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2008.04.13

コメ急騰問題メモ

 朝ラジオをつけたらフィリピンでのコメ不足問題を扱っていた。十数名の子どもを食わせるのは大変といった声を聞いて、それは確かに大変だろうけど同時に立派なものだなとも思った。日本も昔はそういう時代があった。
 私は1957年生まれで団塊世代から十年ほど下になる。団塊の世代には飢えの記憶がある人もいるかもしれないが、「ひもじさ」のほうが鮮烈だろう。私の世代になるとそこからも脱却している。しかし世界の飢えの問題はまだ解決されたわけではない。それでも私の子どものころに予想されていた悲劇的な食糧危機のかなりの部分は緑の革命が変えた。功罪はあるのだろうが。
 今朝の朝日新聞社説”食糧高騰―市場の暴走が飢餓を生む”(参照)が関連の話題を扱っていた。朝日新聞によれば全世界的に食糧不足の時代なのだそうだ。


 地球上を妖怪が歩き回っている。食糧不足という妖怪だ――マルクス・エンゲルスの「共産党宣言」流で言えば、こうなるだろう。

 この痛い趣味にはついてけないな。食糧不足の理由について朝日新聞はこう説明している。

 なぜ、いま、食糧不足なのか。
 確かに、オーストラリアの干ばつなど、主要農業国の不作が重なった。中国やインドといった人口大国で食生活が変わり、肉の消費と飼料の需要が急増したこともある。トウモロコシなどの穀物を、ガソリン代わりのバイオ燃料に転用し始めた影響も大きい。
 だが、今回の事態を招いた要因として何より注目されるのは、投機資金が食糧市場に流れ込んでいることだ。米国の金融不安を機に金融・株式市場から引き揚げられた資金が穀物などに向かう。価格が上がり、それがまた投機資金を呼び込むという悪循環である。
 その結果、食糧輸出国は売り惜しみをし、輸入国は買い占めに走る。世界の食糧生産は増えているという現実があるのに、貧しい国、貧しい人々には手が届かなくなってしまうのだ。市場の暴走というほかない。

 一読したとき、大筋でそうだろうなと思った。逆にそうであるというなら、表題のような「市場の暴走が飢餓を生む」ということについては、人類の知恵で対応可能かもしれないとも思った。つまり食糧の絶対量の不足という事態と、市場の暴走は別だからだ。あまり単純な話にしてはいけないが食肉を減らせば穀物が食糧に回る。
 そういえば、この関連の話題は以前にも書いた。昨年1月17日に書いた「極東ブログ: このところの穀物高騰など」(参照)に続く。他に2004年の「極東ブログ: 中国はもはや食料輸入国」(参照)、「極東ブログ: 世界市場の穀物価格は急騰するか?」(参照)がある。2008年に私は次のように書いた。

 もう1つは、いずれにせよ穀物価格はじわじわと高騰する、か、あるいはどっかでカタストロフ的に高騰するかだ。これも避けられない。そのあたりの反射が、どう国際経済を襲うのだろうか。単純に考えれば、以前極東ブログでも触れたように一次産品の価格上昇という問題かもしれないし、石油を含めて、中国発デフレが中国発インフレになるか、ということだが、どうもそこまで話を進めると実感はない。

 4年前のことだ。世界はある程度理路を辿るものだ。どのような理路であるかは別としても。
 話を今朝の朝日新聞社説に戻す。次のような困惑する記述もある。

 日本の私たちも、その余波を肌身で感じさせられている。パンや即席めん、乳製品などの値上げラッシュである。だが、いちばんの被害者は最も弱い立場の人たちだ。
 たとえば、紛争が続くスーダン。難民キャンプにいる200万人への食糧支援がおぼつかない。このままではさらに新たな難民が出る恐れもある。

 スーダンの難民キャンプにはダルフール危機が含まれているのだろうが、「ダルフール」というキーワードが抜けているのは、そのキーワードを書くと、スーダン政府によるこの数年の援助妨害の問題に朝日新聞も直面しなければならなくなるかもしれないからか。
 日本の食品価格上昇と世界の食糧危機の問題は、朝日新聞がいうほど直結していい議論とは思えないが、それでも世界の食糧危機という現実は4年前に想定したようにある。
 最近の事態の時事的な話題のまとめとしては、FujiSankei Business i.「中国・アジア/「コメ騒動」拡大中 1年で70%の価格高騰」(参照)がわかりやすい。

