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2008.02.08

チャド情勢、本質はダルフール危機

 チャド情勢について多少推測を交えて踏み込んでおきたい。というのは、この問題の本質はダルフール危機なのだ。このブログでの関連エントリはいくつかあるが、とりあえず「極東ブログ: ダルフール危機からチャドにおけるジェノサイドの危険性」(参照)は近い文脈にある。
 まず日本国内のこの事態へのジャーナリズムの扱い方から触れたい。私たち日本人の公的な関わりがここで問われているからだ。典型例として、6日付け日経新聞社説”AUは紛争解決へ意志示せ”(参照)を取り上げたい。誤解なきよう前もって述べておきたいのだが、同社説を批判したいのではない。むしろ日経はこの問題を社説に取り上げただけ他紙よりはるかにましだと言える。
 冒頭はこうだ。


 産業基盤の強化を主な議題にアフリカ連合(AU)首脳会議が先週末開かれたが、ケニア、そしてチャドの治安情勢の悪化に翻弄(ほんろう)された。アフリカではスーダンのダルフール地方、ソマリアでもいまだに紛争が続いている。AUは先進国による援助を生かすためにも紛争解決へ積極的な役割を果たすことが求められている。

 この書き出しから、「チャドの治安情勢」がケニアに並列することで、ソマリアの紛争と並列されたダルフール「紛争」が分離される。あたかも、チャドの治安とダルフール危機が別の系列の問題かのように読める。執筆者は欧米高級紙などを読まず、単純に事態を理解していないだけなのかもしれない。今回のチャドの問題はダルフール危機に強く関連していることは読み取れない。この分離はむしろ主張もされている。

 会議開会中にはチャドの内乱激化という知らせも飛び込んできた。その隣のスーダン・ダルフール地方では今も約250万人が難民となったままだ。

 あたかも2つの問題であるかのように記述されている。だが、これが連鎖した問題である可能性がかなり高いことは後で述べる。なお、難民も問題だが、ダルフール危機の問題の本質は、ジェノサイドにある。
 もう一点気になるのは表題にあるAUへの過大な期待だ。

 会議に出席したリビアの最高指導者カダフィ大佐はAUの紛争解決機能を強化すべきだと強調した。大佐には独特の政治的思惑があるのかもしれないが、その主張は正論だ。

 カダフィによる提言は前回もあり、NHKもそれが解決であるかのような報道をしていたが、経緯を長期的かつ詳細に見ていたBBCはその時点からスーダン政府による裏腹な妨害行動を報じていた。あの時点でのカダフィーの活動は失敗に終わった。端的に言えば、同席すべきダルフール反抗勢力に、スーダン政府あるいは仲介とする勢力への信頼が構築できないことだった。ダルフール反抗勢力に問題がないわけではないが、この時点での動向はダルフール反抗勢力の推測に近く展開していたし、ダルフール難民の多くもほぼ同じ視点を持っていた。
 日経の社説は結語として日本はアフリカを支援すべきだというふうに展開し、当の主題を失ってしまう。重要なことは、AUがダルフール危機、そしてその連鎖とも言えるチャドの問題に、現時点ではほぼ対応不能になっていることなのだ。
 このエントリの結論を、やや踏み出して先回りして言えば、今回のチャド問題は、おそらくスーダン政府がAU以外の勢力としてEU軍がダルフール危機に介在することを妨害するための工作だということだ。その背景にはAUならスーダン政府が手玉に取れるという自信がある。
 話を当のチャド問題に移そう。情勢の変化については、事件勃発に近い2日付けAFP”チャド反政府勢力が首都ヌジャメナ制圧”(参照)がわかりやすい。

