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2008.04.02

シーア派内抗争が深まるイラク情勢

 イラク情勢が大きな曲がり角に達しているようだ。備忘もかねて簡単に記しておきたい。
 話はやや込み入っている。まず、日本語で読める報道からアウトラインを描いてみよう。今日付の朝日新聞”イラク「6日戦争」で治安懸念 撤退シナリオに影響も”(参照)が取りあえずスキーマティックに事態を伝えている。


 イラクのマリキ首相が率いる治安部隊と、イスラム教シーア派の民兵組織マフディ軍との戦闘は、3月25日に始まって以降、イラク全土で400人ともいわれる死者を出した。「6日戦争」とも呼ばれる今回の戦闘は収束に向かいつつあるが、改善傾向にあるとされてきたイラクの治安のもろさを見せつけた。米英軍の本格撤退シナリオにも影響を与える可能性がある。

 イラク情勢というと日本のジャーナリズムではつい対米軍の構図を描きがちで、朝日新聞の記事ではつい米英軍を焦点に置いてしまっている。だが、対立の焦点は、イラク政府軍対シーア派民兵マフディ軍である。
 やや勇み足の懸念もあるが、ここでいうイラク政府軍とは実質シーア派である。これはシーア派対シーア派の構図が基本にある。朝日記事には補助でトリアーデに見せかけた解説図があるが誤解の印象を与えかねない。
 朝日新聞記事では、南部の対立を、「サドル師派とイスラム最高評議会(SIIC)とのシーア派」として捉えている。正しいのだが、これもまたシーア派対シーア派である。よく読むとその構図がわかるが、やや読みづらいうえ、実態はシーア派として見てよい政府の関与もやや曖昧になっている。

 大油田地帯を抱えるバスラなどでは、サドル師派とイスラム最高評議会(SIIC)とのシーア派同士がしのぎを削り、傘下の民兵組織が抗争を続ける。マリキ政権で軍や警察の治安当局を握るSIICが首相と結託し、南部で根強い支持があるサドル師派をつぶしにかかったと、同派内では受け止められている。
 サドル師派は06年5月のマリキ政権発足に貢献。マリキ首相の出身母体のダワ党、SIICとともに、シーア派与党会派「統一イラク連合(UIC)」を構成した。しかし、サドル師派は首相が米軍撤退日程を示さないことや、米ブッシュ政権が首相に実現を求める石油法案に反発。昨年は閣僚の政権離脱、国民議会ボイコット、与党離脱とゆさぶりをかけた経緯があり、首相にとっては悩みの種となっていた。

 朝日は米軍に関心をおきすぎるが、対立の根幹にあるのは石油の利権である。
 この点、フィナンシャルタイムズ3月27日付け”The Basra fight for Shia supremacy”(参照)がわかりやすい。今回の政府軍の動きはあたかも統治主体の正当性があるかのようにも見えるが、フィナンシャルタイムズは否定的に見ている。

But the Shia-dominated administration of Nouri al-Maliki is a national government in name only. In practice it has ceased even pretending to pursue a communalist agenda, preferring the even narrower sectarian interest of the prime minister’s faction of the Da’wa (Call) party and that of its allies in the Supreme Islamic Council of Iraq led by Abdelaziz al-Hakim. The Iraqi national army, moreover, is really rebadged militia: in this instance mostly the Badr brigades of the Supreme Council.
(しかし、マリキ政権がイラク政府であるというのは名目上に過ぎない。実質は、国家自立の大義追求の虚構も止め、首相のダワ党とそれに同調する、ハキム師率いるイラク・イスラム最高評議会の党派的な利益への偏向がある。イラク政府軍もまた実態は民兵の言い換えに過ぎず、今回の事態についていえば、その大半は最高評議会指揮下のバドル旅団である。)

 さらにその闘争目的が石油利権であることも示している。

That is why the offensive is targeting Moqtada al-Sadr’s Mahdi army. The Hakims, backed by Tehran as well as Washington, want power in Baghdad, but underpinned by an oil-rich mini-state made up of the nine mainly Shia provinces of southern Iraq. Another local militia, a Sadrist splinter called Fadhila (Virtue), mainly wants to control the lucrative oil-smuggling trade. It has buttressed these aims through rough control of the oil ministry and a project for a three-province mini-region that would contain most of Iraq’s oil.
(攻撃対象がサドル師派民兵マハディ軍である理由は以上の通りだ。イラク政府内の権力を求めるハキム派はイラン政府と米国政府の支援を受けているものの、支持しているのは豊富な原油を持つ主にシーア派の南部9地方だ。その他の地域の民兵はサドル派分派のファディラ派であり、彼らの主目的は原油密貿易の支配だ。石油省の緩やかな支配とイラク大半の原油を持つ三地域プロジェクトによってこの目的が強調されてきた。)

 フィナンシャルタイムズの論点は明快と言えば明快なのだが、ハキム派とサドル派の背景がわかりづらい。この点は、ニューズウィーク日本版4・9”シーア派内紛と血の因縁”が簡素にまとまっている。

 シーア派の指導者として尊敬されていたサドルの父は、フセイン独裁時代もイラク国内にとどまったが、ハキム一族はイランに亡命した。以来、両陣営は相手を卑怯者とみなしている。そこには階級的な対立も感じられる。サドル派の多くは貧困層だが、ハキムの組織は比較的学歴の高い層を引きつけている。
 イラクのシーア派とスンニ派強硬派が戦っている間、ハキムとサドルの対立は一時的に目立たなくなっていた。だがサドルが昨年夏に一方的に宣言した停戦で、国内が平穏になった。それ以来、シーア派内部の対立は表面下でくすぶることになった。

 こうした構図のなかで、イラクの治安回復がどのように進むのか、率直なところ皆目わからない。
 印象にすぎないのだが、米軍が撤退すれば、混乱からサドル派が勢いづき、またスンニ派やクルド人との対立が激化することになるのではないか。

追記
 政府とSIICの関係についてワシントンポストは”Battle for Basra”(参照)で異なる見解を出していた。


Critics claim that the prime minister's only intention was to favor one Shiite faction, the Islamic Supreme Council of Iraq, over another, but Mr. Maliki does not belong to either group and gained his office with the support of Mahdi Army leader Moqtada al-Sadr.

 私は依然シーア派内部の問題だろうと見ている。また、以下のワシントンポストの視点は米軍を重視過ぎていると考える。

What the end of the fighting demonstrated is that Mr. Maliki's government and army are not yet strong enough to decisively impose themselves by force in areas controlled by the Mahdi Army or other militias, at least not without the full support of U.S. ground forces. The fact that such support remains available to the government no doubt contributed to Mr. Sadr's embrace of a cease-fire.

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コメント

中東戦国時代
米軍の治安維持に頼らざるを得ない現状は、自衛隊の存在が良く議論され、警察の存在はあまり議論されない日本との違いが興味深い

投稿: double day club | 2008.04.07 10:26

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