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2008.03.15

[書評]自分の小さな「箱」から脱出する方法(アービンジャー・インスティチュート)

 当初勘違いで、別の小冊子、日本のアービンジャー・インスティチュート・ジャパン監修の編集書「実践 自分の小さな「箱」から脱出する方法」(参照)を購入した。ついでなのでこのパンフレットみたいな書籍に目を通したのだが皆目わけがわからず、結局編集元になる本書、「自分の小さな「箱」から脱出する方法(アービンジャー・インスティチュート)」(参照)を読んだ。2006年に出版された邦訳である。こちらはわかりやすかった。小説仕立てになっていて、よく読むと微妙な心理の動きや伏線などもある。

cover
自分の小さな「箱」から
脱出する方法
 結論から言うと、当初かなり違和感があった(そのために勘違いした)が、本書は良書であると思った。人によってはかなりインパクトを受けるだろう。私も率直なところかなりインパクトを受けた。
 最初に、ネガティブな批判に聞こえるかもしれなが、同書についての違和感をまとめておきたい。
 オリジナルは2002年に出版されたベストセラー「Leadership and Self-Deception: Getting Out of the Box」(参照)で、表題からもわかるように「リーダシップと自己欺瞞」、つまり企業や団体のリーダシップ論が結果的に主要テーマになっている。
 副題は「ボックスから抜け出すこと」ということで、邦訳ではリーダーシップ論よりも、こちらの個人的な人間関係を強調している。また邦訳の「小さい箱」といった「小さい」のニュアンスはオリジナルには含まれていない。日本語の言い回しである「自分の殻」とか「井の中の蛙」といった連想から、日本のマーケットに向けて「小さな箱」という表現が考案されたのだろう。翻訳の質については、ストーリーにあまり関連の秘書の名前などが無断で省略されているものの、それほど強い意訳ではないようだ。
 邦訳書としては別途、2001年に文春ネスコから「箱 Getting Out Of The Box(ジ・アービンガー・インスティチュート)」(参照)が出版されている。英語のオリジナルが2002年の出版ようなので経緯によくわからない点があるが、訳者は同じなのでネスコから大和書房に翻訳権が譲渡され、復刻されたのだろう。
 復刻の由来について、日本のアービンジャー・インスティチュート・ジャパンが関わっているようすが、まぐまぐ”箱「成功してきた私の問題点」たったひとつの問題解決法”(参照)から伺える。

読者の皆さんこんにちは! ご登録いただきホントにありがとうございます。筆者の陶山浩徳と申します。
 【自分の小さな「箱」から脱出する方法】の著者アービンジャー・インスティチュートの日本代表を務めています。
 この本は2001年に「箱」というタイトルで文春ネスコより出版されていましたがその後、絶版状態で手に入らなくなりました。出版前にはアマゾンの中古本価格で1万円を超えて販売されていた希少本です。
 その本が、監修はビジネスプロデューサーの金森重樹さん、イラストは「大人たばこ養成講座」(JTの広告)を手がけた寄藤文平さん、そして「ユダヤ人大富豪の教え」の著者本田健さんまでも編集に関わっていただき
【自分の小さな「箱」から脱出する方法】と生まれ変わって大和書房さんより10月に発売になりました。

 陶山代表については、”ノビテク やれる気の達人たち アービンジャー・インスティチュート・ジャパン株式会社 代表取締役 陶山浩徳 氏”(参照)に自己紹介がある。

Q.今までの経歴を教えてください
工業系の大学を最低の成績で卒業後、大手自動車メーカーの販売店に就職しました。整備士として2年ほど働きましたが、もっと世間を知る事ができる仕事がしたくて上司に相談したところ、営業を薦められ、営業に異動したのです。高級車を売ることで、企業の社長と接する機会ができました。2年間営業をし、そこそこの成績を収めることができたことで調子に乗った私は、その後独立して仲間4人で魚や新鮮野菜を販売する商売を始めました。しかし、仲間割れの大失敗です。その後、生活のため仕方なく再就職した先は、農協関連の食品メーカーで農協の婦人部の方へ漬物の漬け方の講習会をして商品を買ってもらう仕事でした。その後、独立を考えているならと義理の父が経営する会社に誘われて勤めることになりました。(後略)


