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2008.03.23

[書評]さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白(高橋洋一)

 書名にはありがちなブログのエントリみたいな煽りが入っているが、「さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白(高橋洋一)」(参照)は、後代の歴史家が現代の日本を振り返ったとき真っ先に参照される一級の史料となるだろう。そのくらいに貴重な証言資料でもある。

cover
さらば財務省!
官僚すべてを敵にした
男の告白
高橋洋一
 およそ読書人なら必読と思われるのだが、知識人にはいわゆる反小泉の人も多く、まさに小泉政治の懐中にあった高橋洋一の独白には関心をもたないかもしれない。私はいちブロガーとして思うのだが、本書を一番読み込んでおそらく溜息に沈むであろうなと心中を察するのは、Baatarismさん(参照)だ。彼はきっとこの本に対して私より優れた書評を書いてくれるに違いなと念願を込めて、プッシュプッシュプッシュ。
 本書は一般書としてよく編集されているせいか軽くも読める。それでいて、要所要所に「財投改革の経済学」(参照)の裏打ちがある。別の言い方をすれば本書はそうした重たい話の要点が簡単に読めるチートシート的な意味合いもある。大学生はこれを読んでおけば10年後、20年後にいろいろ思うことは出てくるだろう。プッシュプッシュプッシュ。
 一般向けに読みやすく編集され、しかもテクニカルな点はコンサイスにまとまっているのだが、反面、消化不良とまでいわないが書籍としての詰めの甘さのような部分はある。高橋洋一本人が言いづらい部分や、渦中の人としてもう一度文脈に戻して語らせるようなところが抜けている。天才というのは娑婆に疎いなという部分もある(安倍ボクちゃんに期待したんだろうなとか)。そういう点を補うように、インタビューアー的な視点があれば本書の威力はさらに増しただろう。残念なことにその部分の本質は本書の編集からはごそっと抜けていて、同じく講談社「さらば外務省! 私は小泉首相と売国官僚を許さない」(参照)の趣向になってしまった。
 私が高橋洋一に共感を覚えたのは、その明晰な快刀乱麻性もだけど、こんな糞ブログですら郵政選挙のおりは、なんでだよ?っていうくらいバッシングくらったからだ。未だにその余波で私のようなちんけな糞ブロガーまでわけのわかんない攻撃を受けるのだから、高橋洋一の心中察するに余りありすぎ。しかし、彼は明晰にものを見ていたし、特に理系的な人なので解答は出てるじゃん、なぜ?みたく突き抜けていったのだろう。

 人格攻撃もされた。あらぬ誹謗中傷も受けた。だが、恨むまい。すべては新旧の価値観の衝突でしかなかったのだから。

 それはそうだろうが、その価値観の衝突は、糞ブロガーの視野では、「若者を見殺しにする国」(参照)といった不思議な歪みに変形しているようにも思われる。それに関連したかに思える部分も高橋はさらっと見ている。

 もうひとつ加えるならば、マスコミの反体制、反権力のポーズがある。マスコミは人には進歩的知識人と称したがる、左翼主義的な思想を持つ人が多い。体制批判は、現政権に欲求不満を感じる大衆にも受けがいい。そこをうまく役所はついて、自分たちに都合のよい記事を書かせるのである。
 その結果、偏った情報が流され、正常な世論が形成されない。私はこういう状況に置かれている国民は不幸だと思う。

 その不幸がどこまで行き着くのか。ある意味で高橋は楽観視もしている。

私が関わった改革のなかにも、逆戻りするものがあっても不思議ではない。
 しかし、たとえそうなり、抵抗勢力の復権がなかったとしても、今度は日本が沈む。どっちみち、待っているのは改革の続行か、国際的な日本の地位の低下で、抵抗勢力が喜ぶような事態にはならない。

 日本がもう少し沈んで目を覚ますまで無理なんだろう。

 しかし、国民が構造改革などしなくていい、われわれのプランは要らないというなら、それが民主主義というものなので、自分がやってきたことが無駄になっても、それは仕方がないことだと思っている。

 まさに、民主主義というのはそういうものだ。
 話を郵政問題に戻すと、本書でいろいろそれなりの裏がわかって面白かった。あえて書かれていないなと思われることもあった。
 特段に意外ではないのだが、へえと思ったのは、高橋には郵政民営化はごく当たり前のことにとらえれていた点だった。橋本内閣時の財投改革からそれは必然の含みがあると彼は理解していた。

 普通なら受け入れられない、預託の放棄などという案が理解を得たベースには、危機感があった。大蔵省が生き残れるのか、権限を残すのか、どちらを取るかという究極の選択になれば、誰だって前者を取ろうとなる。
 私は上の人たちから「財投債を受け入れれば、大蔵省は、それで本当に生きていけるのか」と何度も念を押された。「ええ生きていけますよ。ただ、今のままでは、金利リスク・シミュレーションをしてみると財投は潰れるのです」――私が諄々と説明すると、最終的には反対できないようだった。
 結果、財投債導入に面と向かって異議を唱える人はいなくなり、財投改革に幹部のあらかたが合意した。今もって、あのとき権限を放棄したのは許せないと私を恨んでいる財務官僚もいるのだろうが、大蔵省は生き残る道として自ら財投改革を選択したのだった。

 これに郵政が賛同した。郵政にしてみると自分たちが集めたカネを大蔵省に持って行かれるくびきから解放されたと思ったのだった。放棄された預託の自主運営は郵貯百年の悲願だった。郵貯の会合で高橋はヒーローとなる。

「この高橋さんが、郵貯百年の悲願を達成してくれた方です!」
 その途端、会場には拍手が沸き起こり、冷や汗をかく思いだった。私は郵貯の悲願を叶えるために、財投債を考え出したわけではない。たんに大蔵省が生き延びる手立てとして選択したに過ぎないのだ。
 しかも、郵政省にとっては郵貯は茨の道への一里塚で、その先に待っているのは、彼らが思い描くようなバラ色の未来ではなかった。自主運用に切り替われば、郵政は民営化せざるを得なくなるからだ。それは、なぜか?

