[書評]魅せる会話(エドワード・デボノ)
私が中学生のころ水平思考が話題になった。当時ブルーバックス読み少年でもあり、「水平思考の世界 電算機械時代の創造的思考法」(参照)も読んだ。あのブルーバックスは実家の書架にあるか整理してしまったか。アマゾンの古書を見ると一万円近いプレミアムがついている。
魅せる会話 あなたのまわりに 人が集まる話し方 エドワード・デ・ボノ |
本書「魅せる会話(エドワード・デボノ)」だが、オリジナルは2004年の「How to Have a Beautiful Mind」(参照)で、同年にペーパーバックが出て現在でも継続して読まれているようだ。ある意味でこの時点までのデボノ哲学の集大成になっているので、昔水平思考関連でデボノ思想に関心を持ったかたにとっては便覧的な意味合いもある。
オリジナルタイトルを直訳すると、「美しいマインドの持ち方」となるが、意外とこのマインドの語感が難しい。ブザンのマインドマップに近い意味合いがあり、日本語でいう「心」というより、頭脳や脳機能の含みがある。日本語の語感に接近させると「エレガントな脳の使い方」となるだろう。この点は帯の説明がわかりやすい。
刺激的で心が躍る楽しい会話は「ビューティフル・マインド」の発露です。
この「美しい心」は、本書の思考技術をマスターすることで養われます。
相手に魅力的と思われる人になるためには、高いIQや学歴など必要ありませんし、人格者である必要もありません。
ただ、想像力と創造力を広げればいいのです。
本書では「会話」において、どうすればそれができるのか、その秘密とテクニックをじっくりお教えします。
実際の内容は、邦題のように会話術が中心になっている。この会話術なのだが、なかなか日本の類書の会話術とは違っている。私は、これは一種、インタビュー術と言っていいかと思う。先月「極東ブログ: [書評]奪われた記憶(ジョナサン・コット)」(参照)など、コット関連の本で三冊エントリを書いたが、インタビューの名手コットのような話を膨らませる問い掛けや会話術の、もっとも基礎的な部分が、このデボノの書籍に書かれている。くどいけど、本書は英米雑誌で読む切れのいいインタビューアのチートシート(虎の巻)にもなっている。
実際、本書では各章末に箇条書きで、チートシート的に要点がまとまっているので、一読された後は、このまとめを読み、理解できてない部分の本文を読み返すというふうに、絶えず便覧的に利用されるといいと思う。昨今はやりのライフハック的なネタは満載という趣もある。
目次も簡単に紹介しておこう。各章がそれぞれ1冊の本になるくらいの深みがある。
1 同意の仕方
2 反対意見の述べ方
3 異なる意見の述べ方
4 関心をもつ方法
5 返答の仕方
6 話の聞き方
7 質問
8 パラレル・シンキング―六つの帽子
9 コンセプト
10 代替案
11 感情
12 価値
13 話題の転換と脱線
14 情報と知識
15 意見
16 話の中断
17 態度
18 会話の始め方と話題の選び方
ただ率直に言うと、私としては本書は読みづらい本だった。というのは、簡単に読めるし理解もできるのだが、身につかないことが実感されるからだ。本書は、この「美しいマインド」を習得し、実践できるようにならないと意味がない。デボノは優しくそこに留意するようにもしている。
本書は成功法を説いた、一時間もあれば読めるようなお手軽な自己啓発書ではありません。何度も読み返すことができるものです。はじめてテニスの試合を見た人は、そのときはテニスを「理解した」と考えるかもしれません。しかし、テニスがどういうものかを理解することと、実際にテニスをすることとは、まったく別のことです。あなたは本書で説明した技術を練習し、身につけなくてはなりません。会話をしている最中に自分や相手を観察しながら、本書で読んだことと結びつけてみてください。こうしてあなたは本書の技術を身につけ、美しい心に磨きをかけていくのです。
これまでの思考法や会話術では、「論争」や人の間違いを証明することに自然と重点が置かれてきました。その光景はかなり醜いものに見えます。戦争は悲惨なだけですし、人を支配しようとするエゴも醜いものです。
忘れていけない大切なことは、本書で取り上げたことは、思考の「技術」であるということです。この技術には、高い知能指数も、高い学歴も無用です。知識も必要ではありません。しかし、この技術を利用さえすれば、どんな人でも心を美しくしていくことができるのです。
くどいけど、日本語の語感の「美しい心」は倫理的ないし宗教的な含みを持つが、デボノの場合は均整や調和の美だ。だが、そのリザルトとして日本的な美しい心が生まれてくるだろうとは思う。
かく書きながら自分がネットの上でそれが実践できたかというと心もとない。それゆえにこそ、私はこの便覧を時たま繰り返し読み、そのたびに、ごく普通に理解していたことの深みを知ることになる。
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