« マケドニアのこと | トップページ | オムレツと小麦粉についての悩ましい問題 »

2008.04.04

ジンバブエ大統領選・議会選後、メモ

 うまく整理できてないので散漫になるかと思うし、ブログに書くにはもう少し待ってもよいかもしれないのだが、現時点で記しておく意味も多少はあるかもしれない。あとで触れるかもしれないが、日本のジャーナリズムはアフリカ問題に疎いということもだが、中国の手前この問題に触れたくないのではないかという印象もある。なお、前回ジンバブエに触れたのは昨年7月の”ジンバブエ情勢メモ”(参照)だった。
 3月29日に実施された大統領選と議会選の結果だが、ロバート・ムガベ(Robert Mugabe)大統領(84)の敗北は明確なので、問題はそれによって何が起きるかということに関心が移る。どう進んでもかなりの困難が予想されるが、最善な傾向としては、AFP”ジンバブエ、ムガベ氏が辞任に同意か”(参照)が伝える線だろう。つまり、国内争乱なく政権の移行が行われることだ。


 前月29日に大統領選と議会選の投票が行われたジンバブエで1日、28年に及ぶロバート・ムガベ(Robert Mugabe)大統領(84)の時代が終わりを告げ、長年にわたる政敵モーガン・ツァンギライ(Morgan Tsvangirai)氏が政権を握る見通しが強まってきた。
 ムガベ氏からの敗北宣言はないものの、外交官や与党幹部までもがムガベ氏が辞任に基本合意したと話している。

 もっともジンバブエの場合は”極東ブログ: ケニア暴動メモ”(参照)で触れたケニアのようにはならない。この点についてもAFPが詳しい(ただしケニアの件ではAFPの視点は結果的に外れた)。”選挙結果を待つジンバブエ、ケニアの「二の舞」にならない理由”(参照)にはいくつか分析があるが、要するに、ムガベ政権は論外の水準にあった。

地元の大学講師は、「国のすべてが腐敗している」ために今回の選挙で民族が焦点になることはないと話した。

 今回の選挙では、選挙操作でどうとなるレベルではなかったというのが事態をぐいっと進める結果になった。加えて、米国はワシントンポスト”Zimbabwe Teeters”(参照)が伝えるように選挙操作への威嚇を出していた。

Whether Mr. Mugabe succeeds in imposing a fraudulent election result will depend on whether other governments in southern Africa accept Ms. Rice's judgment -- and resolve, at last, to do something about the situation.
(ムガベ氏による詐欺的な選挙結果の強要が成功するかどうかは、南アフリカの他の政府がライス氏の判断の受諾するにかかっている。つまり最低でも状況に何か関与するという判断だ。)

 2つのAFP記事が楽観視する方向で進むかなのだが、現時点ではわからない。現時点の最新AFP記事はニューヨークタイムズの孫引きだが、懸念も伝えている。”ジンバブエ当局、外国人記者2人を拘束 無許可取材で”(参照

 前月に大統領選・総選挙が行われたジンバブエで、米ニューヨーク・タイムズ(New York Times、NYT)記者らジャーナリスト2人が3日、無許可で取材していたとして当局に拘束された。警察当局とNYTが発表した。
 
 ジンバブエ警察当局の広報によると、2人は首都ハラレ(Harare)中心近くの高級宿泊施設ヨークロッジ(York Lodge)で拘束され、警察当局によって留置されているという。

 ニューヨークタイムズの関連記事”New Signs of Mugabe Crackdown in Zimbabwe ”(参照)にはより深刻な事態のトーンがある。
 私の推測だが、すでに西側諸国の合意もあり、それほど大きな混乱はなく、ムガベ政権は終了するのではないか。
 問題は最善の線を進むとして、ムガベ大統領はどうなるか。3つシナリオはある。それなりに国内で隠遁する、裁判にかけられる、国外脱出する。たぶん、最初のシナリオはないだろう。ムガベはマタベルランド虐殺に関与しているからだ。この虐殺はなぜかあまり日本のジャーナリズムからは顧みられないが、2000年のBBCに簡素な記事”Mugabe: Madness of Matabele deaths”(参照)がある。

President Robert Mugabe of Zimbabwe has admitted that the killings and atrocities that took place in Matabeleland in the 1980s were "reckless and unprincipled".
(ジンバブエのロバート・ムガベ大統領は、1980年代マタベルランドで行われた殺戮と虐殺を「無謀かつ不測の事態」と認めた。)

