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2008.06.10

「嘘つきブッシュ」という物語

 タッチーな話題だし、みすみす誤解されるような話題に首をつっこむのもなんだが、これもいろいろ思うことがあったので少し書いてみたい。話は、米上院情報特別委員会(the Senate Intelligence Committee)が5日に採択した上院報告書だ(参照PDF)。
 日本国内で話題になったかどうかざっと見たところは確認できなかったが、英米圏の報道からは、よりディテールが報告されているものの、大筋では2006年に出された最初の報告書とはそれほど変わっていないような印象を受けた。そちらは読売新聞”米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定”(参照)で邦文で読むことができる。


米上院情報特別委員会は8日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。
 報告書は「フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない」と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも1996年以降、存在しなかったと結論付けた。

 今回の報告について、6日付けロサンゼルスタイムズ記事”Senate Intelligence Committee rebukes Bush, Cheney on prewar claims”(参照)では、委員長のロックフェラー上院議員(John D. Rockefeller IV)がタイトルに合わせたかのように、あたかも批判しているかのような顔面クローズアップ写真も掲載されている。実は、それが私の心にひっかかった部分なのだが後で触れる。
 ロサンゼルスタイムズ記事の話の大筋にはそれほど目立ったことはない。イラクとアルカイダの関連はなく、ブッシュ大統領とチェイニー副大統領は批判されるみたいなことが書かれている。

WASHINGTON -- In a long-delayed report, the Senate Intelligence Committee on Thursday rebuked President Bush and Vice President Dick Cheney for making prewar claims -- particularly that Iraq had close ties to Al Qaeda -- that were not supported by available intelligence.

 リードは多少興味深い。叱責にも関わらず処罰的な展開はないらしい。

The panel's reproach, the most pointed on pre-invasion intelligence, doesn't call for penalties or a follow-up inquiry.

 今回の報告書のディテールについて、「ほぉ」と思うことがあるにはあった。備忘を兼ねて引用しておくが、全体像の理解は後日すべてが歴史になってから考えなおしたい。

The second report focuses on secret meetings Defense Department officials held with an Iranian exile, Manucher Ghorbanifar, who had been a middleman in the Iran-Contra arms-for-hostages scandal of the 1980s and was shunned by the CIA as unreliable and untrustworthy.

The meetings, which took place in Rome and Paris in 2001 and 2003, have been a source of intrigue since they were first disclosed, with speculation that they were part of a broader effort by the Pentagon to usurp the role of the CIA.


 ロサンゼルスタイムズの記事はどこかしら歯切れが悪いというか、率直なところなぜもっとばっさりとブッシュ政権批判にならないのだろうかという印象はある。
 上院報告書を扱った、6日付けニューヨークタイムズ社説”The Truth About the War”(参照)は舌鋒鋭いようにも見える。

It has taken five years to finally come to a reckoning over how much the Bush administration knowingly twisted and hyped intelligence to justify that invasion. On Thursday --- after years of Republican stonewalling -- a report by the Senate Intelligence Committee gave us as good a set of answers as we’re likely to get.

 ブッシュ政権は、情報をねじ曲げごまかして侵略を正当化したというのだ。

The report shows clearly that President Bush should have known that important claims he made about Iraq did not conform with intelligence reports. In other cases, he could have learned the truth if he had asked better questions or encouraged more honest answers.

 ブッシュ大統領は真実を知るべきだったし知ることが可能だったというのだが、英文の言い回しにややキレがない。
 ニューヨークタイムズは共和党も批判する。

The report was supported by only two of the seven Republicans on the 15-member Senate panel. The five dissenting Republicans first tried to kill it, and then to delete most of its conclusions. They finally settled for appending objections. The bulk of their criticisms were sophistry transparently intended to protect Mr. Bush and deny the public a full accounting of how he took America into a disastrous war.

 報告書を支持した共和党委員は7名中2名。5名は当初廃棄しようとし、次に結論を削除しようとした。が、結局反対意見の追加に終わった。
 私はこのあたりで、ニューヨークタイムズの意見は共和党委員の意見を単純化しすぎているのではないかという疑念を持った。
 結語はこう。

We cannot say with certainty whether Mr. Bush lied about Iraq. But when the president withholds vital information from the public --- or leads them to believe things that he knows are not true -- to justify the invasion of another country, that is bad enough.

 ニューヨークタイムズ社説は、ブッシュ大統領はイラクについて嘘をついたのだと断言はできないとする。糾弾点は、そして、情報を隠蔽したこと、誤りを国民に信じ込ませようとしたことだとする。
 総じて通常より長めの、このニューヨークタイムズ社説のキレは悪い。単純なところ、ブッシュは嘘つきだとなぜ断言できないのだろうか。それはそれなりの理由があるのだろう。
 こうしたもやもやしたものを解いたのが、ワシントンポストに寄稿されたレッド・ハイアットのエッセイ”'Bush Lied'? If Only It Were That Simple.”(参照)だった。表題が振るっている、「ブッシュは嘘つきか? だったら話は単純だよな」。
 ハイアットはヒューモラスに切り出す。ネットを検索すれば、ブッシュは嘘つきだグッズが溢れている。だが、実際に報告書を読んでみな、というのだ。

But dive into Rockefeller's report, in search of where exactly President Bush lied about what his intelligence agencies were telling him about the threat posed by Saddam Hussein, and you may be surprised by what you find.

