中国人のわかりづらさという雑談
中国人といっても実際はかなり多様なので「中国人の考えかたはこうだ」というのは単につまらない偏見だったりする。それでも日本人側から見ていると、誤解というか理解至らずの齟齬が繰り返され、「ああ、またか」と思うことはある。たいした話ではないので、これも雑談的に書くだけにしたい。
まず例の中国毒入り餃子事件だが、李小牧が書いた、ニューズウィーク日本版3・26のコラム「日中ギョーザ紛争は歌舞伎潮流で解決せよ」が面白かった。日本人の中国人誤解の一つのパターンだと彼は見ている。日本の警察が言うように袋の外側から殺虫剤が染みこむことはないだろうとして、こう続ける。
たとえそうだとしても、それを日本側が最初から大きな声で言ってしまっては、中国の立場がなくなるではないか。
今回の事件には、解決できるチャンスがあった。発覚直後の2月始め、中国の調査団が来日した。わざわざ調査団を日本に送ったということは、中国当局がその段階で、自分たちの責任を認識したことの何よりの表れ。自分たちが悪いと思わないのに、よその国に説明に行くなどということを、中国人はまずしない。
中国人の要人がどのように外国を訪問するかというのは、そこで言われている以上にシンボリックが意味があるものなので、この件では、李小牧の見方は正しいかもしれない。しいて異論をいうと、こんなことで商売のお客を逃したくない必死感もあったかもしれない。
しかし日本側は、被害者意識から中国混入説を繰り返し、中国側を逆ギレさせてしまった。歌舞伎町滞在20年の経験から見て、日本人はケンカがうまくないと思う。交渉なんてできないと言っていい。
この先、李小牧は「毒とつき合って広がる世界だってある」と言うのだが、率直に言うとそういう世界と付き合いたいと思う日本人は少ないだろう。が、冷静に考えるとそういう世界と付き合う以外に日本人が生きていく道はないのだから、結果李小牧のように考えるべきだったかと思う。
ただ、最近世相のヒステリーを見て思うのだが、被害者になったらすべて正義の御旗になってしまう。たしかに被害者自身には正義はあるのだけど、直接的に関係していない被害サポーターが多過ぎる。社会構造的に見れば、加害のポジションなのに心情被害のサポートをして迎合的に加害者糾弾することで自身が正義にならないといられないような言説が多くなったように思える。
この中国毒入り餃子事件だが、チベット報道についての背景もあるのだろうが、胡錦濤政権側はそれなりの配慮の動きをしているようだ。些細な事例でもあるのだが、毎日新聞記事”潮流:不信解く思いやりの心=中国総局長・堀信一郎”(参照)などもよい視点だろう。
例えば、15日に北京で開かれた「日中青少年友好交流年」の開幕式だ。北京では全国人民代表大会(全人代)が開催中で、通常、全人代の期間中は海外からの要人を受け入れない。共産党トップが、全人代以外の行事に出席することはない。だが、胡錦濤主席は「新日中友好21世紀委員会」の小林陽太郎座長らと会談し、「日中の戦略的互恵関係をさらに完全なものにしたい」と述べた。
こういう些細な人脈を中国人はけっこうくじけずに積み上げていくし、日本人もそれに応えてきたものだが、時代は少しずつ変わる。
同記事では次のように結ぶのだが、多少迎合的な記述になり、その分、日本側で反発を買うのかもしれない。
ギョーザ事件は真相が解明されていないが、中国公安省の幹部によると、捜査協力過程で日本の警察当局にメンツをつぶされたという。日本側も中国公安省への信頼が揺らいでいると聞く。今後も協力して捜査を進めるという点では日中両国は一致しており、決定的な対立は避けられると思う。ただ、胡主席訪日の準備を進める外務省にとっても「ギョーザ事件をきっかけに日中間の雰囲気を悪くしたのは日本ではない。中国だ」というのがホンネであり、救いようがない。こんな時は、相手を思いやり、誤解を一つ一つ解いていくしかない。
ざっくばらんに言えば、対国家の問題というより、中国内の中央政府と地方政府の経済的な対立がある。中国人は日本人がそれとなく中国人の実利を導けば、日本人を甘いな愚かだなと思いつつも、それなりに応答は続く。応答があれば交流があり、改善がある。
李小牧はこうした対立で中国人の面子を重視する。たしかに面子ということもあるが、面子はなんのためにあるかというと、中国人集団の中の機能だ。特に対外的な問題が絡むと外部から面子を潰されるのは、内部的には死活問題になりかねない。
また史学者岡田英弘は「妻も敵なり」(参照・リメーク「この厄介な国、中国」・参照)の引用になるが、中国人社会ではこういう力学が働く。
中国人というのは、あれだけ内部で抗争を繰り広げているのに、外部からの声には意外に弱い。というより、内部の声だけでは収拾が付かないので、外部の手助けを求めているというのが、実態に近いかもしれない。
中国人の面白いのは、中国人だけの学会や会議であっても、必ず一人は外国人を出席させる。それはなぜかといえば、中国人だけで話し合っていては、みんなが自分の利害に従って勝手な主張を始めるため、会議の席順一つ決まらないからである。
そうした外部が内部に介在するような面子を潰したら、それは必死にならざるを得ない。
そしてこの面子なのだが、日本人というか日本的ヤクザの面子とは少し違い、やはり言葉が重要になる。
