[書評]仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか(山本ケイイチ)
「仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか(山本ケイイチ)」(参照)だが、最初書名を見たとき、「ああ、これは最近乱造されているネタ本かな」と思って敬遠していたのだが、なんとなく面白い本のではないかなとも思ったので購入し、ざっと目次でもブラウズするつもりが、ぐいぐいと引かれてそのまま読み切った。面白かった。知らないことをこの本で知ったという部分はそれほどないが、読みながら、現代日本やこれからの日本社会がどういうふうに変化していくか、ある具体的なビジョンが得られたように思った。
![]() 仕事ができる人は なぜ筋トレをするのか 山本ケイイチ |
グロテスクな部分、つまり、筆者の意図ではないのだがという限定は明確にし、私が受け取ってしまった部分を単純に言えば、筋トレしない人間はもう脱落者、ということだ。もちろん、筋トレしないでも人生の成功者というかビジネスの成功者はいるだろうし今後もいるだろうから、そのグロテスクな見方が一般的になったり支配的になることはない。だが、成功者=筋トレ=肉体的に見た目の差別感、という社会通念的な人間観はこれから一層強化されていくだろうし、そうした先行的な傾向の風景がこの本からよく見える。
もう少しこの部分を踏み込んで言う。私も筋トレを始めた、というか、再開したので本書の内容がよくわかる部分は大きいので、その点はあとで触れたいのだが、本書が結果的に描いているのは、筋トレでも、たとえば私のようにブルワーカー(参照)やチューブ(参照)などを使ってチープに実現するということではない。くどいが筆者はそれを否定しないだろうと思う。が、この本が結果的に描いているのは、社会的成功者、あるいは成功に到達しつつある若い世代の一群の人々が、フィットネスクラブを使って身体を改造していく光景だ。
ある程度ぶっちゃけて言ってもいいと思うが、30代、40代の米国のビジネスエリートを思い出すと、彼らは男女ともにまず肉体が違う。これはがっちり筋トレしているなという感じがすぐにわかる。ごく個人的な印象なんでハズしているかもしれないが、最近は中国人エリートでもそれを感じる。エリートは体格でまずわかる。その体格がないとファッションも着こなせない。こういう見た目でエリート感というのは30年くらい前もそうだったように思うが、あの時代を思うとエリート達には、それ以前に、ある種の倫理感と禁欲感のようなものがまず先行してあり、肉体はそれに従属していた。どこかで逆転したように思える。
この米人エリート達は高級フィットネスクラブで筋トレをやっている。そしてそれがビジネスと恋愛の一種の社交界を形成し、つまりインサイダー的グループを形成している。それが日本にも及んできたのだなと思う。残念ながら現在の私はそうしたものをもう間近で見ることはない(見たくもないけど)。
こうした風景のアイロニカルな表出はたとえば次のような部分だ。入会金や月会費が高いフィットネスクラブは何が違うのか。
では高い入会金や会費は何に使われているのか。
私は以前、あるコンサルトに、
「会費が高いフィットネスクラブとそうでないクラブの違いって、どこにあるんですか?」と質問したことがある。
するとそのコンサルタントは、
「ロッカーとロッカーの間隔だよ」と即答した。
筆者はそうしたものは筋トレには必須ではないし、よい経営によってカバーできると力説するのだが、現実には、ロッカーとロッカーの間隔のある高級フィットネスクラブにエリートは集まり、ゆったりとシャワーをする。そしてその先は言わずもがなだろう。
この本の魅力はそうした結果的な風景を次のような真摯な視点で対比させることだ。
では、入会金や月会費の違いによるトレーニング内容の違いはあるのだろうか。
私はないと考えている。それはズバリ、入会金や月会費がトレーナーやインストラクターにあまり還元されていないからである。フィットネス業界で働いたことのある人には納得してもらえると思うが、トレーナーにしてもインストラクターにしても、とにかく給与、報酬が安い。これはいわゆる高級クラブであっても変わらない。
たぶんそうなのだろう。そして、その部分はこれからは変わっていき、より優れたトレーナーがより肉体的なエリートを作成していくのだろう。
