超訳「片羽少女」
ユーチューブの”Katawa Shoujo (Disablity Girls):An original visual novel”(参照)が面白くて、ちょっと訳してみようと思ったのだけど、口語が難しいのと、日本語としてこなれないんで、ええい誤訳ごまかしの超訳にしちゃえっていうネタがこれ。ついでに人名には漢字を充ててしまいました。
関心もった人はもっといい訳にして、字幕ものでも作ってくれると吉。それと、これ、著作権とかでマジーとかでしたら、削除します。じゃ。
* * * * * * * * * *
僕は自分が窓の外を眺めているわけに気がついた。
生徒が多数向かって行く大講堂には食堂がある。下に見える戸口から生徒があふれ出し講堂に向う。この学校の講堂は、まるで伝説の龍が居座っているみたいだ。あるいは丘の上に鎮座する王様。でもこの王様は巨大過ぎたし王位を守る気力もなさそうだ。
講堂は昔、産業会館にも使われていたらしい。年季の入った装飾に満ちて、赤みがかった二層の瓦屋根は古風な日本建築。大工たちは完璧を狙っていたのだろう。
お弁当はそこで食べることにしよう。

僕は廊下の先を見る。最初に三年生の教室があって、その向こうに表札のない教室がある。静かだ。誰も僕のじゃまをしない。廊下を進み戸に手をかける。
教室のようだけど、しばらく使われた形跡がない。机と椅子が散らばって埃がかっている。薄暗いのは、重たいカーテンが窓を半分覆っているからだ。埃が少し舞って光りの筋が何本も見える。
僕は誰もいない教室なのにふざけて声をかけてみる。「誰かいっ……」
言葉を詰まらせた。
ショートヘアーの女子生徒が机に腰をかけている。
でも変だ。男子の制服を着て、ズボンの先の足の指でフォークを掴んでいるし、そこには食べ物が刺さっている。
僕は彼女が最初よく見えなかった。深い影が彼女を影そのものにしていたからだ。彼女は僕を見つめながら、フォークの食べ物を口に入れようとしていた。僕も口を開けたまま彼女を見ていた。突然、僕は何って言っていいかわからなくなった。

「どうしたの?」彼女は声をかけてきた。
フォークは置いてあった。僕はそのときようやく彼女の上着の袖が肩からそのままだらっとぶらさがっているのに気が付いた。
「あの、僕はちょっとお弁当を食べる静かな場所を探していただけなんだ。誰かいるなんて思わなかったんだ」
「でも違った。私がいたんだもの」
「君が先にここを取ったってこと?」
彼女は眉をしかめて僕の言ったことを疑っているようだった。
「いい勘してるわね。で、君、誰?」
この子はすごいストレートだな。
「僕? 中井久夫。今日転校してきたんだ」
「私は手塚凜。握手でもしたいところなんだけど、私がどういうふうなのかもうわかったでしょ?」
僕は彼女の意図をさぐろうと首を傾げたとたん、ギアを入れ替えるみたいに脳の中身が入れ替わる感じがした。彼女の言っていることがわかった。
「腕、ないの?」
「その発言、今日は君が一番乗り。君、けっこうまともな注意力があるね。これで5ポイント・ゲット。それ以前の対応もいいから、あと2ポイント上げる。君の合計得点は7ポイント」
何が言いいたいんだろ、この女の子。そう思っているうちに、彼女は僕のことなんか気にせず食べ物を見つめている。
「わたし、ここで食べてていいよね? 君が気にしなければっていうことなんだけど。だから君もそこにいていいし……一緒に食べる?」
「ご自由に。っていうか僕も自分の好きにするよ」
僕は近くの机に腰をかけた。凜はまた足の指にフォークを挟んだ。僕もお弁当箱を開けて食べ始めた。
「中井君って呼んでいいよね。中井君、どうしてここに来たの?」 凜は口いっぱい食べ物をほおばりながらきいた。
「静かなところだったら、どこでもよかったんだ」
「そういう意味じゃなくて。あのさ、中井君もわかっていると思うけど、ここにいる生徒ってみんなどっか壊れているじゃない。でも中井君って、見た目フツーじゃない。それとも中身がイカレているとか?」
「あたり。中身のほう」
「当ててみようか。わたし、勘がいいんだ」凜は唇にフォークをあてて天井を見る。天井に答えが書いてあるのかもしれない。窓から差し込む光の筋が彼女の横顔を照らし、半面の横顔を暗くしている。
「頭がイカレているってことないわよね。からだのほうが何かフツーじゃないのよね。私の食事みたいに」 そして彼女は不意を突いて言った「パンツの中身に関係しているでしょ?」
思わずご飯が喉に詰まって僕は死にそうになった。
それはないよ。でも、凜の瞳には確信と驚愕が浮かんでいる。
