米国モルモン教徒とリアリティショーのこと
書こうか書くまいか気になっていたけど、簡単に書いておこう。そしてこの話題、ごく簡単に最近流行の3行で言え的に言うと、タイトルは、「米国におけるモルモン教徒とリアリティショーの関係について」だ。
米国のリアリティショーでモルモン教徒が目立つようになった。リアリティショーというのは、実録物で、「サバイバー」(参照)などがある。日本でも以前、似たようなのがあったし今でもあるのかもしれない。
モルモン教徒とリアリティショーというと、たぶん、普通の米人なら、「ああ、あれか」、「そうだよね」というふうに普通にわかることで、しかし、だからといって日本人が知っておくべきことでもないような、ちょっと微妙な話題だ。ただ、この話題の根には日本社会の今後の変化に関係する何かがありそうな感じはする。
気になっていたきっかけは、日本版ニューズウィーク日本版5・28の記事”元気印のモルモン教徒”というコラムだ。副題は「米リアリティ番組で活躍中のモルモン教徒に 地味で閉鎖的なイメージの彼らに何が起こったのか?」とある。オリジナルは、”American's Next Top Mormon”(参照)で無料で読める。日本版の記事と読み比べていただければ、出だしから翻訳とも意訳とも言い難いほどの乖離があるのは明白だが、このエントリではそれを批判したいわけではない。むしろ、日本版に載せるかどうかかなりためらってぐちゃぐちゃに編集したのだろうとは思うし、それなりに載せたことには意味があるのではないかとも思うで、その点についてあまり批判するのもなんだかなと。
同じ話の繰り返しみたいだが、米国では素人からスターを選び出す式の番組で、モルモン教徒が目立って出てくるようになった。それはなぜかというのがニューズウィークの元の記事の話題だ。
日本版の編集後記事ではぼかされているが、モルモン教徒については米国でも偏見が多い。しかたがないというわけでもないが、日本でもUSA Today記事を産経新聞”捜査におびえる一夫多妻主義者”(参照)が掲載しているような話題がある。この件と限らず、公平にいうと、こうした社会的な話題になるのは、記事に「ワーク・オブ・イエス・キリスト教会は24年前にFLDSから分派。いずれも、モルモン教で知られる末日聖徒イエス・キリスト教会とは関係ないという」とあるように、モルモン教の分派が多く、現代のモルモン教ではない。
とはいえすでに撤退したが、共和党からの大統領候補ロムニーについて、FOREIGN AFFAIRS JAPAN”民族・宗教で読み解く米大統領選挙Some Historical Analogies to the 2008 Election ”(参照)で意識されている部分はある。
――ロムニーがモルモン教徒だったことは彼に不利に作用したと思うか。南部では不利に作用したはずだ。一方、ハッカビーには有利に働いた。モルモン教の神学は伝統的なエバンジェリカルの神学とは大きく違っており、現実には、エバンジェリカルの多くは、モルモン教をキリスト教とはみなしていない。宗教的なギャップは大きい。
ロムニーはユタ州では非常に保守的な立場を示し、マサチューセッツでは中道派、つまり、この州の基準からみればリベラルではない路線に徹して州知事に選ばれた。それでも、共和党の基準からみれば非常にリベラルだった。だからこそ、彼にしてみれば、保守的な路線を共和党内ではアピールした。だが、いかにカメレオン的に立場を使い分けても、ロムニーが南部のエバンジェリカルを取り込むのは難しかったはずだ。
微妙に重要な点が簡素に含まれているのだが、まず、日本人が昨今米人キリスト教徒としてイメージしやすいエバンジェリカルつまり福音派からすると、モルモン教徒はキリスト教ではないと見られている。また、モルモン教徒は福音派や一部の共和党支持者からみると、リベラルな位置づけにある。くどいようだが、モルモン教徒はどちらかというとリベラルに近い。
そう考えると、リアリティショーにおけるモルモン教徒の活躍はそれほど違和感はないともいえるのだが、先のUSA Today記事のようなカルト的な眼差しも受ける。
なぜ、リアリティショーにおけるモルモン教徒が目立つようになったのか。ニューズウィークの元記事はこれにいくつかの角度から答えようとしている。
意外とシンプルで説得力があるのは、モルモン教徒が全体的にショービジネスや勝ち抜き合戦に強い資質を持っている、あるいはそうした資質を育成するということがある。ビジネスなどでもモルモン教徒が重要な位置を占めていることが多いのは、ロムニーの例でもわかるだろう。
テレビ番組サイドが、意図的にモルモン教徒を使っているという指摘もある。このあたりの説明も微妙な部分があるが、珍しいというよりリベラルな背景があるようには思える。
記事で指摘されている部分で私が意外に思ったのは、リアリティショーでテレビに出ていれば、モルモンの信者は家庭で番組を楽しむきっかけになるという点だ。このエントリではあまり深く触れないが、モルモン教徒は家庭のつながりをかなり重視する。そうしたファミリー志向に、リアリティショー的なテレビメディアはマッチしている。さらに関連でいえば、モルモン教との出場者はあっけらかんと「R指定の映画なんて見たことないでーす」と言ってのけてしまう。
