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2008.05.28

[書評]グーグルに勝つ広告モデル(岡本一郎)

 ブロガーのR30さん(参照)が久しぶりにエントリを書かれていて、しかも書評。良書らしいので、「グーグルに勝つ広告モデル マスメディアは必要か(岡本一郎)」(参照)を即ポチっと買って読んでみた。

cover
グーグルに勝つ
広告モデル
 私の評価は微妙。悪い本ではないのだけど、あちこち変な感じがした。その変な感じがうまく焦点を結ばない。著者がお若いせいかあるいは知的なバックグラウンドのせいなのか。例えば、章末などに名言がちりばめられているのだが、違和感を感じる。あえて重箱の隅をつつくように書くが(失礼)、例えば。

今日存ずるとも明日もと思うことなかれ。死の至ってちかくあやふきこと脚下にあり。
                孤雲懐奘『正法眼蔵随聞記』

 間違いとまではいわない。が、筆者はこの言葉が懐奘によるものではなく、道元の言葉を懐奘がパーソナルに書き留めたことを知っているだろうか。つまりこれは道元の言葉だ。孤雲懐奘『正法眼蔵随聞記』とは、孤雲懐奘編『正法眼蔵随聞記』の意味だ。そして、この引用は岩波文庫に収録されている和辻哲郎校訂であることを知っているだろうか。これはその四の八の部分で、書き写しに一点誤りもあるというか、文語に「至って」がないことはケアレスミスかも知れないが編集者にも素養がなかったかもしれないなという疑念もある。和辻哲郎校訂の原典は江戸時代の改訂である面山本であり曹洞宗はこれを使っているし私もこのバージョンが好きだが、今日ではより原典に近い長円寺本が研究され、この部分も微妙に違っている。しかしそうした細かいこともだが、この道元の言葉がどのような文脈に置かれていているかを理解したうえで、地上波テレビ局の衰退の章に置いのだろうか。原典の文脈を外したコラージュということなのかもしれないとしても、あまりよい趣味とは言えないだろう。古典というのは半可通がもてあそぶものではないとまでは言えないが、それをちりばめるのではなくその知恵の本質を血肉に変えて自分の文章に織り込んでいけばいいのに。
 用語もときおりあれと思った。「取引コスト」で。

 CMスキップに対する対抗策として、番組中に広告商品を露出させる広告手法=プロダクトプレースメントは、なぜうまくいかないのか、という問いですが、これは「取引コストが高くなりすぎる」というのがその答えになります。

 というように「取引コスト」が出てくる。経済学の意味かなとちょっと首をかしげると、こう続く。

 日本のテレビ広告市場は、年間2兆円を超えています。統計を見るとテレビ広告の一回の取引単価は0・2億円弱ですから、年間で10万回の取引をやっているということになります。

 ということで、「取引コスト」は経済学の意味ではない。もちろん、こういう文脈で「取引コスト」を使うことが間違いとも言えないのだが、一瞬戸惑う。
 内容にも関わるのだが、次のような話も、どきっとする。

 マスメディアは非常に完全性が強い業界で、不完全なサービスをパイロットすることを非常に嫌がりますが、新聞社には購読世帯というコネクティビティの強い顧客が数百万人単位でいるわけですから、これを活用しない手はないのではないでしょうか。

 いちおうそういう側面からの提案も理解できないわけではないが、「新聞社には購読世帯というコネクティビティの強い顧客」というとき、現実の娑婆では「新聞はインテリが作ってヤクザが売る」といった放言が聞かれることを筆者は知っているだろうか。知っていて捨象したのだろうか。しかし、この娑婆の部分にこそ新聞社が抱える大きな問題があることは、新聞以外のメディアからはもう白日の下にさられているに等しい。というあたりの齟齬感は読者の意見が違うというべきなのか。
 話が散漫になりぼやきばかりで申し訳ない。が、率直にあれ?と思ったことを続ける。例えば、クリエーターには、メディアの枠組みとコンテンツの両方を進化させる能力が問われるとして。