 殺戮の規模については数千人と触れているが数万に及んでいたかもしれない。この虐殺はグクラフンディ(Gukurahundi)(参照)として知られている。かなり明白に国際法上の違反になるだろう。
 もう一つのシナリオは国外脱出だが受け入れ国の問題があり、さらに上位の枠組みに中国と西側諸国の問題がある。結論を先にいうと米国と中国北京政府側で暗黙の合意がとれている可能性もある。
 今回のムガベ敗北は中国にとっても手痛い事態でもあった。率直に言ってこれはこれでかなりの偏向があるが産経新聞記事”ジンバブエの大統領選、中国が強い関心”(参照)がこの背景を伝えている。

【北京=矢板明夫】中国のメディアはジンバブエの大統領選挙に高い関心を持ち、連日最新情勢を詳しく伝えている。これまでに10回以上の訪中経験を持つ盟友のムガベ大統領が落選すれば、中国にとってアフリカ南部における影響力の後退を意味し、大きな痛手になるからだ。

 以下の話は産経新聞らしいネタではあるがあまり重要ではない。個人の思想というより利権・独裁・ポピュリズムといった構図で見るべきだからだ。

 中国メディアの報道などによれば、中国は1980年に独立したジンバブエを最初に承認した国の一つ。それ以後、両国間の交流は順調に発展。87年にムガベ大統領が就任し、中国との関係はさらに接近した。大統領は独立運動を指導していた時代から毛沢東思想を信奉。若いころに約10年間投獄されたが、その間、「毛沢東選集」を繰り返し読んだという。

 ジンバブエを今日の圧政国家に育て上げたのは、しかし、かなり公平に見て中国だと言ってもよいだろうと思う。

 2002年、大統領が白人の農園を強制収用し、野党を弾圧したことなどを理由に、欧米諸国から経済制裁を受けた。四面楚歌(そか)の中、中国だけが支援の手を差し伸べ続け経済交流を拡大させた。ジンバブエからクロム、銅などの天然資源を輸入し繊維製品、医薬品などを輸出した。二国間の貿易額は01年に約1億4000万ドルだったが、07年には約3億4000万ドルに増えた。今年1月にはジンバブエの経済混乱を受け、中国は5000トンの緊急食料援助を行った。

 産経新聞をソースにするだけで反感を持つ人もいると思うので昨年6月のBBC”Zimbabwe signs China energy deal ”(参照)もあげておく。

China has signed a $1.3bn deal with Zimbabwe to help relieve an acute shortage of energy.
(緊急のエネルギー不足の解決のために、中国はジンバブエとの間に13億ドルの援助協定に調印した。)

 産経新聞は触れていないが、その後、胡錦濤政権が強化されるにつれ、この問題は、北京側では認識されている。昨年8月のテレグラフ記事”China is to withdraw backing for Mugabe”(参照)が簡素に対ジンバブエの中国の変化について触れている。

Robert Mugabe is to lose vital support from one of his few remaining allies on the world stage, China.

One of the Zimbabwe president's oldest diplomatic friends, China yesterday told Lord Malloch Brown, the Foreign Office minister, that it was dropping all assistance except humanitarian aid.
(ロバート・ムガベは、国際舞台のわずかな同盟国の一つ、つまり中国から貴重な支持を失うことになる。ジンバブエ大統領の長年の友である中国が昨日、マロック・ブラウン卿(外務省大臣)に話したことろでは、人道援助以外の援助はすべて低下しているとのことだ。)


 つまり中国側としても疲弊したジンバブエに対して人道援助に絞りたいとしていた。
 少し勇み足な考察になるが、中国が今回の事態を想定していたかだが、いただろうと私は思う。結果的にババを引く形になるが胡錦濤としてはこの時点でもっとも合理的な結論だともいえる。だが、当然抜本的な解決に至る結論にはなっていない。
 もっとも、ジンバブエの未来において、抜本的な解決というのはたぶん存在しないだろうし、混乱からの回復にどのように国際社会が関わるかについて、帝国主義時代の遺産を抱える西欧や大国の思惑があり、見えてこない。日本のほうがこうした問題に関われるチャンスはあるかと思うし、北京側との暗黙の合意を取りつつ汗を流すという選択もありうるだろうとは思う。

|

« マケドニアのこと | トップページ | オムレツと小麦粉についての悩ましい問題 »

コメント

アフリカ戦国時代
日本は利害がないのでいろいろ聞けそう

投稿: double day club | 2008.04.07 10:21

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ジンバブエ大統領選・議会選後、メモ:

« マケドニアのこと | トップページ | オムレツと小麦粉についての悩ましい問題 »