もう一点はこれは日本版の記事で、こういう編集でいいのかなと少し疑問に思った点でもあるのだが。
彼らがこうした番組に出るのは、宗派の寛容さを試すためかもしれない。あるいは一般人と同じように、ただ有名になりたいだけかもしれない。しかし、モルモン教が閉鎖的だという従来のイメージを覆そうと思う者がいるも確かだ。
さらりと読むと、モルモン教のいわばヘッドクオーター側にこうした動向を容認ないし推進している動向でもあるのではないかと読める。
この後半の部分だが、英文では該当部分はない。
日本版記事ではこのあと、99年「リアル・ワールド」(若者の共同生活)に出演したジュリー・ストファーの話が続く。彼女の場合はモルモン教との間で若干問題を起こしたようだ。
ということで、日本版の記事では、「従来のイメージを覆そうと思う者」はストファーのような若いモルモン教徒の世代を指していると読んでもよいのだが、英文の記事では若干、別箇所でモルモン教の指導側の意図もほのめかされているようには思えた。いずれにせよ、積極的な意図はなくても、容認している部分はたしかにあるのだろう。
さて、この話題、日本とどう関係しているのか。べたにモルモン教と日本の関わりについては、あえて触れない。現状でもちょっと不用意な誤解を招きやすいし、日本の知識人でも誤解を公言している人が多いが、モルモン教はキリスト教だということでもとりあえずよいのではないかと思う。
日本のとの関連でいえば、米国社会におけるモルモン教徒的なポジションにある宗教とテレビメディアの関係となるだろうか。そのあたりも、なかなか微妙な問題がある。
背理法的な言い方だが、米国におけるモルモン教徒の活動というのは、一つには米国社会を構成する多様な宗教性に対するリベラルな動向が、率直にいえば、エバンジェリカルとの対応に置かれているのではないかということだ。
現在米国ではメガチャーチのセクターが産業的にも大きくなってきている。これらにメディア側が反抗ということではないにせよ、リベラルなポジションを提示したいという可能性はないだろうか。元記事では結語にそうした暗示がありそうだ(この部分は日本版の記事にはない)。
Some tension may still exist between the Mormon community and mainstream America, but considering that earlier in this country's history Mormons were a small, persecuted band, it's remarkable that America may now be poised to crown a Mormon as its new "Idol."
日本についていえば、現状メガチャーチの出現の可能性は皆無に見えるが、ニーズの潜在性としてはゼロとは言い難いようにも思える。
ちょっと穿った言いかたになるが、昨今の奇妙なスピリチュアルブームや、なんで今頃血液型本がまた出てくるのか、そういう安易な倫理性へのマス的な支持の動向は、メガチャーチの出現と同じような基盤にあるのではないかと、ごく印象的にだけど感じる。
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コメント
いや、福音派がカトリックに対してリベラル、と説明する高校の教科書くらいに、モルモンが福音派に対しリベラルという位置付けは間違っている。むしろ、どうせアーメンで同類でしょ、という雑駁な日本的解釈が正鵠を射ていると思う。
登場人物の誰々が何教を信じている、というのがわずかでもスポットを浴びるテレビ番組そのものが絶望的にリベラルではない。
テレビやビジネス誌の中の人がこういう意図で…リベラルの「つもり」みたいな可能性はあるだろうが、その意図に対し、日本人はもっと客観性を持って、失笑すべきだと思う。しらずしらず米国知識人の精神的コスプレをして感情移入すると、かえって真実が見えなくなる。
例えばモルモンなSF作家オースン・スコット・カードの「辺境の人々」と、ハインラインの「動乱2100」を読んで、どっちもキモい、と感じられないと。
投稿: 東方不敗 | 2008.06.27 12:53
ご存知かとは思いますが・・。
「バス男」(原題:Napoleon Dynamite)という、2004年制作の、低予算ながら全米大ヒットしたコメディ映画があるのですが・・。
(イケテナイな高校生を主人公にした、かなり笑えるバカ映画です)
この映画の監督、主演男優は「プリガム・ヤング大学の同級生」で、モルモン教徒でした(日本では、そのことに触れての紹介はなかったですが)。「へー、モルモンでも、こんな過激で面白いコメディ映画を撮る人もいるんだ」と驚いた覚えがあります。