何のために仕事をしているのか、誰のために仕事をしているのか、自暴自棄に陥って行きました。いやでした。全てが。そんな時に、ある知人から「箱」の本を紹介してもらったのです。出版社に問い合わせたところ絶版になっていたのですが、インターネットの中古本販売でなんとか購入できました。現在販売している緑色の本「自分の小さな箱から脱出する方法」の前身です。早速読んでみると、まさに目からウロコの連続でした。人の気持ち、自分の気持ちが手に取るようにわかりました。そこにはまさに自分のことが書かれていたのです。

 陶山氏は本書との出会いが人生の転機となったということで、その出会いを準備する人生経験もされていたということなのだろう。
 私が本書になぜ違和感をもっていたかだが、以下の米アマゾン読者評(参照)のような関連事実をあらかじめ知っていたからだった。

Mormon connection (almost) ruined it for me, May 27, 2002
By A Customer

My boss bought a number of copies of this book to distribute among management, and I found the ideas it espoused quite helpful, although the sixth-grade reading level it's written at can be a bit trying at times. The idea that perceiving those you deal with in your daily life as people rather than objects can help you to be more effective is very valid.
(私の上司が本書を経営陣に配布するために多数もってきた。小学生でも読めることになっているが多少読みづらかったものの、私は同書の考え方は役立つと支持した。日常生活の関わる対象を物として捉えるのではなく人々として捉えることでより自分がより効率的になるという考え方は確かだ。)

Dr. C. Terry Warner, founder of the Arbinger Institute, as well as the Institute itself, are closely linked with BYU and the Mormon community, and when I discovered this after reading the book, it put something of a bad taste in my mouth; I wondered if this was a bonafide business book or simply soft-sell PR for the LDS groups. Simply substitute "in the box" and "out of the box" for "saved" and "sinner" and you have an entirely different book.
(アービンジャー研究所を創立したテリー・ウォーナー博士と、その研究所も同様に、ブリガムヤング大学とモルモン教徒コミュニティに強いつながりももっている。私が本書を読み終えてからそれを知ったとき、口のなかに何か嫌な後味のようなものが残った。この本は、善良な書籍といえるのか、それとも単に末日聖徒イエス・キリスト教会用の口当たりよい広告なのか疑問に思った。「箱の中にいる」や「箱から出る」というのは、「救済」や「キリスト教的罪意識の人」と単純に置き換えてみると、この本はまったく別のものになる。)

Since the book espouses approaches that aren't tied to any specific religion, and since the points it makes are very valid, I'd recommend taking a peek despite the BYU / LDS link.
(この本は特定宗教と結びつかない手法を支持している。そしてこの本の指摘が確実なものなのだから、ブリガムヤング大学やモルモン教徒コミュニティを別にして覗き見しておくことをお勧めしたい。)


