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2008.07.19

[書評]中国発世界恐慌は来るのか?(門倉貴史)

 書名に釣られて読んだ。「中国発世界恐慌は来るのか?(門倉貴史)」(参照)だものね。

cover
中国発世界恐慌は
来るのか?
門倉貴史
 気になるといえば気になるし。帯には”「北京五輪後、崩壊が始まる」という説は本当か?”とあり、本当なのか? いや違う。北京五輪を待たずもう崩壊が始まっているから、という冗談はさておき。
 そのスペシフィックな問い掛けについては、ミステリー小説のスポイラーのようになるが、まず3つのシナリオが提示される。

  1. バラ色に彩られた最良のシナリオ
  2. 問題先送りの灰色のシナリオ
  3. 崩壊への暗黒のシナリオ

 さて、どれか?
 著者による表向きの解答はこう。

 さて、では実際のところ、バラ色のシナリオと暗黒のシナリオのどちらが現実的なのだろうか。筆者は、60%程度の確率で、とりあえずはバラ色のシナリオが実現するのではないかとみている。

 というわけで、バラ色に決定!
 というには微妙な書き方になっているのはしかたがないだろう。かくいう私はどうかというと、60%程度の確率で灰色のシナリオあたりじゃないかな、60%で灰色ってなんだとかツッコミ禁止ね、洒落だから。というか、本書の筆者も灰色のシナリオを挙げていていちおうその説明があるのだけど、「実際のところ」の決断で外しているのは何故? というか、そのあたりは、本書を最後まで読んでいくと、なんとなくわかる。わかれよ。
 ところでバラ色60%マゼンタ80%的な理由はなぜか。

 その根拠は、中国政策当局が90年代半ばの引き締め政策や日本のバブル崩壊から教訓を引き出しているという点にある。その教訓とは、金融引き締め解除のタイミングさえ誤らなければ、荒療治を行っても経済をソフトランディングさせることは十分に可能ということだ。

 こ、これはネタ? というか、日本はそれに成功したら教訓なのか、日本は失敗したから、ああすんじゃねーという教訓なのか。どっちだとあなたは思いますか?
 後者でしょ、たぶん、かなり60%以上の確率で。日本はべたにタイミング誤ったわけだし。
 本書でもこのあと「バブル退治に失敗した日本と異なり」とあるので、つまり、日本は失敗したら、だからそうしなければうまくいくという論拠、だなと、ここは微笑むところかも、とか本書を腐したいわけじゃないけど、ダメの道はいろいろとあってダメが一個ならそれを避ければいいけど、右の下水路を避けたら左の肥溜めに落ちるというダメはいろいろあったりして。

 結局、これらの3つのシナリオから言えることは、北京オリンピックの宴が終わった後に中国経済が深刻な不況に見舞われると日本の企業は大変困ったことになるが、かといって、中国がソフトランディングに成功して超大国への道を邁進するようになったとしても、それはそれで厄介な側面もあるということだ。どちらに転んでも大きな影響力がある、それほど日中関係は抜き差しならないものになっているのである。

 そりゃそうでしょ。このあたりを「”俺様国家”中国の大経済(山本一郎)」(参照)は日本国家の存亡の視点から書いているが、ようするにパチンコの玉みたいに中期的には下の穴に入ってしまうわけだ。
 でと、現時点でこの手の話題を論じてそれなりにまともな意見にするなら、最初からある程度このあたりまでしか言えないよなというのがきっちりたらっとふら~っとに本書は書かれているし、途中、いろいろレポートまとめました百科事典的だったり、中国面白エピソード集っぽかったりして、それはそれで面白いし、その価値も十分あるので、お得な1冊でもあるのだが、というか、著者もわかっていて。

 本書では、『中国発の世界恐慌は起こるのか?』という疑問をきっかけとして、様々な側面から、北京オリンピックを開催した後の中国経済がどのような姿になるのかを検討してきた。いろいろな話が出てきて頭が混乱している読者もいると思うので、最後にこれまでの論点を簡素にまとめておこう。