 そう考えていくと、技術とコンテンツの組み合わせをどういうタイミングでリリースしていくのか、というのが、非常に重要な論点になってきます。

 それは理解できるし、この先に、YouTubeが成功したのは技術的な条件が満たされるタイミングがj重要だとするのも理解できる。で、そこで、あれ?と思うのは、「6章 オンデマンドポイントキャスト事業の提言」で、テレビに対する視聴者のニーズは「タイムシフト」と「編成権」だとして、さらにかみ砕いて「見たいときに、見たいものを、見たい部分だけ、見たい」とし、さらに「とにかく前に動かす方向で議論を進めてほしい」「まずは始めてしまうことです」としているのだが、単純にオンデマンドは、先の技術の条件からすると、どのように技術的に成立するのか疑問に思える。インターネットは端的に言って無理だから、NGNが暗示されているのだろうか。そしてそれはNHKのようにさらなる有償モデルなのだろうか。
 こうしたあれ?あれ?というのが積み重なってふと気が付くと、本書の全体も見えづらくなり、大枠にも、あれ?という印象が深まる。例えば、テレビ、新聞、雑誌、ラジオといったマスメディアはアテンションを卸売りするモデルであり、ヤフーもそうだが、グーグルはインタレストを卸売りするモデルだというあたりだが、まったく理解でないわけでもないだが、それが書名の「グーグルに勝つ広告モデル」というコンプトとどう整合するのか。単純に考えれば、日本の広告業界ないしマスメディアが、グーグルのインタレスト卸売りモデルを超える可能性として理解できるだろうし、広告の打ち方のターゲットを絞れとしているのはその一環でもあるのだろうが、具体的にどうグーグルを超える広告モデルができるのかは見えない。そのうちに、マスメディアの存続に話題が流れていくようにも見える。
 マスメディアの例として新聞の存続では、インターネットの対比から、新聞では「オピニオン軸での差別化」や「マイクロエリア/嗜好(しこう)軸での差別化」が出るのだが、ここでも、「あれ? それはむしろブログやSNSのほうが強いのではないか。そしてだからこそ、グーグルは検索エンジンにブログへのバイアスを高め、そしてSNSへの追撃を狙っているのではないか」などと疑問が湧く。
 さらにグーグルが語られているわりにそれを含んだ昨今のグローバルな広告の問題には触れていないように見える。あえて触れていないのだろうか。

 オンデマンドポイントキャストは通信を用いますから、クライアントごとにダイナミックにコンテンツを切り替えることが、技術的には可能になります。この特性を利用して、視聴者一人ひとりのプロファイルに基づいたターゲッティング動画広告を展開かできないか、というのが、筆者の考え方です。

 という考えがこそ、このグーグルがこの一年EUで起こしたすったもんだに深く関わっていた。結局グーグルはその逆にプライバシー強化として市場を安定させる方向で進もうとしている。
 なんだか難癖を付ける話ばかりになったが、ある意味でコントロヴァーシャル(controversial)であることが本書の価値であるかもしれない。
 最後にもう一点、私はメディアはむしろ人に従属すると見て、そこからマスメディアや、マイクロトレンド的な視点を持つほうがよいのではないかと思う(というか本書の大半はマイクロトレンドで解けるようにも思えた)。そうすれば、セブンイレブンの商品棚もメディアとして扱えるだろうし、具体的に新聞などについては、戸配よりもセブンイレブンに吸収させてしまうほうがいいだろうといった視点も開ける。つまり、セブンイレブンのようなコミュニティ的な場そのもの(SNSなども含めて)が、広告対象のピンポイントメディアになりつつあると考えている。