 高橋はこう説明する。ある意味でごくあたりまえのことだ。経済頓馬な私ですら理解できる。あるいは私が理解できるレベルだから違うのかもしれないが。

 郵政公社は、公的性格ゆえに原則として国債しか運用できない決まりになっていた。国債は金融商品の中では、最も金利が低い。したがって、国債以外の運用手段を与え、リスクを多少とらせるようにしないと、経営が成り立たない。
 にもかかわらず、経営ができたのは、財投が郵貯から預託を受けるときに、通常より割高金利を払って「ミルク補給」をしてきたからだ。
 といっても、大蔵省が身銭を切っていたわけではなく、注ぎ込まれていたのは特殊法人から吸い上げたカネである。
 特殊法人は財投を借り入れて、高い金利を支払い、財投は特殊法人から吸い上げたカネを郵貯に補給するという仕組みだった。しかし、特殊法人には多額の税金が投入されるので、結果的には、税金が補填に使われていたことになる。
 したがって、預託で結ばれていた郵貯と大蔵省資金運用部では、それぞれの破綻は相手の破綻に直結する。こうして大蔵省が決断したのが財投改革だった。

 そこまでは橋本行革の時代。その構図が壊れるなら、郵貯は市場に出て国債以外の金融商品を運用しなくてはならなくなる。重要なのはそこの必然的に伴うリスクがあることであり、リスクには経営責任が問われる。だから、民営化が必然になるというロジックだ。
 このロジックだが、郵政騒ぎのことを回顧すると、いろいろ異論もあるのだろうな。
 この他、高橋が提起した問題を理詰めで考えていくと日本の未来は暗澹たるものになるが、民主主義の問題は最終的には国民が決断して選べばいいことだ。そのとき、高橋洋一がまた仕事をしてくれるといいなと私は思う。
 本書では各種興味深い話や、今後日本を襲うだろう問題の指摘もある。エントリを書くとき、あのエピソード、このエピソードとマークしておいたが、エントリはこのあたりでやめておこう。やはりこれはみなさんが読まれるべき本だろう。

追記
 Baatarismさん、ありがとう。「書評:さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白(高橋 洋一 著) - Baatarismの溜息通信」(参照)。
 大きなくくりで、私より批評精神が光っていると思いました。

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コメント

その本は買ったけど、まだ読んでないです。これからじっくり読む予定でした。

最近、読んでいたのはこっちの本ですが、これもfinalventさんにぜひ読んで欲しいですね。中国の漫画・アニメ事情だけではなく、昨年の米議会の「従軍慰安婦決議」の真相も分かりますよ。

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす (遠藤 誉 著)
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%8B%95%E6%BC%AB%E6%96%B0%E4%BA%BA%E9%A1%9E-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E3%81%A8%E6%BC%AB%E7%94%BB%E3%81%8C%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%82%92%E5%8B%95%E3%81%8B%E3%81%99-NB-Online-book/dp/4822246272

高橋洋一氏の本についても、良い書評が書けるかは分かりませんが、じっくり読み込んでみたいと思います。

投稿: Baatarism | 2008.03.23 13:17

橋本内閣当時に理財局をどうするかという絵が描かれたという話を近い筋から聞きました。たしか、省庁再編はそれとセットだったとか。実際の絵を描いたのがこの方だったのですね。

投稿: とおりすがり | 2008.03.23 18:53

昨年の諸君!12月号で、20ページのロングインタビューが掲載されてましたね。道路公団問題の時、猪瀬直樹の隠れブレーンだったそうですが。

投稿: Gryphon | 2008.03.25 07:13

幕末に時代は日本の辺境から異色の人材を輩出させて明治維新をもたらした。
21世紀の今、霞ヶ関モデルが人口ピラミッドの崩壊ととともに崩壊する正に今日、高橋洋一氏を時代が差し向けたとしか思えない。
そういう意味では、橋下大阪府知事、東国原宮崎県知事らも時代の寵児なのだろう。
これから時代が見せてくれるであろう物語が楽しみだ。

投稿: 恩田川 鴨次郎 | 2008.07.24 16:05

私もこの本買った。ぎょぎょこれは面白そうだ、勇気あつて凄い人と思ったからです。まだ少ししか読んでないです。「官僚すべてを敵にまわした男」(高橋洋一氏)こういう人、大好きです!!昔からこうゆう人が出てくるの願っていたから、応援します。じっくり読んでコメントしたいです。
そして橋下大阪府知事、東国原宮崎県知事みたいな、政治家がもっともっと出てきてほしい。必要な事や不必要な事の的確な判断が出来、潔い思い切った行動ができる人物が沢山登場してほしい。
私は政治に興味がなかったけど最近向くように成って来た。期待して楽しみにしています。

投稿: TruthLove | 2008.09.07 16:14

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さらば財務省!―官僚すべてを敵にした男の告白 作者: 高橋洋一 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2008/03 メディア: 単行本 この本の著者の高橋洋一氏は、小泉政権から安倍政権にかけて行われた様々な改革の設計者であり、同時に日銀の金融政策を鋭く批判するリフレ派として... [続きを読む]

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