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2008.04.01

グルーバル・メタボリックシンドロームの時代

 昨日の産経新聞社説”メタボ健診 世界をリードする先例に”(参照)を当初さらっと読んだときはそれほど気にも留めていなかった。だが、これは今後の世界の動向を考えるうえでとても重要なことになるかもしれないと気になりだした。


 生活習慣病につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防の概念を取り入れた厚生労働省の特定健診・特定保健指導が4月1日から始まる。40歳から74歳までの男女5600万人を対象に、企業の健康保険組合など医療保険者に実施を義務付け、受診率などで目標に達しなければペナルティーを科す。

 メタボリックシンドローム予防は健康に寄与するだろうと思われるが、問題はむしろこの「ペナルティー」、つまり罰則にある。さらっと同社説を読んだかぎりでは、罰則の対象は、企業健康保険組合や医療保険者であり、基準は受診率だ。しかし根幹にある問題はメタボリックシンドロームであることから、罰則対象は診断される人に向く傾向があるだろう。つまり、メタボリックシンドロームの人の存在が罰則対象となり、簡単に言えば、デブは犯罪だということになりかねない。いやそうした世界が迫ってきている懸念がある。
 産経新聞社説では、実質社会的なデブ処罰を「予防医学の取り組みとしては世界をリードする壮大な試みだけに成果を期待したい」として、日本が世界をリードするかのように認識している。確かに予防医学という視点からすると、日本のメタボリックシンドローム基準は国際的な医学の水準を凌駕しているかもしれないが、デブの処罰という点では、どうだろうか。やはりデブの多い米国で先進的な対策が進められているようだ。
 特に全米でもっともデブの多いミシシッピ州では、デブ取締法とも呼べる法案「House Bill 282」(参照)が成立に向かっている。まさかこれが法律なのかとぞっとするような内容の一部を紹介しよう。

Any food establishment to which this section applies shall not be allowed to serve food to any person who is obese, based on criteria prescribed by the State Department of Health.

下記項目に関連する食品業者は、州健康部門が定める肥満基準において、肥満と見なせるいかなる者にも食事を提供してはならない。


 レストランに入ってきたデブに食事を出すのは違法であり、デブに食わせることは犯罪になる。
 当然ながら、こうした状況に危機感を持つジャーナリストも増えてきている。ニューズウィーク日本版4・2「世界に広がるメタボ狩りの波(No Country for Fat Men?」では次のように懸念が訴えられている。

 ファーストフード店の接客マニュアルには「注文前に笑顔でBMI値を聞くこと」という項目が加えられ、高級レストランはエントランス近くに独ツェーレン社のおしゃれな体重計を用意し、ハンバーガーは禁酒法時代のウイスキーのように闇で取引される――そんな日がやってくるのだろうか。

 「デブ狩り」は人権問題の視点からも反対の声が上げられている。
 NAAFA(National Association to Advance Fat Acceptance)という組織による”Stop Mississippi House Bill 282! by Peggy Howell”(参照)というアピールでは、「デブ狩り化社会」の反対運動を盛り上げようとしている。

Oakland, CA - The National Association to Advance Fat Acceptance, a civil rights organization fighting discrimination against people of size strongly opposes the Mississippi House Bill 282.

カリフォルニア・オークランド 米国高度肥満受容協会(NAAFA)こと、市民権により、体重による差別と戦う団体は、ミシシッピ州州法 House Bill 282 強く反対の意を表明する。



Depriving people of food does not cause them to lose weight in the long term and only increases the risk of ill health. Is our end goal good health and increased longevity or superficial appearance?

長期間に渡り食事を取り上げることで、体重が減らせることはなく、健康を害するリスクを高めるだけのことになる。我々が求めるゴールは、健康であって、寿命をすり減らしたり、表面的な見てくれにこだわることではないのではないか。


 人権や差別撤廃の観点から「デフ狩り」批判をする民間団体が存在する反面、過激な環境団体のようにデブそのものを社会的にバッシングしていく反肥満活動家も存在する。
 先のニューズウィーク記事ではミーミ・ロス(Meme Roth)を取り上げている。彼女はユーチューブを使って果敢に反デブ活動をする点で、ウェブ2・0的世界においても注目されている。

