかりやすい。また、ある意味で西洋人にありがちな東洋神秘観のせいか、各計についても、それぞれこれが秘伝解だみたいな切り込みはせず、複数解を並置している。というか、いくつかの複数解を読みながら、私は、ああなるほど、これは易の象なのだなとわかったというか個人的に理解した。その「わかった」感は自分的にはけっこう衝撃だったので、その意味で、ちょっと皮肉に評してしまうけど、本書は意図されたものではないにせよ、自分にとっては良書だった。なるほど兵法とは易か。
 各計のエピソードはたぶん中華圏で作成されたコピペのせいか、これも端折って言うと、日本人への偏見に満ちていて笑える。フォン・センゲル自身も日本人と中国人の違いがよくわかってないんじゃなかろかねみたいなところがある。また、エピソードに対するフォン・センゲルのコメントもある意味で笑えるのが多いというか、西欧の人だとそんなふうに反応するのかという大衆的な感性(おいおいオッサン的)が露出している。そのあたりは、逆に西欧人の発想が逆に伺える。

兵法三十六計


第一計 瞞天過海 《まんてんかかい》

天を瞞いて海を過る《てんをあざむいて うみをわたる》

第二計 囲魏救趙 《いぎきゅうちょう》

魏を囲んで趙を救う《ぎをかこんで ちょうをすくう》

第三計 借刀殺人 《しゃくとうさつじん》

刀を借りて人を殺す《かたなをかりて ひとをころす》

第四計 以逸待労 《いいつたいろう》

逸を以って労を待つ《いつをもって ろうをまつ》

第五計 趁火打劫 《ちんかだごう》

火に趁んで劫を打く《ひにつけこんで おしこみをはたらく》

第六計 声東撃西 《せいとうげきせい》

東に声して西を撃つ《ひがしにこえして にしをうつ》

第七計 無中生有 《ちゅうしょうゆう》

無の中に有を生ず《むのなかに ゆうをしょうず》

第八計 暗渡陳倉 《あんとちんそう》

暗かに陳倉に渡る《ひそかに ちんそうにわたる》

第九計 隔岸観火 《かくがんかんか》

岸を隔てて火を観る《きしをへだてて ひをみる》

第十計 笑裏蔵刀 《しょうりぞうとう》

笑いの裏に刀を蔵す《わらいのうらに かたなをかくす》

第十一計 李代桃僵 《りだいとうきょう》

李、桃に代わって僵る《すもも ももにかわって たおる》

第十二計 順手牽羊 《じゅんしゅけんよう》

手に順いて羊を牽く《てにしたがいて ひつじをひく》

第十三計 打草驚蛇 《だそうきょうだ》

草を打って蛇を驚かす《くさをうって へびをおどろかす》

第十四計 借屍還魂 《しゃくしかいこん》

屍を借りて魂を還す《しかばねをかりて たましいをかえす》

第十五計 調虎離山 《ちょうこりざん》

虎を調って山を離れしむ《とらをあしらって やまをはなれしむ》

第十六計 欲檎姑縦 《よくきんこしょう》

檎えんと欲すれば姑く縦て《とらえんとほっすれば しばらくはなて》

第十七計 抛磚引玉 《ほうせんいんぎょく》

磚を抛げて玉を引く《れんがをなげて ぎょくをひく》

第十八計 擒賊擒王 《きんぞくきんおう》

賊を擒えんには王を擒えよ《ぞくをとらえんには おうをとらえよ》

第十九計 釜底薪抽 《ふていちゅうしん》

釜の底より薪を抽く《かまのそこより まきをぬく》

第二十計 混水摸魚 《こんすいぼぎょ》

水を混ぜて魚を摸る《みずをかきまぜて さかなをさぐる》

第二十一計 金蝉脱殻 《きんせんだっかく》

金蝉、殻を脱ぐ《きんせん からをぬぐ》

第二十二計 関門捉賊 《かんもんそくぞく》

門を関ざして賊を捉う《もんをとざして ぞくをとらう》

第二十三計 遠交近攻 《えんこうきんこう》

遠く交わり近く攻む《とおくまじわり ちかくせむ》

第二十四計 仮道伐鯱 《かどうばっかく》

道を仮りて鯱を伐つ《みちをかりて かくをうつ》

第二十五計 偸梁換柱 《とうりょうかんちゅう》

梁を偸み柱に換う《はりをぬすみ はしらにかう》

第二十六計 指桑罵槐 《しそうばかい》

桑を指して槐を罵る《くわをゆびさして えんじゅをののしる》

第二十七計 仮痴不癲 《かちふてん》

痴を仮るも癲せず《ちをいつわるも てんせず》

第二十八計 上屋抽梯 《じょうおくちゅうてい》

屋に上げて梯を抽す《おくにあげて はしごをはずす》

第二十九計 樹上開花 《じゅじょうかいか》

樹上に花を開す《じゅじょうに はなをさかす》

第三十計 反客為主 《はんかくいしゅ》

客を反して主と為す《きゃくをはんして しゅとなす》

第三十一計 美人計 《びじんけい》

美人の計《びじんのけい》

第三十二計 空城計 《くうじょうけい》

空城の計《くうじょうのけい》

第三十三計 反間計 《はんかんけい》

反間の計《はんかんのけい》

第三十四計 苦肉計 《くにくけい》

苦肉の計《くにくのけい》

第三十五計 連環計 《れんかんけい》

連環の計《れんかんのけい》

第三十六計 走為上 《そういじょう》

走ぐるを上と為す《にぐるをじょうとなす》


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