 率直なところ、本書を読みながらモルモンの教義のようなものが潜んでいるか、コミュニティ勧誘的な要素が含まれているかについて、警戒しつつかなり構えて読むことになった。読後、そうした懸念はどうかなのだが、完全にクリアとはいかないまでも、この本はこの本で閉じて良書であると思うし、自分自身人生観に修正すべき点を得た。
 内容に立ち入ると、邦題で強調されている「箱」とは何かということがまずポイントになる。これは、おそらく日本語でいう「自分の殻に篭もって」の連想を受けやすいだろうが、箱に入った状態とはそういうことではなく、他者を物として見ている状態を指す。そして箱から出た状態は他者を人として見る状態を指す。もちろん、そうとだけ言ってしまえばそんなことはわかりきったことのようにも思われるが、本書は小説仕立ててで、その微妙な部分を執拗に描いている。
 私は読みながら、これはマルチン・ブーバーの哲学の亜流ではないかと想像が付いた。実際、本書の後半でブーバーの言及は出てくるし、本書の続刊「2日で人生が変わる「箱」の法則(アービンジャー・インスティチュート)」(参照)ではブーバーについての議論はある程度踏み込んで書かれている。
 簡単に言えば、ブーバーが「我と汝」(参照)で言う存在の根源語「我-汝」のありかたが箱から出た状態であり、「我-それ」が箱に入った状態なのだが、この問題については、あるいは森有正が説いたように、日本人は、「我と汝」や「他者を人とみる」ということを、「二人称的おまえのおまえは私」として理解しやすい。あるいは、イザヤ・ベンダサンが日本教という概念で説いたように、「人間」という「自然」という概念に吸着させやすい。おそらく本書は、日本の文化的な背景ではある基本的な誤解に至りやすいと思われるが、私がそれは誤解だと言えるほどのものでもなく、少し困惑している。
 ブーバー哲学の大衆化が本書の本質かというと、そうではなく、最も重要なコンセプトは、オリジナルタイトルにあるように「自己欺瞞(Self-deception)」である。本書では、自己欺瞞というものを、「良心や本心が告げるものに対する裏切り」として捉えている。たとえば、若い夫婦が寝ているとき赤ちゃんが泣き出す。夫か妻が起きて相手をしなければならない。そうした状況で、夫が先に目を覚ましたのに、嘘眠りしてしまう。そんな状況を本書では上げている。
 単純に言えば、自身の良心に反したことをしたときに、人は箱に入る、というのが本書の箱に入るという説明だ。箱からどう出るかについての議論は、ここに書くべきではないので、関心のある人が読まれるとよいだろう。
 私のように懐疑的な人間なら、良心ということを他者から告げられたとき、ある種の宗教的な強制の臭いを嗅ぐ。良心はまさに自分だけの問題であるから、そもそもが箱の内部であるし、そこにかかわる部分で自己欺瞞がどのように起きるかは、自己撞着的なアポリアになる。加えていえば、自我そのものが自己防衛のメカニズムとして発生しているという点で、「私」という意識は自己欺瞞の装置そのものでもあるはずだ。
 宗教が恐ろしいのは、本来自分の内在であるべき良心を、外在的に議論できるかのような装いをする点にあり、本書のようなスキームで言うなら、良心に偽ったというとき、それはもしかすると宗教の教義への偽りによる恐怖に過ぎないのかもしれない。
 この問題、つまり、それが良心なのか、それとも教義なのか、その点は、続刊の「2日で人生が変わる「箱」の法則」に多少ヒントがあるものの、率直にいえば十分にクリアになっていない。もう少しいえば、ブーバー哲学のなかにそのヒントがあるべきなのに、本書の哲学はある異質なものが混入している印象がある。
 以上のように懐疑的に本書を見つつも、私自身は、本書が指摘するように、「箱のなかにいる」という自覚を十分にもったし、そのことでもたらすありがちな諸問題について、かなり示唆深い教訓を得た。本書を人に勧めるかといえば、勧めたい。かなり人生観に衝撃を受ける人がいることは確かだろうと思う。その衝撃は100%良いものではないかもしれないが、人生にありがちな諸問題を解決する可能性が高い。
 結局、私は本書をどう捉えたらよいのか。その問題は、続刊の「2日で人生が変わる「箱」の法則」の読後の問題に移った。こちらの書籍については、新しくエントリを起こしたい。

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コメント

私もこの本、スゴ本さんの推薦を受けて読みました。
素直に良書だとは思いますが、どうしても警戒感を持ちながらの読書になりました。ワインバーグがデイル・カーネギーに対して持っていた(そして最後には抜け出せた)警戒感、「お前に一般的真理を教えようとするやつに注意」という規則を思い起こします。
ただ、良書だとは思っても、流し読みで、終風さんほどの読み込みはできてない。続編の書評が書かれるのを待って、読み返して見ようと思います。