 昨年5月には、フィラデルフィアで行われた地元のYMCAのイベントに「反肥満活動家」が乱入。来場者に配るために用意されたアイスクリームとシロップを勝手に廃棄しようとして、警察が呼ばれる騒ぎになった。
 乱入したのは「反肥満のために活動する会」の設立者であるミーミ・ロス。肥満は病気ではなく、生活習慣にのみ原因があると主張する彼女は、今やCNNやFOXニュースが肥満関連の話題を取り上げる際には欠かせないコメンテーターとなっている。

 彼女は、ゲームをやってデブになった子どもがいる家庭には課税を増やせとも主張しており、そのようすは「YouTube - MeMe Roth- NAAO- New Mexico Video Game Tax Child Obesity」(参照)でも見ることができる。
 こうした反肥満活動家の矛先は、サンタクロースにも及ぶようになった。言われてみるまでもなく、たしかにサンクロースは太りすぎだ。同じくニューズウィークより。

 太った女性でも着られる服を取り上げた雑誌のファッション特集、ガールスカウトが資金集めのために売るクッキー、サンタクロース……彼女が批判したりボイコットを呼びかける対象は幅広い。

 反肥満運動家の活動はグローバルなつながりも見せている。興味深いのは、アジアでの反肥満運動家の活動では文化的な偏見にも深い批判を投げかけていることだ。アジア、特に中華圏でサンタクロース系のデブとして問題視されているのは弥勒菩薩だ。
cover
弥勒菩薩
 日本では弥勒菩薩といえば広隆寺・中宮寺のスレンダーな仏像が連想されるが、中華圏の弥勒菩薩は布袋様のように腹を出したデブだ。これはもうメタボリックシンドロームといった次元を越えているうえに、こうした仏像を崇拝することが大衆のデブ容認をもたらすとして反肥満運動家の恰好の攻撃対象となっている。
 日本も例外ではない。残酷な闘技ゆえにボクシングを無くそうとする人がいるように相撲も格闘技というにはあまりに不健康でデブすぎるという声が起きている。BBC”What health problems can sumos suffer?(相撲取りの健康上の問題は?)”(参照)では、こうばっさりと切り捨てている。

What health problems can sumos suffer?

Because sumo wrestlers are very big and over weight, they can suffer from diabetes, heart, bone and joint problems.

相撲取りの健康上の問題は?
相撲取りは巨体かつ体重超過ゆえに、彼らは糖尿病、心臓病、骨格上の問題に苦しむことになります。


 今後の対応としては、相撲も健康志向のグローバル化の流れにそって、スレンダーな体型の相撲取りを主流にしていくか、あるいはあの体型に隠された軽快な身のこなしを活かした新分野に取り組むことが求められるだろう。後者の可能性については、デブ促進サイドとして批判されがちなペプシがすでに取り組んでいることは以下の動画で確認されたい。

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コメント

 昔は飯も碌に食えないガリガリ亡者の貧乏人が多かったから、デブは富裕の証明だし健康の象徴だし(寒冷地に適応しやすそうってことで)繁栄の礎みたいなもんだったんだけどね。江戸時代くらいまでは世界的にそーゆー傾向だったんジャマイカ。
 それが今じゃあデブis犯罪者ですからなあ。暑苦しいデブや全然働かないくせにアホほど飯食う燃費の悪いデブが痛いってのは同意できるんだけど、デブそのものが犯罪って認識は逝き過ぎだと思うんよね。普通に。

 労働貴族が天下取ってる世の中って所詮そーゆーもんなんでしょ。偉いヤツが次の時代の最先端労働はコレだ!! みたいな寝言垂れて猫も杓子も現場に駆り出しといて、ある程度人が溜まったところでヤクザまがいの因縁付けて淘汰淘汰の嵐で御座い、と。生き残ったヤツには金やるぞー。そうじゃなかったら死ねやボケーってヤツですよ。デブ云々なんてのは因縁付けのひとつでしかないから、そのうち「視力の衰えた人は脳に悪影響が出る可能性があるから近眼と老眼はデスクワーク一切禁止です」みたいなアホ世相が跋扈するんだよ。