そこまでして肉体的なエリートになりたいものなのか。という問いをもう少し筋トレという点で見て、そこまでして筋肉を付けたいのか、というと、本書の事例で、予想外ではないが、ディテールが面白すぎる。ようするに、エリートのみなさん、もっとモテたいのだ。筋肉はモテると思われている。実際にそうなのだろう。私などはいやはやという感じがするし、そうした側面について良心的なトレーナーがどう見ているかは本書がとても参考になる。もちろん軽蔑はしてない。否定もしてない。
筆者はとても公平に多様な側面を描いている。一般的な筋トレ本では得られない話も多い。忠告も重要な点が多い。例えば、筋トレは筋肉増強に暴走しがちだとも忠告している。これは当たり前に重要なことだが、そこに嵌る人は少なくない。ありがち雑誌みたいに3か月で腹筋を割る特集みたいなことはあり得ないこともきちんと書かれている。加圧トレーニングの危険までは踏み込んでいないが、ダイエットと筋トレの関係や、筋トレと有酸素運動との差異などもきちんと書かれている。本書は、フィットネスについてかなり読みやすく妥当な概説書になっている。ただし、しいていうとディテールで非科学的な部分も若干あるようには思えた。
本書は年代別の筋トレの示唆も30歳から5歳単位で細かく書かれている。ふむふむと読みながら、示唆には50歳以上がない。そこであれれと私は気が付いた。私自身が50歳であることをすっかり忘れていたのだ。つまり私などは、筋トレの実用書的にはもう本書の対象外かな、あはは、とか思った。が、たぶん、市場的にはこれからは50歳から70歳レンジの筋トレも重要になるではないか。というか、その世代がある程度おカネをこの分野に注げるかどうか?
50歳である私は世代的にはぎりぎり戦後の貧しい世界に根をもっている。筋肉を鍛えるにはコンダラでも引っ張るほうがいいような間違った先入観もある。団塊の世代とか兎跳びとかしちゃうんじゃないか。脚を伸ばして腹筋するなよ爺みたいな。とか、ざっくりと見れば、たしかに現在の50歳以上はあまりまともなフィットネス市場にはならないような気もする、といったところか。
![]() 40歳からの肉体改造 頑張らないトレーニング |
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コメント
不細工でデブなやつは、恋愛だけでなく仕事の面でも
(イケメンと比べて)不利というわけですか
なんか、ようわからんので今度手にいれて読んでみます
投稿: tt | 2008.07.06 18:50
いつも拝見しております。
高価なフィットネスクラブに入っている人は仕事のできる人(稼いでいる人)ということでしたか。
ここでいう米国エリート的な高給取りは、普段あまりお目にかかれないので解りませんが、もう少しレベルを落として20歳代30歳代の方を外見だけを観察していると、食べることにお金をかけないくて痩せている人、またかけられないので痩せている人、年収が低く無制限に食べることでストレスを解消している人、まあまあの年収がありスポーツなどをして体型を維持している人、年収はたっぷりあるが遊ぶ暇がなくて夜遅く飯を食って太っている人などがいます。筋肉の有る無しはあまり外見からは解りませんので、やはり太っている人は、なんらかの問題ががありそうだということしかわかりませんね。
ちなみに50歳代のわたしは、最近、有酸素運動にこり始め、筋肉はついていませんが痩せてはきました。
投稿: kincyan | 2008.07.06 19:25
こんにちは。
書評としてバランス良いエントリだと思いましたが、
>団塊の世代とか兎跳びとかしちゃうんじゃないか。脚を伸ばして腹筋するなよ爺みたいな。とか、ざっくりと見れば、たしかに現在の50歳以上はあまりまともなフィットネス市場にはならないような気もする、といったところか。
finalventさんの団塊嫌い、って徹底的ですね。団塊の下世代にとって、団塊世代って忌み嫌う物体でアルというのは、判る気がしますが、ここまで揶揄するのは如何なものでしょうかね?なんて、思いました。
投稿: けろやん。 | 2008.07.06 21:09
「デブは自己管理ができていない」って一時期よく聞きました。
投稿: | 2008.07.07 00:07
見た目より中身
カラダの使い方を知らないor忘れてる人が増えてる
投稿: | 2008.07.07 06:53
>筋肉を鍛えるにはコンダラでも引っ張るほうがいいような
あはは。コンダラ!巨人の星!