≪投機資金流入も≫
 AP通信によると、国連食糧農業機関(FAO)がコメの主要輸出銘柄からまとめた「全米価指数」は1998~2000年を「100」として、昨年3月の130から今年3月に216まで約66%も上昇。コメの最大輸出国、タイの代表銘柄タイ・ホワイト・グレードBの場合は、今月初めに1トン=795ドルと昨年12月の2倍以上になった。
 FAOでは中国、インドやベトナムなどの主要輸出国がコメ輸出を制限していることが価格急騰原因と指摘している。燃料費高騰で肥料や輸送、脱穀用燃料などのコストが上昇、米価に跳ね返ったほか、米国で小麦などに転作が進んでいることも供給減少の背景にある。相場のつり上げを狙った投機資金の流入が価格上昇に拍車を掛けており、米シカゴのコメ先物相場は史上最高値が続いている。

 フィリピンのコメ高騰の背景は、ベトナムのコメ輸出制限が関係している。

 タイに次ぐコメ輸出国ベトナムは今年初めに寒波に見舞われ、生産に大きな影響が出ている。だが、業者がより多くの利益を得ようとコメを輸出に振り向ける動きも広がり、今年1~3月のコメ輸出量は約300万トンと昨年同期(約183万トン)を大きく上回った。このためベトナム当局は、国内の食糧確保のためコメの年間輸出量の上限を400万トンと決めて、新規のコメ輸出商談を停止させた。

 タイもまた同じように輸出制限するかもしれない。
 どうしたらよいのか。朝日新聞的にはこう提言する。

 先進国の投機と無策が人道危機を引き起こしている。飢餓の広がりを防ぐために、日本をはじめとする先進国は緊急支援に動かねばなるまい。

 先進国の投機と政策に原因があるのだから、先進国は緊急支援をすべきだというのだ。
 フィナンシャルタイムズはそれとは違った視点を出していた。9日付け”Restocking the empty global larder”(参照

Advice for those trying to solve the global food crisis: do not start from here. As governments across the developing world impose export bans on staple foods, further worsening the shortages on inter-national markets, the shortcomings of a system designed around the expectation of plenty are becoming painfully evident.
(世界食糧不足を解決しよとするためのアドバイス:ここから始めないこと。途上国政府が主食の輸出制限を課しているので、国家間市場の不足が悪化し、潤沢の期待から作られたシステムの欠点は痛ましいほどに明白になってきている。)


There are, sadly, few quick fixes, not least because food production responds only slowly to changes in price, although restricting global supply via export bans is certainly not a sensible solution.
(輸出禁止による国際的供給の制限は理性的な結論に程遠いにも関わらず、特に食糧生産は価格に対してゆるやかにしか対応しないのだから、悲しむべき事ではあるが、応急処置はほとんどない。)

 短期的な解決はないというなら、中長期的にはどうか。

In the medium term, the imperative must be on increasing supply, for which much of the responsibility lies with developing countries - improving infrastructure, including storage where necessary for buffer stocks, bringing more land into production and encouraging crop insurance or forward markets where they do not exist. Those countries resisting the introduction of genetically modified food should take another look at the productivity gains that it can unleash.
(中期的には、供給を増やすしかないし、それは途上国に多く責任がある。そのために、問題緩和のための貯蔵、生産用地拡大、現在は存在していない先物取引市場や農産物保険の推進を含め、インフラを強化しなければならない。遺伝子組み換え作物導入を規制している国は解放に向けて再検討すべきだ。)


Security and stability of food supply are enhanced when markets are allowed to work by being given clear and enduring price signals, with governments providing social and physical infrastructure support.
(市場が明確で継続的な価格を示せるようになれば、途上国政府が社会的かつ目に見えるインフラを提供することとあいまって、食糧供給の確保と安定が向上する。)

 これは朝日新聞にとっても、途上国支援の人々にも受け入れがたいことかもしれない。私としてはその視点が依然暢気な先進国の空気を反映しているような気もするが。

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コメント

暢気っちゃ暢気なんだろうけど、金があってfatalな危機の直面してない国からはこういう意見しか出ない気がするし、またそういう意見である方がその国にとっても痛みの少ないものであるんだろう。
それよりも問題は…実際にこの提言が実行されるかどうかだと思うんですよね。現実には右往左往するだけで生産量も増えず安定もせず、飢えでバタバタ人が死んでいきそうな感じ。先進国だけの責任じゃないと思うけどね。

投稿: e | 2008.04.13 22:35

この訳だと最後の結論が良く分からない気がします。

直訳だと、
「途上国政府が社会的および物理的なインフラを提供するという、明確で継続的な価格シグナルが与えられて市場が動くことができれば、食糧供給の確保と安定が向上する。」
ですよね?
あんまり上手くないですけど。

投稿: ずに | 2008.04.14 00:04

この話(食料不足は人災の部分が大きい)って20年くらい前の高校の教科書にも載ってましたし、センが研究者を志したのもこの問題ですよね。

 もう少し具体案になるとどうすれば良いんですかね?市場に任せるのが一番マシなんでしょうか。 

投稿: | 2008.04.14 00:37

どこまでも勝者のいねぇ世界だな・・・
続ける奴と降りる奴
それだけだ

投稿: double day club | 2008.04.14 07:28

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