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2008.03.11

元米国国防省政策次官ダグラス・ファイスの言い分

 最初に一言。私はファイスの言い分が正しいとは思っていない。ただ、ファイスが本を書いたんだな、でも多分日本では翻訳されないだろうな、と思うので、備忘にブログにログっておくという程度のことだ。イラク戦争も次第に歴史になっていく。
 邦文で読める関連ニュースにはAFP”米国防総省の元高官が暴露本、パウエル元国務長官を糾弾”(参照)がある。


【3月10日 AFP】イラク戦争開戦時に米国防総省の政策担当次官を務めたダグラス・フェイス(Douglas Feith)氏が、最新著書のなかでコリン・パウエル(Colin Powell)国務長官(当時)や米中央情報局(CIA)について、イラク戦争を台無しにしたとして非難していることが明らかになった。同氏の新著『War and Decision(戦争と決断)』の原稿を入手した米ワシントン・ポスト(Washington Post)紙が9日、報じた。

 AFPのニュースはご覧の通りワシントンポストの孫引きに過ぎない。元になるのは、9日付けワシントンポスト”Ex-Defense Official Assails Colleagues Over Run-Up to War”(参照)だ。AFP記事はワシントン孫引きなのでやや引用を多くする。パウエルの批判が続く。

 2005年まで国防総省の政策担当次官を務め、米国の対イラク戦争政策で中心的役割を担ったフェイス氏は著書の中で、パウエル氏が当時のイラク政府の脅威の程度と緊迫性を「軽視」したこと、にもかかわらずイラク戦争に対する反対の意思を公に示さなかったことを指摘。イラク戦争への支持を仏独から取り付け損なったことや、イラク攻撃にあたってトルコ政府から同国領内の米軍基地の使用許可を得られなかったことについて、「パウエル氏の努力と熱意が欠けていたため」と強く非難した。

 ファイス側から見ればパウエル元米国国務長官の位置づけはそんな感じなのだろう。さらっと読むとここで描かれているパウエルはこれまで流布されているイメージとそれほど違いはない。だが少し留意しておきたいのは、ファイスがパウエルについて、フセイン政府の脅威の程度と緊迫性を軽視したことを間違いとしている点だ。
 AFP記事はパウエルに続いて非難の矛先が向くようなトーンで伝えている。

 さらに、トミー・フランクス(Tommy Franks)元中央軍司令官についても、侵攻後の占領計画に意欲を示なかったとして、また当時、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めていたコンドリーザ・ライス(Condoleezza Rice)国務長官については対イラク戦争政策をまとめることができていなかったとして、それぞれ非難している。

 以上がAFPの伝えるところだが、ワシントンポストのオリジナルはややトーンが違う。

In the first insider account of Pentagon decision-making on Iraq, one of the key architects of the war blasts former secretary of state Colin Powell, the CIA, retired Gen. Tommy R. Franks and former Iraq occupation chief L. Paul Bremer for mishandling the run-up to the invasion and the subsequent occupation of the country.

 パウエル批判がメインではなく、最初から、トミー・フランス、ポール・ブレマーが対象に上がっている。特にAFPではブレマーに言及がないが、ファイスはブレマーをかなり非難している。

The idea to which Feith appears most attached, and to which he repeatedly returns in the book, is the formation of an Iraqi Interim Authority. Feith's office drew up a plan for the body -- to be made up of U.S.-appointed Iraqis who would share some decision-making with U.S. occupation forces -- in the months before the invasion. But while he says that Bush approved it, he charges that Bremer refused to implement it.

 ファイスはイラクの戦後体制を計画し、ブッシュに進言したがブレマーが潰したと主張している。この点ワシントンポストは、ファイスの書籍紹介に留まらず、ブレマーに抗弁させているのが興味深い。

In an interview yesterday, Bremer disputed Feith's narrative, saying he believes that Bush gave up on the idea of a quick transition shortly after Baghdad fell and widespread looting broke out in April 2003.

