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2008.04.08

アルゼンチン・タンゴ的アルゼンチン

 アルゼンチン情勢はあまり日本の話題ではないが、なんとも微妙な感じがある。いやネットで注目のベンジャミン・フルフォードさんの大著「日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日」(参照)という趣向でもないのだが。
 比較的最近のアルゼンチンを伝えるニュースとしては、エープリルフールネタとして読み過ごしたかたもいるかも知れない読売新聞”輸出税引き上げ反対、農民が道路封鎖…アルゼンチン”(参照)がある。


 AP通信などによると、トラクターなどで封鎖されているのは国内の主要幹線道路400か所以上。流通網の寸断で、数百万トンの穀物が港に到達せず、中国や欧州向けの輸出が滞っている。アルゼンチン国内のスーパーでも、牛肉や鶏肉、イモの供給が不足しているという。地元紙ラナシオンは、デモによる損害額は約23億5000万ペソ(約750億円)に達すると報じた。

 背景は農産物税率の問題だ。

 政府は3月11日、大豆や小麦など4品目の輸出税について、税率を固定制から国際価格に応じた変動制に切り替えた。これにより、大豆の税率が35%から45%に上昇したことから、農業団体が反発。同13日から抗議活動が始まった。

 アルゼンチン政府側がどう見ているかというと、抗議農民の実態は富裕層であり事態はその造反としているようだ。

 昨年12月に就任したクリスティナ・フェルナンデス大統領は当初、「抗議しているのは、最も収益を上げている連中」とデモを批判、交渉に応じない考えを示していた。だが、混乱が長期化するなか、大統領は3月31日、「対話の用意はある」などと述べ、融和策を発表した。

 関連の日本国内報道を見ていて「へえ」と思ったのだが、赤旗はクリスティナ・フェルナンデス大統領の見解を支持しているようだ。”アルゼンチン農業スト/富農・富裕層が“指図”/輸出利益への増税に抵抗/革新政権への攻撃にも利用”(参照)より。

 【メキシコ市=島田峰隆】農産物の輸出税引き上げに反対するアルゼンチンの農業団体による抗議行動は、各団体が一カ月間のスト休止を決めたことで五日までに収束しました。この抗議行動には多くの農民が加わりましたが、最も積極的にあおったのは、輸出で収益を上げる一握りの大土地所有者や富農、都市部の富裕層で、これにたいする労組や社会団体の反発も起きています。

 農民を締め付ける税制を赤旗は支持しているようだ。国家主義的にはそれでまっとうなあり方だからか。赤旗の考えの裏付けは貧富の問題らしい。

 アルゼンチンでは、大土地所有者、富農とその他の中小零細農民の間には規模の点で著しい格差があります。
 たとえば土地の55%を2%の富農が所有。大豆では、わずか20%の生産者が収穫全体の八割を独占し、さらにその20%のうちの2・2%が収穫全体の46%を占めているといいます。
 最近の穀物価格の上昇によって輸出で莫大(ばくだい)な利益を上げているのは、これらの大土地所有者や富農です。今回の抗議行動の背後には、こうした特権層の指図があったといいます。

 ちょっとぼかして書かれているものの、赤旗というか日本共産党はクリスティナ・フェルナンデス大統領の施策を支持している。儲けているやつから国家が搾り取るのは当然ということかな。
 今後はどうなるか。Sao Paulo Shimbun”アルゼンチン農業者ストは30日間の休戦”(参照)によると一息ついたという感じらしい。

 二一日間に及んだ農業者ストは中止になったが、アルゼンチンではインフレ問題で国民の前途期待感がしぼんだ。
 OPSMコンサルタント調べによると、経済の前途楽観は昨年末に五一%だったのが三七%に下がった。悲観は大統領選挙終了の直後に一〇・四%だったのがここに来て二二・二%に上昇した。
 農業者側は、ストは三〇日間の休戦としており、ぶり返すことも考えられる。ストはクリスチーナ大統領に政治的なダメージを与えた。

 数値的にはまだそれほどお先真っ暗感はないようでもある。
 フィナンシャルタイムズの1日付けの冗談のようなタイトルの”Where’s the beef?”(参照)は、赤旗の方向とは違っている。

Workers in the booming soya industry are being laid off. Food shortages have come in the wake of energy cuts for business users, pushing up prices. The private sector has no confidence in this meddling government's inflation statistics. Independent economists say prices rose by about 20 per cent in 2007 and may have increased by as much as 3 per cent last month.
(急成長の大豆産業労働者は解雇されつつある。産業用電力供給不足から食物不足となり、物価が上昇した。民間部門は干渉する政府のインフレ率統計を信じていない。民間のエコノミストには、2007年に20%上昇し、先月だけで3%上昇したと見るものもある。)

 政府統計を民間は信じていないし、対外的な投資もそれでは難しいだろう。フィナンシャルタイムズ的にはどうすべきか。

It is high time Ms Fernandez realised that the interventionist policies introduced after the 2001-02 crisis are no longer appropriate. In the short term, she should negotiate with farmers and be prepared to offer concessions. Windfall taxes are warranted when commodity prices soar but the scale of those imposed on the farm economy makes little sense, especially when the proceeds are in effect financing subsidies.
(フェルナンデス大統領は、2001年から02年の危機後に導入された干渉主義政策がもはや有効ではないと理解する時期に来ている。短期的には、彼女は農民と交渉し、譲歩するべきだろう。棚ぼた式な税収は物価高騰時には支持されるが、農業経済に強制する量として見るとあまり意味がない。特に収益が経営の助成になっているときはそうだ。)

 私が誤解しているかもしれないが、農業部門の成長を阻害するようなことはするなということだろうか。
 フィナンシャルタイムズはいくつか政策提言をして、こうまとめる。

None of this will be easy. But the longer Argentina's problems are allowed to fester the more difficult they will become to resolve. Argentina is still a long way from the meltdowns of the 1980s and early part of this decade. But it is just as far from seizing yet another golden opportunity to turn itself into the prosperous nation it should be.
(どの施策も簡単ではない。アルゼンチン問題の悪化を長引かせればより解決が難しくなる。アルゼンチンは1980年代のメルトダウンから離れこの10年の初期段階にある。とはいえ、もう一つの好機を得て繁栄国にするにはまだ遠い。)

 今なら好調のラインに戻せるかもしれないがこのままではまずい、と。なんだかどっかの国の話のようだし、総じて見るとアルゼンチンは好機を掴むことはたぶんないだろう。案外赤旗の視点も正しいのかもしれないな。
 そういえば、この事態はある意味で、昨年フェルナンデス大統領が就任した10月のワシントンポスト”New President, Old Cycle”(参照)で予想されていた。

For the last century, Argentina has lived by a cycle of economic boom and bust, driven by prices for its agricultural exports, by the fondness of its governments for populist policies and by its resistance to playing by the usual rules of global financial markets.
(農産物輸出の価格、政府の大衆迎合政策、国際市場の常識への拒絶によって、何世紀もの間アルゼンチンは、盛衰を繰り返してきた。)

 まあ、タンゴのメリハリというのは国民性なんだろう。
 エビータ再来のタンゴのお相手が誰かなんていう話題もちょっと書こうかと思ったけど、どうでもいいや。

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コメント

愛は買えない

投稿: double day club | 2008.04.14 07:49

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