 と率直に書いている。いろんな話はそれなりに面白いのだけど、『中国発の世界恐慌は起こるのか?』とはそれほど強く論拠になっているふうは表向きは、ない。
 が、とこのあたりでマジに読者として本書の評価をすると、北京オリンピック後の崩壊というのはようするにレンジの問題だろう。というか、ここまでよくもったよなということで、そのもった仕組みについて、「第6章 人民元の切り上げと資産バブルの崩壊」という章で縷説しており、率直にいうと、中国経済の専門家は別として一般人なら、この章読むだけで本書の価値がある。よく書けていると思う。というか中国政府はよくやっている。つまり、バラ色60%はここまでよく頑張りましたということだろう。
 なかでも、今年に入ってからの上海株暴落にはよく耐えてきたと思う。本書でも、「中国本土の株価バブルは完全に崩壊したと言っていいだろう」としてそれをすでに過去のこととしている。あとは不動産市場だがこれは率直なところお茶を濁すしかないだろう。「中国社会科学院は、これまでの金融引き締め政策の効果が浸透してくることで、中国の不動産価格が08年以内にスローダウンするとみている」と伝聞にして締めにしている。
 あとは不良債権の問題だが私はよく読み取れなかった。米国のサブプライムローン問題を表に出して論じてるために却ってよくわからないという印象を持った。
 結局どうなのか? 

 ただ、問題は上海万博が終了した後、すなわち2011年以降の中国経済がどうなるかである。より中長期的な視点に立って考えると、中国発の世界恐慌が起こる可能性は排除できない。

 本書はむしろ社会的な要因を主要なものとしているが、どうだろうか。
 私のごく印象だが、北京オリンピックという契機をこれまでの頂点と見るか、来るべきものの前倒しと見るかで、前倒しされる壮大な崩壊は依然ありうるのではないか、というところだ。でも、日本とか米国とか世界経済がその前にチキンレースに負けました、ならそれはそれで、Win-WinならぬLose-Loseでめでたしとかになるかな。
 そのあたりの指標は筆者も指摘しているがインドだろう。長期的に見れば、インドが中国を圧倒してくるし(中国は高齢化する)、そのパワーのぶつかりは激しくなる。
 本書にはいろいろなお話が掲載されていて、飲み会のネタの仕入れにもいい。ただ、石油高騰問題や水問題、三峡ダム、台湾問題など、いろいろというなら項目にあってもいいものはいろいろ抜けている。

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コメント

こんにちは。
この本は勿論読んでいません。多分今後も読まないと思います。何故って、finalventさんのこの書評の先が、つまり、抜けていると気づかれている部分を引っ張って、歴史にぶつけて書いてもらった方が面白そうです。
私は頻繁に思うのですが、ここらへんで本でも書かれてはどうでしょう。社会自治問題がこの先平和な世界・・うーん、とりあえず我々世代がもう少し充実した社会(老人・子どもにとって)をこの先どうしたら残せるのかなど、建設的な見通しが立てられるきっかけとなるようなことなどをテーマに。
どうでしょう?