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コメント

どうもこんにちわ~

広告業界の人間ではないワタクシには、横文字の専門用語が結構、しんどかったのですが
それでも1時間くらいで読了することができました。
一番面白かったのは音楽の話で、中世のクラシックがあれば、最新の音楽が必要ないというところ。
音楽以外でも過去のコンテンツが最新のコンテンツより勝ってしまうと
クリエーターは必要なくなり、コンテンツをまとめる人間が求めれれてくるのかも。
まぁ、それも夢がなくて寂しい気もしますが(苦笑)

ではでは、また遊びにきますね~

投稿: ゆきんこ | 2008.06.14 11:06

だいぶ重箱の隅をつつきすぎな気もしますが…
タイトルはインパクトありきで中身とは必ずしも一致しないもの、
というのは最近の新書の兆候で、もはやそういうものでそれでいいのだと私は思います。
タイトルとどんなに合って無くても、
内容がよければタイトルに対する違和感も感じないだろうし…

投稿: | 2008.06.24 17:19

もしかしたら、賢首大師の教えを否定してしまうと、天台大師の教えの最も重要な部分も否定することになってしまうのかもしれません。
ただ、天台大師の教えと、賢首大師の教えを詳しく比較してないので、思い付きみたいな話をしているのですが。
賢首大師の教えは、間違いなく唯識論と深い関係があるはずで、天台大師は、「摩訶止観」のなかで龍樹、天親(世親のこと)を並称して言及しています。
何を言っても素人考えに過ぎませんが、とりあえず知る範囲での推測を書き込ませていただきました。

投稿: 「???」の補足 | 2008.06.30 10:01

日本では、般若心経が一番ポピュラーなお経で、これはなんといっても弘法大師が「般若心経秘鍵」を著作されて、般若心経の密教的解釈をされたというか、般若心経は密教の経典であるとされたということで般若心経は霊験あらたかなお経であるという評価が確立したのだと思われます。
後に、白隠禅師が「般若心経毒語注」を著作されて、般若心経は禅宗の代表経典であることも確立され、悟りに導く経典でもあるということになっているのだろうと思われます。
それで、さらに般若心経を調べたのですが、すごいすごい、南都仏教でも般若心経は重要聖典なのです。
岩波文庫の「般若心経 金剛般若経」の 「般若心経」解題 を読むと、普通に用いられている玄奘三蔵法師漢訳般若心経には、法相宗の宗祖の慈恩大師も「般若波羅蜜多心経幽賛」という解説書を著作されているし、華厳仏教の大成者の賢首大師も「般若波羅蜜多心経略疏」という解説書を著作されているのです。
般若心経は、筋金入りの大乗仏教の聖典です。
そんな訳で、なぜ薬師寺管長の高田好胤先生が般若心経のお写経勧進に力を入れられ、般若心経普及に努められたかに納得したというところです。
それから、金剛般若経ですけれども、これも、天竺三蔵鳩摩羅什大師漢訳「金剛般若波羅蜜経」には、天台大師の「金剛般若経疏」、慈恩大師の「金剛般若会釈」、わが国の弘法大師の「金剛般若波羅蜜経開題」といった重要な解説書がある立派な経典ですが、なんと言っても金剛般若経はあまりに長くて素人向きではありません。
素人は、般若心経を読誦するのがとてもよいようです。
なお、般若心経は、大切なのは、「ギャーテー、ギャーテー」の御真言以外は、とにかく、理屈をこねずに、「無」、「無」、「無」、「無」というようにとにかく、「無」を連打して発声していれば、お経の本旨にかなうようです。
サンスクリット原典の般若心経でも確認しましたが、こちらも、立て続けに、naが並んでいます。おそらく、サンスクリットのnaは、英語のnoかnotぐらいの意味だろうと思われます。
何であれ、唯識でも、華厳でも、密教でも、禅でも重要な経典なのだから、般若心経にはものすごく功徳があるはずなのです。

投稿: 般若心経と南都仏教 | 2008.07.16 06:52

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