中国毒入り餃子事件でいうなら、「中国側で毒を入れた」とは絶対に言えない。というかそれがこのゲームのルールなんで、そこを日本側はどう考えるかということから対応しないとどうにも進まない。あるいは、日本式解決、忘れたころにうやむや。もう誰も環境ホルモンとかBSE問題とか関心もってないし、韓国を含めてアジア諸国がグローバルスタンダードな牛肉輸入をしているのにそれはもうニュースでもない。
![]() この厄介な国、中国 岡田英弘 |
こういう世界では、言わせるための虐待がまたゲームになるし、ここが面白いというと不謹慎なのだが、言わない限り何も決まらない。するとどうなるか。虐待が細分化し巧妙化し技術進歩を遂げてしまう。日本や欧米の考えでは、虐待には情報的な目的が先行し人命などはその下位になるから、つい虐殺してしまう。ところが中国の場合、言葉が出ない内に虐殺をすると「あいつはまずいことを言うやつを始末したな、なぜか」ということになり、虐殺者のポジションが落ちる。
日本人だと虐殺的な状況に追い込まれると、心情の原理が働き、相手に対して親近感が出れば迎合してげろげろしゃべってしまうし(それで仲間が虐殺されるとも思わない)、自分の組織への一体感があれば死んでもしゃべらない。つまり、誰がその自己を既定するかという他者の問題に還元される。
この手の中国的虐待の仕組みは、中国人ならたいていは心得ているし、チベット人も心得ているので、中国人はなんとか、語らせようとする。そして語ったら、終わりになる。逆に語らなければ、死ぬまで虐待が続くし、要人なら穏和に続く。趙紫陽はかくして天命を全うしてしまったし、残された言葉があろうものなら、大変なことになる。
というあたりで、ぼんやり趙紫陽を思った。1989年のチベット弾圧では胡錦濤が先陣を切った。が、そもそもチベットに胡錦濤を派遣したのは趙紫陽だった。趙紫陽としては、これまで軍部の対応より、文官の胡錦濤のほうがチベットを宥和(実際には併合)させるだろうという期待があったのあろう。だがそうはならなかった。それから天安門事件が起きて、趙紫陽は表面から消えた。
胡錦濤を見ていると、この人何を考えているのかまるで読めない。でも、些細な行動を見ていると趙紫陽のことを忘れているふうでもない。そこまでくると、中国人というのは皆目わからないなと思う。
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コメント
外交当局者や政府関係者、ビジネスマンならともかく、一般の国民に「中国人の考え方を理解せよ」と言っても、それは無理なんでしょうね。逆に一般の中国人に「日本人の考え方を理解せよ」と言っても、それも無理でしょう。
あと欧米でも、チベット問題で一般の国民に「中国人の考え方を理解せよ」と言っても、やはり無理だと思います。
というわけで、国民の声が容易に他国に伝わる現代では、相手の国の考え方に合わせて対応するというのは、どんどん難しくなっていくのでしょう。
投稿: Baatarism | 2008.03.27 13:17
s/わかりずらい/わかりづらい/
ですね。
「わかりづらい」=「わかる」+「辛い」
投稿: あらあらうふふ | 2008.03.27 15:02
あらあらうふふさん、ご指摘ありがとうございました。表題訂正しました。
投稿: finalvent | 2008.03.27 16:13
中国の分かりづらさってここ数年の経済環境の変化によるところも多いような気がします。たとえば年配の人と若い人では全く考え方が違う。
中国政府も人々の意識に関してはまたひとつにまとめる必要を感じているようで、そういうキャンペーンも実施しているそうです。具体的にどんなキャンペーンなのかはよく分かりませんが。
つまり、中の人すらよくわからんものを外からわかろうとするのもなかなか難しいことだなと。そう考える今日この頃。
投稿: 赤枕十庵 | 2008.03.27 17:11
ケチをつけるつもりは全くないんですけれど。
>一般の国民に「中国人の考え方を理解せよ」と言っても、それは無理なんでしょうね。
無理に決まっていますが、しかし理解しようとする努力は必要なのも間違いないのではないでしょうか。しかも、日本は、衰えたと言ってもやはり欧米よりは中国を受容してきた歴史があって、それだけ中国理解は容易なはず。それでもやっぱり無理なのでしょうが、無理だと言って諦めたら終わってしまうように思います。
>ただ、最近世相のヒステリーを見て思うのだが、被害者になったらすべて正義の御旗になってしまう。
こういうことの背景がただマスメディアの影響だけだとも思えないので、自分なりに考えはしてもはっきりするところまでは分からない。それよりも怖いのは、「被害者になったら正義の御旗」だから自分たちが正しいに決まっているのに、その正しさが世界に(あるいは現実に)反映しないとなるとそれだけストレスがたまる。そういうことが繰り返されるうちに、プッツンしたらどうなるか。しかも、「被害者」認識が全く事実誤認で正義が成立しない場面でプッツンした時どうなるか。こういうことを一体何度繰り返せば気が済むのでしょうか。
投稿: 由良 | 2008.03.27 23:05
何でいつもいつも日本が相手を理解しろなんだろうね。
もううんざりです。
投稿: | 2008.03.28 01:15
常に原材料まで選べるわけではないですし
輸入食品が危険であるというのが
今回の被害者だけの問題ではないのでは?