ただし、日本語版で字幕で見てもわからないのですが、この映画では一切、いわゆる「カース・ワード」が使われていないそうです。それが「モルモン的」なんでしょうねえ。
投稿: 岡田K一 | 2008.06.27 15:59
俺んち先祖代々500年くらい浄土真宗だけど、父ちゃんも俺も教義にそんなに関心が無い雑食性だからどーでもいいぜ~。母ちゃんの実家が真言宗で後年(っていうか今も)神道系に凝ってるけど「俺んちに何の障害も問題も無ければやっていい」で放っといてるし次姉が若い頃モルモン教やってるときも三姉が統一教会に引っ掛かったときも、基本は「放っとく」だったけどね。放っといたら凄いことになっちゃった。
てへ。
次姉は勝手に飽きて普通に戻ったけど、三姉がドはまりして「合同結婚式逝く」とか寝言コキやがったんで、そん時はさすがに一家総出で脱会作戦遂行しましたな。俺、総司令官&作戦参謀&補給等後方支援担当。父ちゃん母ちゃん実働(説得)部隊。半年掛かりで逆洗脳。辛い作戦でしたな。
父ちゃんと俺と長姉の3人は、基本的に自立心が強くて享楽的でダルガリータ&メンドクサガリーナなんで、あんまし宗教に対して引っ掛かる要素が無いんよね。布教の人とか来たら、話聞くだけ聞いて感心した為になるとか相槌打って、「で。じゃけぇどしたん?」とか言って追い払っちゃう。対する母ちゃん・次姉・三姉は、生真面目で一生懸命で一日の行動計画や規範をキチッと決めてないと不安がるタイプなんで、そーゆー話を聞くと感心しすぎでスゲーのめり込んじゃう。信心深いと言ってしまえば、そーなんかもしれんけど。
母ちゃん今でも仏教婦人会の会合出たり神様詣でやったり月命日のお墓参り欠かさない程度に信心深いから、交際範囲が無駄に広くて妙ちくりんな情報いっぱい拾って何でも私に教えてくれます。正直、邪魔です。でも助かる部分も多いから、差し引き勘案して「放っとく」で何とかやってます。
だから何だと言われても困るんだけど、なんかそんな感じ。宗教は犬か猫のやるもんだと思ってるんですけど、犬でも猫でも居るとそれなり助かる面があるのは事実なんで、その線で計画的にご利用しております。
宗教者と日ながお付き合いするのは、大変でございます。
投稿: 野ぐそ | 2008.06.27 17:38
基本的にテレビをあまり見ない生活をしているせいでしょうか、米国モルモン教徒とリアリティショーの関係をこの記事を拝見するまで全く知りませんでした。
逆にテネシー州、テキサス州と住んできて
「エバンジェリカルつまり福音派からすると、モルモン教徒はキリスト教ではないと見られている」
と感じる機会はちょくちょくあります。
そのせいか去年だったか一昨年だったか"Big Love"というモルモン教徒の家族を描いたテレビドラマが始まった時、「おお!もの凄い豪華キャスト!でもカルト扱いされがちなモルモン教を扱ったドラマに何故こんな豪華キャスト?」とびっくりした覚えがあります。
先日もPBS系列のチャンネルでモルモン教の歴史を扱った2時間の番組が放映されていました。モルモン教徒の有識者や活動家のインタビューを数多く交え、この宗派に対する理解を深めようという意図がはっきりと感じられたので、
「どうして今テレビでこういう動きが出ているんだろう」
と不思議に思っていたところでした。
その背景にはこんなことがあったんですね。
投稿: saihou | 2008.06.28 04:29
日本のTV界で活躍した米国人と言えば、ケント・デリカットなどモルモン教とデイブ・スペクターなどユダヤ系が目立つ。モルモン教は学生の時に日本へ修行で布教活動に来るので、日本語は覚えるしででやすい土壌はある。ユダヤ系は、米国では見えない差別あるが、日本人はそんなの知っちゃこったないから金髪に染めときゃアメリカ人で通り居心地よいだろうな。
ユダヤ教でもモルモン教でも、ディープに嵌まっている人から名前だけの人まで幅広い。
リアリティショーにでるような人たちはたまたま家がモルモン教だが本人は意識薄い人ではないでしょうか?
宗教やってるといっても、その濃淡はかなりあるので一律に見てしまうと本質が見えなくなる。
投稿: 恩田川 鴨次郎 | 2008.07.06 15:58
なかなか面白い記事でした。
投稿: 不馬 | 2008.09.09 20:34
モルモン教に関する興味深い本ですよ。
中心は原理主義に関する物ですが。
「信仰が人を殺すとき(ジョン・クラカワー)」
投稿: | 2009.08.04 19:30
私は熱心なモルモン2世でした。教会第一で全て捧げてきました。しゃ=教会が迫害されたのはひとえに正しいが故だ、と教えられてきました。しかし、最近そうでもないことがわかりました。
教会はメドウ山の虐殺、ジョセフスミスが30人以上の妻を持っていたこと、世界各国で数目当ての伝道をしてきたこと(菊池長老の下で30年前に東京南地区で行われた)等を信者に教えません。知った時、愕然としました。指導者に”せめて謝罪はしないのか?”と聞いたら、しない という答えでした。それなのに唯一真の教会だ、というので私はどうしても耐えられなくなり、信者をやめました。
投稿: 元モルモン2世 | 2010.11.09 03:16