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2008.07.04

[書評]人生の危機は宇宙からの贈り物(ローラ・デイ)

 今週のニューズウィークにローラ・デイ(Laura Day)を話題にした記事「困ったときは霊感頼み」があって、そういえばと思って比較的最新の「人生の危機は宇宙からの贈り物(ローラ・デイ)」(参照)を読んでみた。
 デイはそれなり有名な人と言っていいのだろうと思う。ウィキペディアにも簡単な項目がある(参照)。該当記事のオリジナル”The $10,000-a-Month Psychic”(参照)は例によって無料で読める。ついでにご本人が語る動画もあって、ちょっと怖い。
 日本語記事の表題もアレだし、英語のほうもアレで、記事内容もモデレートだけどアレがかっている感じはある。ようするに、霊感アドバイスでコンサルト料を儲ける人がでる時代だというのだが、これって別に現代に限らない。正確な歴史として研究されたことがあるかどうかわからないが、米国でも日本でも少なからぬ政治家にこの手のものがくっついているし、企業経営者とかだともっと多い。あまり言うのもなんだけで、某アレとかも別段TVでメタボ表示しなくても十分やっていける。

cover
人生の危機は
宇宙からの贈り物
 「人生の危機は宇宙からの贈り物 望みをかなえるチャンスに変える」(参照)はどうだったか。結論からいうと意外に普通の啓発書だった。その分、つまらないとも言えるけど、ごく普通の啓発書として読んでみてどうかというと、なるほどこれは売れるかな、上質の部類ではないかな。自分としても、考えさせられるところはあった。ので、あとで触れる。
 邦訳タイトルはまた「宇宙」かよ。「極東ブログ: [書評]身体症状に<宇宙の声>を聴く(アーノルド・ミンデル)」(参照)でも邦題に「宇宙」が出てきてアレなんだが、このあたりの出版社の感性がわからない。「宇宙」だと売れるんでしょうかね。そういえば、デイのこの本だけど、ミンデルに似ている部分はある。
 オリジナルタイトルは「Welcome to Your Crisis: How to Use the Power of Crisis to Create the Life You Want」(参照)、つまり、「ようこそ、あなたの危機:あなたが望む人生を作るために危機の力を使う方法」ということ。なんかよくわからないといえばそうだから、邦訳のサブタイルもしかたないのかもしれない。
 意図は、人生のズンドコに落ちた危機の時が、新しい人生が始まるチャンスでもあるのだということ。んなまさか、だけど。実際、あれですよ、人生ズンドコしちゃって、そこで命果つということがなければ、なんとか乗り越えるのだし、乗り越えた分だけなんとかなっているので、自分なんかもそういうサバイバーなんで、なるほどね、ズンドコ見ちゃうと成長する部分はあるよねとは思う。
 なので、本書は、今まさに人生のズンドコの人向けに書かれているのだが、これは例えば、いや例示はまずいし誤解されるか、でもお勧めすべき本なのか。ちょっと微妙。この本、ニューズウィーク記事や表題から期待されちゃうオカルト度はかなり低いですよ。そして意外にプラクティカル。ディはかなりインテリジェンスが高いんじゃないか。つまり、彼女は別に霊感というか直感で稼がなくても十分やっていける能力はありそうだ、というのがよくわかる。ぶっちゃけ、この本は人生ズンドコだったら助けを求めなさいというふうに誘導するように書かれている。
 それって米国的かなとも思う。日本だと人情とか言われているわりに、困っている人のサポートグループ的なものは政治的な色がないとむずかしいのが現実。それと、これも米国的なのだろうと思うけど、どっちかというと頑張れ自助努力的な部分は大きいので、日本人みたいにズンドコだったら甘えたいべちょべちょでいいでしょ受け入れてくれ的メンタリティーには向かないかもしれない。
 もうちょっと分析的に読むと、この手の業界慣れした人なら、ここはゲシュタルトセラピー、ここはNLP、ここは交流分析みたいに、ネタの仕込みはけっこうわかるというか、ようするにその手のもののええ塩梅のアレンジになっている。
 読んでいて意外と面白いのは、現代米国人のある種の人生の断面というのが、なんというかポエティックにいろいろ描かれていることだ。デイ自身の人生の体験談なんかも、ある意味では壮絶だな。人生ってその悲惨な壮絶感がどことなく詩的なワビサビ感にも通じるみたいな。そういう意味で、他人の人生をなんとなく見つめて、そういえば、自分の人生を横切っていたあいつとかこいつとか、どうしたかな、ろくなことにはなってないだろうなとか、けっこう物思いに浸った。
 私個人しては、それでも読んで良かったかなと思う部分はいくつかあって、その一つは、自分を生態系として見なさいということ。このあたりディがうまく書いているか、私がうまく読み取れてないかちょっと曖昧なところがあるけど、危機に陥ったとき、それは危機そのものを作り出す生態系の一環としての自分は、ある意味で、すでに過去として死んでいるわけで、それはそれで終わりとして別の生態系に移行しないといけない。この時、自分という思念や各種の総合性というのは、必然的に過去のものして終わるには終わる。なんか曖昧なことを言っているようだけど、過去はどうやっても取り返せない。また過去に期待した未来はすべて無くなってしまった。生きるのは今とこれから未知の未来だけで、しかも過去のようには生きられない。
 あたりまえといえば当たり前だけど、そのあたり、自分の思念のなかでぐるぐる考えていてもどうにならないし、まして権力だのカネだのある人はそのあたりのトチ狂いというか孤独はあるだろうから、この手の霊能力者の市場というのはあるのだろう。
 ついでにいうと、危機を乗り越えてバリバリと権力だのカネだの世界に舞い戻る系でない人でマジ人生危機になってしまったなという人なら、本書より、クリシュナムルティの「しなやかに生きるために 若い女性への手紙」(参照)は薄っぺらだけど、お勧めしたい。サブタイトルにあるような若い女性へと限らない本だ。ただ、この本にはなんの救いもないし、きちんと理解するのはとてつもなくむずかしい本で、いろいろ言いたい人は多いと思うので私はあまり言うことはない。

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コメント

すみません、細かいようですが…
原題の逐語訳、「ようこそ、あなたの危機へ」(「へ」を加えるという意味)とした方がいいかと。読む人によっては「あなたの危機」に呼びかけているようにも取れるのでは…?

それはさておき、仰るような啓発書だとしたら邦題に「宇宙」をもってくるのはいかがかと思いますよね。購買者をかなり狭めてしまうだろうに。

投稿: MuranoSumomo | 2008.07.06 08:39

「人生、底付いたら助けを求めなさい」って、それ自体は真実なんだけど・・・。最近、サポートグループってヘンな場所だなと思うようになって来ました。・・・何で、普通ピロートークで言えばいい事を、毎日集まって、他人の面前で泣きながら話すかね。(すごく、突き放した言い方だけど。)
「否認」(自分の気持ちをごまかす事)は、確かによくない。・・・しかし、自分の本当の気持ちを、いちいち人にカミングアウトするかどうかは別問題でしょう。・・・サポートグループ自体では、皆の悪口は厳禁・・・。つか、裏では色々とまかり通ってるけれども。なんかつくづく偽善的な場所だと感じる事が、率直に言ってあります。

投稿: ジュリア | 2010.02.07 11:06

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