食品以外でしたらまた反応も違うと思うのですが
投稿: | 2008.03.28 04:18
日本の外交の弱さは
そうやって相手を理解して相手の土俵に引きずり込まれるところにあります。
だからこそ、中国のような国を相手にするときは
相手のメンツが潰れようが、それによって相手が失脚し処刑されようが
徹底的にこちらのルールを押しつけるのが正解だと思います。
中国もアメリカ相手にはアメリカのルールに渋々従っています。
日本の企業も中国で日本のルールを通しています
日本の外交もそうするべきです
投稿: | 2008.03.28 10:02
すいません、せっかくだから書かしてもらいますが。
そもそも、中国や米国と日本が対等に渡り合えるはずがない。国土面積・人口が圧倒的に違いすぎる。武器となるはずの経済力も今後は低下するだろう。これで中国米国と対等に渡りあえると考える方が無茶じゃないですか。であるならば、日本は日本なりにうまく立ち回って実利をとる喧嘩をしたほうがよほどいい。それができないから日本人は困る。
何で日本ばっかり理解しなきゃならないんだとすねるんなら、異文化を理解することができない中国人はバカなのだと笑えばいいのです。もっとも、日本の政治家も官僚も、そこまで考えたうえで実利を取ろうとしているとも思えないからフラストレーションがたまるんですけど。
投稿: 由良 | 2008.03.28 11:53
確かに面子を守るというかしっかり持ち上げてやると、それ以上の実利があるというのが実感です。ある意味朝貢みたいなの。それが通用しない勘違いさんや悪いの、あるいは潔癖症もいますが。
程々に持ち上げる分はタダ同然なのに、何でここでタテマエを使える奴が少ないんでしょう。掌の上に乗せないと転がしようもない。
投稿: | 2008.03.28 12:49
「中国人は他国文化を理解できないアホだから、日本人はアホの子にも分かるよう、中国のルールに則って諭してあげなきゃならない」?
投稿: | 2008.03.28 13:35
>中国人といっても実際はかなり多様なので「中国人の考えかたはこうだ」
>というのは単につまらない偏見だったりする。
finalventが「日本人は」というのが将にそれだろう。
正直、中国側の事情なんて聞き飽きた。いくら聞いても、
「そちらも大変ですねえ。それで?」としか思わん。
で、finalventは俺の面子を尊重して折れてくれんの?