 アフリカのチャドで2日、反政府勢力と政府軍の戦闘が発生し、3時間にわたる交戦の末、反政府勢力が首都ヌジャメナ(N'djamena)を制圧した。政府軍筋が明らかにしたもので、イドリス・デビ(Idriss Deby)大統領は、大統領府に残っているという。
 反政府勢力と政府軍双方からの情報では、戦闘は現地時間の午前8時(日本時間午後4時)ごろヌジャメナの北約20キロで始まった。フランス軍がのちに発表したところでは、約2000人の反政府勢力がヌジャメナ市内で激しい戦闘を行ったという。

 このチャドの反政府勢力なのだが、どこから現れたか? スーダン側の拠点である。

反政府勢力は1月28日、トラック約300台に分乗してスーダンの拠点を出発し、800キロ離れたヌジャメナに向けて進攻した。1日にはヌジャメナから約50キロ離れたMassaguetで反政府勢力と政府軍が交戦し、Daoud Soumain陸軍参謀長が戦死した。この戦闘が政府軍が示したほぼ唯一の抵抗だった。

 その後の展開だが、同じくAFPの7日付”チャド、首都戦闘の死者は160人以上、3万人が国外に避難と赤十字”(参照)では被害はこう報道される。

チャドの国際赤十字(Red Cross)現地事務所は6日、先に首都ヌジャメナ(Ndjamena)で起きた政府軍と反政府武装勢力との激しい戦闘で、160人以上が死亡、1000人近くが負傷したと発表した。市内の墓地に埋められていた遺体80体を回収したが、全部は回収しきれていないとしている。

 国外避難民は4万人に登るという報道もある。
 現状ではチャド政府軍が優勢のようだ。7日付けCNN”政府軍が全土掌握と大統領が宣言、アフリカのチャド情勢”(参照)より。

政府軍と反政府勢力の戦闘が今月2日から首都で起きたアフリカ中部、チャド情勢で、同国のデビ大統領は6日、首都ヌジャメナだけでなく地方部を含めた全土を掌握したと宣言した。AP通信が報じた。戦闘後に大統領が記者団の前に姿を現したのは初めて。

 ただし、情勢は安定していない。反政府勢力の再攻撃の懸念も高い。
 本題に入る。現状では、公平に見れば、チャド反政府勢力がスーダン政府によるものだとは確定しづらい。スーダン政府も否定している。そのためか日本の報道ではそのリンケージがほとんど語られていない。しかし、このリンケージは欧米報道ではもはや自明に近い。ジャンジャウィードがスーダン政府の支援を受けていたこと、またスーダン政府軍がダルフールに空爆していたことなどと同様に、自明なものに近く報道されている。そのあたりを、テレグラフとワシントンポストから言及しておきたい。なお、どちらも右派的な報道だと見るむきもあるだろうから、その分については考慮されたい。
 5日付テレグラフ”Rebels' assault on Chad really a war by proxy”(参照)では表題のように代理戦争とまで今回の問題の評価を強く打ち出している。

The battle on the streets of N'Djamena, Chad's capital is a vivid demonstration of how a war which began in Sudan's western region of Darfur has now spread across Africa to engulf a neighbouring state.

Rebel fighters besieging the presidential palace in Chad are said to be supported by Sudan's regime

Three rebel groups are besieging President Idriss Deby's palace on the banks of the Chari river. All are believed to be armed and supplied by Sudan's regime.


 証言を使い間接的な報道だが(その分誘導的にも読めるが)、チャドの反政府勢力がスーダン政府の傀儡であるとしている。
 重要なのは、なぜ現時点でチャドで紛争が発生したかだ。

The European Union has agreed to deploy a military mission of 3,500 troops to protect 370,000 refugees in eastern Chad.

But Sudan is adamantly opposed to the presence of European troops on its western frontier.

The latest fighting has already halted the arrival of the EU force. If Mr Deby is ousted, Chad's new president will almost certainly serve Sudan's interests and block the arrival of any foreign troops.

Khartoum blames Mr Deby for helping to start the Darfur war. Fighting began in 2003 when black African rebels rose against Sudan's Arab-dominated regime.


