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2008.04.18

人は年を取るにつれて幸せになるか

 人は年を取るにつれて幸せになるか? なるらしい。いやそこまで一般化はできない問い掛けだろうし、個人の人生観などが関わってくる問題でもあるのだろうけど、今朝のサイエンス・デイリー”Older People Are Nation's Happiest: Baby Boomers Less Happy Than Other Generational Groups(老人がこの国で一番幸せ:ベイビーブーマー世代はそれより年上の世代に比べると幸福感は少ない)”(参照)の記事を読みながら少しそんなことを考えた。このニュースが気になったのは、自分も年を取るについ幸せだと思うことが多くなったような気がするからだ。
 サイエンス・デイリーの記事はもう少し限定されている。表題からもわかるように、ベイビーブーマー世代とその上の世代の比較で、上の世代のほうが幸福度が高いらしい。ベイビーブーマー世代とはウィキペディアを借りると(参照)、「アメリカ合衆国を中心として、第二次世界大戦終了後の復員兵の帰還に伴って出生率が上昇した時期に生まれた世代」で具体的には、「アメリカにおいては世代の範囲についての定義に揺れがあるものの、1946年から1964年の間に生まれた人々を指す事が多い」とある。
 一読して、「え? 俺(57年生まれ)もベイビーブーマー世代なのか?」と驚いて英語ウィキペディアの解説を見たら日本語ウィキペディアは英語の記述に依拠しているようだ。自分がベイビーブーマー世代になるとは知らなかったなと思った。ところがよく読むと、知らなかった理由もわかる。


1947年から1948年、1957年から1958年にかけてと1961年から1964年にかけては明らかに減少しているが、1964年から65年における減少幅の方がそれらより断然大きい[1]。おおよその目安としては1940年代から1960年代となっている。

 これは米国を指すのだろうと思うけど、私が生まれた57年は団塊世代の終わりと共通一次世代の狭間にあって奇妙な空白感があった。まあ、私のようなこの間隙の世代を理解してくれと言っても無駄なのがよくわかってあらかじめ黙り老いてしまった世代でもある。余談ついで言えば、この間隙の世代は最初から老いていたので、自分を若者だと思ったこともない。団塊世代の若者文化の偽善性をひんやり横目で見ていた。昨今の若い人たちが自身を若者と同定して語るのに合うと、こいつら団塊世代と同じっぽいな、とか思う。と同時に共通一次世代以降のような社会価値の一元性もなかった。センター試験の点数とかそもそもなかったけど、学歴とかもあまりピンとこなかった。一時期自分の周りに東大生がけっこういたけど、別になんとも思わなかった。それはさておき、日本ではベイビーブーマー世代は団塊世代に相当するとされている。自分は団塊世代と感性もライフスタイルも違うので、だから自分はベイビーブーマー世代じゃないでしょと思っていたわけだ。むしろ、私のような間隙の世代は大正デモクラシーの世代に共感していた。私も50歳になって自分の日本人アイデンティティというのを思うのだけど、父や山本七平、手塚治虫、星新一、といったなんとなく欧風のモダンな日本人の感性に近い気がする。
 余談が長くなるが、米国民主党のクリントンとオバマのごたごたは、ようするにこの広義のベイビーブーマー世代とそれ以下の世代の対立なのだろう。というか、話を戻すとこのサイエンス・デイリーの記事もその陰影がある。

The study also found that baby boomers are not as content as other generations, African Americans are less happy than whites, men are less happy than women, happiness can rise and fall between eras, and that, with age the differences narrow.
(研究でわかったことは、ベイビーブーマー世代は他の世代より満足度が少ないこと、アフリカ系米人は白人により幸福度が低いこと、男性は女性より幸福度が低いこと、幸福度は時代によって起伏があること、年齢差は少ないことだ。)

 黒人と白人とに幸福感の差があるのは社会構造の反映があるのだろう。男女差もそうかもしれない。しかし、概ね時代に流されて、人はその幸福感を決めていると見てもよさそうだ。
 また、この先に白人女性の老人がもっとも幸福感を得ているともあるが、ベイビーブーマー世代より上の世代では、きちんとお婆ちゃんになれたからではないかという印象がある。が、記事では一般化としてはこう言及している。

The increase in happiness with age is consistent with the "age as maturity hypothesis," Yang said. With age comes positive psychosocial traits, such as self-integration and self-esteem; these signs of maturity could contribute to a better sense of overall well-being.
(年齢による幸福度の増加は、加齢成熟仮説に合っている。年を重ねるにつれ、自己統合や自己評価といった心理的形質は積極的になる。こうした成熟の特徴は、健康であることの了解によるのだろう。)

 とはいえベイビーブーマー世代はそれほどではない。老境というのはまだ年齢が若いからとも言えるのかもしれないが、記事では社会的資源の配分にも言及しているので、基本的には社会に還元されるのではないだろうか。
 サイエンス・デイリー記事のネタもとは、the April issue of Media Abstracts for the American Sociological Review。概要は”Media Abstracts for April 2008 ASR”(参照)にある。試訳は添えないがそれほど難しい口調ではないし、サイエンス・デイリー記事から逸れているわけではない。

Social Inequalities in Happiness in the United States, 1972 to 2004: An Age-Period-Cohort Analysis
- Yang Yang, The University of Chicago
Americans Becoming Happier, but Baby-Boomers Less Happy than Others

As Americans live longer, are they living better, happier lives? Research by Yang Yang, a sociologist at The University of Chicago, provides a comprehensive analysis of the disparities in happiness between men and women with different demographic characteristics, such as age and race. While substantial variation in subjective happiness exists between social groups, she finds that overall, levels of happiness increase with age. Since 1995, most groups of Americans have seen an up tick in happiness, with the happiness gap between men and women closing during this time. The racial disparity in happiness, although declining, continues to persist. Interestingly, she finds that baby boomers have experienced less happiness on average than both earlier and more recent cohorts. This suggests that happiness in later life is closely related to early life conditions and formative experiences. For example, larger cohort sizes increase the competition to enter schools and the labor market and create more strains to achieve expected economic success and family life. Baby boomer’s unique experiences during early adulthood may have had a lasting impact on their sense of happiness.