投稿: | 2008.03.28 14:44
>もう誰も環境ホルモンとかBSE問題とか関心もってないし
いや、忘れてないですよ。
「もうそんな物買わない!」なんて宣言してから実行してないだけで。
静かにキレてるひと思ってらっしゃるよりおおいんじゃないかなと。
投稿: | 2008.03.28 15:44
面子ありきの交渉術って、深夜やってるテレビ番組であるところの「ラブちぇん」見てたらよく分かるでしょ。旦那さんがガテン系か、奥さんが元ヤンキー・鬼嫁系だったりするときの放映を見てれば、あー…そーゆー系統の会話なのね…くらいは判ると言うか。
まぁ要するに中国は「そっち系のセンスが未だ堂々と主力」ってだけのことで。日本で偉くなったり賢くなったりする類の人々は、そーゆー輩とは子供の頃から距離を置いてるし内心軽蔑してるもんでしょ。それが我慢できなくて、ついポロッと本音をこぼしちゃうから「交渉下手」なんだと思いますよ。
一般の日本人って、どちらかというと清楚可憐なお嬢様系の思考回路を尊ぶところがありますから(拘泥する人も多いから)、中国を理解しろ仲良くしろってのは…生理的に無理って人も多いんじゃないかと。
とりあえず田舎の飯場にホームステイすべしって感じ。今どき飯場も随分洗練されてるんでしょうけど。
投稿: 野ぐそ | 2008.03.28 19:00
馬鹿の子に「お前馬鹿だね」って言ったら怒るんよ。普通に。「こうすればもっと良くなるかもよ?」とか言ったら差し出がましいって思われるんよ。「こーゆー意見もあるんだけどなー」って言ったら無視されるんよ。
それとなく手を回して段取りもお膳立ても済ませて、後は馬鹿でも見たら閃くだろう? ってくらいへりくだって、ささ、どーぞって進呈して「おっ、お前中々気が利くねぇ」とか言わしめて始めて交渉なんですな。口先で上手いこと言って感動させたら動くでしょ? みたいな安易(?)な手口は絶対通用しなくて、本当のこととか真実とか事実とか最初にぺロっと洩らしちゃったら絶対捻じ曲げに来るから。
俺様主義のヤツって、兎に角自分で考え付いて「俺様が発案したんだけどな? どうよ?」って言わしめるとこまで話持ってかないと駄目でしょ。人に何か言われてあーそーかいって、絶対言うわけ無いから。
茶坊主になりさえすれば、それで十分なんですな。考えようによっては、これほど御しやすい馬鹿も居ないっちゅーか。そんな感じ。
投稿: 野ぐそ | 2008.03.28 19:14
でも昨今の日本の人々は素で殿様感覚だし面倒くさいの嫌いだし先回りして下準備みたいな下男下女の真似なんか先ずしなくて、むしろお前やっといてよ志向が強そうだから、中国様の相手するのは難しいんじゃないですかね?
エリート教育? で偉くなっちゃう馬鹿が多いから、就職して現場逝って「夜討ち朝駆け当たり前なんですけど泥田で転げ回るのが普通なんですけど何か?」とか言われたら幻滅して辞めちゃうでしょ。そんで勝手に引き篭もって世間に文句垂れるでしょ。今なんか国ぐるみでそーゆースタイルになっちゃってるから、今後どうなんだか知りませんけど、今どき若者世代の風潮見る限り日本の交渉術(←笑)は進歩してないなぁって感じじゃないですかね? 刻苦勤労が当たり前だった昔世代の方が、少なくとも対中国交渉だけは上手そうな気がしますけどね。気だけですが。
投稿: 野ぐそ | 2008.03.28 19:24
誰が悪くて、誰が加害したのか。
文化とか面子とかの前にそれではないでしょうか。
きっと官僚のほうでは中国の文化を理解して何かをしているでしょう。
大衆には実利だなんだという前に、まず中国側が何か一言あっていいはず。それで解決すると。
投稿: kata | 2008.03.28 23:45
野ぐそのくせに、いいコメントじゃないの。とだけ言いたくて、コメントするよ。
投稿: | 2008.03.29 11:05
↑そーゆー要らんことは緑小屋で言うとけハゲ。
投稿: 野ぐそ | 2008.03.29 13:22
中国と関わって10年の私が通りかかりましたよ。すごく良い認識だと思います。中国人にとって「面子」はすごい大事です。そこが分からないと中国で何やってもうまくいきません。brics株がどうだとか言ってる割にはその辺見えてないのですかねぇ。餃子事件でも日本はポイント上げる良い場面だったんですがねぇ。チベットに関しては服だくんはうまくやってると思います。あと中国(大陸)と台湾、香港、シンガポール、あと東南アジアの華僑、カナダ移民組なんかは分けて考えたほうが良いと思います。微妙に違うので。
投稿: nitian | 2008.03.30 20:28
相手の非が、日本人の交渉下手にいつのまにかスライドする理論は日本では人気ありますね。日本人は反省好きな国民ですね。だから強いのかもしれない。
投稿: double | 2008.03.30 21:57
>>doubleさん
日本人に人気があるんじゃなくて、そう言う事がインテリだと勘違いしている人がいるだけなのではないかと。
或いは成りすまして誘導したい人とか。
「拉致解決の為にこそ国交正常化と謝罪と賠償を!」と叫ぶ国籍不明な人とかね。
中国人の文化を理解したら、日本人の少女は死んでいたでしょうね。
これで中国人が譲歩していたというのなら、自分の中国人観はかなりネガティブなものになります。
投稿: 通りすがり | 2008.04.08 02:19