投稿: richmond | 2008.03.15 23:47

こんばんは。始めてコメントさせていただきます。

私も本書を読みました。
単純に、素直に読んだ人間でしたので、今回の記事を読み、その背景の情報を知って驚きました。

同時に、良心に対する見解にも沈考させられています。
書評は毎回、賛同というより考えさせられる事が多く、続編の書評も楽しみにしてお持ちします。

(先日の、「マーケティング22の法則」にも興味を持ち、読みました。
知って良かったと素直に言える一冊でした。)

投稿: ケイエム | 2008.03.16 00:07

ファイナルベントさん、
この陶山浩徳さんという名前で検索すると次のような文言が出てきました。

“照明デザイナーが ただ薄暗いだけの部屋のあかり をわずか 1 日でスタイリッシュなあかりに した方法をあなたに公開!”
From: 陶山 浩徳
金曜日、福岡市中央区大名、19時00分
実はあなたは「照明の問題」に悩んでいませんか?
もし、あなたが「はい、悩んでいます!」と密かに思っているのであれば、あなたに良いニュースがあります。
今回、私が「ただ薄暗いだけの部屋のあかり」をわずか 1日で驚くほど簡単にスタイリッシュなあかりに する方法をあなたに公開する決断をしたのです・・

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陶山 浩徳
自宅の電話番号092-737-1726

そしてこの電話番号で検索すると、

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私は自分が邪悪だからその邪悪な意図に気付いてしまうかもしれない。ファイナルベントさんはこころがきれいだと前から思ってました。でもオーム真理教にも見るからに人柄のよさそうな慶応出のお医者さんおられましたよね。わたしの高校時代の友人も賢い人柄の良い人だったのです。

投稿: September | 2012.09.11 09:24

Septemberさんへ。訳本まわりのことが気になるのであれば、英語の原書を読むとよいと思いますよ。それほど難しい英語でもないですし、むしろ、訳者の思い入れで誤解を招きやすい部分もあります。

投稿: finalvent | 2012.09.11 09:29

ファイナルベントさん、ありがとう。

陶山さんのトータル・アソシエーション というのはNLPです。
Neuro-Linguistic Programming ニューエイジです。
私がファイナルベントさんのご意見を伺いたいのは、ニューエイジとの関係です。ユダヤを誹謗中傷するつもりはありません。


投稿: September | 2012.09.11 10:09

ファイナルベントさん、ごめんなさい、まだ納得できなくて。
ファイナルベントさんが内容がより深く理解できるから原書で読みなさいと薦めてくださるほどの「自分の小さな箱から脱出…の本についてですが、ではそれほど素晴らしい内容の本がどうして欺瞞に満ちた人の手によって紹介され、自己啓発セミナーの道具になっているのでしょう?

投稿: September | 2012.09.11 12:49

Septemberさんへ。「それほど素晴らしい内容の本がどうして欺瞞に満ちた人の手によって紹介され、自己啓発セミナーの道具になっているのでしょう?」とのこと、不思議だなと思います。ただ、そのことと本とは関係ない、あるいは気にする必要はないのだと思います。もっとも、その本に関心があるなら、ということですし、もしかして、その周りのことに関心があるなら、話はまったく別です。私についていえば、この本についての日本での受け止め方にはあまり関心ありません。この訳では理解できないのではないかと思うからです。

投稿: finalvent | 2012.09.11 12:52

ファイナルベントさん、ありがとうございます。

私には、聖書にもどりなさい、もしくは、教会は人に会いに行く場所ではなくて、神様と会うころだよ と聞こえました。

投稿: September | 2012.09.11 13:42

ファイナルベントさん、

モルモン教には「貧しき者は幸いである」という福音はないそうです。

投稿: September | 2012.09.24 16:01

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