"By the time I sat down with the president on May 3, it was clear that he wasn't thinking about a short occupation," Bremer said. After consulting his records, Bremer also said that at a White House meeting on May 8, Vice President Cheney said, "We are not yet at the point where people we want to emerge can yet emerge." He said that Feith omits that comment. On May 22, he added, the president wrote to him, saying that he knew "our work will take time."


 ファイスとブレマーの間の、時間経過を含めた認識の違いは、歴史としてのイラク戦争について後代の歴史家の関心を呼ぶだろう。
 話をイラク開戦の秘話的な部分に移す。

Among the disclosures made by Feith in "War and Decision," scheduled for release next month by HarperCollins, is Bush's declaration, at a Dec. 18, 2002, National Security Council meeting, that "war is inevitable." The statement came weeks before U.N. weapons inspectors reported their initial findings on Iraq and months before Bush delivered an ultimatum to Iraqi leader Saddam Hussein. Feith, who says he took notes at the meeting, registered it as a "momentous comment."

 「極東ブログ: [書評]石油の隠された貌(エリック・ローラン)」(参照)でも触れたが、イラク戦争開戦が大量破壊兵器の有無以前に既定の事項だったことはかなり確かなことではないだろうか。つまり、ブッシュ、というより、チェイニー副大統領が中心だが、彼らの錯誤というより、別の政策の当然の帰結だったとして見たほうが理解しやすい側面がある。
 ファイスのこの認識はファイスのイラク戦争観でもある。そこまで言うものかと少し嘆息するのは次のような点だ。

In his book, Feith defends the intelligence activities on grounds that the CIA was "politicizing" intelligence by ignoring evidence in its own reports of ties between Hussein and international terrorists.

 ファイスとしてはもともと大量破壊兵器の有無などは問題ではなし、であればそれで国策を誘導することもたいしたことではなかったのだろう。次のようなワシントンポストのまとめかたは、意味の取り方が微妙になる。

In summarizing his view of what went wrong in Iraq, Feith writes that it was a mistake for the administration to rely so heavily on intelligence reports of Hussein's alleged stockpiles of biological and chemical weapons and a nuclear weapons program, not only because they turned out to be wrong but also because secret information was not necessary to understand the threat Hussein posed.

Hussein's history of aggression and disregard of U.N. resolutions, his past use of weapons of mass destruction and the fact that he was "a bloodthirsty megalomaniac" were enough, Feith maintains.


 私の理解が偏向しているかもしれないが、ファイスにしてみれば、大量破壊兵器についての報告に米政府が拘泥しまったのがそもそもの間違いだということなのだろう。つまり、ファイスにしてみると、報告書のインチキ具合はフセインの危険性認識とは関係ないという認識なのだろう。
 ファイスの議論にワシントンポストが注目しているのは、その真偽なり、あるいは一方の言い分も聞いているみるという以上に、ファイス自身のこの問題への関わりについてさらに探求したいという意図があるからだろう。単純にいえば、ファイスの胡散臭さだ。

Feith left the administration in mid-2005 and is now on the Georgetown University faculty. He was the subject of an investigation early last year by the Pentagon's inspector general for his office's secret prewar intelligence assessments outlining strong ties between Iraq and al-Qaeda. His reports, deemed "inconsistent" with those of the intelligence community, were judged "inappropriate" but not illegal.

 ごく単純にいえば、イスラエル・ロビーといったものが想定されるのかもしれない。
 ここで少し私の感想を述べると、先のエリック・ローランの書籍でチェイニーがサウジとの関係で懸念をもっている点を指摘していたように、チェイニーやブッシュ王国は、イラク対イスラエルというより、イラク対サウジの構図に懸念していた。雑駁にいえば、イスラエルとサウジの共通の敵として米国を動かしたというスジもうかばないではない。が、そんな単純なことでもないように私は思う。
 この問題は、「極東ブログ: イラク混乱中の国連事務所爆破テロ」(参照)でログした国連への反感を含めて、いろいろ錯綜した問題が眠っているようにも思える。

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コメント

歴史は勝者の物語。勝者は事実を捏造しない。その代わりに、勝者にとって一番良い編集をする。敗者はそれを追認する。

投稿: itf | 2008.03.13 05:53

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