 か弱い庶民はそーゆー号令が出たときだけ世界のナベアツみたく3の倍数と3の付く数字のときアホになって5の倍数のときナルシストになるしかないんですな。

 人生、人生。

投稿: 野ぐそ | 2008.04.01 18:32

小坊のときに運動を怠ると太り易くなるって話があるじゃないですか? 打ち明け話のようでイヤなんですけど、僕はそのころ苛められていて、例えば誘い合って遊ぶようなことはなかったんです。
昨今問題にされるような篭り切りではありませんでしたが、それでも一人、がむしゃら駆け回って――ということもなかった。専ら本の虫でした。
そこで慰みに……お菓子に手を出してしまったのが終わりの始まり(笑)。その悪習慣が身についてしまったまま大人になって、取り敢えず体型の崩れは今のところ免れているんですけど、
どうも体脂肪率の方が……中々(汗)

最近いろんな人にそれとなく聞いてみて、その都度驚くんですが、かのような次第でメタボな嗜好が生涯の友になってしまった人って、結構多いみたいですね(そして溜息が数珠繋ぎに(笑)。

イヤ、苛めさえなければというつもりはないんですが、
自助努力とかなんとかいう状況でもなかったんだよと、
例えばミーミさんにね……

投稿: 夢応の鯉魚 | 2008.04.01 21:30

↑前半部の「本の虫」までは私も似たようなもんだけど、そこから私は「瘠せ型~中背中肉」だったんで、環境云々もあるけど体質の問題が殆どだろうと思ったりしますけどね。
 単純に骨太なんでしょ。そんで多分、苛めが無い場合は「固太り」だと思いますよ。方向性として。脂肪と筋肉の比率が若干変動する程度で、どっちにしても太る(少なくとも瘠せないか瘠せにくい)体質なのでは? という感じ。

 欧州諸国の人々は日本の田舎もんみたく因果応報論で相手をねじ伏せに掛かる手合いが多いんじゃないですかね?

 大体、チビデブハゲ反っ歯出っ歯ド近眼なんてのは、その人にとって割と本質的な問題だから。そこらへんから因縁付けて潰しちゃおうって根性がアウシュビッツですよね。欧米人はそーゆー人種なんだろ、としか言いようが無い。

 そういや日本の田舎者ってアウシュビッツ発言好きだよね…。私もよくやるよね…。でも普通はマジじゃないよな…。流石欧米…。神の子は違うぜ…。みたいな。

投稿: 野ぐそ | 2008.04.01 22:21

途中まで真剣に読んでしまった・・

投稿: | 2008.04.02 01:36

>単純に骨太なんでしょ。そんで多分、苛めが無い場合は「固太り」だと思いますよ。方向性として。脂肪と筋肉の比率が若干変動する程度で、どっちにしても太る(少なくとも瘠せないか瘠せにくい)体質なのでは? という感じ。

わざわざコメントありがとうございます。
何というか、そういう「体質」の問題を(確かに僕自身納得しているわけではありませんが)対症療法的に解決しようとする人たちの視線には、
ちょっと引いてしまうものがありますよ。ナリには現れていないかもしれないけれど、こっちだって“人並みに”悔しがっとるっちゅうねん(笑)

これに肉親が含まれてしまうのが更に面倒で……イヤ、できる限りのことは(前述したように、納得してはいませんから)しますけど、
「際は知っといた方がいいでしょ?」とまあ、こぼすことにさえナイーブときたもんだハッハッハ。

……失礼しました。
いずれにしろ、縁を疎ましく思いたくはないものですが、
努めるにはあまりにも、
何せどちらかといえば相手のことだから……難しい。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2008.04.02 15:33

四月馬鹿も一部の国では真剣な国家課題ですよ。
「転国」するひとたち - ガメ・オベールの日本語練習帳
http://d.hatena.ne.jp/ifeelgroovy/20080204/p1

略~

優秀な人材を採用して、いったん手に入れると今度は他の企業に引き抜かれないように必死で確保しようとする。ニュージーランドはむかしはまじめに移民問題に取り組まなかったので、はっきりいってスカな金はいっぱいもってるけど何の役にも立たんホンコンのおっさんとか、どういうからくりでか焼け太りした日本の元役人のおっさんとか訳のわからんやつがいっぱい来た。一方では台湾の外科の権威が医師免許をとれずに窓ふきになっておったりして「なにやってんだアホ」と当時は国民がだいぶんあばれた。

この頃は英語の試験はやるわ、技能の点数は高くするわ、最近はなんとデブは移民できない。

BMI制限があるのす。


投稿: なかなかね | 2008.04.04 05:03

ワロタ

投稿: き | 2008.04.04 16:20

はじめまして、ふじーです。
メタボな仏様もいるんですね(笑)

投稿: ふじー | 2009.04.20 22:27

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