 読んだら驚くよ、と。

On Iraq's nuclear weapons program? The president's statements "were generally substantiated by intelligence community estimates."

On biological weapons, production capability and those infamous mobile laboratories? The president's statements "were substantiated by intelligence information."

On chemical weapons, then? "Substantiated by intelligence information."

On weapons of mass destruction overall (a separate section of the intelligence committee report)? "Generally substantiated by intelligence information." Delivery vehicles such as ballistic missiles? "Generally substantiated by available intelligence." Unmanned aerial vehicles that could be used to deliver WMDs? "Generally substantiated by intelligence information."


 今日ブッシュ政権が糾弾されている部分、つまりニューヨークタイムズ社説が誤りだったと批判することの大半は、報告書の判断では、当時の情報によれば十分に裏付けがある(substantiated)とされている。
 確かにブッシュ政権が未来を見通せるほど賢かったら、こんな歴史にはならなかったのかもしれないが、当時の状況下では、そう異常のことではないと評価するのも、それほど不思議なことではないのではないか。いや、私の意見を押しつけるのではなく、単に保守派のコラムを真にうけているじゃないかということでもなく、少なくともそれが今回の報告書の結果だったわけだ。
 ハイアットはさらに、委員長ロックフェラー上院議員が2002年に述べた言葉を引用している。

After all, it was not Bush, but Rockefeller, who said in October 2002: "There has been some debate over how 'imminent' a threat Iraq poses. I do believe Iraq poses an imminent threat. I also believe after September 11, that question is increasingly outdated. . . . To insist on further evidence could put some of our fellow Americans at risk. Can we afford to take that chance? I do not think we can."

 たしかにこの言葉を読めば、ブッシュとたいして変わらないではないかと思う。民主党の代表であるかのように見える彼でもそうだったのだ。
 ハイアットの結語はこう。

For the next president, it may be Iran's nuclear program, or al-Qaeda sanctuaries in Pakistan, or, more likely, some potential horror that today no one even imagines. When that time comes, there will be plenty of warnings to heed from the Iraq experience, without the need to fictionalize more.

 次期大統領は、今日から想像できない危機に及んだとき、イラク戦争から学ぶことは多いだろうが、その際には、これ以上の虚構化をしないでくれ、とハイアットは言う。虚構化とはブッシュ大統領を単に嘘つきにして終わりにせるなという含みがあるのだろう。
 私としては、イランの危機なんてないだろうし、アルカイダが諸国家を揺るがすような深刻事態も引き起こさないだろうと思うので、この手の話はそれはそれで煽りのような印象も受ける。

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コメント

 先日弁当翁さんが言い出したからふいに思い出したけど、過日の緑公園でヤクザが因縁付けて来て炎上騒動?起きたときも、「お前ら絶対手法がヤクザだよ」とか言ってたら論壇(爆笑)のおっさんが実際関わってて、行く末恐喝未遂で捕まってたよねwww 緑のおっさんと全然関係ないコンビニ恐喝で立件されてんの。アホかと思った訳でさ。

 それはある意味「緑のおっさんってコンビニと同レベルって見做されてるだけ?」かもしれんけど。

 行く末どっからどーやって手が回ったんだか知らんけど。

 ヤクザ屋さんってのは何だかんだでやること汚いから、外堀埋めて孤立させようさせようって、そーゆー手法を必ず使ってくるのよね。親兄弟とか親戚縁者とか支援してくれるであろう?お友達とか。そういうのを先ず的に掛けて来る。将を射んと欲すれば先ず馬なり6ハロン劇場ってヤツですよ。

 そーゆーの間近?で見てヤッホイ言ってた私からすると、さ。ブッシュが嘘ついたかつかないかとか、そういう次元から一歩か二歩上のレベルってもんが既にあって、そういう「場」や「流れ」の中で、あーゆー役割を負わざるを得なかっただけちゃうんかって。そー思うわけです。

 日本だって、そーじゃない。別に小泉さんも安倍さんも福田さんも小沢さんも、偉いかどうかで言えば決して偉くは無いでしょうに。ヤクザか商売人の使いッ走りくらいが関の山でしょが。だから?人気次第で簡単に首なんか挿げ変わるし、ご子息さんがフツーに芸能界入りしてるわけだから。

 日本も世界も、そーゆー部分では何ら変わることないですよ。小さいから直ぐに見分けが付くか、大きいから中々全体図を把握しにくいか。差があるとするなら、その程度のもんよね。そういう意味で、世界はひとつ!! って感じよね。