投稿: ゴッドマー | 2008.07.19 13:56

小林よしのり先生が中島岳志なる人物について非難と摘発を重ねておりますが、わたしは、小林先生の議論や資料は基本的にすべて正しいはずだと考えながらも、1点すごく引っかかることがあるのです。
それは、この中島岳志なる人物がヒンディー語を専攻していた人間であるという、この1点に集約されています。
この中島岳志という人物は、ヒンディー語とベンガル語を駆使して外部の人間には知りようの無いインドとバングラディシュの内部事情を知ることが出来る、インドとバングラディシュの「インサイダー」(「手先」という意味ではないですよ)なのではないでしょうか。
パール判事は、ベンガル人で、カルカッタ大学卒業者ですが、バングラディシュとインドの(ベンガル語使用地域の)現実というのは、パール判事の正論を持ち出して、中国と事を構えたくないという状態にあるのでは無いのかと考えてしまうのです。そして、インドやバングラディシュの人たちが自分たちでおおっぴらに活動できないから、中島なる人物が代理人を務めているということがあるのではないのかと考えてしまうのです。これは、もちろん考えすぎかも知れません。
中国の現政権は、対内的にも対外的にも「満州事変以来悪いのは日本の指導者たちで、中国と日本国民は同様に被害者である」と言い続けないわけには行きません。インドも中国と歩調を合わせたかったら、それに反対は出来ないし、バングラディシュにはそもそも中国に反対意見を出せる国力など全くありません。そのうえ、両国とも、中国の影響下にあるミャンマーの軍事政権の隣国です。ミャンマーにもインド系の人はたくさんいるはずです。
インドでも、外交官のアフターブ・セット氏や下院議員だったラビ・レイ氏や法学者のレイキ博士のようなエリートたちは堂々と日本を擁護する意見を出せるだろうけれど、インド・バングラディシュのベンガル語話者のほとんどは卑屈で屈折した心情の持ち主である社会的弱者たちで、それがいくら正しくとも中国にとって不愉快な見解などを出して後でいやな思いをするのを回避したいと考える人がほとんどであると考えるのは不自然とは思えません。
小林よしのり先生も、赤塚賞受賞者が社会人人生の出発点で、ある意味でずっと「エリート」作家の道を歩まれた方だから、いくら努力しても浮かばれない、どう努力したらよいのかもわからない救いがたい弱者の内面の卑屈さと屈折というのは、あまり実感を持ってお分かりいただけないことであろうと思われます。そうであっても、当然、わたしとしても、小林先生が攻撃されている中島岳志なる人物が、インドとバングラディシュのインサイダーで、意図的に中国向きにパール判事の判決文を歪曲解釈している、事情をしょった人間ではあって欲しくないと思っております。

投稿: 鏡の背面?(心に引っ掛かること) | 2008.07.30 08:08

「派遣切り」・「2009年問題」・「雇用対策」は何処へ
◆急務は「現在の雇用」
政治(与野党共)もマスコミもジャーナリストも、皆大変だと言葉だけの心配に留まっているように思われます。と言うのは、「労働者派遣法改正案」は見直し審議待ちの足踏み状態で進展しておらず、その先が見えないため、「派遣切り」に歯止めがかかりません。「派遣切り」を加速させている要因は、政府及び厚生労働省の不十分な対応にあるということを理解しているのか疑いたくなります。いったい「雇用対策」はどこへ行ってしまったのでしょうか?とくに製造派遣の「抵触日(3月1日)」が過ぎてしまった現在のわが国において、最重要視されるべき課題はまさに「雇用対策」です。「雇用対策」ができれば、わが国の景気の底支えは可能です。雇用が底支えできれば、将来に対する不安も緩和されます。何といっても一番は「現在の雇用」です。数年先の雇用対策では意味がありません。
◆救済手立ては「雇用創出プラン(福祉雇用)」!
詳細は下記のブログをご参照下さい
◆人事総務部ブログ&リンク集
 http://www.xn--3kq4dp1l5y0dq7t.jp/

投稿: 人事総務部-ブログ&リンク集- | 2009.03.16 12:50

雇用創出プラン(福祉雇用)の提言
◆本当に「雇用のミスマッチ」なのか
世界同時不況による異常な雇用危機に対し、地方自治体が実施しているのは2~3ヶ月間の臨時短期雇用のため、期限到来で終了してしまいます。次の一手をどのように考えているのでしょうか。実際のところ、政府や厚生労働省は掛け声だけで地方自治体に一任(丸投げ)です。マスコミやエコノミストは、人材が不足している「介護・農業・林業」分野に人材をシフトすべきと、ひたすら「雇用のミスマッチ」を訴えています。しかし、この雇用危機に対して、一体誰が真剣に考えているのか疑わざるを得ず、製造業に従事している非正規労働者の生活を真剣に心配しているとは思えません。
雇用創出プランは下記のブログにてご確認下さい
◆人事総務部ブログ&リンク集
 http://www.xn--3kq4dp1l5y0dq7t.jp/

投稿: 人事総務部-ブログ&リンク集- | 2009.03.16 12:53

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