「アタリでしょ! つまり、チンコに問題がある」
喉にご飯を詰まらせている場合じゃないな。僕の名誉の問題ってやつだ。咳き込みながら僕は反撃に出た。
「すごい言いようだね。しかも男子服の女子生徒から言われるなんて。ここって学校だよね」
「あのね、わたしこう言われているの。『君のような学生がスカートを履いて行動していると他の学生に好ましくない影響がある』って。意味、わかる? わたし、納得はしないけど、ここは学校だし、しかたないかな」
僕は喉に詰まったご飯にまだむせているのに、アメフトで強烈にタックルされたって感じ。
「チンコの問題よりはマシかも。心臓だよ。不整脈。親とか先生が、僕はこの学校に転校するのが一番いいんだってさ」
凜は口をすぼめて僕を睨んでいる。勘が外れたのがそんなに悔しいのかよ。
「つまんない。チンコ問題のほうがみんなで楽しめるのに」
「がっかりさせてごめん?」
そして言うべきこともなく会話も行き詰まった。見つめ合っているのもなんか気まずくて、二人とも食事に専念した。
でも僕は横目で彼女を見て考えていた。髪の毛は赤毛。っていうかオレンジ色。ショートヘアー。腕がないってことはロングヘアーにはできないってことなんだろうな。それと男子生徒の服装を着ていることと、腕がないことで痩せて見えるわりに胸が強調されている。魅力的というかどきっとする。深海色の瞳は窓の光をすべて吸い込んでいるわけではないけど、深い井戸のようにいろんなものを秘めてるみたいだ。
凜は普通の人が手を使うみたいに器用に足を使って食べている。でも、普通の人はそういう光景が不快なんだろう。特に食事とかだと。
しばらく二人とも黙って気まずくなっていたから、僕は勇気を出してこの変な女の子に話しかけてみた。
「いつも食事は一人? つまり僕は不意のお客さんっていうかさ」
「そうね、今日最初のお客さん。でも、いつもわたし一人で食べているわけじゃないよ。たまに友だちと屋上で食べる。彼女がどたばたしなければなんだけど」
「どたばたしないって?」
「スポーツ好きの女の子なの。彼女は私をよく理解してくれる。彼女も切断手術受けているし。普通に足がないってだけじゃないけど」
「そうなんだ」 もっと話を引き出すコミュニケーション能力っていうのが僕にはないのか。凜が最後の一口をほおばるとまた二人沈黙した。僕のお弁当箱ももう空っぽ。どうしょう?
「無理して一緒にいなくていいよ。これからちょっと私は夢の国に行くから。それと、もし君が今日最初の登校だとしたら、校庭にでもいて、他の人が食事しているときは他をうろうろしないほうがいいよ。以上であります。あとは君が寝ている女の子を見ていたいかどうかってこと」
僕は凜の言っていることがよくわからなかったけど、冗談でもないみたいだった。少し考え込んでいると凜が突然笑い出したから、つられて僕も笑顔にしたみた。
「じゃ、向こうに行って。わたしこれから半日くらい眠るの。いろいろ夢が必要なんだから」
「そう。それじゃ、他に行くよ。いろいろ教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。誰かとお喋りするのも久しぶりだったし」
僕たちはそんなに話したわけじゃないけど、大切なことだったと思う。
「また話でもできるといいな、手塚さん」
「『凜』って呼んでいいよ。君とは十分うまくやっていけると思うし」
「うん。僕は『久夫』で」
「じゃあね、久夫君」
僕は教室を出て自分の顔を終了するみたいに戸を閉じた。「面白い女の子だなあ」と独り言を言った。
「聞こえてますよぉ」と教室の中から凜の声がした。どきっとして気まずい感じで僕は講堂に向かった。
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コメント
素晴らしいです。心から感動いたしました。
言語の溝を橋渡ししてくれることは
インターナショナルなオタ文化への
素晴らしい貢献だと思います。
投稿: kagami | 2008.02.23 16:15
海外の人も中井久夫のこと知ってるんですかね。
それともタダの偶然??
投稿: desk | 2008.02.25 11:06
なんか
グッと来るものがあった
アリガト!(´▽`)
投稿: JAJAGA | 2010.01.15 16:27
>海外の人も中井久夫のこと知ってるんですかね。
>それともタダの偶然??
中の人曰くタダの偶然だそうです。なんでも主人公の名前が決まってしばらくした後に中井久夫という同姓同名の人がいるってことを知ったとか…
投稿: ジオペリア | 2012.01.15 22:35