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2008.06.08

アラブ諸国の若者人口構成が抱える爆弾

 気になっていたのだがこれもどう考えていいのか難しく、時を過ごしていた。が、昨日「極東ブログ: イスラエル・シリア平和交渉についての日本版Newsweekの変な記事」(参照)を書いたとき、シリアの内情についてあることが気になっていた。それが、シリアの政治状況に直接繋がるというわけでもないので、そこが言及するにためらう点だ。が、ブログなんで少し気楽に書いてみようかなと思う。
 気になったのは、シリアの若者の状況だ。シリアの人口構成と就労はどうなっているのか。資料としては少し前のものになるが、ジェトロのサイトアジア経済研究所 - 出版物・報告書 - 海外研究員レポート””(参照)にある、”シリア 『ダマスカス現地事情(1)(高橋理枝)』 2006年9月 ”(参照PDF)には次のようにある。


 シリアは20 歳未満が人口の約半数を占めており、増大する若者人口に対して十分な職を提供できない状態にある。失業率は国全体で12.3%(2004 年)だが、特に若年層の失業率が高い。全失業者の26.6%を15-19 歳が、34.3%を20-24 歳が、25-29 歳を18.2%が占め、これらを合わせると失業者の約80%が30 歳未満となる。


 JOBFAIR は主に大学卒業生や職業経験のある若者を対象としているが、シリアの高等教育のGrossenrollment Ratio は10%強に過ぎず、失業者の多くは実は教育レベルが低い層に集中している。例えば2004 年のデータでは、“読み書きができる”が全失業者の31.5%、“小学校卒”が27.5%で、両者が失業者の半数以上を占めることになる。他方大卒は失業者の2.6%を構成するに過ぎない。民間企業の求人では大卒が条件とされることが多いことを考えると、失業問題として深刻なのは実際には教育レベルの低い若者ということができるだろう。シリアの失業問題の解決のためには、JOBFAIR のような試みに加えて、教育レベルの低い若者に対する対策が別途必要であるように思われる。

 ポイントは、シリアは20歳未満が人口の約半数を占めていること。それだけなら、若い人々の溢れる国家と言っていいかもしれないが、問題はその就労だ。12・3%の失業者に占める30歳未満が80%というのは問題は問題だろう。ただし、絶対数として若者が多いのだから若者の失業者も多いと言えるのかもしれない。
 シリアの人口動態が気になったのは、3日付けのフィナンシャルタイムズ社説”Demographic time-bomb in Mideast”(参照)のことが心にひっかかていたからでもあった。

The bombs and the bluster in the Middle East are tediously familiar. Less so is what is arguably the most daunting strategic challenge facing the Arab countries: the youth bulge.
(中東における爆弾の破裂はうんざりするほど慣れてきた。だが、アラブ諸国が直面する、最も気落ちさせる挑戦には異論はすくない。つまり、若者の急増である。)

As a special report in the Financial Times this week spelled out, up to two-thirds of Arabs are under 25 and more than one in four have no job, in a deeply troubled region with the world's worst employment rate. A World Bank study on the Middle East and North Africa five years ago reckoned the region would need to create 80m-100m jobs by 2020.
(今週のフィナンシャルタイムズ特報によると、アラブ諸国の3分の2までもが25歳以下であり、無就労は4分の1を超え、世界最悪の雇用率による深刻問題地域となっている。5年前の世界銀行による中東・北アフリカに関する研究では、この地域には2020年までに8000万から1億人の雇用創出が求めらるとしている。)


 このアラブ諸国が主にどこを指すかというのがややぼんやりとしてはいるが(後半にはエジプトの状況が言及されてはいる)、シリアもまた同構造にある。
 フィナンシャルタイムズは、この問題はアラブ諸国だけの問題ではなく世界の問題だ(not only for the region but for the world)と、さらにそれは経済の問題だけではない(That sea change is not just about economics)として毎度ながらの欧米的な民主化や自由化の理想が語られるのだが、単純にいってかなり難しいだろう。