投稿: 野ぐそ | 2008.06.10 21:30

昨今の原油の暴騰でイラン危機が増したと思います。
なぜなら原油高の生活への圧迫は世界規模で起きており、
どの国も有効な対処法が打てずにいます。
つまり共通した危機感が存在している状況だからです。
この状況で米国が非公式に各国に原油価格の下落を交換条件にイラク攻撃への支持の提案は、
余りに魅力的に映ると思うのです。
前回のイラン戦争の利益享受者が米国のみだったので米国は集中非難を浴びましたが、
今回は世界の多数派である原油高に苦しんでいる国や人たちが、
ずっと増産を渋り原油高を招いた産油国への懲罰的なものとしても提案に賛成した場合は、
結果的に下落すれば”仕方なかった事”と片付けられる可能性が否定できません。
根底に彼らは共通して持っていた危機感を打ち消せたという利益を享受したことからの、
共犯意識を共有しているからです。

拙い文章からも判る様にこれは一個人の妄想レベルの文章です。
ただ昨今の国内の自転車の利用の急増のような市民レベルでの苦痛の体験の日々が全世界で起きており、
それを根拠にした不満の拡大再生産が着実に進んでいる状況なので、
何となく閃き文章に起こしてみました。

今日も原油は暴騰、
どうなっちゃうんでしょうかね。。。

投稿: ぷ | 2008.06.11 01:24

イラク戦争の開戦の時、私も含め多くの日本人が理由の胡散臭さに気が付いていましたね。(極東blogの御亭主もそうだったのではありませんか...)それでもあれよあれよと間にバクダット陥落まで行って、真の平定はそんなに単細胞な人間にできることではない事がわかった次第です。私などは、ニューヨークタイムスが当時、ブッシュさんの尻馬に乗って戦争肯定の社説を書いていたなどということはどうでもよくて、この戦争をやろうとした人間の真意を知りたいのみですね。日本のマスコミ論評では、そのポイントが常にぼけていてわからないです。うそつきブシッシュと、非難するだけではあまりにも芸がありませんね。

同様に、アメリカの貧乏な方にステップ返済方式で金を貸すという事が、後で破たんするかも知れないことを知りつつそれを債権化するなどという事で発生したサブプライム問題も、問題先送りの典型で、わかっていてやったとしか思えないのですが、その責任追及というか、見識のなさを反省するコメントが聞こえてこないのが不思議です。

投稿: kincyan | 2008.06.11 23:44

should have known を「知るべきだったし」というのは誤訳では?「知っていたはずだし」ではないでしょうか。したがって、記事の論調は、ブッシュ氏に対して極めて厳しい、と思います。

投稿: passer-by | 2008.06.13 21:21

「緑のおっさん」って、たぶんでなく、わたしなのでしょうけど。
べつに「緑のおっさん」でいいですけれど、できれば、「モリゾーさん」とか呼んでくださるとうれしいです。いまさら愛知万博も古いけれど、愛子内親王さまがキッコロとモリゾーがお好きだったそうですし、わたし、環境保全原理主義者ではないけれど、エコロジーとかエコシステムとか非常に関心を持ってますから。
あるいは、「にせチベット人のおっさん」とか「えせチベット人のおっさん」でもかまいません。チベットのかたがたにはご迷惑かもしれないけれど。私は、チベット仏教のゲルク派に改宗することは無いと思うけれど、チベット仏教の法華研究や華厳研究や唯識研究には関心ありますから。そして、チベットの仏教のほうが日本仏教や中国仏教よりもより高度で普遍的で洗練されたコンセプトを提示できていたら、おそらく、チベット語の仏典を読誦するようになると思います。もちろん、日本の禅宗の檀家のままで。
小泉さんと安倍さんと福田さんと小沢さんだけれど、小沢さんは今のところ野党だから現時点でどのくらい公権力を駆使しうるのか不明だけれど、小泉さんと安倍さんと福田さんは、怖がる必要も無いけれど、馬鹿にしないほうがいいと思います。
たしかに普段は平穏な日常を維持するためにヤクザや商売人の使いッ走りをしてあげているのだろうけれど、この人たちは、いざとなれば、警察でも、検察でも、国税でも、普通の人の知らないような役所の外郭団体でも、そして本当に必要とあれば、自衛隊でも使って、自分の権力の及ぶ範囲の人ならだれでも、丸裸にしてふんじばることの出来る人たちだと思っています。ヤクザは法的には弱者だし、商売人はどんなに儲けても、所詮は民間人です。彼らは信任を得た権力者です。ただし、法治国家の。
その法治国家の日本ですから、わたしも「コンビニ」も同じに決まっています。わたしも行政処分で終わりで、裁判の被告人になどなるわけがありません。私が送検されて、起訴する検察官がいたら、その検察官は刑事訴訟法を何も知らない検察官のはずです。
わたしも、「野ぐそ」さんを怖くないし、馬鹿にもしていません。小泉さんも、安倍さんも、福田さんも怖くないけれど馬鹿にしていないのと同じです。そして、「野ぐそ」さんも、finalvent先生を馬鹿にしないほうがよいと思います。もちろん、finalvent先生が怖いわけは無いけれど。

投稿: 緑のおっさん | 2008.07.05 14:14

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