俗語だと思っていたら、もう定着してるんですね。
コンダラ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コンダラは、グラウンドの整備などに使う「整地ローラー」を指す俗語。コンダラが整地ローラーの正式名称だとする都市伝説によって俗語として定着した。コンダーラーとも。語源は、アニメ版『巨人の星』のオープニング主題歌、「ゆけゆけ飛雄馬」(作詞: 東京ムービー企画)の最初のフレーズ「思い込んだら 試練の道を」の「込んだら」であり、そのフレーズを聞いた視聴者が「重いコンダーラ(重いコンダラ)」と勘違いしたことが由来とされる。
投稿: Jeremy | 2008.07.07 10:55
>筋肉を鍛えるにはコンダラでも引っ張るほうがいいような
…これって、♪重い~コンダァラ、試練の道ィを~
に出てくるやつですね!
投稿: 阪神の星 | 2008.07.07 14:42
確かに、アメリカあたりの「できる」人ってジムに通っているイメージがありますね。
朝早起きしてジムで1時間汗流して、シャワー浴びて会社に行く。社外からの多くの訪問者をさばき、社内ミーティングで議論をして物事を進める。
帰宅したら家族と団欒。酒もタバコもやらず、読書して就寝。
出張が多いが、必ずフィットネスジムがついているホテルを選び、出張中もフィットネスを欠かさない。
残業はするが、休日はきちんと取り、夏は長期休暇をとって家族とリゾート地へ行く…。
何となく禁欲的な感じもします。
そして、そういう生活を誇りにしているというか、楽しんでいるというか。
「エリートはこうあるべし」という確信があるように思います。
投稿: alice | 2008.07.07 18:25
なんとなくネットサーフィンしていてたどり着いた「ブラジル男を骨抜きにするヒップの作り方」サイト管理人さんの肉体管理へのモチベーションも、最高のsex(=最高の人生)みたいだし。
わかる気はする。
ゆえに安定した伴侶のいる、老齢に差し掛かった層には
必要のない本かな、と。
投稿: ふぁむ | 2008.07.08 18:41
私の体力維持の方法は今のところもっぱら散歩です。ビール飲んで体がだぶだぶでもあまり気にかけていません。もともとエリートに生まれついていないし。
でも、筋トレしていても、15分正座したら足がしびれて立てないようだと余計かっこ悪いと思います。
筋トレしたからラグビーでいくつもトライを決められることも無いだろうし、ボクシングのスパーリングを何ラウンドもこなせるものでもなかろうと思われます。
無内容なかっこよさは危機的状況にはおそらく無力と思われます。
暴力沙汰に近いことが起きた場合には、1対1で素手なら、左半身の無構の前傾姿勢をある程度正しく取れるだけでも、相手の第一撃の正拳突きや金的攻撃を回避するのが容易になるものです。霊気の手刀を知っていれば、相手の右肩や右の首筋を打ちつけて相手を倒せるし、浮船の姿勢をとれれば、相手がキックボクサーでもなければ、相手のローキックに対処するすべもあります。
このくらいのことまでなら、世間に知らせてしまっても鹿島の神様も香取の神様もお咎めにならないと思います。
もちろん、わたしは全く武闘派などではなく文弱組に属するものです。
投稿: 散歩派 | 2008.07.09 06:25
マンハッタンにNY Athlethic Clubというのがあり、米国人の中にはプロフィルに会員であること書いてるものもいる。一度、そこにあるレストランを面会場所に指名されたことあり、出向いたら、先方の米国人はジムで汗を流したばかりなのかタオル掛けて現れマッチョな筋肉を誇示され、痛いほどの握手をされました。
その後、会員用レストランで食事となり、先ずは相手に自分の肉体と財力を見せ付けてから商談となりました。
後で知ったのですが、そのClubは会費も高いが会員からの推薦がないと入会できないというプレステージアスなクラブとか。
また、米国ビジネスマンは、初対面の相手をsize upするということも後で知りました。疲れる国民です。
投稿: 恩田川 鴨次郎 | 2008.07.11 17:48
初めて、コメント差し上げます。
Twin's book club のB子と申します。
いつも「う~ん、なるほど」と、
感嘆の声を上げながら、読ませていただいております。
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投稿: B子 | 2008.07.12 09:59