The dominance and vested interests of the military and the intelligence services ultimately kill innovation and entrepreneurship in the same way the education system inhibits critical thinking and initiative. Importing technology is fine but ultimately these countries need the educational rigour that produced it.
(軍部の専制と広範な権益に加え、諜報業務は革新と起業家精神を徹底的に圧殺するし、それはこの教育制度が批判的思考と主導性を抑制するのと同じだ。技術移転はよいとしても、これらの国々はそれを生み出す教育的活力が必要になる。)

 フィナンシャルタイムズとしては、国民国家の教育レベル(たぶん女性解放も含まれているのではないかと思う)が向上しなくては、技術移転も投資も成果をもたらさないとみている。それはそうなのだろうというのと、その理念はかなり机上の空論のようでもある。
 今後はどうなるのかわからないが、産油国と非産油国の差は出てくるだろう。また、アラブ諸国と一括できないような政治的・軍事的な対立がさらに悪化させることにはなるだろう。
 欧米の理念がこのフィナンシャルタイムズ的なものであっても、実態としての欧米諸国はこれまでアラブ諸国をそうした状況に縛り付けておくほうが利益になっていた。さらに皮肉もある。
cover
The Post-American World
Fareed Zakaria
Audiobook Version
 今週の日本版ニューズウィーク6・11には国際版編集長フォード・ザカリアによる「アメリカ後の世界を読む(The Rise of the Rest)」という長めのエッセイがある。近著”The Post-American World”(参照・オーディオブック)のサマリーともいえる。ここではポスト米国時代を楽観的に描くのだが、アラブ諸国をこう見ている。

 サウジアラビアやペルシャ湾岸の新興非民主主義国家は、いずれも親米的だ。アメリカの軍事力に守られ、アメリカの兵器を購入し、米企業に投資しており、多くの場合、アメリカの言いなりになる。イランが中東で影響力を拡大しようとすれば、アメリカがわざわざ反発を招くような政策を取らないかぎり、これらの国々はますます親米色を強めるだろう。

 それは現実認識だし、実際のところ、オイルマネーを介した欧米色の影響力の結果なのだろう。これがどれほどか、フィナンシャルタイムズ記事の理想とそぐわないことかと思う。そしてその矛盾は欧米諸国にあるし、日本もまたその一部になっている。

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コメント

シリアは産油国でしたか? 知りませんでした。
オリーブオイルが採れるのは知っていましたが。
アラブ同士の同胞意識が高いので原油を融通してもらえるメリットがあると思っていました。

投稿: net surfer | 2008.06.08 17:57

net surferさん、ご指摘、ありがとうございます。不適切な部分を削除しました。

投稿: finalvent | 2008.06.08 19:07

 アキバで若いのが狂って人刺したってね。日本もアラブも、もういい加減悲鳴上げてるんだろうね。どっかで止まるか緩やかに進むようにせんと、どーにも成らんようになるんじゃないですかね?
 核&経済封鎖の両輪でガッチリ抑えておけば、まだまだどーにか持ち堪えられるんかもしれんけどさ。それもそろそろ厳しいご時世になってくるんじゃないですかね?

投稿: 野ぐそ | 2008.06.08 21:27

実際にシリアの事はよく知りません。
いや他の国だって知らないのですが例えばイランに関する新聞記事等を見ていて「ああアメリカってそういう風にイランを見ているんだ」とか「ああアメリカってそういう風にイランを見ていると思われているんだ」ぐらいの「観」は有りますがシリアにはそれすら無いです。

投稿: npc | 2008.06.08 22:42

はじめまして(コメントするのは。よく読んでますよ)。

フィナンシャルタイムズ社説が問題視しているアラブ地域の
"the youth bulge" は、社会学の方で出されている学説を
念頭に置いているのでしょうね。あくまでも聞きかじりの
私の理解では「若者人口がある比率を超えた社会は否応なしに
不安定化してしまうものなのだ!」というお話で、もう雇用とか
教育とかそれこそ「民主化」がどうしたというレベルではない
みたいです。なんだか虚無に陥るなあ。

http://en.wikipedia.org/wiki/Population_pyramid
http://www.cfr.org/publication/13093/

あたりが参考になりますかね。蛇足かと怖れつつ。

投稿: freitag | 2008.06.09 03:56

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