 EU軍がこれから東部チャドに派兵する直前のタイミングでこれらの紛争が発生した。EU軍の介在を恐れたものだという推測は自然に導かれる。テレグラフは、ややほのめかしたような記述にしているが、ダルフール危機へのEUの介在を阻止する目的を推定しているようだ。
 この点、7日付ワシントンポスト”Darfur's Chaos Spreads”(参照)は、もう少し踏み込んでいる。

N'DJAMENA, the capital of Chad, is hundreds of miles from Darfur. But the violence in Chad over the past few days is closely linked to the Sudanese government's bloody campaign to subdue Darfur. Some of Darfur's rebels enjoy sanctuary in eastern Chad as well as other support from the government of President Idriss Deby. Meanwhile, Chadian rebel groups are clients of President Omar al-Bashir of Sudan.

 重要なのは、"closely linked to the Sudanese government's bloody campaign to subdue Darfur"という点だ。つまり、スーダン政府によるダルフール制圧のための流血の軍事活動に強く関連している、とワシントンポストは冒頭で述べている。
 どうすればいいのか。それ以前にこれは、ワシントンポスト記事の表題にあるように、スーダン政府とダルフール危機の問題の延長だという認識をどこまでとるかにかかっている。
 日本のジャーナリズムはどこまでこの問題に対応できるだろうか。
 もし、問題がスーダン政府にあると単純に考えれば、スーダン政府に外交的に自粛を求めることが先決のように思える。だがそれがどれほど無益なことだったかは、ダルフール危機の経緯が明らかにしている。AUへの期待のむなしさもすでにほぼ証明済みと言っていいだろう。

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コメント

日経の社説は、以下の報道の流れにあり、結局のところは森や洞爺湖サミットへの提灯記事に過ぎない程度のものと読むべきではないでしょうか。

「アフリカ会議に参加を」・森元首相、地ならしに奔走
日本経済新聞 - 2008年2月1日
エチオピア訪問中の自民党の森喜朗元首相は1日、アフリカ連合(AU)総会出席などの主要日程を終えた。2001年に現職首相として初めてサハラ砂漠以南を訪れるなど強い ...
アフリカ開発会議「具体的成果を」・自民の森氏
日本経済新聞 - 2008年1月31日
同会議でのアフリカ側の意見を7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)に反映する考えも示した。(アディスアベバ=四方弘志)(31日 23:02)
政府、第1弾で途上国に1兆円
中日新聞 - 2008年2月2日
政府は、5月に横浜市で第4回アフリカ開発会議(TICAD)を国連や世界銀行などと共催。日本が議長を務める7月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)でも、 ...
森元首相、アフリカ連合総会の政府代表に
日本経済新聞 - 2008年1月28日
森氏は自民党議員とAU加盟国でつくる議員連盟の会長で、5月に横浜で開くアフリカ開発会議(TICAD)の議長代理も務める。(20:02)

<参考>
AFPBB News スーダン・ダルフール問題
http://www.afpbb.com/middle/160

国連PKO局事務次長、ダルフールでの「代理戦争」に強い懸念を表明
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2348303/2615525

投稿: ゴンベイ | 2008.02.13 08:01

5本指 旅行者にとって、もしかするとひとペアの適当な靴を探し当てるのが別にそんなに簡単でなくて、少し軽便な様子はまた美しくありませんて、スタイルは美しくて、着てまた気分が悪いです。今もう悩み煩っていません。だんだん多くなる人が 5本指 シューズ を発見したためです。5本靴は非常に不思議な靴です。一般のものとは異なる特質、みんなをだんだんに好きにならせます。今もしあなたはまだ5本指靴を着るならば、そんなに惜しすぎて、すぐに Fivefingersの非常に不思議さを体験しにくるようにしましょう。http://www.vibramtrek.com

投稿: 五本指 シューズ | 2011.02.11 17:17

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