 ざっくり眺めていると、サイエンス・デイリー記事から落ちているのは、老後の幸福は人生の初期地点にも依存するというあたりだろうか。初期というのは、修学から就職を意味しているようだ。
cover
ヘルシーエイジング
アンドルー ワイル
 ベイビー世代より上の世代ではその頃戦争やまだ恐慌の余波があったようにも思うのだが、とすると悲惨な経験は老後の幸福感にも繋がるのかもしれない。そう言ってしまうのは穿ちすぎだが、最近若い人と話して思うのは、東京オリンピック以前の東京や日本の、本当の風景の感触ってなくなったんだなと思う。臭かったですよ、あちこち、なにかと、あの時代。

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コメント

こんにちわ。
『ヘルシーエイジング』いま、再読しているところでした。
P288 4行~ の底がぬけちゃうと、困っちゃいますね。
よくご存知だと思いますが、わたしたちにはどうすることもできません。
孤独になってしまって、悲劇になっちゃうことだけは避けてもらいたいんですけど、よろしくお願いします。
父親としてのfinalventさんのことばは、素直に聞くことができます。

投稿: haineko2003 | 2008.04.18 15:57

こんちは。
finalventさんてほんとに団塊世代を嫌ってらっしゃいますよね。いつもは飄々とした感じのべんじいが団塊世代のことになると少しネチっとするのが何だか微笑ましいです。べんじいは何か団塊世代に恨みでもあったりするんでしょうか。

投稿: ritsgirl | 2008.04.19 01:26

保険制度改革関連のニュース見てると・・・な感じするけどな

投稿: | 2008.04.19 08:33

1958年東京生まれの坪内祐三さんと重なって見える。

>「他人指向型」の時代にあって一番重要なのは、目立たないこと、すなわち、自分の仲間たちの集団からはずれないことであるとリースマンは言う。それに対して、「内部指向型」の時代における最大の悪徳は「不正直」なこと、

『アメリカ--村上春樹と江藤淳の帰還』,坪内祐三,扶桑社,2007


「キャッチャー・イン・ザ・ライ」のホールデン・コールフィールドは、自分のいる時代の現象を次から次と、phony(インチキ、ニセモノ、偽善)と毒づくが、(純粋無垢な)妹のフィーヴィーを守る(ライ麦畑のキャッチャーになる)ために(汚れながらも)その時代を生きようとする。

「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の愛読者で、熱狂的なクリスチャンだったマーク・デイヴィッド・チャップマンはジョン・レノンを偽善者、いんちき野郎と言って射殺してしまった。

ダライラマ法王は、悟りを得ているのにあえて涅槃に入ることなく、この世で生きとし生けるものを救済する観音菩薩の化身とされている。

守るものがあったら、ホールデン・コールフィールドやダライラマ法王みたいに、無秩序でごった煮のこの世で生きる苦しさに耐えることができるんだろうか。

投稿: haineko2003 | 2008.04.19 13:57

年齢はその国や時代の平均寿命によって意味合いが変わる。ただ文脈(=全体)と言うのはもっと謎めいてるんですよ。

投稿: ddc | 2008.04.19 22:37

上記の『アメリカ--村上春樹と江藤淳の帰還』で坪内祐三さんは、オリジナルの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」が発表された1951年のアメリカと、邦訳が発表された1964年の日本とがうまく対応していると書いておられました。
で、「空白の10年間」のあと2003年に村上春樹さんが新訳を発表する、と。

作家の直感がかぎつけたものは、似ているけど、どこかずれてるようにも見える。
あの時代、ケータイなんてなかったもんなぁ。

投稿: haineko2003 | 2008.04.20 06:35

Aさんは親に早く自立しなさいとよく怒られてました。Aさんは自立する自信がありませんでした。Aさんは親と良くけんかをし、こんな家を早く出たいと思いました。Aさんは何とか仕事を見つけました。仕事が軌道に乗り始めました。Aさんは一人暮らしを始めるため、部屋を探し始めました。Aさんは自信をつけてきました。あるとき親が思い病気にかかりました。Aさんは親に言われました。一人暮らしをせずに面倒を見て欲しい、と。Aさんは何も返事ができませんでした。Aさんはまた新たに計画を立て直さなければならなくなりました。
自分の作った世界観が現実に合わなくなるまでは、特に慌てる事はない。現実と何も不整合を起こしてないからと言って、何の成功も意味しないが、少なくとも、現実とどこまでかみ合うかを試すことができる。論理的に簡潔な理論が、現実とぴたっとかみ合う事は気分が良いだろう。・・・いつかは壊れる事がわかっていても。わたしは、頑張ろうと思う。きっとAさんも。

投稿: ddc | 2008.04.26 20:50

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